旬素材の産地から

旬素材の産地から 枝豆王国の「孫」たち 荒木大輔(あらきだいすけ) さん 
                    農家の担い手が、「子」ではなく1世代飛ばして「孫」へ。そんな動きがあると聞いて、枝豆づくり日本一になったこともある千葉県野田市へ。JAちば東葛から紹介された荒木大輔さんは、2年半前、祖父から枝豆栽培を継いだ35歳。隔世農家を代表する、若手のリーダーです。
                    野田市は人口約15.6万人、都心から約30キロのベッドタウンです。利根川・江戸川・利根運河による3方を河川に囲まれ、明治時代までは水運の要所として栄えました。全国有数の醤油の産地で、国内シェアは約3割。農産物は、米、枝豆、ほうれんそう、キャベツなどが栽培されています。

期待の星が、現れた!

荒木さんと仲のいい、JAちば東葛の山岡さん

JA 山岡さん
はい。2年半前、野田に待望の若手が帰ってきました。

荒木大輔さん。JA全中のエリートだった!

JA 山岡さん
全国農業協同組合中央会(JA全中)で11年ほど働いて故郷に帰ってきました。今年35歳。おじいさんの畑を継いで、枝豆を中心にほうれんそうや春菊を作っています。

千葉県は、枝豆生産量日本一! ※2014年度農林水産省統計データより

JA 山岡さん
野田市は地域としても日本一になったこともあります。醤油メーカーの本社があることでも有名ですね。とはいえ全国のJAと同じで後継者問題が大きな悩みでした。そこに現れたのが荒木さん。若手を引っ張り、この町を再興するリーダーだと思っています。

山岡さん、惚れてますね(笑)

JA 山岡さん
僕が言っちゃいけないのですが、いろいろ勉強させてもらっています(笑)。この地区でがんばっている若手は、みんな荒木さんにお世話になっています。

若手が農業をする上で、一番の悩みは?

鮮やかに実った、野田の枝豆

JA 山岡さん
資金です。機械を買うにはお金がかかります。農作業は全部手作業とはいきませんからね。一度導入すれば2、3年で元は取れるのですが、初期投資ができません。

お金ですか!

JA 山岡さん
荒木さんは、JA全中時代にJAの経営指導や農政、営農企画も担当していて、資金面や労働力の対策に精通しています。補助金にも詳しくて、「もらえるものは、きちんともらって、上手くやっていこうぜ」、そんなノリでみんなを引っ張ってくれています。

なぜ、荒木さんは帰ってきたのかな?

JA 山岡さん
あ、それは・・・大輔さんに聞いてくださいよ(笑)

仕事に熱中するあまり、実家に帰るのが予定より2年遅れました。

ここが枝豆の集荷場ですね!

鮮度が生命線、出荷もスピーディ!

荒木さん
俺が集荷場に持ってきたのは18ケース。メンバーが6人と小さい出荷組合なのですが、ここで3番手ぐらい。まだまだベテランにかないません。5月上旬から7月末までこのペースで集荷が続きます。

東京へ30キロ圏、恵まれていますね。

トラックで1時間走れば首都圏

荒木さん
枝豆は鮮度が生命線ですから。ここなら都心へは、新鮮なまま届けられるし、配送料も安くすみます。土壌は関東ローム層で適度な水分が保持でき、肥料も長持ちします。好条件が揃っているから、やりやすいはずなんですけどね・・・。

あ!「だいすけーっ」て、呼んでますよ(笑)

荒木さん
いつもこんな感じです。ここに集まる農家さんは、ほとんど俺のじいさん、ばあさん世代の大先輩だけど、子供の頃から30年来の顔なじみです。

農家を継いだきっかけって、なんですか?

話し込むとビジネスマンの顔が覗く

荒木さん
本当は、大学を出たら就農したかったんです。俺が中学の頃、農業を続けられなくなった、じいさんやばあさんが大勢いました。この地区の農業が高齢化でダメになるのを見ていられませんでした。他にやりそうな人もいなかったので、じゃあ俺がやらなくちゃ、と家族に「農業をやる」と宣言すると、猛反対されたんです。

え? お母さんと、おばあさんが猛反対!

