教職員向け

教育関係者セミナーレポート
「食と未来の教え方」

家庭科教職員対象セミナー 食育を科学的に考える(さいたま)

講座プログラム

開催日時

:2019年10月5日(土)13:30~16:20

第1部

:「学校における食育のための実態把握」

第2部

:「食品安全とリスクコミュニケーション」

参加者

:65名

今回の講師は、この方たち

  • 衛藤 久美 先生

    【パネリスト】
    女子栄養大学
    栄養学部専任講師
    博士(栄養学)
    衛藤 久美 先生

  • 姫田 尚 先生

    【パネリスト】
    食品安全委員会フェロー
    公益社団法人
    中央畜産会副会長
    姫田 尚 先生

  • TKPガーデンシティPREMIUM大宮

    【会場】
    TKPガーデンシティ
    PREMIUM大宮

【司会】 小谷 あゆみさん フリーアナウンサー、野菜ソムリエ

講師の先生方を迎えて「食育」をテーマに解説していただく教育関係者向けのセミナー「食育を科学的に考える」をさいたま市で開催しました。
今回は女子栄養大学栄養学部の衛藤久美先生と元農林水産省で現在は食品安全委員会フェロー、中央畜産会副会長を務める姫田尚先生を講師に招き、第1部では「学校における食育のための実態把握」として食育の効果的な実施について、第2部の「食品安全とリスクコミュニケーション」では食の安全とリスクについて解説していただきました。
埼玉県だけでなく首都圏各地からも訪れていただいた今回の教育関係者向けセミナー。多彩な経験を踏まえたお二人の講演、そして質疑応答には、多くの貴重な意見やさまざまなヒントが含まれていました。

会場の様子
  • 第1部
  • 第2部
  • 質疑
    応答
  • 参加者
    の感想

第1部:「学校における食育のための実態把握」

(講師:衛藤 久美 先生)

国際基督教大学教養学部国際関係学科卒業。女子栄養大学大学院栄養学研究科栄養学専攻修士課程修了。ニューヨーク大学大学院教育学部栄養・食品・公衆衛生学科修士課程修了。ニューヨーク市保健精神衛生局で勤務した経験を持ち、現在は女子栄養大学栄養学部の専任講師であり、日本健康教育学会栄養教育研究会の委員としても活動している衛藤久美先生。研究会でのさまざまな活動を踏まえて、学校における食育の効果的な実施方法について解説していただきました。

食育を進めるために大事なのは「計画」です

学校で効果的に食育を進めるためのキーワードは「実態把握」です。平成27年10月に総務省が発表した「食育の推進に関する政策評価」では、「栄養教諭の配置が学校における食育に関する体制の整備に寄与していると考えられる一方、児童が朝食を欠食する割合の減少への寄与は明確には把握できなかった」と書かれています。これは栄養教諭の配置が必ずしも食育に寄与しているとはいえないという厳しい評価結果で、実施するだけでなくきちんと評価をして、成果を「見える化」する必要性が言われるようになりました。

会場の様子(第1部)

食育を推進する際にどのように取り組めばいいのか。それは「計画・実践・評価・改善」というPDCAサイクルに基づいて進めていくことです。「計画・実践・評価・改善」をそれぞれ行うのではなく、すべてをつなげて考えることが大切です。
その中でも最も重要なのは「計画」です。計画をしっかりと立てることができれば、あとは実施をして評価をするだけ。その評価に基づき、次に向けて改善していきます。準備8割、本番2割という言葉もありますが、その準備に当たるものが計画です。しっかりと時間をかけて段階を進めていくことが良い計画となり、実践・評価もスムーズに行えて、結果的に効果的な食育につながります。
さらに計画は「アセスメント・目標設定・計画作成」という3つの段階に分けることができます。最初のアセスメントは「実態把握」と「課題抽出」。実態把握が最初のステップで、調査や観察、アンケートや話し合いなどで、例えば朝食を食べている児童の割合などの実態を把握します。その結果を元にどんなことが課題となるのかを抽出するのが課題抽出。課題を抽出したら目標設定、そしてその目標を達成するための計画作成と進めていきます。計画段階では、「評価の計画」を立てることが大切です。評価でどのような指標を用いるかを見据えて実態把握を検討することで、すべてがスムーズにつながります。
どのように実態把握をすればいいのか。数値で結果が示せる「定量的」な実態把握と、数値では示せないことを会話などから把握する「定性的」な実態把握がありますが、どのような実態を把握したいのかによって変わり、組み合わせて行うことも必要です。定量的に把握する場合、重要なのは同じ質問文・同じ回答肢を使うこと。同じ項目を用いることで、過去と現在の比較が可能になり、課題や結果の解釈がしやすくなります。どのような項目を使ったらいいのか分からないときは、全国調査で用いられている項目から使用してください。
実態把握、課題抽出、目標設定、評価。このつながりと一貫性を念頭に置きながら、食育に取り組むことが重要です。

第2部:「食品安全とリスクコミュニケーション」

(講師:姫田 尚 先生)

京都大学卒業後に農林水産省へ入省。消費・安全局で消費者情報官、動物衛生課長、総務課長、審議官等を経て、2012年から内閣府食品安全委員会事務局長を歴任(現在はフェロー)。2017年に公益社団法人中央畜産会副会長に就任。農林水産省時代には消費・安全局の初代消費者情報官としてリスク管理機関におけるリスクコミュニケーションに取り組んできた姫田尚先生に、食品のリスク評価やリスク管理などについてお話していただきました。

