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旬素材の産地から

恵まれた気候とIPMの活用 指宿のオクラは生産量日本一 取材日:2024年6月恵まれた気候とIPMの活用 指宿のオクラは生産量日本一 取材日:2024年6月

前川 信男(まえかわ のぶお)さん

薩摩半島の南東端に位置する指宿市全域、鹿児島市喜入地区、南九州市頴娃町という3つの市にまたがるJAいぶすき。暖流の影響により年間平均気温が約18度(指宿市)という温暖な気候から、豆類を中心にオクラやさつまいもなどの栽培が盛んで、県内有数の鹿児島黒毛和牛の肥育地帯としても知られています。今回お話をお聞きした前川さんはソラマメやスナップエンドウなどを栽培しているほか、現在はオクラ部会の部会長を務めるなどJAいぶすきのオクラ栽培を牽引。
天敵を利用したIPM栽培を取り入れるなど産地の持続的発展も見据える前川さんに、指宿のオクラについて教えていただきました。

全景全景
オクラ
オクラ
13世紀にエジプトで栽培された記録が残り、その後にペルシャや中央アジア、インドなどの亜熱帯地域に伝わったオクラ。日本には中国を経て幕末から明治初期の頃に伝来し、昭和の半ばから一般的に栽培されるようになりました。実を刻んだときに発生するネバネバは食物繊維のペクチンによるもので、ほかにもβ-カロテン、カルシウム、マグネシウムなどの栄養素を含んでいます。鹿児島県はオクラの収穫量全国1位。その中でもJAいぶすき管内は鹿児島県産オクラの8割の生産を誇っています。

海と島に火山や高原。鹿児島県は豊かな自然に彩られ、そこから多彩な食文化を生み出してきました。西郷隆盛や大久保利通、天璋院篤姫など、多くの偉人を輩出したことでも知られ、さらに古代から近代までさまざまな文化遺産が残されています。指宿市を中心としたJAいぶすき管内は、東は錦江湾を隔てて大隅半島と対峙し、南は東シナ海を臨む薩摩半島に位置。中央部に九州一の大きさを誇る池田湖、南西部に標高924メートルの開聞岳、東部には潮の干満で陸続きになる知林ヶ島を見られる風光明媚な土地です。

オクラの栽培が盛んな理由を教えてください。今年のオクラの出来はいかがですか?

A

前川さん

前川さん

ハウスに関してはとても幸先のいいスタートがきれたかな。種を撒いた1月末から2月がとても暖かかったので発芽も生育もよかったんですよ。3月に少し寒くなりましたがオクラはある程度まで育てばあまり問題はないので、昨年並みの収量は上がっていると思いますよ。
露地は雨が多い(※1)から少し心配ですね。オクラは強い雨だけなら大丈夫ですが風には弱いんです。実が葉で擦られてしまうと頭が丸くなるなど出荷できないものが出てきてしまうので。さらに夏から秋にかけては台風も来ますから。
(※1)取材当日も大気の状態が不安定で、指宿市では1時間に32ミリの降水量を記録した時間帯もあった。

A

JAいぶすき 飯伏さん

JAいぶすき
飯伏さん

オクラの栽培が盛んなのはやはり暖かいということでしょうね。オクラは亜熱帯植物なので播種の時期に霜が下りてしまうと育成できず、発芽するには18度以上にならないといけない。2月は鹿児島県でも指宿市以外はまだ寒く、18度以上になるのも指宿市以外は4・5月になってから。池田湖からの灌漑用水に恵まれていることもありますが、やはり気候の恩恵が最も大きいですね。

収穫されたオクラはJAいぶすき・東部配送センターで規格に合わせて選果され、8本ずつネットに詰められて出荷される。

オクラは毎日収穫するとお聞きしました。時期によって味の違いはありますか?

