教職員向け

教育関係者セミナーレポート
「食と未来の教え方」

家庭科教職員対象セミナー 食育を科学的に考える(神戸)

講座プログラム

開催日時

:2019年7月25日(木)13:30~16:20

第1部

:「今なにを伝える?時代にあった食育を考える」

第2部

:「農薬、添加物…リスク情報のウソを見破る」

参加者

:145名

今回の講師は、この方たち

  • 監物 南美 さん

    【パネリスト】
    女子栄養大学出版部
    「栄養と料理」編集委員
    監物 南美 さん

  • 松永 和紀 さん

    【パネリスト】
    科学ジャーナリスト
    松永 和紀 さん

  • TKP神戸三宮カンファレンスセンター

    【会場】
    TKP神戸三宮
    カンファレンスセンター

【司会】 小谷 あゆみさん フリーアナウンサー、野菜ソムリエ

講師の先生方を迎えて「食育」をテーマに解説していただく教育関係者向けのセミナー「食育を科学的に考える」を兵庫県神戸市で開催しました。
今回は女子栄養大学出版部の監物南美さんと科学ジャーナリストの松永和紀さんを講師に招き、第1部では「今なにを伝える?時代にあった食育を考える」のタイトルで食育と栄養について、第2部では「農薬、添加物…リスク情報のウソを見破る」のタイトルで食の安全について解説していただきました。
兵庫県だけでなく近隣府県からも多くの方に足を運んでいただき、会場となったTKP神戸三宮カンファレンスセンターは満席。質疑応答でもさまざまな質問が講師のお二人に寄せられ、みなさん真剣に耳を傾けていました。

会場の様子
  • 第1部
  • 第2部
  • 質疑
    応答
  • 参加者
    の感想

第1部:「今なにを伝える?時代にあった食育を考える」

(講師:監物 南美 さん)

日本女子大学家政学部食物学科卒業。女子栄養大学出版部で「栄養と料理」の編集に携わり、初心者向けの栄養計算ソフト「栄養pro」の開発にも携わる。2011年4月号から2017年6月号までは編集長を務め、現在は「栄養と料理」編集委員。さらに「食生活ジャーナリストの会」幹事も務める監物南美さんに、今の時代に合った食育のあり方について解説していただきました。

「食に関する知識と食を選択する力」を育てましょう

食育は明治時代の医師である石塚左玄さんがつくった言葉で村井弦斎さんの「食道楽」で有名になった言葉ですが、2005年に「食育基本法」の制定で注目されるまではしばらくメディアでもほとんど使われなかった言葉でした。「食育基本法」では「知育、徳育及び体育の基礎となるべきもの」と位置付けられていて、「食育」という名のもとに国や自治体、食品企業などさまざまな立場からあまりに多様な内容が期待されて(ともすれば思惑が押し付けられて)現場は混同しているようにも見えます。しかし「食に関する知識と食を選択する力を習得」とも書かれているように、家庭科や学校給食に求めたい食育は「食を見極めて選択する力」であり、「自分の人生における食をデザインする力」だと考えます。
たとえば、栄養であれば、最低限の栄養のとり方、不足しがちな栄養素のとり方、とり過ぎな栄養素の控え方を食品のとり方として伝えることができます。給食はそのための素晴らしい教材です。そして給食の解説をするときには、根拠のある栄養情報を選択してほしいですね。インターネットにもさまざまな栄養情報が掲載されていますが、それらの真贋についてもきちんと見極めることが食育につながります。
家庭科であれば、自分の生き方にあった食をデザインするには、一汁二菜の献立の構成や調理よりも、コンビニ食や市販の惣菜の活用法を身につけることのほうが子どもたちの将来に役に立つ食育になるかもしれません。

会場の様子(第1部)

第2部:「農薬、添加物…リスク情報のウソを見破る」

(講師:松永 和紀 さん)

京都大学大学院農学研究科修士課程修了。毎日新聞社での記者を経て独立し、食品の安全性や生産技術、環境影響などを専門に、「メディア・バイアスあやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)で「科学ジャーナリスト賞2008」を受賞するなどジャーナリストとして活躍。食の安全を第一線で見続ける松永和紀さんに、さまざまなリスク情報を見る際の心得についてお話していただきました。

どんなものでも摂取する量が重要です

「無添加、無農薬は安全である」という考え方は科学的には間違いです。食品の汚染について、一般の方はまっさらできれいなリスクのない食品に添加物や残留農薬が付いて汚染されているとイメージしていますが、科学者や研究者はその食品が元々持っているものを中心にさまざまな物質が食品に含まれリスクがあると考えています。そこにイメージと実態の乖離があります。食品はなにを含むのか。栄養成分が最も多いのはもちろんですが、残留農薬や食品添加物などよりも、食品そのものが持っている物質、微生物、カビなどによる毒性物質に加え、製造調理の工程で生まれる物質なども多いことが、最近の研究でわかってきました。
例えば加熱調理によって発がん物質が発生します。肉や魚を150℃以上で調理するとヘテロサイクリックアミン類ができますし、アミノ酸(アスパラギン)と一部の糖類を含む食品を120℃以上で加熱するとアクリルアミドという遺伝毒性発がん物質ができます。フライドポテトやポテトチップスに多いとして、当初はこれらの食品が悪者扱いされていましたが、野菜炒めなどでも多くできていることがわかってきました。しかし加熱調理はデメリットよりも加熱殺菌などのメリットの方が圧倒的に大きいので、現実的には加熱による発がん物質の摂取量を0にはできません。偏らずバランスの良い食生活を心がけていると、結果的にトータルの発がん物質の摂取量をもっとも少なくできる、と科学者は考えています。
同じようにどんなものでも、何をどれだけの量を摂るのかが重要です。食塩でも多く摂取すると致死量に至りますが、私たちは上手に食べています。しかし農薬や食品添加物については、その量に関係なく危険と言われると信じてしまう人がいる。現在の食品報道は極端な情報が氾濫しています。多様な情報を収集して自分で判断する、「◯◯を食べれば」というような単純な情報は排除する、その情報は誰を利するのかを考えるなどを心がけてください。情報を得るきっかけはテレビや雑誌・新聞でも構いませんが、行政情報など適正な情報を集めて自分で判断する力を身につけましょう。

