農薬はどうして効くの?

農薬の種類や成分、製造方法、
農薬が効く科学的な仕組みなどについて

農薬にはいろいろな製剤があるようですが、どのように使用するのですか。

農薬にはいろいろなタイプの剤型・製剤がありますが、大きく分けると、製品をそのまま施用するタイプのものと、製品をいったん水に溶かしてから散布機・器具で施用するタイプのものがあります。

製品をそのまま施用できるタイプのものは、希釈水の手配や、水に溶かす手間がかからず、小面積を処理するのに手軽で便利です。また、水稲では水田水そのものを薬剤の分散に利用できるため、いろいろユニークな剤型・製剤が開発されています。

一方、水に希釈して使用するタイプは、園芸作物で主に使用されます。薬剤が均一に茎葉に掛かるため効果が高く、また薬剤費も製品をそのまま施用するタイプのものに比べて経済的であることが長所です。特に、経営規模が大きい場合は、散布機を用いた方が作業効率もよく、コストと省力化の両面において有利です。代表的な剤型とその散布方法についての概略を以下に解説しました。

製剤をそのまま散布できる剤型と、その散布方法

水稲分野では、このタイプの剤型・製剤が広範に利用されています。また、この分野に特有の剤型・製剤も多数あるため、水稲での使用例を中心に解説します。

「DL粉剤」は、殺虫剤、殺菌剤および殺虫殺菌剤として水稲をはじめ、大豆など一部畑作物に使用されています。効率よく病害虫を同時防除できるように、複数成分が配合された混合剤が多数開発されています。過去には、「粉剤」(DLの文字が付かない)が使用されていましたが、現在ではDL粉剤が主流となっています。DL粉剤の「DL」とは、ドリフトレス(飛散が少ない)の意味です。DL粉剤の粒子の大きさ(粒径)は、従来の粉剤の約2倍(中心粒径:20~30マイクロメーター)で、微細粒子を削減することによりドリフト(飛散性)が大幅に軽減されています。

DL粉剤の散布には、軽量エンジンと薬剤タンクからなる背負式動力散布機にアタッチメントとして、長い樹脂(プラスチック)製の散布ホース(20~40m)や、プラスチック製の多口噴頭(3~7m)を取り付け散布するのが一般的です。10アール当りの薬剤量は3~4kgで、調量レバー(吐出量)と歩行速度を調節することにより均一に散布します。散布ホースを用いる場合は、二人で田の両側の畦よりホースが田の上を横切るように移動しながら処理します。粉体は、エンジンの送風によりホース上に一定間隔にあけられた穴から吹き出され、稲体表面を覆うように付着します。小規模の水田農家では、薬液調製の手間がいらずそのまま散布できる長所があります。しかし、他の剤型に比べると風の影響を受けやすいため、使用の際は、風の少ない日時を選び、周辺作物や環境への安全性を十分に配慮する必要があります。

「粒剤」は、水稲用農薬でもっとも一般的な剤型となっています。水稲での粒剤の使用は、「育苗箱処理」と「本田処理」があります。育苗箱での粒剤使用は、前述のDL粉剤と同様に、数種類の有効成分を組み合わせた殺虫殺菌剤が中心となっています。薬剤処理は、播種時や、田植数日前から田植当日に、1箱当りに基準薬剤量、例えば50gを均一に株元によく落ちるように処理します。この処理方法に用いられる薬剤には浸透移行性と残効性があり、根から吸収されると植物体内に広がり、田植後も対象病害虫の発生を長期間にわたり防止できます。作業の簡便さとともに、本田での農薬散布回数を大幅に軽減することが可能となり、防除の省力化と効率化に大きな役割を果たしています。

本田処理で用いられる粒剤にはいくつかの使用目的が異なるものがありますが、代表的なものとしては、除草剤の「一発処理剤」があります。標準的な10アール当りの使用薬剤量には1kgと3kgがありますが、最近では1kgが主流になっています。田植後から田植数週間後までの間に処理します(製品によって、使用時期が異なります)。主に、手撒きや手動式散粒機のほか背負式動力散布機などを用いて散布しますが、最近では田植機に散布機を装着して田植作業と同時処理できる製剤も開発されています。本田で粒剤を使用した場合には、周辺水系への成分流出を低減させるため、散布後7日間は落水やかけ流しをしないように指導されています。

フロアブル剤では、田面水の所々に滴下したり、そのまま水口に注いだりする方法もあります。水中(水面)拡散機能をもつ剤型の主なものには、「ジャンボ剤」(水面展開型粒剤などを水溶性フィルムで包装したパックタイプ製剤)や「錠剤タイプ」、および「自己拡散タイプ」(豆つぶタイプなど10a当たりの処理量が少ない自己拡散型製剤)があります。いずれも畦から10アール当たり10~20個投げ込むか、所定量を数箇所にばらまくだけで、成分が水面や水中で拡散し広がるため、機械や器具を用いなくてもムラがない均一な処理を行うことができます。上記の粒剤と同様に、散布後7日間は落水やかけ流しをしないように指導されています。また近年は農業用ドローンの普及に伴い、粒剤、フロアブル、自己拡散型製剤をドローンなどで散布するケースも増えてきています。

