教職員向け

教育関係者セミナーレポート
「食と未来の教え方」

家庭科教職員対象セミナー 食育を科学的に考える(京都)

講座プログラム

開催日時

:2021年10月2日(土)13:30~15:50

第1部

:「骨太人生を目指そう」

第2部

:「ほんとうの食の安全を考える」

参加者

:51名

今回の講師は、この方たち

  • 上西 一弘 先生

    【パネリスト】
    女子栄養大学
    栄養生理学研究室教授
    栄養学博士
    上西 一弘 先生

  • 畝山 智香子 先生

    【パネリスト】
    国立医薬品食品衛生
    研究所安全情報部長
    薬学博士
    畝山 智香子 先生

  • 住友不動産九段ビル ベルサール九段

    【会場】
    住友不動産九段ビル
    ベルサール九段

【司会】 茂野 えり子さん フリーアナウンサー、栄養士

講師の先生方を迎えて「食育」をテーマに解説していただく教育関係者向けのセミナー「食育を科学的に考える」。今回は新型コロナウイルス感染症予防のため、初めてオンラインでのライブ配信により開催しました。
登壇したのは女子栄養大学栄養生理学研究室教授の上西一弘先生と、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長の畝山智香子先生。第1部は「骨太人生を目指そう」として骨とカルシウムの役割などについて、第2部の「ほんとうの食の安全を考える」では食品の安全に関する考え方について解説していただきました。
会場で教育関係者の方々を前に解説する場合とは異なる、オンライン配信という環境で行われた今回の教育関係者向けセミナー。質疑応答の質問をチャットで受け付けるなど新たな試みも行われ、先生お二人の多彩な経験によるお話、そして参加者の方々から寄せられた貴重な意見や質問に、食育の今とこれからが示唆されていました。

会場の様子
  • 第1部
  • 第2部
  • 質疑
    応答
  • 参加者
    の感想

第1部:「骨太人生を目指そう」

(講師:上西 一弘 先生)

徳島大学大学院栄養学研究科修士課程修了。雪印乳業生物科学研究所を経て女子栄養大学に勤務し、2006年4月より現職。栄養生理学、骨の健康と栄養、身体測定とライフスタイルをあわせた栄養評価、スポーツ選手の栄養アセスメントとそれに基づく栄養サポートなどが専門で、日本栄養改善学会理事を務める上西先生に、骨とカルシウムの役割、骨の鍛え方などについて解説していただきました。

