旬素材の産地から

旬素材の産地から 大地と人の手がおいしくする青森りんご。

「1日1個のりんごで医者いらず」と言われるりんご。そのまま食べるだけでなく、お菓子やジュースでもおなじみの果物です。今回は、りんごの産地と言えば真っ先に思い浮かぶ青森を訪ねました。

3年先の収穫をイメージして枝を整える。

「わい化栽培」の木の形。ツリーみたいですね。

りんごのおいしさは、甘さと酸味と歯ごたえのバランスで決まります。青森りんごは、味だけでなくシャッキリとした食感が特徴だとか。
イキイキと語るりんご農家の中畑さんからはりんごづくりへの情熱が伝わってきます。

りんごの木ってこんなモミの木みたいな形でしたっけ?

  • 中畑さん
    これはたくさんのりんごをつくるために開発された「わい化栽培」の形ですよ。

わい化栽培?

  • 中畑さん
    広がらない形に木を整えて、同じ広さの畑に多くの木を植えられる技術です。わい化栽培だと木と木の間が狭くなってしまうので、普通のりんごの木のように1つの枝を長くできないんですよ。だから枝づくりがすごく重要でね。

なぜ枝ですか?

枝の動きや勢いを金具で調整

  • 中畑さん
    木は夏までどんどん成長して枝を増やしますが、実は1本の木で光合成によってできる養分はほぼ決まってます。だから、あまり枝が多かったり長かったりすると、その分だけ養分が分散されるので、木の成長スピードを利用して、増やさず伸ばさず、りんごがたくさんなるように枝を調整するんです。

うわぁ、なんかむずかしそうですね…。

りんごのイラスト

  • 中畑さん
    むずかしいねぇ。一番むずかしいのが「剪定」という作業ですかね。知識と経験とセンスが必要です(笑)冬の剪定で秋に収穫するりんごの品質が決まるとも言われてますから。

枝を切っていくってことですか?

 

  • 中畑さん楽しそうに話す中畑さん
    うーん、単純に切って長さを整えるだけじゃないんですよ。剪定の中でも重要な作業に「摘心(てきしん)」があります。花が咲いて実になる「花芽」と葉っぱになる「葉芽」を見分けながら木とのバランスを見ていい実といい葉っぱになる芽以外を摘むんですが、これもなかなか高度でね。
    例えば、1年目の花芽は若いからいい味の実をつくる力がないし、前の年に実がなった花芽は連続して実をつけると負荷がかかってやはりいい味にならないので休ませる必要がある。木全体にいくつ実をならせるかを計算しながら、3年先をイメージして考える。それを雪かきしながらやるんです。

おいしいりんごは"いい葉っぱ"がつくる。

剪定って高度ですね…。

写真(上)高いところは「高所作業台」に乗って、写真(下)ひとつひとつに太陽が当たるように

  • 中畑さん
    実をつける花芽はもちろん大事ですが、実はいい葉っぱをつくることもすごく重要なんです。

葉っぱが重要なんですか?

  • 中畑さん
    そうですよ。りんごを甘くするのも蜜を入れるのも葉っぱの光合成あってこそ。葉っぱでつくられたでんぷんが糖に変わって実に運ばれ、それが甘さになります。サンつがるやサンふじなどの赤いりんごは太陽に当てて色付けするために影になる葉をとる「葉とり」をしますが、活発に光合成する葉をどれだけ残せるかも剪定しながら考えますね。いい葉っぱがいいりんごをつくるんです。

病気にやられた葉っぱ

葉っぱは病気や害虫に狙われそうですね…。

  • 中畑さん
    葉っぱに小さな斑点ができて、木から落とす「斑点落葉病」なんて本当に厄介ですね。雨が多くて気温が高いと発生しやすくなります。その年のりんごに影響するだけでなく、来年の実をつくる花芽にも養分を送れなくなってしまうんですよ。だから梅雨入り前にスピードスプレーヤー(SS)という散布機で殺菌剤をまいています。最後の農薬をまくときは、畑をまわり虫や菌の種類を見て何をどのくらい使うかを決めています。収穫の何日前までに使うという決まりを計算しながらね。使った農薬は日付や農薬名、量などをすべて細かく記録した防除記録を提出しないと市場に出荷させてもらえないんですよ。

クシュクシュ部分がカメムシの仕業

虫の被害もヒドイですか?