荒木さん
両親は教師です。親の世代は、じいさんばあさんの代がみんな農業をしていて、土地が余っておらず、規模拡大もできないので、親子で農業をするとその分の人件費を賄えず、みんなサラリーマンになりました。だから俺が大学を出て百姓をやると言ったら、母さん、ばあさんが目の色を変えた。仕方なく、農業関連の職に就こうと就活して、JA全中に入ったんです。

約11年間、どんな経験を?

集荷場に集まるのは、昔からの顔なじみ

荒木さん
最初は畜産関係の農政担当や畜産経営の資格の事務局を。そのあと、JAの販売戦略・6次産業化促進の担当、不振JAの経営改善等にも取り組ませていただきました。自分から動いて、いろいろとやりましたね。

え?いま辞めたら、裏切り者に・・・。

荒木さん
実は、30才でJA全中を辞めて就農しようと考えていました。体が動かなくなりますからね。ところがその頃、農協改革でいろいろと大変なことになって・・・。ここで抜けたら裏切り者になると逡巡しました。それで2年ほど遅刻しました(笑)

肝心のところって、マニュアルでは無理。めちゃくちゃ微妙です。

ここが荒木農園の枝豆畑ですね!

農業がおもしろくて仕方ない

荒木さん
枝豆を約1ヘクタールやっています。秋から冬にかけては、ほうれんそうを栽培します。他にも春菊を10アールほどやります。この畑がある一角の2ヘクタールは、5年前までは耕作放棄地でしたが、今は近所の若手農家が全部耕作しています。今、土地はいくらでも貸してもらえるんです。

そうか、規模を広げられる!

荒木さん
ええ。そこが父の時代とは違います。単純な話、この地区の10アールあたりの年間売上は60〜100万円です。今は面積が広げられますから、効率を上げれば、利益を増やすことが可能です。

耕作放棄地に、目を付けたわけですね!

収穫がすすむ枝豆畑

荒木さん
その通りです。日本中どこでも同じ現象が起きていると思いますよ。しかも俺の場合は、じいさんが使っていた機械が一通り揃っていました。子供の頃から手伝いをしていたおかげで、畑仕事のイロハのイくらいは身についています。

「じいさん」→「孫」って、新しいトレンド!

荒木さん
この地区で俺と同世代の農家は、親の代を飛ばして、孫が就農していることが多いですね。福田地区のJA青年部は8軒、11名いますが、親が農家なのは2軒、他地区からの新規就農が1軒。残りの5軒は、親を飛ばして「じいさん世代」→「孫」という隔世農家です。

85才と35才って、すごいチーム!

荒木さん
じいさんは85才でヨボヨボですが(笑)、すごいことを教えてくれます。たとえば、この風が吹いたらトンネルのビニールをどのくらいの間隔で閉めなきゃいけない、とか。長年の経験による細かい情報ですね。トンネル被覆の開閉だけでも、日時、場所、天候によって開閉間隔が変わってきます。その微妙な変化に対応しないといけない。農業って、大枠のところはマニュアル化できますが、ほんとうの肝のところはマニュアルにできません。めちゃくちゃ微妙なんです。

だから野田の枝豆はプレミアム感がある。

荒木さん
野田の枝豆は、枝をつけて出荷することで、甘みの劣化を最小限にとどめています。切った後でも枝から養分を吸い続けているわけですね。これには学術的データの裏付けもあり、大きな武器になっています。でも、これは機械ではできません。面倒な手作業のたまものです。将来的には、この強みをキープしながら、もっと効率的にやっていける方法を考えたいですね。

枝豆づくりのスケジュールを教えて。

1年の約半分を枝豆づくりにあてる

荒木さん
1月末には苗床を作り、2月の節分に種まきをスタートし5日おきに15回播種し、育苗します。マルチを張り、トンネルを設置して、4月の下旬まで定植。被覆資材は段階的に外していきます。直播を含めるとゴールデンウィークまでかかりますね。5月上旬から収穫と出荷で、これが7月末まで続くスケジュールです。8月は土壌消毒、堆肥投入にあてます。

1年目は、大変だったとか。

農薬をどう使うかは知的な作業、と荒木さん

荒木さん
想定外だったのは草です。雑草のなかに枝豆がちょっと顔を出している状態になって、まるでジャングルクルーズ(笑)。耕作放棄地で何も対策をしないで作物を作り始めると、ものすごい勢いで雑草が生えることを知りました。

農薬がお役に立てたそうですね!

