そのまま食べても大丈夫?

残留農薬や食品における安全基準などについて

個々の農薬は少量で問題なくても、いろいろな農薬が残留していると複合毒性によりがんなどになりませんか。

いいえ。農薬で複合毒性が確認された事例はありません。複数の残留農薬を食品から摂取しても、がんなどの健康被害が発生する可能性は非常に低いと考えられています。

農作物に複数の農薬が残留している例はそう珍しいことではありませんが、その残留量がごく微量であることを考える必要があります。

登録された農薬では、発がん性試験を含めて種々の毒性試験を実施して何ら悪影響の出ない無毒性量を求め、その値よりも十分な安全域(通常1/100倍)の許容一日摂取量(ADI)を設定し、必要に応じて急性参照用量(ARfD)を決めています。そして、農薬ごとに日本中の農作物に登録された使用基準(作物名、使用量/濃度、使用回数など)の最大限で使用された場合でも国民(老若男女)の農薬摂取量がADI及びARfD以下となるように残留基準値が定められています。

実際の平均的な食生活における食品からの農薬等の摂取量について、2009~2010年度に厚生労働省が調査したところ、47の農薬等が検出されましたが、それらの平均一日摂取量(mg/人/日)を計算するとADIに対して0.01%~5.92%の範囲であり、国民が一生涯に渡って毎日摂取したとしても健康に影響を生じるおそれはないとされています。また、日本では個々の農作物での農薬残留量について、短期間に多量に摂取する場面を想定してARfDが設定され、それを超えないように管理されています。

一方、毒性を示さないような微量の残留農薬を複数摂取した場合、毒性が現れるか(複合毒性)をテーマとした種々の研究は行われていますが、複合毒性を示唆する事例は報告されていません。

たとえば、現在使われている代表的な農薬40種類と20種類について、それぞれのADIに当たる量を、すべて合わせてラットに投与し続けるという動物実験が名古屋市立大学医学部のグループにより行われました。40種類の農薬についての実験では、「ADI量を同時に摂取しても発がん性を示唆する変化はまったくみられず、ADI量の意義とその有用性が明らかになった」という結論が得られました。また、20種類の農薬についての別の実験では、「ADI量で複合投与した場合には肝発がんに対しまったく作用を示さないことが明確に見出された」と結論づけています。

これらの実験はすべての農薬の組み合わせについて行われたわけではありませんので、この結果だけで、複合毒性の可能性はまったくないとは言い切れません。しかし、一般的に、複合毒性が発現するかどうかは、共存する物質の濃度による影響が大きいと考えられており、ADIよりさらに少ない残留量の農薬はいくら集まっても何らの作用も示さない、つまり複合毒性を発現しないと専門家は考えています。

農薬の複合影響について、食品安全委員会は、「ヒトが摂取する量はADI以下であり、ADIは動物で何ら毒性が発現しない用量の1/100以下に設定されていますので、複合的な影響により、ヒトに健康被害が発生するという可能性は非常に低いと考えられます。」としています。

参考文献
*福田秀夫『農薬に対する誤解と偏見』2000、化学工業日報社
*梅津憲治『農薬と人の健康』1998、日本植物防疫協会
*梅津憲治、大川秀郎『農業と環境から農薬を考える』1994、ソフトサイエンス社
*Review of the Risk Assessment of Mixtures of Pesticides and Similar Substances(2002), Committee on Toxicity of Chemicals in Food, Consumer Products and the Environment, UK
*内閣府食品安全委員会,「食品中の化学物質の複合的な影響について」季刊誌 食品安全 vol.20
http://www.fsc.go.jp/sonota/20gou_7.pdf
*厚生労働省,「食品中の残留農薬等の一日摂取量調査結果の公表について」
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu2/130415-1.html

(2021年1月)