すべてのライフステージで骨は重要です

骨に豊と書く漢字「體」は「からだ」と読みます。私たちの体は本来、骨が豊かである。その骨が豊かではない状態が「骨粗鬆症」です。骨が大事なのは高齢者だけではありません。子供たちから高齢者まですべての世代で重要です。色々なライフステージで「骨太人生」を目指すことを考えてください。
大根などを切ったときに穴が開いている状態を「大根に鬆(す)が入る」といいます。その「鬆」と「骨粗鬆症」の「鬆」は同じ漢字。骨粗鬆症は骨が粗くなって鬆が入ったような状態で、世界的に決められた定義としては「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」となります。例えば脊椎が骨粗鬆症になってしまうと、体重がかかったときに圧迫骨折が起きます。「いつの間にか骨折」とも言われ、それが進むと身長が低下。身長が低下するのは老化現象ではなく、脊椎の圧迫骨折により起きます。最も背が高かったときよりも3cm以上低くなった場合は、どこかの脊椎が潰れている可能性があります。さらにそのまま放置してしまうと骨折の連鎖により、大腿骨頸部骨折が起きることも。大腿骨頸部骨折が起きると立ち上がることができなくなり、歩くこともできなくなってしまいます。非常に危険な骨折です。私たちの体の中には、成人男性なら約1kg、成人女性なら約700gのカルシウムが存在します。そのほとんどは骨にあり、骨自体を作ることはもちろんですが、筋収縮の調節、神経細胞機能の調節、分泌の調節、細胞増殖の調節、転写調節など、体のさまざまな機能を調節する重要な役割を担っています。スイッチのオンオフと表現するとわかりやすいでしょう。例えば筋肉を収縮するときはカルシウムがスイッチをオンにして、筋肉を弛緩するときはカルシウムがスイッチをオフにする。常にスイッチのオンオフが必要なので、カルシウムがないと私たちは生きていけません。さらに骨には骨髄を作る造血の役割と、カルシウムの貯蔵庫という重要な役割もあります。
骨密度を上げられるのは男女ともに20歳くらいまでなので、成長期にカルシウムを貯蔵庫に貯めておくことがとても重要です。バランスの良い食事を摂って全身の栄養状態を良くし、骨の材料となるカルシウムやビタミンDを十分に摂取。そして運動をして骨に刺激を与えることも大切です。これは成長期だけでなく、すべてのライフステージに言えます。カルシウムを多く含む食品は、牛乳・乳製品、骨まで食べることのできる小魚、緑黄色野菜、大豆・大豆製品など多くあります。特に牛乳は調理の必要がなく、カルシウムの吸収率も高いのでおすすめです。
成長期はよく食べて、よく遊び、よく寝て骨を鍛えてください。成人期はバランスの良い食事と1日800mgを目標とした積極的なカルシウム摂取、そして運動をすることも心がけましょう。女性は妊娠・授乳期はカルシウムを増やすチャンスです。高齢者は骨折を回避するために、骨と筋肉が減ることによる体重減少を抑え、運動神経を維持し、転倒を予防することが重要です。カルシウムと合わせてビタミンDを摂取することで、カルシウムの吸収促進、骨代謝回転促進、筋力の維持、転倒予防の効果が期待できます。骨質を改善してくれるビタミンKが含まれている納豆を、食生活に取り入れることもおすすめです。

会場の様子(第1部)

第2部:「ほんとうの食の安全を考える」

(講師:畝山 智香子 先生)

東北大学大学院薬学研究科博士前期課程修了。2003年より国立医薬品食品衛生研究所安全情報部に勤務し、2010年4月より安全情報部第三室長、2016年8月より現職。「食品安全情報blog」では世界各地からの食品や健康に関する情報を発信している畝山智香子先生に、食品の安全に関する考え方についてお話していただきました。

食品の安全はリスクによって判断されます

食品に定義はありません。今まで私たち人間が栄養やエネルギー源として食べてきたもので、食べてもすぐに明確に有害影響がない「未知の化学物質のかたまり」が食品と言えます。そのため長期の安全性については基本的に確認されていません。平均寿命の延伸などの影響により、昔から食べられてきたものだから安全とは必ずしも言えません。高齢化とともに人工透析や臓器移植などの基礎疾患を抱えた人に対するリスクとして、スギヒラタケやスターフルーツなどに危険性があることがわかったのも最近のことです。食品のわかっていることを基本にしてわからないことに対処する。それが食品の安全性に関する考え方です。
「リスク」と「ハザード」は同じではありません。ハザードは危険性や有害性のことで、どれだけ摂取するかを表す「暴露量」によってリスクは変わります。ハザードが大きくても暴露量が少なければリスクは小さく、ハザードが小さくても暴露量が多ければリスクは大きくなります。そのためハザード情報だけではリスクはわかりません。世の中に出回っている情報はハザードだけであることがほとんどです。リスクは「ある」か「ないか」ではなく、「どのくらいの大きさなのか」や「どちらが大きいか」で考える必要があります。食品の安全は「意図された用途で、作ったり、食べたりした場合にその食品が消費者へ害を与えないという保証」と定義されています。これはリスクがゼロという意味ではなくリスクが許容できる程度に低い状態のことで、「許容できる程度」は時代や国によって変化します。
食品には大きくわけて2つのものが含まれています。1つは「意図的に使われるもの」で、食品添加物や残留農薬・動物用医薬品など。「1日許容摂取量」が設定されていて、実際の暴露量はその基準値よりも低くなっています。基準があることで違反が見つかり、安全性に問題がない場合でも廃棄されます。さらに世界中の食品安全機関による許認可制で使用可能となっているので、実質的にゼロリスクを目指して管理されています。もう1つは「非意図的に含まれてしまうもの」で、天然の食品成分や病原性微生物、環境中汚染物質など。これらは意図的に使われるものとは異なり管理が難しいので、現実的な目標を設定して管理しています。ジャガイモに含まれるソラニンやチャコニンには強い毒性がありますが、仮に農薬と同じ安全基準で計算すると市販されているジャガイモはすべて回収されるレベルとなります。
さらにリスクの高い食品として健康食品があります。「1粒で○○数百個分の有効成分を含む」などと宣伝されている健康食品を長期間大量摂取することで暴露量が多くなり、死につながることもあります。普通の食品でも普通ではない摂取の仕方は危険です。健康食品は世界中で健康被害を出していますが、あまり一般の方に認知されていないことは危惧されます。
世界中の食品安全機関が薦めているのは「多様な食品からなる、バランスのとれた食生活」です。すべての食品にはなんらかのリスクがあるため、特定の食品(種類や産地、栽培法など)に偏らないことがリスクの分散につながります。正しい情報を知りたい場合は、まず公的機関の情報を探しましょう。