荒木さん
はい。選択性の高い除草剤のおかげで難を逃れることができました。とはいえ当時、マルチの穴のなかに生えてくる雑草をやっつける除草剤となると情報が見つからなくて。とりあえずこれか・・・とJAさん、農業事務所と相談して、イネ科に効く選択性のある除草剤でチャレンジしたんです。それがよく効いて、なんとか収まってくれました。この情報はすぐにみんなにシェアしました。

病害虫対策は?

荒木さん
定植前、施肥と同時にアブラムシ用とセンチュウ用の殺虫剤を土壌混和します。定植と同じ時期、2月20日頃から5月10日頃まで使用します。花芽がつく5月20日頃から7月10日頃にかけて、カメムシ防除用の殺虫剤を散布。その他にも害虫発生状況により数種を使いわけています。病害対策は特にしていません。

就農2年半、過大評価して50点です(笑)。
                    じっくり構えて、地元の農業に貢献したいです。

今年の出来栄えは?

農家の「手」になってきた、と荒木さん

荒木さん
今年はあまりよくなかったですね。生産量は初年度に比べて半分くらい。寒さと乾燥のせいです。とは言っても、しっかり出荷しているところもありますから(苦笑)。ここまでの2年半を採点すると過大評価して50点ですね。

枝豆を手がけて感じたことは?

荒木さん
枝豆をやろうと思ったのは、値段がある程度想定の範囲内できっちりと推移するから。経営的に読みやすいと思いました。もちろん地元には昔からのノウハウがあるし、それに乗っかろうという戦略です。ところが、やってみると想像以上で、いろんなことがまだ全然コントロールできていません。

若者が農業を始めやすくなる、いい方法はありますか?

青空の向こうの、将来を見据える

荒木さん
具体的な経営に関する数字を示してあげることですね。数字のシミュレーションをして、こうすればこんな生活ができる、と具体的に見せてあげること。そうしないと、しんどい、休みがない、お金がかかるで、やっぱりサラリーマンがいいとなってしまいます。基盤がなくても農業ができる仕組みを作ることが大事です。あ、すいません。まだ枝豆を2回しか作ったことがないのに、大きなことを言いました(笑)

農業の継承って大事ですね。

荒木さん
もう一度、人がいて、きれいな畑がある環境を作りたいですね。それが将来もずっと続いていけばいいじゃないですか。そのためには自分だけでは限界があるので、将来的には法人化して、持続性のある組織を作らなくてはなりません。人を雇う体力をつける、規模を拡大する仕組みを作る、コストダウンの知恵をつける。この3つの課題をクリアすれば、きっと地域に貢献できる農業に近づけると思います。

地元の若手の皆さんと一緒に。

荒木さん
そうありたいですが、今はまだJA青年部11名で課題共有をして、勉強会を開き、みんなが勉強を始めた段階です。なので、例えばどの補助事業を使うかというよりも、申請のためのパソコンの使い方教室から始めないと、って感じですね(笑)。まだまだよちよち歩きです。

農業の6次化については、どう思います?

枝豆で作ったおいしいジェラート

荒木さん
JA全中時代、全国に説明して回りましたけど、6次化って特別なものじゃなくて、販売戦略の一部というのが大前提。ただし、個人の農家単独ではおすすめできません。農業とは全く別のノウハウが必要になるし、農業生産と両立させるのはなかなか大変なので、誰かとコラボしないとダメです。農家カフェをやりたいなら、お店を自分で回すのではなくオーナーになる方がいいですし、加工食品を作りたいなら、既存の工場に委託すればいいし、どうしても自分で設備を持ちたければ、工場をまるまる買っちゃえばいい。そのためには資金も必要だし、とんでもない固定資産や人員を抱えることになりますから、個人でやるには相当な覚悟が必要です。

枝豆づくりの、次のステップは?

荒木さん
来年はハウスを増設して、借金生活に入ります(笑)。高単価のところを狙わないと、やっていけませんから。播種時期をひと月早めて、定植も早くして、4月中旬から出荷します。人員が足りていないので、面積拡大よりも収穫期を早めて単価アップを狙う作戦です。じいさんのやり方とは違う、自分のスタイルで挑戦してみようと考えています。

日本の農業の将来は、どうあればいいですか?

