旬素材の産地から

旬素材の産地から 果樹王国・山梨が誇る日本一のブランド桃。

お店で売られる野菜や果物の値段は「建値(たてね)」という基準価格に影響されます。さて、桃の建値を決めるのはどの産地の桃でしょう?そう、今回訪れた山梨県春日居町なんです。

繊細なおいしさは、繊細に育てられた証。

ひとつひとつ袋がけされた桃

JR春日居町駅を降りると、すぐ目の前に桃畑!
まだ栽培中の桃の木には、なにやら茶色い袋が…。
今回は、山梨県の春日居町で桃農家を営む市川さんにお話を伺いました。

この茶色い袋はなんですか?

  • 市川さん
    ああ、これはね、「袋がけ」してあるんですよ。

「袋がけ」?

  • 市川さん
    そう。花が満開になってからだいたい40日くらいたってからかなぁ。実が大きな青梅くらいの大きさになったら、ひとつひとつ袋をかけるんです。桃の表面は傷つきやすいでしょ?強風や強い日差しから守らなくちゃいけないし、熟してくると甘い匂いがするから虫にも狙われるし。あとはね、この袋は遮光性になってるから今の時期に袋をかけることで実の緑色を抜くんです。その後に遮光の袋を取って日に当てると、鮮やかなピンクに色づくんですよ。

このくらいの大きさが袋がけの見安

自然にピンク色になるわけじゃないんですね!シーズンを通して何個くらい袋がけするんですか?

  • 袋がけをする市川さん
  • 市川さん
    1シーズンで4万個くらいかなぁ。品種によって袋がけしない桃もありますけど、春日居町産は袋掛けが義務づけられているんです。今使っている二重袋だと、色づけの段階になったら茶色い遮光性の袋を引っ張るだけで袋が外れるから、素早く作業ができて助かりますね。袋を取ったら木の下にマルチシートという太陽の光を反射させるシートを敷いて色づけします。茶色の袋の下にある白い袋はヘタの部分だけにかかる短いものなので、実の大部分が直接日に当っていい色になるんです。マルチシートは昔は銀紙のようなものでしたが、畑の温度がすごく上がっちゃってね…。最近はこの白いシートが主流なので、だいぶ暑さもマシになったかなぁ。

茶色い袋を取ると、こうなります。

桃って柔らかくて傷つきやすいけど、育て方も繊細なんですね。病気や害虫対策が大変そう…。

    • 市川さん
      桃は本当に繊細な果物ですよ。しっかり防除しないとすぐに病気になるし、害虫から守るのもかなり大変かな。

最大の敵と言えば?

    • 市川さん
      それはもう、「カイガラムシ」!樹液を吸って木を枯らしてしまう虫で、成虫になると貝のような殻に覆われるから、その時になっていくら薬を使っても殻ではじかれちゃって効かないんです。だから幼虫で動き始めたタイミングを逃さずに一気にやらないと、後で痛い目を見ます。まさに短期決戦ですよ!

害虫との闘い!短期決戦の秘策は…

これが秘策のSS

どうやって退治するんですか?

    • 市川さん
      まずはSS(スピード・スプレイヤー)というタンクと噴霧ノズル、拡散させるファンなどが装備された農薬散布車で、殺菌剤と殺虫剤を一気に撒くんです。SSだと側道や畑の中を回りながら、1回につき500ℓを広範囲に素早く散布できますからね。今、農家は人手が少ないから、農機具や農薬に省力化の工夫がいろいろあって助かります。さっきの袋がけの二重袋も引っ張るだけだったでしょ?回数を減らすとか素早くできるようになることって、私たちにとっては重要なんです。ただSSだと木の陰とか木や枝が重なっている部分までは届かないので、そこは自分たちの手で散布します。
  • 繊細な果物だけに、たくさんの対策が必要なんでしょうね。

    • 市川さん
      私の場合はJAが配布する「防除暦」に準じて計画を立てています。日々、どんな農薬をどの程度使ったかという「防除日誌」もつけていますよ。

JAが配布する「防除暦」。別ページには病害虫の説明も

「防除暦」?

