旬素材の産地から

甘い果実に平らな見た目、名前はもちろん愛媛の「甘平」 取材日:2024年1月甘い果実に平らな見た目、名前はもちろん愛媛の「甘平」 取材日:2024年1月

垣内 源司(かきうち もとかず)さん

愛媛県の最西端に位置し、九州に向かって長く伸びる佐田岬半島。JAにしうわはその全域に位置する伊方町、そして半島の付け根にある八幡浜市と西予市三瓶町で構成され、北を瀬戸内海、南を宇和海に囲まれた半島は日照量の多さや年間平均気温の高さなど、柑橘栽培に適した自然環境に恵まれています。今回お話しをお聞きした垣内さんは甘平だけでなくさまざまな柑橘を栽培。半島の先端に位置する三崎地区の三崎柑橘共同選果部会の共選長も務めている垣内さんに、甘平の特徴や育成方法などについてお話をお聞きしました。

全景全景
甘平
甘平
「西之香」と「ポンカン」の交配によって生まれた高級柑橘で、愛媛県オリジナル品種として「紅まどんな」と同様に県内だけで栽培が許可されています。平らな形状の実に甘い果肉が詰まっていることから「甘平」と名付けられ、甘さとともにシャキッとした食感を味わえることも特徴。大玉ながら果皮が薄いため簡単に手で剥くことができ、種がなく内袋(じょうのう膜)も薄いためそのまま手軽に食べることができます。出荷されるのは1月下旬から2月で、外観や糖度などの品質基準をクリアしたものは「愛媛Queenスプラッシュ」として出荷されます。

宇和海と瀬戸内海に挟まれた細長い佐田岬半島は、晴れた日には九州を望む美しい眺望が楽しめます。大分県の佐賀関半島までは16kmほどの距離で、佐賀関港と三崎港のあいだはフェリーが就航。佐田岬半島は「風の岬」とも呼ばれ、稜線上に風力発電の風車が連なる独特の光景も人気を集めています。斜面に段々畑を作るために組まれている石垣は「名取の石垣」。野良積み、平積み、矢羽根積みといった工法を用いてさまざまな種類の石が積み上げられ、特徴的な光景を生み出しています。

「甘平」の特徴を教えてください。今年の出来はどうですか?

A

垣内さん

垣内さん

「甘平」の名前そのままに平くて甘い柑橘ですね。裂果(栽培中に果実が割れてしまう現象)が出やすい品種で、JAにしうわ管内でも今年は例年の半分ほどの収穫量と聞いています。それでもできたものは、糖度も酸度も高いおいしいものになっていますよ。

A

JAにしうわ 藤原さん

JAにしうわ
藤原さん

「甘平」はまだ新しい品種で栽培に難しさはありますが、味がいいので今後は収穫量を増やしていきたいと思っています。

A

垣内さん

垣内さん

収穫された「甘平」の中から外観と糖度によって選抜されたものが「愛媛Queenスプラッシュ」として出荷されますが、それは全体の0.3%ほど。目標としてはそれを目指して作っています。

三崎地区で柑橘の栽培が盛んなのはなぜなのでしょうか?

A

JAにしうわ 藤原さん

JAにしうわ
藤原さん

この地区出身の宇都宮誠集という方が山口県から甘夏の苗木を購入し、栽培したことから地区に広がり、そして佐田岬全域に広がったという歴史があります。現在は清見タンゴールを中心に、サンフルーツ、デコポン、いよかんといった中晩柑の産地となっています。

A

垣内さん

垣内さん

この辺りは日当たりが良くて暖かく、水捌けもいいので柑橘栽培に適していると思います。自然の川や南予用水(南予用水地区に水を供給している用水路)があり、近くには湧水も出ています。「甘平」は水の管理が難しいので雨量も計算しながら、地面に這わせたパイプから供給する水の量を調整しています。

JAにしうわ三崎共選場。甘平は三崎共選場ではなくJAにしうわ本店で選果される。

水の管理が難しいのはなぜでしょうか?