鮮度を保つため枝つきで出荷

荒木さん
うわっ、すごい高いところから球が飛んできましたね(笑)。

す、すいません(笑)

荒木さん
農業の現場は、高齢化が進んでいます。年を取れば、いままで通りにはいきません。農業を途絶えさせず、つなぐことが重要だと思います。幸いにも俺たちの世代は、農業を広げられる土地があります。一世代飛ばしたとはいえ、途絶えてはいません。

耕作放棄地が、若者のフロンティア!

荒木さん
若い力を束ねて、恵まれたこの土地を生かし、じいさんばあさんの時代の頃の活気をとり戻したい。きっと、うまく入れ替わってあげられると思うんです。そのためには、それぞれ面積も広げないといけない、それに伴ってどのような品目を作るか、スタッフにはこの地区に定着してほしいから給料も、社会保険も・・・。自分がじいさんになったときでも継続性を持たせるには法人経営体にしたほうがいいだろう・・・いろいろと考えないといけないです。

うまく入れ替わるって、ステキな表現ですね!

日本の農業は、隔世遺伝している

荒木さん
ありがとうございます。実は、今年から白ネギも始めたんです。価格帯で見ると、えだまめの平均単価が1グラム1円。秋から冬にかけて作る、ほうれんそうは250g70円、つまり、1グラム0.3円です。ここを白ネギに代えることで全体の収益を改善していきます。

何年かしたら、また会いたいです。

荒木さん
じっくり腰を据えて、農業を続けていきます。成功するには、個人では限界がありますから、みんなと力を合わせて、地元の農業をもう一度育てていきます。
  • JAちば東葛の枝豆 JAちば東葛は、千葉県北西部(野田市全域、柏市・船橋市の一部)を管内とし、平成22年1月に、JAちば県北、JA柏市、JA西船橋が合併して誕生しました。また平成29年4月1日には柏市の一部、我孫子市を管内とするJA東葛ふたばと合併しました。JAちば東葛管内で枝豆生産が盛んな野田市は、大消費地が近いアドバンテージを生かして新鮮な枝豆を出荷することで日本でも有数の産地になっています。

  • JAちば東葛の枝豆

枝豆 栽培スケジュール

枝豆王国の「孫」たち

荒木大輔(あらきだいすけ)さん

荒木大輔(あらきだいすけ)さん

農家の担い手が、「子」ではなく1世代飛ばして「孫」へ。そんな動きがあると聞いて、枝豆づくり日本一になったこともある千葉県野田市へ。JAちば東葛から紹介された荒木大輔さんは、2年半前、祖父から枝豆栽培を継いだ35歳。隔世農家を代表する、若手のリーダーです。

野田市

野田市

野田市は人口約15.6万人、都心から約30キロのベッドタウンです。利根川・江戸川・利根運河による3方を河川に囲まれ、明治時代までは水運の要所として栄えました。全国有数の醤油の産地で、国内シェアは約3割。農産物は、米、枝豆、ほうれんそう、キャベツなどが栽培されています。

期待の星が、現れた!

JA 山岡さん
はい。2年半前、野田に待望の若手が帰ってきました。

荒木さんと仲のいい、JAちば東葛の山岡さん

荒木大輔さん。JA全中のエリートだった!

JA 山岡さん
全国農業協同組合中央会(JA全中)で11年ほど働いて故郷に帰ってきました。今年35歳。おじいさんの畑を継いで、枝豆を中心にほうれんそうや春菊を作っています。

千葉県は、枝豆生産量日本一
※2014年度農林水産省統計データより

JA 山岡さん
野田市は地域としても日本一になったこともあります。醤油メーカーの本社があることでも有名ですね。とはいえ全国のJAと同じで後継者問題が大きな悩みでした。そこに現れたのが荒木さん。若手を引っ張り、この町を再興するリーダーだと思っています。

山岡さん、惚れてますね(笑)

JA 山岡さん
僕が言っちゃいけないのですが、いろいろ勉強させてもらっています(笑)。この地区でがんばっている若手は、みんな荒木さんにお世話になっています。

若手が農業をする上で、一番の悩みは?

JA 山岡さん
資金です。機械を買うにはお金がかかります。農作業は全部手作業とはいきませんからね。一度導入すれば2、3年で元は取れるのですが、初期投資ができません。

鮮やかに実った、野田の枝豆

お金ですか!