  • 中畑さん
    ダニとかカメムシとか、敵はいっぱいですよ。ほら、これはカメムシにやられた葉っぱ。でも今年はダニが少なくて例年だと3回使う農薬も今年は1回しか使っていませんね。雨が少ないからかな?これも同じようにSSで殺虫剤をまいて防ぎます。

育てるのも守るのも桁違い

今年とその先をイメージして木を育てる

  • 中畑さん
    だから完全な無農薬で作るのはほぼ不可能ですね。害虫や菌がまわりの畑に飛んでしまいますし…。何よりこのおいしいりんごを多くの人に食べてもらえなくなります。商品価値のあるりんごができないばかりか、次の年にりんごをならせる木でいられない。花芽や葉も同じ。だから万が一実ができたとしても味はよくない。
    昔と比べて農薬はすごく改良されたので、今は日光や土で分解されるのが早いんです。つくる側の私たちだって気になりますからね。

台風を乗り越えて、今年は甘さたっぷり!

すごい!真っ赤!こんなに実ったりんごを見るとうれしくなりますね!

  • 中畑さん
    ほったらかしじゃまんべんなく赤くならないですよ(笑)だから「つるまわし」をするんです。

つるまわし?

りんごを静かにクルッと

  • 中畑さん
    木に自然にならせていると、葉とりをしてもどうしても日があたらない部分ができてしまいます。放っておくと半分だけ赤い状態になってしまうんですよ。だから、りんごの実をひとつひとつ太陽の光が当たる方向へ静かに回すんです。

1個1個…1,500本の木ってことは…

急激に日に当たると焼けてしまう

  • 中畑さん
    1本の木にだいたい180~200個なるようにしてるから約30万個(笑)王林のような黄色い品種のりんごはつるまわしをしませんけどね。ただ、朝早くからはやらない作業ですね。夜の間に冷えていた影にある部分が急に太陽に当たると焼けてしまうんです。だいたい10時くらいから始めるかなぁ。

中畑さん

初めての収穫は

  • 中畑さん
    苗木から育てると3年目に収穫しますが、初めてのときは「あぁ、実ったなぁ」という感じでしたね。3年目にはりんごがなることはわかっているから、ただ実ったなぁと。自分に技術がなかったから、どこに実をならせるとか、どれだけ収穫しようということまで考えが及ばなかった。今のほうが感動しますよ。思ったとおりにできたら「やっぱりこれでいいんだ」と。

収穫は台風シーズンと

  • 中畑さん
    そう、もう大変ですよ。平成3年のりんご台風のときなんてせっかく秋までがんばってきたのに全滅でした。あとコワイのは雹(ヒョウ)ですかね。実がボコボコになってしまって。でも、やっぱり雪が一番コワイかな。重みで枝ごととられてしまうんでね。これが雪にやられた跡。ここから菌が入らないように消毒もします。

写真(上)雪で折れた跡が痛々しい、写真(下)消毒して黒い"包帯"で処置

台風18号の影響はありましたか?

写真(上)おいしく実ってます、写真(下)消毒して黒い“包帯”で処置

  • 中畑さん
    近くの岩木川が増水して、河川敷にある畑は3mくらいの木が完全に水没したところもありました。土壌菌と川の水の菌がつくからりんごを洗っても腐ってしまうし、売り物にはできないんですよ。私の畑は無事でしたが、青森県全体では打撃を受けていると思います。

台風18号の影響はありましたか?

写真(上)おいしく実ってます、写真(下)りんご農家を目指す息子さんも収穫

  • 中畑さん
    蜜が入ると思いますよ。試験場のデータでは30℃以上の気温が10日以上続くと蜜の入りが悪くなる結果が出ているけれど、今年は30℃以上の日が少なかったので。昨年だと今の時期で30℃以上ありましたが、今年は15~19℃くらいだから甘いし、色ツヤもいい。ほら!

ほんとだ!みずみずしい!甘~い!店頭に並ぶのが待ち遠しい!

  • りんご 学名:Malus pumila バラ科 りんごが日本で栽培されるようになったのは明治時代以降。平成23年産りんごの収穫量約65万トンのうち半数以上の56%が青森県産です。
                    部位によって糖度が異なり、内側よりも皮に近い外側のほうが糖度が高くなっています。「つがる」「サンつがる」のように同じ品種で“サン”がつくものは、きれいに色づけするための袋をかけずに栽培されたもので、袋をかけたものより淡い色ですが甘みは増しています。

    参考:農林水産省「平成23年産りんごの結果樹面積、収穫量及び出荷量」H24.5.17

  • りんご

中畑さんの栽培スケジュール(サンつがるの場合)

