農薬は本当に必要?

農薬に関する法律、指導要綱、社会的役割などについて

日本は、POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)を締結していると聞きましたが、POPsとは何で、また、どのような内容なのですか。

POPs(残留性有機汚染物質)とは環境中に長時間残存して地球規模で越境移動し、生体内に濃縮・蓄積して健康被害をもたらす可能性がある物質として国際的に廃絶・排出削減が進められている化学物質を指し、その中には今日では製造・使用が禁止されている農薬も含まれます。国内で回収されたPOPs農薬はすでに大部分が無害化処理されており、残りも適切に管理されています。

POPsとは、“Persistent Organic Pollutants”の略で、『残留性有機汚染物質』と訳され、「環境中に長時間残存する、大気や水を媒体として地球規模で越境移動する、生体内に濃縮・蓄積し健康被害をもたらす可能性がある物質」と定義されています。これらの化学物質については、国際的に規制する必要があり、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)が制定されました。2004年に50カ国が本条約を締結し、発効しました。2021年3月現在で日本を含む182か国及び欧州連合(EU)、パレスチナ自治区が締約国になっています。本条約においては現在30化学物質がPOPsとして指定されており、アルドリン等の26物質については製造・使用・輸出入が原則禁止されています。DDTについてはその有用性からマラリア(原虫感染症)予防の必要な国での製造・使用を制限的に認めています。また、非意図的生成物に分類されるダイオキシン類に相当する2化学物質類(PCDDs、PCDFs)と、意図的生成物・非意図的生成物の両方に分類されるヘキサクロロベンゼン(HCB)、ペンタクロロベンゼン(PeCB)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ポリ塩化ナフタレン(PCN)及びヘキサクロロブタジエン(HCBD)を含めた計7物質については出来る限り廃絶することを目標としています。

POPsの指定物質は定期的に見直されており、2019年に開催されたストックホルム条約の第9回締約国会議(COP9)では、新たにジコホルと、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及びPFOA関連物質を追加することが決まりました。

POPsに指定されている化学物質について

POPsの排出削減や廃絶をめざした「残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約」(2019年5月現在)の指定物質は表1の通りです。附属書AとBは意図的生成物に分類され、製品として使用する目的で製造された化学物質を記載しています。附属書Aの物質は製造・使用、輸出入の原則禁止、附属書Bの物質は生産および使用を制限する措置の対象となります。附属書Cは、目的外の副生物として生成してしまう非意図的生成物が記載され、排出をできる限り削減することとしています。

農薬及びその原料として区分されている15成分はいずれも、日本ではこれまで農薬登録されていない、もしくは2010年までに登録失効しているものであり、現在では販売も使用も禁止されています。

表-1.ストックホルム条約で指定されている残留性有機汚染物質(2019年5月現在)

※スクロールにて全体をご確認いただけます。

分 類 物 質 主な用途
附属書A(廃絶) アルドリン 農薬
アルファ-ヘキサクロロシクロヘキサン(α-HCH) 農薬
ベータ-ヘキサクロロシクロヘキサン(β-HCH) 農薬
クロルデン 農薬
クロルデコン 農薬
デカブロモジフェニルエーテル(デカBDE) 工業化学品
ディルドリン 農薬
エンドリン 農薬
ヘプタクロル 農薬
ヘキサブロモビフェニル(HBB) 工業化学品
ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD) 工業化学品
ヘキサブロモジフェニルエーテル(ヘキサBDE) 工業化学品
ヘプタブロモジフェニルエーテル(ヘプタBDE) 工業化学品
ヘキサクロロベンゼン(HCB) 農薬
ヘキサクロロブタジエン(HCBD) 工業化学品
リンデン 農薬
マイレックス 農薬
ペンタクロロベンゼン(PeCB) 農薬
ペンタクロロフェノール(PCP)とその塩及びエステル類 農薬
ポリ塩化ビフェニル(PCB)類 工業化学品
ポリ塩化ナフタレン(PCN) 工業化学品
短鎖塩素化パラフィン(SCCPs) 工業化学品
エンドスルファン(ベンゾエピン) 農薬
テトラブロモジフェニルエーテル(テトラBDE) 工業化学品
ペンタブロモジフェニルエーテル(ペンタBDE) 工業化学品
トキサフェン 農薬
ジコホル 農薬
ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及びPFOA関連物質 工業化学品
附属書B(制限) DDT 農薬
ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とその塩、ペルフルオロオクタンスルホニルフルオリド(PFOSF) 工業化学品
附属書C(非意図的生成物) ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDDs) *HCB、HCBD、PeCB、PCB、PCNは附属書Aと重複
ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)
ヘキサクロロベンゼン(HCB)*
ヘキサクロロブタジエン(HCBD)*
ペンタクロロベンゼン(PeCB)*
ポリ塩化ビフェニル(PCB)類*
ポリ塩化ナフタレン*(PCN)

POPs農薬の管理状況

2001年の調査において、確認された埋設農薬は、全国24道県、168カ所の約4,400トンでした。その後、2008年4月までに全国46カ所の約2,200トンの農薬が無害化処理され、残りの約2,200トンの農薬は、適切に管理されていました。更に、2008年4月から2021年3月までに、関係道県等において、約1,900トンの埋設農薬が無害化処理されました。残りの約300トンの埋設農薬については、関係県等が土壌調査、水質調査等の実施により、周辺環境が汚染されないよう適切に管理しています。埋設農薬の管理及び処理状況の詳細は下記の“農林水産省「埋設農薬の管理状況」”をご参照ください。

参考文献
*環境省「POPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)」
http://www.env.go.jp/chemi/pops/
*環境省「POPsパンフレット」
http://www.env.go.jp/chemi/pops/pamph/mat00_2.pdf
*経済産業省「POPs条約」
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/pops.html
*農林水産省「農薬の販売・使用の禁止」
http://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_kinsi/
*農林水産省「埋蔵農薬の管理状況」
http://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_maisetu/maisetu.html
*Stockholm Convention “Status of ratifications”
http://www.pops.int/Countries/StatusofRatifications/PartiesandSignatoires/tabid/4500/Default.aspx
*Stockholm Convention on persistent organic pollutants (POPs)
http://www.pops.int/Portals/0/download.aspx?d=UNEP-POPS-COP-CONVTEXT-2021.English.pdf

(2023年2月)