JA 山岡さん
荒木さんは、JA全中時代にJAの経営指導や農政、営農企画も担当していて、資金面や労働力の対策に精通しています。補助金にも詳しくて、「もらえるものは、きちんともらって、上手くやっていこうぜ」、そんなノリでみんなを引っ張ってくれています。

なぜ、荒木さんは帰ってきたのかな?

JA 山岡さん
あ、それは・・・大輔さんに聞いてくださいよ(笑)

仕事に熱中するあまり、
実家に帰るのが
予定より2年遅れました。

ここが枝豆の集荷場ですね!

荒木さん
俺が集荷場に持ってきたのは18ケース。メンバーが6人と小さい出荷組合なのですが、ここで3番手ぐらい。まだまだベテランにかないません。5月上旬から7月末までこのペースで集荷が続きます。

鮮度が生命線、出荷もスピーディ!

東京へ30キロ圏、恵まれていますね。

荒木さん
枝豆は鮮度が生命線ですから。ここなら都心へは、新鮮なまま届けられるし、配送料も安くすみます。土壌は関東ローム層で適度な水分が保持でき、肥料も長持ちします。好条件が揃っているから、やりやすいはずなんですけどね・・・。

トラックで1時間走れば首都圏

あ!「だいすけーっ」て、呼んでますよ(笑)

荒木さん
いつもこんな感じです。ここに集まる農家さんは、ほとんど俺のじいさん、ばあさん世代の大先輩だけど、子供の頃から30年来の顔なじみです。

農家を継いだきっかけって、なんですか?

荒木さん
本当は、大学を出たら就農したかったんです。俺が中学の頃、農業を続けられなくなった、じいさんやばあさんが大勢いました。この地区の農業が高齢化でダメになるのを見ていられませんでした。他にやりそうな人もいなかったので、じゃあ俺がやらなくちゃ、と家族に「農業をやる」と宣言すると、猛反対されたんです。

話し込むとビジネスマンの顔が覗く

え?お母さんと、おばあさんが猛反対!

荒木さん
両親は教師です。親の世代は、じいさんばあさんの代がみんな農業をしていて、土地が余っておらず、規模拡大もできないので、親子で農業をするとその分の人件費を賄えず、みんなサラリーマンになりました。だから俺が大学を出て百姓をやると言ったら、母さん、ばあさんが目の色を変えた。仕方なく、農業関連の職に就こうと就活して、JA全中に入ったんです。

約11年間、どんな経験を?

荒木さん
最初は畜産関係の農政担当や畜産経営の資格の事務局を。そのあと、JAの販売戦略・6次産業化促進の担当、不振JAの経営改善等にも取り組ませていただきました。自分から動いて、いろいろとやりましたね。

集荷場に集まるのは、昔からの顔なじみ

え?いま辞めたら、裏切り者に・・・。

荒木さん
実は、30才でJA全中を辞めて就農しようと考えていました。体が動かなくなりますからね。ところがその頃、農協改革でいろいろと大変なことになって・・・。ここで抜けたら裏切り者になると逡巡しました。それで2年ほど遅刻しました(笑)

肝心のところって、マニュアルでは無理。めちゃくちゃ微妙です。

ここが荒木農園の枝豆畑ですね!

荒木さん
枝豆を約1ヘクタールやっています。秋から冬にかけては、ほうれんそうを栽培します。他にも春菊を10アールほどやります。この畑がある一角の2ヘクタールは、5年前までは耕作放棄地でしたが、今は近所の若手農家が全部耕作しています。今、土地はいくらでも貸してもらえるんです。

農業がおもしろくて仕方ない

そうか、規模を広げられる!

荒木さん
ええ。そこが父の時代とは違います。単純な話、この地区の10アールあたりの年間売上は60〜100万円です。今は面積が広げられますから、効率を上げれば、利益を増やすことが可能です。

耕作放棄地に、目を付けたわけですね!

荒木さん
その通りです。日本中どこでも同じ現象が起きていると思いますよ。しかも俺の場合は、じいさんが使っていた機械が一通り揃っていました。子供の頃から手伝いをしていたおかげで、畑仕事のイロハのイくらいは身についています。

収穫がすすむ枝豆畑

「じいさん」→「孫」って、新しいトレンド!

