日本は、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)を締結していると聞きましたが、POPsとは何で、また、どのような内容なのですか。
POPs(残留性有機汚染物質)とは環境中に長時間残存して地球規模で越境移動し、生体内に濃縮・蓄積して健康被害をもたらす可能性がある物質として国際的に廃絶・排出削減が進められている化学物質を指し、その中には今日では製造・使用が禁止されている農薬も含まれます。国内で回収されたPOPs農薬はすでに大部分が無害化処理されており、残りも適切に管理されています。
POPsとは、“Persistent Organic Pollutants”の略で、『残留性有機汚染物質』と訳され、「環境中に長時間残存する、大気や水を媒体として地球規模で越境移動する、生体内に濃縮・蓄積し健康被害をもたらす可能性がある物質」と定義されています。これらの化学物質については、国際的に規制する必要があり、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)が制定されました。2004年に50カ国が本条約を締結し、発効しました。2015年1月現在、我が国を含む178カ国及び欧州連合(EU)が締結しています。本条約においては現在25化学物質(類)がPOPsとして指定されています。意図的生成物の中の21化学物質(類)については、製造・輸入・使用を原則禁止しています。DDTについてはその有用性からマラリア(原虫感染症)予防の必要な国での製造・使用を制限的に認めています。また、非意図的生成物に分類されるダイオキシン類に相当する2化学物質類(PCDDs、PCDFs)と、ヘキサクロロベンゼン(HCB)※1、ポリ塩化ビフェニル(PCB)※2、ペンタクロロベンゼン(PeCB)※3については出来る限り廃絶することを目標としています。
POPsの指定物質は、定期的に見直されており、2016年12月より3化学物質類(ポリ塩化ナフタレン類、ヘキサクロロブタジエン、ペンタクロロフェノールとその塩及びエステル類)が追加されます。また、2015年10月現在で以下の新規に94化学物質(類)を追加指定することを審議中です。
デカブロモジフェニルエーテル、ジコホル、短鎖塩素化パラフィン(SCCP)、ペンタデカフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及びPFOA関連物質
注釈※1、※2、※3:HCBおよび、PCBおよびPeCBは、意図的生成物であると同時に、非意図的生成物にも分類される。
POPsに指定されている化学物質について
POPsの排出削減や廃絶をめざした「残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約」(2015年10月現在)の指定物質は表1の通りです。附属書AとBには、意図的生成物に分類され、製品として使用する目的で製造された化学物質を記載しています。附属書Cには、非意図的生成物として、意図的に製造したものではなく、目的外の副生物として意図せず生成してしまうものを記載しています。附属書Aの物質は製造・使用、輸出入の原則禁止、附属書Bの物質は制限、附属書Cの物質は、排出をできる限り削減することとしています。15農薬(及びその原料)のうち、マイレックス、トキサフェン、ヘキサクロロベンゼン、ペンタクロロベンゼン、アルファーヘキサクロロシクロヘキサン、ベーターヘキサクロロシクロヘキサン、クロルデコンは、日本ではこれまで農薬登録はされたことがありません。残りも登録は2010年までに失効し、現在では販売も使用も禁止されています。
表-1.ストックホルム条約で指定されている残留性有機汚染物質(2015年10月現在)
※スクロールにて全体をご確認いただけます。
分 類 | 物 質 | 主な用途 |
---|---|---|
附属書A(廃絶) | アルドリン | 農薬 |
クロルデン | 農薬、駆除剤 | |
ディルドリン | 農薬、駆除剤 | |
エンドリン | 農薬 | |
ヘプタクロル | 農薬、駆除剤 | |
ヘキサクロロベンゼン(HCB) | 農薬 | |
マイレックス | 農薬、防火剤 | |
トキサフェン | 農薬 | |
ポリ塩化ビフェニル(PCB)類 | 絶縁油、熱媒体等 | |
アルファーヘキサクロロシクロヘキサン | 農薬 | |
ベーターヘキサクロロシクロヘキサン | 農薬 | |
クロルデコン | 農薬 | |
エンドスルファン(ベンゾエピン) | 農薬 | |
ヘキサブロモビフェニル | プラスチック、難燃剤 | |
ヘキサブロモシクロドデカン | 難燃剤 | |
ヘキサブロモジフェニルエーテル | プラスチック、難燃剤 | |
ヘプタブロモジフェニルエーテル | プラスチック、難燃剤 | |
リンデン | 農薬 | |
ペンタクロロベンゼン(PeCB) | 農薬 | |
テトラブロモジフェニルエーテル | プラスチック、難燃剤 | |
ペンタブロモジフェニルエーテル | プラスチック、難燃剤 | |
附属書B(制限) | DDT | 農薬、駆除剤 |
PFOSとその塩、PFOSF | 半導体、写真フィルム | |
附属書C(非意図的生成物) | ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDDs) | *HCB、PCB、PeCBは附属書Aと重複 |
ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs) | ||
ポリ塩化ビフェニル(PCB)類* | ||
ヘキサクロロベンゼン(HCB)* | ||
ペンタクロロベンゼン(PeCB)* |
POPs農薬の管理状況
2001年の調査において、確認された埋設農薬は、全国24道県、168カ所の約4,400トンでした。その後、2008年4月までに全国46カ所の約2,200トンの農薬が無害化処理され、残りの約2,200トンの農薬は、適切に管理されていました。更に、2008年4月から2015年9月までに、関係道県等において、約1,880トンの埋設農薬が無害化処理されました。残りの約320トンの埋設農薬については、関係県等が土壌調査、水質調査等の実施により、周辺環境が汚染されないよう適切に管理しています。埋設農薬の管理及び処理状況の詳細は下記の“農林水産省「埋設農薬の管理状況」”をご参照ください。
(2017年4月)