教職員向け

教育関係者セミナーレポート
「食と未来の教え方」

家庭科教職員対象セミナー 食育を科学的に考える(四国)

講座プログラム

開催日時

:2022年11月5日(土)13:30~15:50

第1部

:「骨太人生を目指そう」

第2部

:「ほんとうの“食の安全”を考える」

参加者

:52名

今回の講師は、この方たち

  • 上西 一弘 先生

    【パネリスト】
    女子栄養大学
    栄養生理学研究室教授
    栄養学博士
    上西 一弘 先生

  • 畝山 智香子 先生

    【パネリスト】
    国立医薬品食品衛生
    研究所安全情報部長
    薬学博士
    畝山 智香子 先生

  • 住友不動産九段ビル ベルサール九段

    【会場】
    住友不動産九段ビル
    ベルサール九段

【司会】 茂野 えり子さん フリーアナウンサー、栄養士

講師の先生方を迎えて「食育」をテーマに解説していただく教育関係者向けのセミナー「食育を科学的に考える」。今回も新型コロナウイルス感染症予防のため、オンラインでのライブ配信により開催しました。
登壇したのは女子栄養大学栄養生理学研究室教授の上西一弘先生と、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長の畝山智香子先生。第1部は「骨太人生を目指そう」として骨粗鬆症や骨の働きなどについて、第2部の「ほんとうの“食の安全”を考える」では食品のリスクとハザードなどついて解説していただきました。
第2部終了後には質疑応答の時間も用意され、事前にいただいたものに加えて配信中にチャットでいただいた質問にも対応。講師お二人による講演と回答には、教育現場で食育を科学的に考えるためのヒントと答えがあふれていました。

会場の様子
  • 第1部
  • 第2部
  • 質疑
    応答
  • 参加者
    の感想

第1部:「骨太人生を目指そう」

(講師:上西 一弘 先生)

徳島大学大学院栄養学研究科修士課程修了。雪印乳業生物科学研究所を経て女子栄養大学に勤務し、2006年4月より現職。栄養生理学、骨の健康と栄養、身体測定とライフスタイルをあわせた栄養評価、スポーツ選手の栄養アセスメントとそれに基づく栄養サポートなどを専門とし、日本栄養・食糧学会や日本栄養改善学会の理事も務めている上西先生に、骨が担っている役割などについて解説していただきました。

カルシウムの貯蔵庫である骨を豊かにしましょう

「體」は「からだ」と読みます。私たちの体は骨が豊かなのでこの漢字が当てられているのではないでしょうか。その骨が豊かではなくなってしまった状態が「骨粗鬆症」です。骨粗鬆症の「鬆」は「す」と読みます。切った大根の切り口に穴が開いている状態を「すが入っている」と言いますが、その「す」が「鬆」です。つまり骨粗鬆症は、骨が荒くなって鬆が入ったような状態のこと。専門的な定義では「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」のことで、わかりやすく言うと骨がスカスカになって骨折しやすくなってる状態と考えていただければいいでしょう。
背骨が骨粗鬆症になると、体重をかけたときにグシャッと潰れます。これを圧迫骨折と言います。背骨が潰れると背中や腰がどんどん曲がってくる。歳を取って身長が縮んだり背中や腰が曲がってくることを老化現象だと考える人も多くいますが、実は骨粗鬆症によって背骨が圧迫骨折を起こしたことで身長が縮んだり腰が曲がってきます。そうならないためには骨量を増やすことが必要です。
骨にはカルシウムが重要です。人間の体内にあるカルシウムの99%は骨に存在していて、残りの1%は歯に存在しています。カルシウムは骨を作っていますが、実は骨を作るよりも重要な役割があります。それは筋収縮の調節、神経細胞機能の調節、分泌の調節、細胞増殖の調節、転写調節で、カルシウムは体の様々な機能を調節しています。そして骨の働きとしては、体を支えて筋肉とともに体を動かしています。さらに頭部や胸部など重要な臓器を保護し、骨の中心となる骨髄では血液を作る造血も担っています。そしてもうひとつ大切な役割は、カルシウムの貯蔵庫であるということです。そのためカルシウムの摂取量が低下して不足すると、貯蔵庫である骨からカルシウムを取り出すことになります。つまり骨の中のカルシウムが抜けていき、鬆が入ったような状態になる。それが骨粗鬆症なのです。
骨粗鬆症を予防するため、成長期にできるだけ骨量を増やしておきましょう。若い時にしっかりと貯蔵庫である骨の中のカルシウムを貯めておく。成人期になると骨量を増やすことは難しいので、減らさないように意識してカルシウムを摂取しましょう。女性は閉経して女性ホルモンが分泌されなくなると骨量が一気に減少してしまうため、それを抑えることも大切です。そして高齢期には骨粗鬆症の予防に加えて、骨折を予防することも必要です。
骨量を高めて維持するためにはどうしたらいいのか。最も大切なのは全身の栄養状態を良くすることです。その上で骨の材料をしっかりと摂取し、そして骨に刺激を与えましょう。全身の栄養状態を良くするためにはバランスの良い食事を心がける。ひとつのものだけを食べるのではなくいろいろなものを食べましょう。しかし食べているだけでじっとしていても骨は強くなりません。骨に刺激を与えるためには運動が必要です。スポーツではなく、歩いたり階段の上り下りをするといった骨に刺激を与える運動で大丈夫です。
骨の材料はもちろんカルシウム。特に牛乳・乳製品には多くのカルシウムが含まれています。ビタミンDは骨を丈夫にしてくれるだけでなく筋肉にも重要な働きをしているので、摂取を心がけましょう。納豆に多く含まれるビタミンKも骨折の予防に効果があります。子供の場合には十分な睡眠をとることも、骨量を増やすために重要です。