荒木さん
この地区で俺と同世代の農家は、親の代を飛ばして、孫が就農していることが多いですね。福田地区のJA青年部は8軒、11名いますが、親が農家なのは2軒、他地区からの新規就農が1軒。残りの5軒は、親を飛ばして「じいさん世代」→「孫」という隔世農家です。

85才と35才って、すごいチーム!

荒木さん
じいさんは85才でヨボヨボですが(笑)、すごいことを教えてくれます。たとえば、この風が吹いたらトンネルのビニールをどのくらいの間隔で閉めなきゃいけない、とか。長年の経験による細かい情報ですね。トンネル被覆の開閉だけでも、日時、場所、天候によって開閉間隔が変わってきます。その微妙な変化に対応しないといけない。農業って、大枠のところはマニュアル化できますが、ほんとうの肝のところはマニュアルにできません。めちゃくちゃ微妙なんです。

だから野田の枝豆はプレミアム感がある。

荒木さん
野田の枝豆は、枝をつけて出荷することで、甘みの劣化を最小限にとどめています。切った後でも枝から養分を吸い続けているわけですね。これには学術的データの裏付けもあり、大きな武器になっています。でも、これは機械ではできません。面倒な手作業のたまものです。将来的には、この強みをキープしながら、もっと効率的にやっていける方法を考えたいですね。

枝豆づくりのスケジュールを教えて。

荒木さん
1月末には苗床を作り、2月の節分に種まきをスタートし5日おきに15回播種し、育苗します。マルチを張り、トンネルを設置して、4月の下旬まで定植。被覆資材は段階的に外していきます。直播を含めるとゴールデンウィークまでかかりますね。5月上旬から収穫と出荷で、これが7月末まで続くスケジュールです。8月は土壌消毒、堆肥投入にあてます。

1年の約半分を枝豆づくりにあてる

1年目は、大変だったとか。

荒木さん
想定外だったのは草です。雑草のなかに枝豆がちょっと顔を出している状態になって、まるでジャングルクルーズ(笑)。耕作放棄地で何も対策をしないで作物を作り始めると、ものすごい勢いで雑草が生えることを知りました。

農薬をどう使うかは知的な作業、と荒木さん

農薬がお役に立てたそうですね!

荒木さん
はい。選択性の高い除草剤のおかげで難を逃れることができました。とはいえ当時、マルチの穴のなかに生えてくる雑草をやっつける除草剤となると情報が見つからなくて。とりあえずこれか・・・とJAさん、農業事務所と相談して、イネ科に効く選択性のある除草剤でチャレンジしたんです。それがよく効いて、なんとか収まってくれました。この情報はすぐにみんなにシェアしました。

病害虫対策は?

荒木さん
定植前、施肥と同時にアブラムシ用とセンチュウ用の殺虫剤を土壌混和します。定植と同じ時期、2月20日頃から5月10日頃まで使用します。花芽がつく5月20日頃から7月10日頃にかけて、カメムシ防除用の殺虫剤を散布。その他にも害虫発生状況により数種を使いわけています。病害対策は特にしていません。

就農2年半、
過大評価して50点です(笑)。
じっくり構えて、
地元の農業に貢献したいです。

今年の出来栄えは?

荒木さん
今年はあまりよくなかったですね。生産量は初年度に比べて半分くらい。寒さと乾燥のせいです。とは言っても、しっかり出荷しているところもありますから(苦笑)。ここまでの2年半を採点すると過大評価して50点ですね。

農家の「手」になってきた、と荒木さん

枝豆を手がけて感じたことは?

荒木さん
枝豆をやろうと思ったのは、値段がある程度想定の範囲内できっちりと推移するから。経営的に読みやすいと思いました。もちろん地元には昔からのノウハウがあるし、それに乗っかろうという戦略です。ところが、やってみると想像以上で、いろんなことがまだ全然コントロールできていません。

若者が農業を始めやすくなる、いい方法はありますか?