科学的根拠に基づいて考えることが重要です

メディアなどで色々な人が食品についてさまざまなことを言っていますが、その中には科学的ではないことが多くあります。例えばテレビに専門家と名乗る人が出演していても、少しでも専門が違えば大学教授でも専門外のことについては分からない。個人の感想や体験談はもちろん信用できません。研究者によるデータは複数の研究者によって確認されている必要があり、学会発表ではなく権威のあるジャーナルでの発表論文かどうかも重要です。そして食品安全については、研究者による論文発表より、基本的にはGLP(優良試験所基準)を取得している検査機関のデータのほうが信頼できます。

会場の様子(第2部)

食品の安全に関する国際的な考え方としては、欧米では30年以上前から、日本ではBSEの発生を契機に、CODEX(国際的な食品規格)で示されたリスクアナリシスの考え方を基本としています。国民の健康を第一に考え、後始末より未然防止を務め、科学的根拠に基づく。それが食品安全基本法の原則となっています。
例えば農薬は、農薬メーカーが新しい農薬を開発すると農林水産省へ登録申請をします。人への安全性については、厚生労働省が食品安全委員会にリスク評価を依頼し、ADI(許容一日摂取量)が決まります。このADIをもとに厚生労働省は残留基準値を設定、農林水産省は残留基準を超えないように農作物ごとの使用基準を設定します。実際の食事から検出される農薬の量はADIの1%以下にとどまるものが多く、健康に影響を生じるおそれのないものと考えます。
食品を含めてどんなものにもリスクはあります。そのリスクをどのように減らしていくのかが最も大事ですが、あるリスクを極端に減らすと別のリスクが発生する場合もあります。テレビや新聞などのメディアの情報を鵜呑みにせず、科学的に考えることが大切です。100%安全、100%危険という考え方は誤りです。メディアを敵対視する必要はありませんが絶対視はしないこと。出所のわからないSNSの情報も同じです。複数の情報、そしてオリジナルデータを参照することを心がけましょう。
食品安全の基本は、不老長寿の食品や絶対に安全な食品はないと認識しておくこと。天然のもの、自然のもの、有機食材も絶対に安全なわけではありません。食べて痩せると宣伝している食品は有害物質であることが多くあります。そして日本のように適切な食事ができている国では、その時点で必要な栄養素は摂取できています。サプリメントでの栄養補給は健康にプラスをもたらさないこともあると覚えておきましょう。

こんな質問がありました。

Q食品の原産国表示については気にしなくてもいいのでしょうか?

A

質疑応答の様子

例えば中国産でも日本やアメリカなどの企業が現地で作っているものについては、生産工程がしっかり整えられているので問題がないことが多いです。原産国ではなく、どんな企業が関わっているのかが重要です。逆に言えば国産だからといってすべてが安全と言い切ることはできません。
(姫田先生)

Q私の学校も朝食欠食児童が多くいます。その理由の多くは、親は子供が出発するよりも早く仕事に出てしまうためのようです。そのような子供たちでも朝食を摂るためには、どのようにアプローチしたらいいでしょうか?

A

質疑応答の様子

学年にもよりますが、小学校高学年なら家庭科の勉強をしているので自分で作ることもできると思いますし、低学年でも冷蔵庫から出すだけ、袋から出すだけなど、自分のできることをするといいと思います。冷蔵庫から牛乳を出して飲む、ヨーグルトを食べる、フルーツを食べるなど、前日に保護者の方と確認しておき、子供だけでもできることをする。保護者の方の協力は必要だと思いますが、子供が自分で食生活を管理する力も身についていくと思います。
(衛藤先生)

Q中学校は授業数が限られています。その中でどのように食育を伝えていけばいいでしょうか?

A

質疑応答の様子

私もそれは感じています。授業時間だけで難しい場合は、例えば給食委員会などでアンケートを取ってそれを掲出するということなども可能でしょう。生徒から生徒に伝えることを英語ではピア・エデュケーションと言い、大人から子供よりも効果的に伝わると言われています。また部活動を利用することも、食について関心の高い先生や生徒が多いので効果的です。朝練などのために朝食を食べていない生徒もいるので、そのような課題をどのように解決していくのかも伝えられます。
(衛藤先生)

参加者の感想

食育に関する全体計画のポイントとなることを教えていただいたので、参考にしたいと思います。
(20代/中学校/埼玉県)

地域の研究会や自校の実態把握で活用したいと思います。
(30代/小学校/東京都)

食に関することの実態把握をするためにも、計画から把握して再度全体計画を作成していきたいと思います。
(40代/中学校/埼玉県)

科学的根拠を示しながら食の安全について教えていくことで、子供たちに説得力ある話をしていきたいと思いました。
(20代/中学校/埼玉県)

専門家の方でも人によって意見が変わり、個人的な見解も加わるため、食品の安全に対する正しい知識と情報を見分ける技術が大切だと感じました。
(30代/高校/埼玉県)

安全、安心、リスクなどに絶対はないということが、特に印象に残りました。
(50代/その他/東京都)

食育活動にPDCAサイクルを活用するお話が印象的でした。食育活動以外の取組みにもPDCAサイクルを応用したいと思います。
(30代/高校/埼玉県)

食品安全について見直していく必要を感じました。
(60代以上/小学校/東京都)

無農薬の食品は美味しいと思っていましたが、食品自体から有害物質が出ていることを初めて知りました。
(40代/その他/埼玉県)

さまざまな情報があふれているので、今回のような正しい情報を得られるセミナーはとても助かります。
(30代/中学校/埼玉県)