A

垣内さん

垣内さん

裂果は成熟期にいきなり水を多く与えてしまうと発生します。特に「甘平」は果皮が薄いので割れやすい。裂果が発生してしまうと商品価値がなくなってしまうので、特に雨が少なく乾燥している年は気を使いますね。

乾燥して水が少ない状態から一気に水を与えてしまうと裂果が発生してしまう。

「甘平」を作り始めたきっかけを教えてください。栽培で大変なことはありましたか?

A

垣内さん

垣内さん

私は生産者になって30年ほどですが、父親とともに「甘平」はおいしい品種なので消費者の方に受けるだろうと思い、10年ほど前から作り始めました。「甘平」に限らず柑橘は年に1度しか収穫できないので、収穫間近に寒波などに襲われて出荷できなかったときは悔しいですね。昨年(2022年度)も一昨年(2021年度)も大雪が降り、ほとんど出荷できませんでした。特に「甘平」は低温被害の影響が出やすいので、今日も雪が積もる前に収穫できるものは収穫しておきます。

果実にカバーをかけているのは低温被害対策なのでしょうか?

A

垣内さん

垣内さん

保温性や風による傷防止のためもありますが、鳥獣被害防止が主な目的です。鳥だけでなくイノシシも柑橘を食べてしまうんですよ。そのため畑にはイノシシ防止の柵も設置しています。そして海側にある柑橘とは異なる木は暴風垣で、これを設置しているのは三崎地区が多いですね。この暴風垣の管理も大切で、生い茂ってしまうと日当たりが悪くなってしまうので、風対策とともに日照も考えなくてはいけません。

取材日は寒波の影響で雪が降っていたため、カバーを外した「甘平」はすべて収穫する必要があった。

農薬はどのように使っていますか?

A

垣内さん

垣内さん

黒点病とかいよう病が発生することがあるため、病害虫防除のために定期防除を行っています。アザミウマやカメムシが悪さをすることもありますね。使用量は最低限ですが、自然を相手に育てている柑橘は農薬を使わないと商品になるものは作れません。使わなかったら悪いものができるのではなく、作ることができなくなってしまいます。

成熟期前に出現するカメムシは害虫。アザミウマは果実に傷をつけてしまう。

栽培していて楽しい瞬間を教えてください。

A

垣内さん

垣内さん

やはり消費者の方が商品を購入し、「とてもおいしかった」と言ってくれることが励みになりますね。市場の担当者の方やバイヤーの方から「おいしいですよ」「やはり三崎の柑橘はいいですね」と言われるのもうれしいですね。

おいしい「甘平」を選ぶコツはありますか?

A

垣内さん

垣内さん

柑橘全般に言えますが、軸の細いものがおいしいですね。軸が太い場合は養分がそのまま一気に果実に届きますが、細いものは届くまでに負担がかかって少しずつ養分が届くのでおいしくなります。「甘平」についてはジュースやジャムなどにするのではなく、そのまま食べてもらうのが一番おいしいですね。

A

JAにしうわ 藤原さん

JAにしうわ
藤原さん

清見タンゴールや紅まどんなは果皮を剥かずに切って食べたほうがおいしいですが、「甘平」はそのまま手で果皮を剥いて食べてもらうのが一番だと思います。

最後に消費者の方へのメッセージをお願いします。

A

垣内さん

垣内さん

今年もおいしい「甘平」ができています。まだ食べたことがない方もぜひ手にとっていただきたいですね。食べてもらえれば「甘平」の魅力がわかり、きっとファンになっていただけると思います。「おいしい」という言葉が生産者にはありがたく、そして励みになるので、ぜひ食べてみてください。

垣内さんとご両親、そして垣内さんに向けて「共選長としてこれからもこの地区を引っ張っていってください」とJA藤原さん。

甘平栽培スケジュール

※スクロールにて全体をご確認いただけます。

栽培スケジュール