荒木さん
具体的な経営に関する数字を示してあげることですね。数字のシミュレーションをして、こうすればこんな生活ができる、と具体的に見せてあげること。そうしないと、しんどい、休みがない、お金がかかるで、やっぱりサラリーマンがいいとなってしまいます。基盤がなくても農業ができる仕組みを作ることが大事です。あ、すいません。まだ枝豆を2回しか作ったことがないのに、大きなことを言いました(笑)

青空の向こうの、将来を見据える

農業の継承って大事ですね。

荒木さん
もう一度、人がいて、きれいな畑がある環境を作りたいですね。それが将来もずっと続いていけばいいじゃないですか。そのためには自分だけでは限界があるので、将来的には法人化して、持続性のある組織を作らなくてはなりません。人を雇う体力をつける、規模を拡大する仕組みを作る、コストダウンの知恵をつける。この3つの課題をクリアすれば、きっと地域に貢献できる農業に近づけると思います。

地元の若手の皆さんと一緒に。

荒木さん
そうありたいですが、今はまだJA青年部11名で課題共有をして、勉強会を開き、みんなが勉強を始めた段階です。なので、例えばどの補助事業を使うかというよりも、申請のためのパソコンの使い方教室から始めないと、って感じですね(笑)。まだまだよちよち歩きです。

農業の6次化については、どう思います?

荒木さん
JA全中時代、全国に説明して回りましたけど、6次化って特別なものじゃなくて、販売戦略の一部というのが大前提。ただし、個人の農家単独ではおすすめできません。農業とは全く別のノウハウが必要になるし、農業生産と両立させるのはなかなか大変なので、誰かとコラボしないとダメです。農家カフェをやりたいなら、お店を自分で回すのではなくオーナーになる方がいいですし、加工食品を作りたいなら、既存の工場に委託すればいいし、どうしても自分で設備を持ちたければ、工場をまるまる買っちゃえばいい。そのためには資金も必要だし、とんでもない固定資産や人員を抱えることになりますから、個人でやるには相当な覚悟が必要です。

枝豆で作ったおいしいジェラート

枝豆づくりの、次のステップは?

荒木さん
来年はハウスを増設して、借金生活に入ります(笑)。高単価のところを狙わないと、やっていけませんから。播種時期をひと月早めて、定植も早くして、4月中旬から出荷します。人員が足りていないので、面積拡大よりも収穫期を早めて単価アップを狙う作戦です。じいさんのやり方とは違う、自分のスタイルで挑戦してみようと考えています。

日本の農業の将来は、どうあればいいですか?

荒木さん
うわっ、すごい高いところから球が飛んできましたね(笑)。

鮮度を保つため枝つきで出荷

す、すいません(笑)

荒木さん
農業の現場は、高齢化が進んでいます。年を取れば、いままで通りにはいきません。農業を途絶えさせず、つなぐことが重要だと思います。幸いにも俺たちの世代は、農業を広げられる土地があります。一世代飛ばしたとはいえ、途絶えてはいません。

耕作放棄地が、若者のフロンティア!

荒木さん
若い力を束ねて、恵まれたこの土地を生かし、じいさんばあさんの時代の頃の活気をとり戻したい。きっと、うまく入れ替わってあげられると思うんです。そのためには、それぞれ面積も広げないといけない、それに伴ってどのような品目を作るか、スタッフにはこの地区に定着してほしいから給料も、社会保険も・・・。自分がじいさんになったときでも継続性を持たせるには法人経営体にしたほうがいいだろう・・・いろいろと考えないといけないです。

うまく入れ替わるって、ステキな表現ですね!

荒木さん
ありがとうございます。実は、今年から白ネギも始めたんです。価格帯で見ると、えだまめの平均単価が1グラム1円。秋から冬にかけて作る、ほうれんそうは250g70円、つまり、1グラム0.3円です。ここを白ネギに代えることで全体の収益を改善していきます。

日本の農業は、隔世遺伝している

何年かしたら、また会いたいです。

荒木さん
じっくり腰を据えて、農業を続けていきます。成功するには、個人では限界がありますから、みんなと力を合わせて、地元の農業をもう一度育てていきます。

JAちば東葛の枝豆

JAちば東葛の枝豆
JAちば東葛は、千葉県北西部(野田市全域、柏市・船橋市の一部)を管内とし、平成22年1月に、JAちば県北、JA柏市、JA西船橋が合併して誕生しました。また平成29年4月1日には柏市の一部、我孫子市を管内とするJA東葛ふたばと合併しました。JAちば東葛管内で枝豆生産が盛んな野田市は、大消費地が近いアドバンテージを生かして新鮮な枝豆を出荷することで日本でも有数の産地になっています。
枝豆 栽培スケジュール
枝豆 栽培スケジュール
旬素材の産地からの一覧