A

前川さん

前川さん

4月に収穫が始まってからは毎日収穫が続くので、半年間休みなしですよ。オクラの栽培で大変なのは管理作業よりもその毎日の収穫ですね。でもそれは嬉しい悲鳴で、たくさん収穫して、帰るのが遅い時間になってしまい疲れきっていても、実は心の中はニコニコ(笑)。もちろんきれいなオクラがたくさん収穫できると嬉しいですね。

A

JAいぶすき 飯伏さん

JAいぶすき
飯伏さん

暖かくなるとオクラの実は毎日約3センチ伸びるんです。9センチがMサイズの規格になるので、2〜3日で収穫できるようになります。ハウスの場合は32〜35段収穫でき、オクラが成長すると同時にどんどん収穫していきます。露地の場合は26〜28段ですね。

A

前川さん

前川さん

味はどの時期に収穫したものも変わりません。私が作ったオクラだから味が違うということもありません。オクラはオクラの味がします(笑)。しかしそのプロセスが大事で、畑で採ってそのまま生で食べられるオクラを作っていますから。そこは自信がありますよ。

A

JAいぶすき 飯伏さん

JAいぶすき
飯伏さん

オクラは結露によって実が痛んでしまうので、選果場でも急激な温度変化には気をつけています。ネットに詰める場所は25〜30度ほどですが翌日の出荷までは10度の冷蔵庫で保管するため、その前に20度の場所で一度保管して急激に冷やさないようにしているんです。

オクラの収穫はすべて手作業。トゲで手が荒れてしまうため、普段は長袖を着て手袋をし、作業をしているとのこと。

前川さんが生産者になったきっかけを教えてください。オクラ栽培はいつから始めたのでしょうか?

A

前川さん

前川さん

農業高校を卒業してから物流会社に就職し、東京や千葉で働いて結婚もしましたが、長女が小学校に入学する前のタイミングで私が35歳のときに帰ってきました。当時父親は葉たばこ栽培をしていましたが園芸に切り替えて、指宿ではオクラがどんどん増えていった頃。それからはJAいぶすきとこの産地のために一生懸命オクラを育てています。

天敵を使ったIPM栽培(※2)について教えてください。

A

前川さん

前川さん

IPM栽培を導入したのは7年前で、最初は鹿児島県の農業開発総合センターの方から「やってみませんか」と話がありました。しかしその時点では土着の天敵がどのくらいいるのかわからず、我々も知識がなかったので「テントウムシにどんな効果があるの?」と思ってしまうような状態だったんです。しかし当時の部会長さんを含めた2人の先輩、そして私の3人で「とりあえずやってみよう」と。その結果として効果があったので、うまく利用すれば使えると確信しました。

ビニールハウスの前に設置されたボード。上部のテントウムシは前川さんがお店で見つけて設置。

(※2)IPMについてはこちらもご参照ください。

テントウムシによってどのような効果があるのでしょうか?

A

前川さん

前川さん

オクラ栽培の害虫のひとつがワタアブラムシで、実は食べませんが葉から養分を吸ってしまうので、オクラの成長が止まってしまうんです。そしてその食べられた部分より下にある実は、アブラムシが分泌する甘露で真っ黒に汚れてしまう。
そんなアブラムシをヒメカメノコテントウという小さなテントウムシが食べてくれるんです。オクラ畑にソルゴーが植えてあるのはそのためで、オクラに害のないヒエノアブラムシを発生させてヒメカメノコテントウを集め、オクラに発生するワタアブラムシもヒメカメノコテントウが食べてくれる。そのようなシステムを畑の中に作っています。

アブラムシを集めるためのソルゴー。

アブラムシの天敵であるヒメカメノコテントウは体長3〜5ミリほど。前川さんによるとテントウムシは孵化したばかりの小さなヨトウムシも食べてくれるという。

ほかにもIPM栽培の利点はありますか?