  • 市川さん
    そう、これこれ(防除暦を出してくれる)。作物ごとに使用する農薬や散布時期、薬剤の濃度などが詳しく書かれているカレンダーで、ほら、その時期にどんな害虫がどんな成長段階かまでわかるでしょ?これを確認しながら、その年の気候や日々の天候に合わせて調節する感じですかね。雨が多ければ菌が繁殖して「灰星病」というカビの一種にやられてしまうし、晴れれば虫が多くなるから、畑を回って病害虫の状況を判断します。こういう場面で経験が必要だなぁと感じますね。

これまで病害虫にやられた苦い経験はありますか?

  • 市川さん
    カイガラムシと並ぶ大敵の「ハモグリガ」に一度やられましたよ。葉にもぐって葉を食べてしまう害虫で、これも短期決戦ですね。ハモグリガが一斉に葉にもぐって卵を産み始めたときに農薬を撒かないと、その後のハモグリガの成長はバラバラですから薬の効果が薄くなってしまうんです。最初に徹底的に闘わないと取り返しのつかないことになっちゃう。

収穫直前の天候が桃の“格”を決める!?

市川さんならではのおいしい桃づくりのポイントを教えてください。

  • 市川さん
    とにかくちゃんと日に当ててあげることかな。剪定時に枝が重ならないようにするとか、木と木の間を明るくするとか。日に当てることは基本ですからね。そうすれば糖度も上がる

まんべんなく日が当たるように整えられた木々

糖度ってそんなに変わるものですか?

  • 市川さん
    収穫時の天気で左右されますね。ずっと天気がよくても収穫前に雨が降る糖度が1度下がりますから。ひと雨で糖度が1度下がるけど、その1度を上げるには晴れの日が3~4日続かないと上がらないんです。だからと言って晴れる日を待っていると熟しすぎてしまうし…。収穫が一番難しい作業かもしれませんね。

思うようにならなくて憎らしくなったりしませんか?(笑)

桃をみつめる市川さん

  • 市川さん
    あはは(笑)それより自分を反省しますね。ああ、あの時がまずかったのかな、と振り返ったり、他の木と比べてみたり。野菜と違って果物の収穫は1年に1回だからチャレンジも年1回しかないので必死です。特に春日居町の桃は市場価格を決める「建値」になっているから、他の産地より基準が厳しいんです。皮に赤い斑点が3つあると一級品にはならないですから。そういう意味では日本の果物は芸術品ですよ。

全国の基準となる春日居町の桃、今年の出来はいかがでしょう?

  • 市川さん
    今年は花の咲く時期が遅かったけれど収穫の時期は例年通りだから、生育期間が短めなんです。実が成長する時期に雨も少なかったし、ちょっと小玉かなぁ。最終的に糖度が決まるのは収穫前の10日くらいの天候次第ですが、今回は晴れ続きだったので甘いですよ!必ずしも大きさとおいしさは比例しないのでね。春日居町の桃は生産量日本一の山梨の中でも特別な桃です。品種ごとに個性はあっても、いいものは老舗百貨店や高級フルーツ店の最高級ブランド桃として認められるほど。ジューシーさと甘さのクオリティはピカイチだと地元の人はみんな自負していますから、ぜひ楽しみにしていてください。

たくさん実った桃

食べるのがますます楽しみです!今日はありがとうございました。

  • 学名:Prunus persica バラ科 桃の収穫量は約13万9,800トン(平成23年産)。おいしい時期は7月~9月、主な産地は山梨、福島、長野、岡山。果汁たっぷりでとろけるような食感が魅力の日本の桃は、世界でも高く評価されています。なんと春日居町では、りんごの代わりにカレーに桃を入れる人もいるそうです。