会場の様子(第1部)

第2部:「ほんとうの“食の安全”を考える」

(講師:畝山 智香子 先生)

東北大学大学院薬学研究科博士前期課程修了(製薬科学)。東京大学薬学部にて薬学博士号取得。1988年より国立医薬品食品衛生研究所病理部、2003年より安全情報部に勤務し、2016年8月より現職。「食品安全情報blog」では世界各地における食品や健康に関する情報を発信している畝山先生に、食品の安全を守る仕組みなどについて解説していただきました。

安全な食品だからといってリスクなしではありません

何を食べているのかは地域によって異なるため、どのようなものを食品と呼ぶのかに実は定義はありません。私たちが生きるために食べてきたもので、食べてもすぐに有害影響が出ないとわかっている「未知の化学物質のかたまり」が食品です。食品に関しては長期の安全性のようなものは基本的に確認されていません。食経験を頼りにしていますが、70〜80歳を過ぎてようやく有害影響が出るものなどは、平均寿命が50〜60歳だった時代の経験からは判断できません。昔は重い病気を患ったまま長生きする人も多くありませんでした。
食品の安全性を確保するためにはリスクアナリシスという科学ツールを使います。まず「リスク」と「ハザード」という言葉を区別してください。ハザードは有害性のことで、リスクはそのハザードを私たちがどのくらい食べているのかという「暴露量」とくみあわせて判断されます。ハザードが大きくても暴露量が少なければリスクは小さくなり、ハザードとしては大きくなくても暴露量が多いとリスクは増大します。リスクは「ある」か「ない」かではなく、「どのくらいの大きさか」という定量と「どちらが大きいか」という比較で考える必要があります。
リスクアナリシスには、リスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションの3要素があります。リスク評価は日本では主に食品安全委員会が行っている科学的な評価です。リスク管理はリスク評価を元に、厚生労働省や農林水産省などが食品の基準値を設定したり、その基準を守っていない商品などを摘発したりすることです。そしてこの2つだけでは食の安全を確保することができず、消費者である私たちを含めて関係者すべてが食品のリスクに関する適切な情報をもっている必要があります。そのために行うのがリスクコミュニケーションです。