雪かきをしながら枝を整え、剪定を行う。育てる芽を選ぶ重要な作業

草草刈り、土壌消毒病害虫対策

マメコバチや人の手で受粉

いい実をつけると予想した花だけを残して他の花を摘む

4-5個ついた実のうち、いい実だけを残す

SSで殺虫剤・殺菌剤をまいて病害虫対策

まんべんなく色づくようにりんごを回す

大地と人の手がおいしくする青森りんご。

中畑 元男さん

中畑 元男さん

サンつがる、王林、サンふじなどを栽培。リンゴ栽培18年、平成25年青森県りんごわい化立木競技会団体優勝、個人最優秀賞受賞。青森県りんご協会企画理事。

板柳町

板柳町

青森県津軽地区中央に位置するりんごの里・板柳町では、りんご生産量日本一の青森県でその1割強を生産。毎年夏にはりんごの豊作を祈る「りんご灯まつり」が行われています。

「1日1個のりんごで医者いらず」と言われるりんご。そのまま食べるだけでなく、お菓子やジュースでもおなじみの果物です。今回は、りんごの産地と言えば真っ先に思い浮かぶ青森を訪ねました。

3年先の収穫をイメージして枝を整える。

りんごのおいしさは、甘さと酸味と歯ごたえのバランスで決まります。青森りんごは、味だけでなくシャッキリとした食感が特徴だとか。
イキイキと語るりんご農家の中畑さんからはりんごづくりへの情熱が伝わってきます。

りんごの木ってこんなモミの木みたいな形でしたっけ?

中畑さん
これはたくさんのりんごをつくるために開発された「わい化栽培」の形ですよ。

「わい化栽培」の木の形。ツリーみたいですね。

わい化栽培?

中畑さん
広がらない形に木を整えて、同じ広さの畑に多くの木を植えられる技術です。わい化栽培だと木と木の間が狭くなってしまうので、普通のりんごの木のように1つの枝を長くできないんですよ。だから枝づくりがすごく重要でね。

なぜですか?

中畑さん
木は夏までどんどん成長して枝を増やしますが、実は1本の木で光合成によってできる養分はほぼ決まってます。だから、あまり枝が多かったり長かったりすると、その分だけ養分が分散されるので、木の成長スピードを利用して、増やさず伸ばさず、りんごがたくさんなるように枝を調整するんです。

枝の動きや勢いを金具で調整

うわぁ、なんかむずかしそうですね…。

中畑さん
むずかしいねぇ。一番むずかしいのが「剪定」という作業ですかね。知識と経験とセンスが必要です(笑)冬の剪定で秋に収穫するりんごの品質が決まるとも言われてますから。

枝を切っていくってことですか?

中畑さん
うーん、単純に切って長さを整えるだけじゃないんですよ。剪定の中でも重要な作業に「摘心(てきしん)」があります。花が咲いて実になる「花芽」と葉っぱになる「葉芽」を見分けながら木とのバランスを見ていい実といい葉っぱになる芽以外を摘むんですが、これもなかなか高度でね。
例えば、1年目の花芽は若いからいい味の実をつくる力がないし、前の年に実がなった花芽は連続して実をつけると負荷がかかってやはりいい味にならないので休ませる必要がある。木全体にいくつ実をならせるかを計算しながら、3年先をイメージして考える。それを雪かきしながらやるんです。

楽しそうに話す中畑さん

おいしいりんごは“いい葉っぱ”がつくる。

剪定って高度ですね…。

中畑さん
実をつける花芽はもちろん大事ですが、実はいい葉っぱをつくることもすごく重要なんです。

高いところは「高所作業台」に乗って

葉っぱが重要なんですか?

中畑さん
そうですよ。りんごを甘くするのも蜜を入れるのも葉っぱの光合成あってこそ。葉っぱでつくられたでんぷんが糖に変わって実に運ばれ、それが甘さになります。サンつがるやサンふじなどの赤いりんごは太陽に当てて色付けするために影になる葉をとる「葉とり」をしますが、活発に光合成する葉をどれだけ残せるかも剪定しながら考えますね。いい葉っぱがいいりんごをつくるんです。

ひとつひとつに太陽が当たるように

葉っぱは病気や害虫に狙われそうですね…。

中畑さん
葉っぱに小さな斑点ができて、木から落とす「斑点落葉病」なんて本当に厄介ですね。雨が多くて気温が高いと発生しやすくなります。その年のりんごに影響するだけでなく、来年の実をつくる花芽にも養分を送れなくなってしまうんですよ。だから梅雨入り前にスピードスプレーヤー(SS)という散布機で殺菌剤をまいています。最後の農薬をまくときは、畑をまわり虫や菌の種類を見て何をどのくらい使うかを決めています。収穫の何日前までに使うという決まりを計算しながらね。使った農薬は日付や農薬名、量などをすべて細かく記録した防除記録を提出しないと市場に出荷させてもらえないんですよ。

病気にやられた葉っぱ

虫の被害もヒドイですか?