会場の様子(第2部)

こんな質問がありました。

Qコロナ禍の影響なのか軽度の負荷でも大きな負傷を負う事例が多くなりました。栄養面や食事面などで、具体的な改善方法があれば教えてください。

A

質疑応答の様子

高齢者の方はステイホームの影響により運動量が減ったことで、突然動いたときに骨折する方が多くなったと言われています。子供たちの場合も運動量は減っているのかもしれませんが、そこまで心配する必要はないと私は思います。食べることだけで減ってしまった運動量をカバーできるということはないですし、コロナ禍だから食べるものが変わるということもないと思います。普段どおりバランスの取れた食事をしっかり摂ってもらえればいいと思います。
(上西先生)

Q震災ガレキを埋めた場所からセシウムが検出されたというデータを見ました。食品汚染検査は現在も行われているのでしょうか?

A

まず食品の放射線物質に関する検査は、現在も国内だけでなく海外でも行われています。問題のある数値はほぼ検出されておらず、検出されたものもキノコや野生イノシシなどで、普段流通している食品に心配するような数値は出ていません。そして震災ガレキは宮城県などでの津波による被害によって出たガレキで、全国各地の協力していただける自治体で焼却していただきました。焼却後に放射線物質が検出されていないことはそれぞれの自治体で公表しているので、ホームページなどで確認していただければと思います。
(畝山先生)

Q睡眠の質や時間と骨は、科学的に関係あるのでしょうか?

A

夜寝ているときに成長ホルモンは分泌され、いかに成長ホルモンをコンスタントに出させるかが身長の伸びにつながります。特に大切なのは睡眠時間の長さよりも規則正しく寝るとことで、次の日は学校がお休みでも同じ時間に寝ることが重要です。試験前日などでも寝る時間は同じにして、早く起きて勉強をする。決まった時間に寝て成長ホルモンをきちんと分泌しましょう。
(上西先生)

Q毎日の買い物での食材選びで、気をつけることがあれば教えてください。

A

質疑応答の様子

日本のスーパーは世界中の安全な食品を陳列してくれているので、食材選びで特に気をつけることはありません。自分が今日食べたいものやお店のオススメのものを買うだけでさまざまな食品を食べることになるので、それだけでもバランスの取れた食生活ができると思います。とてもありがたい存在ですね。お惣菜なども上手に利用すればいいと思います。
(畝山先生)

参加者の感想

食品のリスク回避のために様々な食品をバランスよく食べるという視点、子どものカルシウム摂取についての理解が深まりました。
(中学校)

バランスよく食べる、偏りのない食生活を、という言葉の意味が、より深く考えられるようになりました。
(小学校)

食べ物は未知の化学物質であるということ、経験で危険でないとみなしているだけであるという話が印象的でした。
(小学校)

牛乳は効率よくカルシウム摂取をできる飲み物であることを改めて確認できたことと、食の安全という点で、地産地消ではなく色々な地域のものを食べることが大切なことが印象に残りました。
(中学校)