    参考:農林水産省「農林水産統計」H24.1.31
              高橋書店「野菜の便利帳」

  • かごに入った桃

市川さんの栽培スケジュール

木になる実を適量にするためにつぼみや花を取る

桃は他の果物より短期間で急速に育つのできれいな実だけを残す

ひとつひとつ手作業で袋をかける

だいたいの目安は袋を取ってから1週間~10日くらい

よく日が当たるように混み合った枝を整理

果樹王国・山梨が誇る日本一のブランド桃。

市川 博一さん

市川 博一さん

10年前に実家の後を継ぎ会社勤めから転身。奥様と二人で桃農家を営む。栽培する桃は「日川白鳳」「加納岩白桃」「川中島白桃」など。

春日居町

春日居町

富士山、南アルプス、八ヶ岳、秩父連山に囲まれた山梨県甲府盆地にある春日居町。昼夜の寒暖の差が大きいため、糖度の高い果物が育つことで有名です。

お店で売られる野菜や果物の値段は「建値たてね」という基準価格に影響されます。さて、桃の建値を決めるのはどの産地の桃でしょう?そう、今回訪れた山梨県春日居町なんです。

繊細なおいしさは、繊細に育てられた証。

JR春日居町駅を降りると、すぐ目の前に桃畑!まだ栽培中の桃の木には、なにやら茶色い袋が…。今回は、山梨県の春日居町で桃農家を営む市川さんにお話を伺いました。

この茶色い袋はなんですか?

市川さん
ああ、これはね、「袋がけ」してあるんですよ。

ひとつひとつ袋がけされた桃

「袋がけ」?

市川さん
そう。花が満開になってからだいたい40日くらいたってからかなぁ。実が大きな青梅くらいの大きさになったら、ひとつひとつ袋をかけるんです。桃の表面は傷つきやすいでしょ?強風や強い日差しから守らなくちゃいけないし、熟してくると甘い匂いがするから虫にも狙われるし。あとはね、この袋は遮光性になってるから今の時期に袋をかけることで実の緑色を抜くんです。その後に遮光の袋を取って日に当てると、鮮やかなピンクに色づくんですよ。

このくらいの大きさが袋がけの見安

自然にピンク色になるわけじゃないんですね!シーズンを通して何個くらい袋がけするんですか?

市川さん
1シーズンで4万個くらいかなぁ。品種によって袋がけしない桃もありますけど、春日居町産は袋掛けが義務づけられているんです。今使っている二重袋だと、色づけの段階になったら茶色い遮光性の袋を引っ張るだけで袋が外れるから、素早く作業ができて助かりますね。袋を取ったら木の下にマルチシートという太陽の光を反射させるシートを敷いて色づけします。茶色の袋の下にある白い袋はヘタの部分だけにかかる短いものなので、実の大部分が直接日に当っていい色になるんです。マルチシートは昔は銀紙のようなものでしたが、畑の温度がすごく上がっちゃってね…。最近はこの白いシートが主流なので、だいぶ暑さもマシになったかなぁ。

袋がけをする市川さん

桃って柔らかくて傷つきやすいけど、育て方も繊細なんですね。病気害虫対策が大変そう…。

市川さん
桃は本当に繊細な果物ですよ。しっかり防除しないとすぐに病気になるし、害虫から守るのもかなり大変かな。

最大の敵と言えば?

市川さん
それはもう、「カイガラムシ」!樹液を吸って木を枯らしてしまう虫で、成虫になると貝のような殻に覆われるから、その時になっていくら薬を使っても殻ではじかれちゃって効かないんです。だから幼虫で動き始めたタイミングを逃さずに一気にやらないと、後で痛い目を見ます。まさに短期決戦ですよ!

茶色い袋を取ると、こうなります。

害虫との闘い!短期決戦の秘策は…

どうやって退治するんですか?

市川さん
まずはSS(スピード・スプレイヤー)というタンクと噴霧ノズル、拡散させるファンなどが装備された農薬散布車で、殺菌剤と殺虫剤を一気に撒くんです。SSだと側道や畑の中を回りながら、1回につき500ℓを広範囲に素早く散布できますからね。今、農家は人手が少ないから、農機具や農薬に省力化の工夫がいろいろあって助かります。さっきの袋がけの二重袋も引っ張るだけだったでしょ?回数を減らすとか素早くできるようになることって、私たちにとっては重要なんです。ただSSだと木の陰とか木や枝が重なっている部分までは届かないので、そこは自分たちの手で散布します。

これが秘策の[SS]

繊細な果物だけに、たくさんの対策が必要なんでしょうね。

市川さん
私の場合はJAが配布する「防除暦」に準じて計画を立てています。日々、どんな農薬をどの程度使ったかという「防除日誌」もつけていますよ。

「防除暦」?

