旬素材の産地から いちごの香りに誘われて、伊勢へ。

スーパーやお店で見かけるとうれしくなる果物のひとつが、「いちご」。伊勢でいちご?実は、三重県と名古屋地域にしか出荷されていない、とっておきのいちごがあるんです。

ハウスに入ると、あま~い香りが!

かがまずに作業できる「高設栽培」が今の主流

「さあ、どうぞ」と言われて入ったビニールハウスの中は、ほのかに甘い香り。
今回お話を伺ったのは、いちご作り歴35年のベテラン・岩﨑 稔さん。
まずは一粒食べてみて、と言われて口にすると…

ん~、おいしい~!甘い!すごくジューシー!しかもこんなに香りがするいちご、初めて。

  • 岩﨑さん
  • 岩﨑さん
    でしょう?(ニッコリ)
    このいちごは「かおりの」といって、まさに香りが特徴なんです。食べた瞬間、こう、鼻と口全体にプワーっと香りが広がるでしょ?香りが強いだけじゃなく、さわやかで上品だし。ハウスに見学に来る人の中には、ここに入った瞬間にいい香りがするって言う人も多いですよ。
    これまでは「あきひめ」という別の品種を作っていましたが、今はこの「かおりの」です。三重県が地元のいちごを作ろうと開発した新しい品種で、品種開発から18年かかったらしいですね。

「かおりの」との一番の違いは、やっぱり香りですか?

  • 岩﨑さん
    もちろん!香りってすごく重要なんです。有名な品種でもここまで華やかな香りを持ついちごはなかなかないと思いますよ。それに、酸味が少ないから甘いでしょ?
    あとは…育てる立場から言えば、いちごにとって致命的な「炭そ病」に強い品種ってことですかね。

いちごのアップ写真

  • 炭そ病

    • 岩﨑さん
      カビの一種で、苗も実も枯れちゃうんですよ。苗のときに見えていなくても、植え付けてから枯れたり、せっかくなった実が枯れたり…。事前に農薬を散布して予防するし、雨が原因で菌が繁殖するので雨に当たらないように管理するんですがね。昨年は9月に大きな台風が2回も来たでしょう?9月はちょうど苗を植え付ける時期で、「あきひめ」は大打撃を受けて5割やられた農家もたくさんあったみたいです。

ハウスの中も敵だらけ。

ほかにはどんな敵がいるんですか?

  • 岩﨑さん
    ああ、ダニですねぇ。こいつにやられると、苗も実も成長しなくなるんです。20年くらい前かな?ダニにやられて全滅したことがあるんですよ。朝、ダニを見つけて消毒したあと、研修で2日間留守にして帰ってきたら、もう全部ダメになってて…。
    あのころはまだ天敵もなかったんでね。

チェックする姿は真剣そのもの

  • 天敵?

    • 岩﨑さん
      そう。ダニを食べてくれる虫で、それもチリカブリダニっていうダニなんですよ(笑)。実は天敵も農薬の一種で、化学農薬ではなく“生きた生物の農薬”なんです。
      とにかく予防するために、まずは消毒用の農薬を使うんですが、どうしても薬がかからない部分が出ますよね?葉の裏側とか影とか。だから天敵を入れて、やつらを食べてもらうんです。かなりそれで防げるようになりましたね。天敵を入れたら1ヵ月半くらいは効果がもつかなぁ。

カビにやられると、こんな状態に…。

常に病気や虫と闘っているんですね…

  • 岩﨑さん
    ほかにも、樹液を吸うアブラムシ、実を食べるヨトウムシ、あとは外国から来たスリップスっていう虫とか。これは花について実を赤くしないで黄色くしてしまうんだけど…ほら、あそこにハエ取り紙みたいな青い紙がぶら下がってるでしょ?あれでとるんですよ。

いちごは皮があるわけじゃないからタイヘン…。じゃあ、一番重要なのは虫対策ですか?

