旬素材の産地から
※写真撮影のためマスクを外していただきました。
井上 寿弘(いのうえ としひろ)さん
JAやまがたは山形県山形市を中心に上山市・中山町・山辺町の2市2町から成り、米や野菜、果物など、さまざまな特産物を全国各地に出荷しています。今回お話をお聞きした井上さんは中央果樹組合の組合長を務め、ラ・フランスだけでなくりんごや桃、さくらんぼなども栽培。28年に渡って果物を生産し続けてきた井上さんに、ラ・フランスの特徴などについてお話をお聞きしました。
- ラ・フランス
- 緻密な果肉や果汁の多さ、そして特有の芳香から「果物の女王」と呼ばれるラ・フランス。現在はさまざまな品種が栽培されている西洋なしのひとつで、明治時代初期にバートレット(品種)がイギリスから日本に伝わりました。缶詰加工用として作られることが多かったそのバートレットに花粉を付ける役割の受粉樹として使われていたのがラ・フランスでした。栽培に手間がかかることや実の形が悪いことから受粉樹として利用されるだけでしたが、1970年頃から缶詰より生のフルーツの需要が高まったことでラ・フランスのおいしさに注目が集まり、少しずつ知名度がアップ。山形県では1985年頃までに生産体制が確立され、現在ではラ・フランスの栽培面積の約8割(全国比)が山形県となっています。
東は奥羽山系をはさんで宮城県に接し、西に広がる村山盆地の先には朝日・月山連峰が美しい姿を見せるJAやまがた管内。山形市には松尾芭蕉ゆかりの山寺があり、樹氷や温泉で知られる蔵王は山形市と上山市に連なっています。中山町は芋煮発祥の地として知られ、山辺町は繊維産業が盛ん。豊かな土壌が豊富な農作物を育むこのエリアは、芋煮に代表されるさまざまな郷土料理も現在に受け継いでいます。
ラ・フランス栽培スケジュール
※スクロールにて全体をご確認いただけます。
今年のラ・フランスの出来はいかがですか?
井上さん
今年は台風や霜の被害がないので、去年よりも多く実がなっていますよ。天気も良かったのでとてもいいラ・フランスに仕上がっています。去年は花のときに霜の被害が出たため、実にならなかったんです。
ラ・フランスは収穫期間が短く、さらに収穫後すぐには出荷をしないと聞きました。
JAやまがた 野口さん
硬度や糖度などの生育状況を見ながら販売開始基準日を設定します。収穫後に病気などを見極めるための予冷を行い、その後に熟成させるための追熟という作業が必要なので、販売開始基準日から逆算して収穫開始日を調整・決定しています。収穫はその収穫開始日から1週間です。
井上さん
1週間ですべてを収穫するのは大変ですね。雨の日は作業ができないので、それも考慮しながら1日に収穫する量を計算しなければいけないんです。
JAやまがた 野口さん
集荷場で予冷を行なったラ・フランスは、1週間後に予冷庫から出して選果作業を行います。センサーカメラによって病気が発生していないか、傷があるか、さらに大きさなどによって選別されますが、作業員の方の目視でも選別は行っています。その後に出荷となり、店頭に並ぶことになります。
8℃で管理された予冷庫で1週間追熟される。
選果場ではラ・フランスの大きさと形によって選別。
井上さんはいつからラ・フランスを栽培されているのでしょうか?
井上さん
この畑にラ・フランスを植えたのは私の父親で、1989年から栽培を始めました。私は父親が具合を悪くしたことから転職して生産者になり、今年で28年になります。うちは元々野菜を育てていたんですが、果樹に移行したんです。当時ラ・フランスは単価が高かったので、父親は栽培を始めたんだと思います。
形や大きさに加えて、JAに出荷するものと直売するものに選別。
小さな実でも甘さと香りは間違いなし。
ラ・フランス栽培はどんなところが難しいですか? 楽しいときはありますか?
井上さん
ほかの果実と比較するとラ・フランスはあまり作業に難しさはありません。しかし日当たりが良くなるように剪定をしたり、どれを残すのかを考えて摘果をするのは経験が必要だと思います。私も最初はまったくわかりませんでした。父親が亡くなってからは試行錯誤で、コツをつかんだのは最近かな。それでも毎年全然違うので、毎日試行錯誤です。楽しいのはやはり収穫のときですね(笑)。
これからもラ・フランス栽培を続けていくために悩んでいることはありますか?
井上さん
地球温暖化や気候変動によって、今までとは違う病気が出てきました。ラ・フランスの場合は胴枯病で、枝や幹が枯れてしまうんです。最近は少なくなりましたが、実が茶色くなってしまう輪紋病が予冷前に出てしまうこともありました。大きな台風が来ることも多く、台風によって実が落ちてしまうので、それが悩みですね。
「2018年の台風では半分くらい実が落ちてしまいました」と井上さん
農薬はどのように使っているのでしょうか?
井上さん
うちでは除草剤はほとんど使っていませんが、摘花の時期から収穫までは月に3回病害虫を防除します。害虫は殺虫剤と誘引剤(フェロモントラップ)で対策をしています。シンクイムシという害虫が実に穴を開けて芯の中に入り、中が黒く腐ってしまうんですよ。
JAやまがた 野口さん
防除は重要な作業ですね。農薬をまったく使わないと、生産量は現在の1割以下になってしまいます。実がならないわけではありませんが、出荷するものはできないですね。
井上さん
穴だらけの実になってしまいますね。もちろん農薬は基準を守って、さらにその基準でも最低限で使っています。
雌が雄を呼び寄せる物質を化学的に合成し、繁殖を抑えて害虫を減らす誘引剤(フェロモントラップ)。
シンクイムシによって小さな穴を開けられてしまった実。
ラ・フランスを買うときに美味しいものを選ぶコツはありますか?
JAやまがた 野口さん
出荷されたラ・フランスの糖度はすべて同じで、見た目が異なっているだけです。形が悪くても食味は変わりません。形がきれいなのに美味しくないものもあるんですよ。
井上さん
直売所で試食してみて、おいしいと思った生産者のラ・フランスを選ぶのが間違いないですね。購入後は常温で保存して、軸を押したときに柔らかくなっていれば食べごろです。お店では押さないでください。買ってからご自宅で、毎日おいしくなるのを楽しみにしながら押してください(笑)。
「井上さんからは教わることしかありません」とJAやまがた・野口さん(左)。
最後に消費者の方へのメッセージをお願いします。
井上さん
今年は台風の被害も霜の被害もなく天気も良かったので、糖度が高いおいしいラ・フランスができました。ぜひ食べてください。よろしくお願いします。
家族で収穫作業をしている井上さん。息子さん(左)とお母さん(中央)。