会場の様子(第2部)

こんな質問がありました。

Qコンビニで購入できるお惣菜やサラダ、カット野菜などの食品添加物について心配しています。どのように付き合えばいいでしょうか?

A

質疑応答の様子

添加物も農薬と同じで安いものではなく、使用量や使用方法も厳しく管理されています。そのため巷で言われるような安い原材料をごまかすような添加物の使い方というのは簡単にはできません。規格を満たしているものであれば安全性に問題ないと考えています。私は添加物を気にしていませんし、子供にも気にしなくていいと言っていました。きっと多くの方はそのままサラダが食べられるということに違和感を持っているのかもしれません。確かにカットサラダには殺菌料が使われていますが、それが残らないように使用することが定められているので、殺菌料が残らないように洗浄されてパック詰めされています。逆に殺菌料が使われていないサラダは、菌が繁殖するリスクが大きいので怖くて食べられません。
(松永さん)

Q生産者がどれだけの知識を持って農薬を使っているのか不安です。直売所などの野菜も安全なのでしょうか?

A

質疑応答の様子

たしかに、生産者のすべてが農薬の適正使用をパーフェクトに実行している、とは言い切れません。でも、農林水産省や地方自治体、地域のJA、農薬メーカーなどもそういった方を指導をしていると思います。昔と比較すれば高齢の生産者の方でも、農薬の使用量や使用方法をきちんと守っている方がほとんどです。それをJAがチェックするという仕組みもできています。そしてここでも量の概念が大切になりますが、そのような生産者の方が作った野菜は全体量としては微々たるものです。常にその生産者から購入しているということでなければ、心配することはないと思います。
(松永さん)

Q日本は添加物大国と言われていて、海外ではトランス脂肪酸などを禁止にしていますが、日本では禁止にしていません。それはなぜでしょうか?

A

質疑応答の様子

トランス脂肪酸について日本人は摂取量がとても少なく、どちらかというと飽和脂肪酸の摂取量を減らす方が効果的と考えられています。
(監物さん)

トランス脂肪酸は、食品添加物ではありませんよ。それに、食品安全委員会が日本で売られている食品のトランス脂肪酸含有率を調べたところ、メーカーの努力で低くなっていることがわかりました。その結果、実は飽和脂肪酸の含有率が上がってしまっているのです。日本人は元々飽和脂肪酸を摂り過ぎなのに、トランス脂肪酸を下げたことによってさらに飽和脂肪酸を摂ることになってしまう。その辺りを十分に検討した上で日本人の場合は、アメリカのような過激な禁止はしないということになっています。それは日本だけでなくイギリスでも同じで、決して日本だけが国民をないがしろにしているわけではないのです。また、添加物大国というのも間違っています。添加物の定義も国によって異なっているので、単純な比較はできません。料理にも繊細な色を好む日本では、色素も多くあります。例えば栗きんとんに使うクチナシ黄色素は日本では使えますがアメリカでは使えません。アメリカでは必要ないから、添加物メーカーが審査に出していないためなのですが、アメリカでは禁止されている、と言い換える人がいます。それは危険という意味ではなく食文化なども関連しているのです。禁止だから危険という単純なものではありません。
(松永さん)

参加者の感想

コンビニや冷凍野菜を利用してバランスのいい食事を摂る方法を活用したいと思います。
(60代以上/小学校/兵庫県)

情報を読み取る力についてしっかり授業で伝えて、生徒に身につけてもらいたいです。
(50代/中学校/兵庫県)

「食をデザインする力」という表現は、とてもイメージしやすい言葉でよかったです。
(50代/中学校/兵庫県)

リスク分散の面からも色々なものをバランスよく食べることが大事だと認識しました。
(40代/小学校/兵庫県)

食の汚染に対する一般の人の見方と科学者の見方との違いが印象に残りました。
(40代/中学校/兵庫県)

情報について自分で掘り下げ、調べていくことの重要性をとても感じました。農薬をなぜ使うのか、どのような食育が必要なのか、よく考えていきたいと思います。
(30代/中学校/大阪府)

やはり何事も科学の視点を持って調べていく態度が大切だと思いました。
(60代以上/小学校/兵庫県)

大切な事はバランスよく適切な量を食べる。基本的なことですがそれを再認識しました。
(50代/小学校/兵庫県)

農薬と食品添加物の実態を知り、それぞれについてとても理解できました。
(50代/中学校/兵庫県)

農薬を適正に使用する方が、食の安全性につながることがよくわかりました。
(50代/小学校/大阪府)