中畑さん
ダニとかカメムシとか、敵はいっぱいですよ。ほら、これはカメムシにやられた葉っぱ。でも今年はダニが少なくて例年だと3回使う農薬も今年は1回しか使っていませんね。雨が少ないからかな?これも同じようにSSで殺虫剤をまいて防ぎます。

クシュクシュ部分がカメムシの仕業

育てるのも守るのも桁違いに手がかかりますね。

中畑さん
だから完全な無農薬で作るのはほぼ不可能ですね。害虫や菌がまわりの畑に飛んでしまいますし…。何よりこのおいしいりんごを多くの人に食べてもらえなくなります。商品価値のあるりんごができないばかりか、次の年にりんごをならせる木でいられない。花芽や葉も同じ。だから万が一実ができたとしても味はよくない。
昔と比べて農薬はすごく改良されたので、今は日光や土で分解されるのが早いんです。つくる側の私たちだって気になりますからね。

今年とその先をイメージして木を育てる

台風を乗り越えて、今年は甘さたっぷり!

すごい!真っ赤!こんなに実ったりんごを見るとうれしくなりますね!

中畑さん
ほったらかしじゃまんべんなく赤くならないですよ(笑)だから「つるまわし」をするんです。

つるまわし

中畑さん
木に自然にならせていると、葉とりをしてもどうしても日があたらない部分ができてしまいます。放っておくと半分だけ赤い状態になってしまうんですよ。だから、りんごの実をひとつひとつ太陽の光が当たる方向へ静かに回すんです。

りんごを静かにクルッと

1個1個…1,500本の木ってことは…

中畑さん
1本の木にだいたい180~200個なるようにしてるから約30万個(笑)王林のような黄色い品種のりんごはつるまわしをしませんけどね。ただ、朝早くからはやらない作業ですね。夜の間に冷えていた影にある部分が急に太陽に当たると焼けてしまうんです。だいたい10時くらいから始めるかなぁ。

急激に日に当たると焼けてしまう

初めての収穫はかなり嬉しかったのでは?

中畑さん
苗木から育てると3年目に収穫しますが、初めてのときは「あぁ、実ったなぁ」という感じでしたね。3年目にはりんごがなることはわかっているから、ただ実ったなぁと。自分に技術がなかったから、どこに実をならせるとか、どれだけ収穫しようということまで考えが及ばなかった。今のほうが感動しますよ。思ったとおりにできたら「やっぱりこれでいいんだ」と。

中畑さん

収穫は台風シーズンと重なりますよね…

中畑さん
そう、もう大変ですよ。平成3年のりんご台風のときなんてせっかく秋までがんばってきたのに全滅でした。あとコワイのは雹(ヒョウ)ですかね。実がボコボコになってしまって。でも、やっぱり雪が一番コワイかな。重みで枝ごととられてしまうんでね。これが雪にやられた跡。ここから菌が入らないように消毒もします。

写真(上)雪で折れた跡が痛々しい、写真(下)消毒して黒い“包帯”で処置

台風18号の影響はありましたか?

中畑さん
近くの岩木川が増水して、河川敷にある畑は3mくらいの木が完全に水没したところもありました。土壌菌と川の水の菌がつくからりんごを洗っても腐ってしまうし、売り物にはできないんですよ。私の畑は無事でしたが、青森県全体では打撃を受けていると思います。

中畑さん

そうですか…。無事だったりんごはどうですか?

中畑さん
蜜が入ると思いますよ。試験場のデータでは30℃以上の気温が10日以上続くと蜜の入りが悪くなる結果が出ているけれど、今年は30℃以上の日が少なかったので。昨年だと今の時期で30℃以上ありましたが、今年は15~19℃くらいだから甘いし、色ツヤもいい。ほら!

写真(上)おいしく実ってます、写真(下)りんご農家を目指す息子さんも収穫

ほんとだ!みずみずしい!甘~い!店頭に並ぶのが待ち遠しい!今日はありがとうございました。

りんご

りんご
学名:Malus pumila
バラ科
りんごが日本で栽培されるようになったのは明治時代以降。平成23年産りんごの収穫量約65万トンのうち半数以上の56%が青森県産です。
部位によって糖度が異なり、内側よりも皮に近い外側のほうが糖度が高くなっています。「つがる」「サンつがる」のように同じ品種で“サン”がつくものは、きれいに色づけするための袋をかけずに栽培されたもので、袋をかけたものより淡い色ですが甘みは増しています。
参考:農林水産省「平成23年産りんごの結果樹面積、収穫量及び出荷量」H24.5.17
中畑さんの栽培スケジュール(サンつがるの場合)
中畑さんの栽培スケジュール(サンつがるの場合)
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