A

前川さん

前川さん

まず農薬の使用量を減らせます。そして殺虫剤を使う場合でもアブラムシには効果があるもののテントウムシには影響がない選択性の薬剤を使うことで、テントウムシの温存につながっています。そのためアブラムシの天敵であるテントウムシが少しずつ増えているんです。おそらくIPM栽培に興味がない生産者の方の畑にもテントウムシが飛んでいき、その生産者さんは「今年はアプラムシが少ないなぁ」と思っているかもしれません(笑)。そのようにこの産地にいるアブラムシをテントウムシが食べてくれれば、指宿全体のオクラ収穫量のアップにもつながるんです。
国連が提唱する前から私たちはSDGsに取り組んでいるんですよ(笑)。

IPM栽培によって農薬をまったく使わないようにできますか?

A

前川さん

前川さん

土壌消毒も含めて農薬を使わないという意味だったら無理ですね。そして灰色カビ病を抑えるためには殺菌剤を使わないといけない。収穫したときのオクラがきれいでも、灰色カビ病が付着していた場合には出荷して数日後に実が腐ってきます。アブラムシをテントウムシが食べくれると言っても、そのテントウムシがまだ活動していない時期には殺虫剤を使うことも必要ですね。私は治療的に農薬を使っても予防的には使わないようにしていますが、農薬を使わずに野菜を作ろうと思ったらほとんど収穫できないと思います。

ヨトウムシもオクラの害虫で、葉だけでなく実まで食べてしまう。

前川さんは小学校で出前授業を行なっているとお聞きしました。

A

JAいぶすき 飯伏さん

JAいぶすき
飯伏さん

指宿市の小学校では鉢でオクラを育てているんですが、出荷されるオクラがどのように作られているのか子供たちは知らないので出前授業を行なってもらっています。

A

前川さん

前川さん

社会科の授業としてイラストや映像を使ってわかりやすく、天敵を利用して農薬をあまり使わないオクラの育て方を紹介しています。産地のみんなで一生懸命取り組んでいるということはもちろん、農薬とは何なのかという話もしますよ。「みんなが病気にならないためにワクチンを射つのと同じように、おじさんたちはオクラが病気にならないようにお薬を使うんだよ」と、子どもたちが理解できるように伝えています。

さまざまな生き物たちが暮らす前川さんのオクラ畑。

オクラのおいしい食べ方を教えてください。

A

前川さん

前川さん

世間的には変わった食べ方かもしれませんが、パリッとした実を生でかじる。ここではそれが普通なんです。例えば東京なら到着するのが収穫から3〜4日後なので、オクラはもうクタクタになっているかもしれません。しかしその状態でも栄養価は変わらず水分が飛んでいるだけなので、水に浸けてあげればシャキッとした状態に戻るんですよ。またはフニャフニャの状態のものをそのまま輪切りにして味噌汁などで戻せばおいしく食べられる。新鮮なオクラは板ずりをしなければいけませんが、東京に着いた頃には産毛はほとんど取れているのでその必要はないと思いますよ。

収穫したばかりの瑞々しいオクラにはビッシリと産毛が生えている。

最後に消費者の方へのメッセージをお願いします。

A

JAいぶすき 田代さん

JAいぶすき
田代さん

IPM栽培を導入するなど指宿の生産者さんがいろいろな工夫をして、生産量日本一にまで押し上げた努力の結晶であるオクラです。そんなオクラの育て方を消費者のみなさんに知っていただき、またそれをおいしくいただいていただけたらうれしいです。

A

前川さん

前川さん

植物に対して愛情を持って育てるのは当然のこと。種蒔きのときから命を育んでいるので、生産者は我が子のように愛情を持って管理し、栽培しています。その気持ちが食べる人のところまで伝わるといいかな。オクラだけでなくすべての野菜に生産者の気持ちが込められているので、それをおいしく食べてくれることが生産者にとって最もうれしいことだから。

大雨が続いていたが畑での取材時は奇跡的に雨は上がっていた。

■前川さんも出演してオクラの魅力を紹介している「オクラと暮らす“オクラのまち 指宿”のとある1日のおはなし」もぜひご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=C5zktWehe18&list=PLHTCdIxAjTqPIUGQnwJYppVzKqN11mown&index=1

オクラ栽培スケジュール

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栽培スケジュール