  • 岩﨑さん
    うーん…重要なのは、しっかりした苗をつくることかな。いちごって種から育ててるわけじゃないからね。丈夫な親株を育てて、そこからできる子苗を増やしていくときに、何時間ごとにどれだけ水をあげるかとか、土と肥料の配合をどんなバランスにするかとか、まぁ、何を育てるにしても同じだけど、手間がかかるといえば、すべてかかるし、ずーっとかかるんですよ。(ニッコリ)

一日当たりの収穫量はどのくらいですか?

  • 岩﨑さん
    だいたい普通のいちごパックで300~400パックくらいですかね。

そんなにたくさん!たくましく育っているってことですね。

  • 岩﨑さん
    いちごは甘い香りがするので虫がつきやすいんです。だから、農薬なしで育てるのは厳しいと個人的には思うんですよね。適切な予防策をきちんとして大切に育てれば、こうやってたくさん出荷できる。そうすれば、「かおりの」をたくさんの人に食べてもらうことができる。食べてもらえれば、おいしさはわかってもらえるはずですからね。

大量のいちご

今年のいちごはゴキゲンです!

かわいいかわいい“おてんば娘”のいちごたち

育てていると子どもみたいに思えてくるものですか?(笑)

  • 岩﨑さん
    あはは!そうだね~、おてんば娘みたいなものかな?(笑)。そうそう、まさにおてんば娘!気に入らないことがあると、すぐに収穫に影響しちゃう。ホントに、機嫌をちょっとでも損ねると、小さい実しかならないんだよ。私、気に入らないわ、プイっ!ってね(笑)

(笑)機嫌を損ねるって、例えばどんな?

  • 岩﨑さん
    うまく栄養が行きわたってなかったり、土の状態が悪かったり。実は、4~5年くらい前から苗があまり大きくならなくなってね。おかしいなぁ、と思ってたんだけど原因がわからなくて…。いろんなことを試して、昨年やっとわかったですよ。土の有機物、要するに栄養分が足らなかったみたいでね。ちゃんと入れてはいたんだけど、長年やっているうちに土との割合が減ってきたんだろうね。で、先輩の作ったいい堆肥を入れたらぐんぐん成長して、すごくおいしい実ができた。

まさに、女の子みたいですねぇ(笑)

  • 岩﨑さん
    でしょ?(笑) 満足してくれたんでしょうね。毎朝、ハウスに来たらまず一粒食べるけど、あれは言ってみればご機嫌伺いだな。「今日のご機嫌はいかがですか?」って(笑)。でも、その日その日でまったく味が違うんですよ。水っぽいときもあるし、すごく甘いときもあるし。その年最初の一粒を食べるときは楽しみだけど、やっぱりドキドキもするなぁ。

今年のおてんば娘のご機嫌はどんな感じでしょう?(笑)

  • 岩﨑さん
    今年はゴキゲンだよ!さっき、雨が大敵って話をしたけど、台風の時期を乗り越えた後、特に去年の12月初めから今年の1月中旬過ぎまでずっと雨が降ってないから、甘くてジューシーで、いい味になってますよ。東京ではきれいな三角のいちごがいいと思われるでしょ?「かおりの」は、こんなふうに大きくて四角っぽい形ができやすい品種なんです。でも、大きいからって味が薄いわけではなく、ちゃんと甘くていい味がする。逆に一粒が大きいからうれしくないですか?(笑)

梱包されたかおりの

おトクなきがします!何よりこの香りとおいしさを、もっといろんな地域で味わってほしいです。

  • 岩﨑さん
    私たちも、これからもっといろんな人に「かおりの」を知ってもらいたいですね。

今日は楽しいお話を、ありがとうございました!

  • いちご 学名:Fragaria×ananassa Duch.バラ科 いちごの収穫量は約18万トン(平成22年産)。1960年代まではいちごの旬は5月~6月でしたが、ハウス栽培などの栽培技術の進歩や品種改良によって11月中旬から4月ごろまで出回るようになりました。

    参考:農畜産業振興機構ウェブサイト「野菜ブック」

  • 一般的ないちごの写真

岩﨑さんの栽培スケジュール

土をビニールで覆い、60℃くらいの低温で消毒する「太陽熱消毒」で、土に残った有害菌を殺菌。

毎日「ご機嫌伺い」

有機物や窒素などを入れて耕す。酸素を含ませ、栄養のある土へ。

水と肥料の管理