食品にはいろいろなものが含まれています。リスク評価をする側から見ると、意図的に使われるものと非意図的に含まれるものに分けられます。意図的に使われるものは食品添加物や残留農薬、動物用医薬品などで、ほとんどの国では許認可制のため実質的にゼロリスクで管理されています。非意図的に含まれるものは、有毒アルカロイド、病原性微生物、汚染物質などです。これらはその食品に元々含まれているものなのでとても管理が難しい。そのため現実的な管理目標を設定しているのが現状です。例えばカドミウムはヨーロッパでは耐容週間摂取量が日本の約半分に設定されています。その違いの理由は、日本人のカドミウム摂取の主な要因はお米だからです。カドミウムは土壌中に含まれるもので、日本でもそれぞれの土地で濃度が違います。有害物質の濃度が高い地域のものだけを食べていると、それが病気の原因になることも考えられます。食品の安全性を確保するためには、いろいろな土地のものを食べることも大切です。
実は食品由来で食品添加物や農薬による中毒ということはほとんど起きていません。ほとんどの場合、健康被害の原因は健康食品です。健康食品はカプセルや濃縮液など、普通ではない摂取方法のものが多くあります。しかも特定の物質の含有量が多いだけでなく毎日のように摂取する。つまり長期間にわたって大量摂取することにより、暴露量が圧倒的に多くなってしまう。それがいわゆる健康食品なのです。
こだわりの食生活といって特定のものだけ食べるということは、結果的にリスクが増す可能性があります。日本では普通に生活をすることで、いろいろなものを食べることができます。いろいろなものを食べることでリスクを分散しましょう。

会場の様子(第2部)

こんな質問がありました。

Q小学生に対する生活アンケートでは、「朝食におかずを食べていない」「休み時間に外遊びをしない」という児童が目立ちます。骨を丈夫にするための食生活や外遊びの重要性について教えてください。

A

質疑応答の様子

「朝食におかずを食べていない」ことに関しては、子供たちだけでなく保護者の方も含めて、家族として問題に取り組んでいただきたいと思います。「休み時間に外遊びをしない」こともそうですが、子供たちの生活習慣について保護者の方と一緒に考えることが重要で、子供たちだけを教育していても改善されないでしょう。例えば朝食を食べる生徒の方が成績がいいというデータは、全国学力調査などで多く示されてます。それらを保護者の方に見ていただけるようにお知らせする。そこから始めるといいのではないでしょうか。
(上西先生)

Q「牛乳は体に悪い」と飲用させない保護者がいるためどのように対応すればいいか困り、現在は給食での牛乳提供を中止しています。どうしたら良いでしょうか?

A

「牛乳は体に悪い」という言説は数年おきに登場していて、一度収まってもまた新しい本が出てきてしまう。それに対してはJミルク(旧・日本酪農乳業協会)がきちんと検証しているので、ホームページを見ていただければ問題はないということを確認できます。牛乳が体に悪いと書かれた本などを読んでも、科学的な根拠がないものばかり。給食での牛乳中止は骨量を増やすためには大きな問題なので、自信を持って対応していただきたいと思います。また牛乳だけでなく、例えば「砂糖は体に悪い」「小麦は体に悪い」など、いろいろな食品に対して同様の言説が登場しますが、ほとんどエビデンスはありません。そういった情報には振り回されない方がいいでしょう。
(上西先生)

「特定のものが体に悪い」と同様に、「特定のものが体に良い」という言説も数多くあります。そのような特定のものだけを良いとか悪いとか言っているものは、そのほとんどが根拠のないものです。食生活全体の中で私たちはさまざまなものを食べるため、そこに取り上げられた特定のものだけを食べて生きている人はいません。そのようなニュースや情報などは、基本的にすべて嘘だと思って構わないでしょう。
(畝山先生)

Q日本は海外と比較して、食品添加物が多いのはなぜなのでしょうか?

A

質疑応答の様子

日本は食品添加物が多いと言っている人はいますが、根拠を示していないのでなぜそう言っているのかはわかりません。例えば日本では塩は添加物ではありませんが、海外では食品添加物に分類される場合もあります。法律上の添加物の定義は国によって違うので、それに対して多い少ないと言っても意味がありません。
(畝山先生)

参加者の感想

カルシウム摂取量の不足や加齢に伴う骨粗鬆症のリスクについてのお話が印象に残りました。
(小学校)

食品添加物や農薬より、一般的な食品、さらに健康食品のリスクが大きいということは新たな発見でした。正しい知識を身に付けなければいけないと思いました。
(高校)

「鬆(す)」という漢字の読み方から、骨粗鬆症の意味が詳しく分かりました。カルシウム自己チェック表という資料があることを知らなかった。学校でも使用したいです。健康に気を遣っていましたが、カルシウム自己チェック表の点数が低かったので、これからもっと気をつけようと思います。
(中学校)

カルシウムをとる時期と給食で牛乳を飲むことの大切さ、公的機関の情報を信用することが印象に残りました。
(中学校)