製剤を水に希釈して用いる剤型と、その散布方法

一般的に野菜や果樹は、葉が生い茂り、また背の高い作物もあるため、液体の方が茎葉や病害虫によくかかり散布しやすいため、従来からこのタイプの剤型・製剤が中心に使われています。

「乳剤」、「水和剤」、に加えて、「フロアブル」、「顆粒水和剤」など剤型の種類が増えてきました。これらの製剤はいずれも使用直前に水に希釈して使用します。もっとも通常的な例として、製品を1000倍に希釈して500Lの薬液を調製する場合には、必要とする製剤量は500ml(またはg)です。このように水で希釈して使用する製品は非常にコンパクトで包装や輸送において環境に配慮した製品であり、そのぶん薬剤コストにおいても経済的になっています。最近の「フロアブル」や「顆粒水和剤」などの新規剤型の製品を見ると希釈倍数がさらに高倍率化する傾向がみられます。それとともに、「計量がしやすい」、「製品開封時に粉立ちしない」、「有機溶媒を使用しない」など使用者の安全性や利便性、効果や薬害・作物の汚れなどの改善が図られています。

これらの製剤を作物に散布するためには希釈用の容器(タンク)と散布機が必要です。希釈液の調製については、製品によって、展着剤の添加や、攪拌方法、混用可否など固有の注意事項が付帯していることがあるため確認を要します。散布に際しては、適切な散布圧力と散布液量で作物の葉裏までよく薬液が付着するようにていねいに散布します。散布機には薬液を細かい霧状に変える仕組みの違いにより、霧吹き原理による「噴霧機」と、高速気流を利用した「ミスト機」があります。その型式や性能も、人力式から、電動式ポータブルスプレーヤ、背負式および定置型の動力噴霧器、トラクター搭載および牽引型や自走式(スピードスプレーヤなど)などさまざまです。最近では、IT技術の応用が進み、乗用型管理機による少量散布※1、農業用ドローンによる散布やGPS(Global Positioning System)機能※2による無人防除機なども登場し技術革新が進んでいます。農業用ドローンの普及に伴い、園芸作物でも無人航空機による高濃度少量散布の登録を取得する薬剤が増えてきています。

なお、いずれの希釈液の散布においても飛散防止対策が重要です。風の状況や散布方法に十分留意するとともに、飛散の少ないノズルへの切り替えや飛散防止カバーの利用などが現場に浸透してきています。

  • ※1:乗用型速度連動式地上液剤少量散布装置:自走式散布機や田植機汎用利用機(水田)やトラクター(畑作)にブームスプレーヤを装着し、従来の薬液散布量の3分の1から4分の1に相当する10アール当り25Lを走行速度に合わせ均一に散布する機能を持つ。約50アールを連続散布でき省力的で、薬液は作物の真上5~10cmの至近距離から散布されるため付着効率がよく、地面や圃場外への落下や飛散が大幅に軽減される。
  • ※2:人工衛星を利用して自分が地球上のどこにいるのかを正確に割り出すシステム。

園芸分野での粒剤や土壌くん蒸剤の使用

園芸分野でも、粒剤は畑作物を中心にいろいろな目的で使用されています。野菜類では殺虫剤の粒剤を、定植時に植穴当り約1~2g処理することで、アブラムシ類などの作物生育初期の被害を防止することができます。また、除草剤にも粒剤製品がいろいろあり、多くの畑作物で、雑草発生前に10アール当り約3~6kgを土壌表面処理することで雑草発生を抑制することができます。小規模な畑には手撒きや手動式散粒機で処理されますが、大規模な場合には動力散布機やトラクターに専用散粒機を装着し処理します。

根菜類をはじめとする畑作物では、土壌線虫や土壌病害虫によって大きな被害を受けるものがあります。これらの作物では作物の植え付け前に粒剤を土壌混和するか、土壌くん蒸剤(油剤など)を機械・器具を用いて土中に10アール当り15~30L灌注(30cm千鳥状に、深さ15cmに点注)します。また、灌注処理直後には被覆を必要とする製品もあります。安全面で土壌くん蒸剤は、ガス拡散性があり、眼や皮膚への刺激性が強いため、使用者は指定された防除衣や保護具を装着し作業する必要があります。また、臭気も強いため作業時やガス抜き作業は、風の少ない日時を選び、周辺への影響に十分に配慮して行う必要があります。

農薬の剤型・製剤や散布機械は、現場のニーズや利便性、また、使用者の安全性が求められ、日進月歩の改良が加えられてきています。また、それに平行して、農薬の適正使用についても農薬工業会や緑の安全推進協議会、全国農業協同組合連合会(JA全農)、全国農薬協同組合などが主体となり講習会を開くなどの地道な活動が続けられています。

(2022年3月)