市川さん
そう、これこれ(防除暦を出してくれる)。作物ごとに使用する農薬や散布時期、薬剤の濃度などが詳しく書かれているカレンダーで、ほら、その時期にどんな害虫がどんな成長段階かまでわかるでしょ?これを確認しながら、その年の気候や日々の天候に合わせて調節する感じですかね。雨が多ければ菌が繁殖して「灰星病」というカビの一種にやられてしまうし、晴れれば虫が多くなるから、畑を回って病害虫の状況を判断します。こういう場面で経験が必要だなぁと感じますね。

JAが配布する「防除暦」。別ページには病害虫の説明も

これまで病害虫にやられた苦い経験はありますか?

市川さん
カイガラムシと並ぶ大敵の「ハモグリガ」に一度やられましたよ。葉にもぐって葉を食べてしまう害虫で、これも短期決戦ですね。ハモグリガが一斉に葉にもぐって卵を産み始めたときに農薬を撒かないと、その後のハモグリガの成長はバラバラですから薬の効果が薄くなってしまうんです。最初に徹底的に闘わないと取り返しのつかないことになっちゃう。

収穫直前の天候が桃の“格”を決める!?

市川さんならではのおいしい桃づくりポイントを教えてください。

市川さん
とにかくちゃんと日に当ててあげることかな。剪定時に枝が重ならないようにするとか、木と木の間を明るくするとか。日に当てることは基本ですからね。そうすれば糖度も上がる

まんべんなく日が当たるように整えられた木々

糖度ってそんなに変わるものですか?

市川さん
収穫時の天気で左右されますね。ずっと天気がよくても収穫前に雨が降る糖度が1度下がりますから。ひと雨で糖度が1度下がるけど、その1度を上げるには晴れの日が3~4日続かないと上がらないんです。だからと言って晴れる日を待っていると熟しすぎてしまうし…。収穫が一番難しい作業かもしれませんね。

思うようにならなくて憎らしくなったりしませんか?(笑)

市川さん
あはは(笑)それより自分を反省しますね。ああ、あの時がまずかったのかな、と振り返ったり、他の木と比べてみたり。野菜と違って果物の収穫は1年に1回だからチャレンジも年1回しかないので必死です。特に春日居町の桃は市場価格を決める「建値」になっているから、他の産地より基準が厳しいんです。皮に赤い斑点が3つあると一級品にはならないですから。そういう意味では日本の果物は芸術品ですよ。

桃をみつめる市川さん

全国の基準となる春日居町の桃、今年の出来はいかがでしょう?

市川さん
今年は花の咲く時期が遅かったけれど収穫の時期は例年通りだから、生育期間が短めなんです。実が成長する時期に雨も少なかったし、ちょっと小玉かなぁ。最終的に糖度が決まるのは収穫前の10日くらいの天候次第ですが、今回は晴れ続きだったので甘いですよ!必ずしも大きさとおいしさは比例しないのでね。春日居町の桃は生産量日本一の山梨の中でも特別な桃です。品種ごとに個性はあっても、いいものは老舗百貨店や高級フルーツ店の最高級ブランド桃として認められるほど。ジューシーさと甘さのクオリティはピカイチだと地元の人はみんな自負していますから、ぜひ楽しみにしていてください。

たくさん実った桃

食べるのがますます楽しみです!今日はありがとうございました。

かごに入った桃
学名:Prunus persica
バラ科
桃の収穫量は約13万9,800トン(平成23年産)。
おいしい時期は7月~9月、主な産地は山梨、福島、長野、岡山。
果汁たっぷりでとろけるような食感が魅力の日本の桃は、
世界でも高く評価されています。
なんと春日居町では、りんごの代わりにカレーに桃を入れる人もいるそうです。参考:農林水産省「農林水産統計」H24.1.31
高橋書店「野菜の便利帳」
市川さんの栽培スケジュール
市川さんの栽培スケジュール
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