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農薬の作用メカニズム

<第12回>殺虫剤の作用メカニズム(掲載2005年3月)

殺虫剤の使い分けを

 農薬がどのようにして害虫、病原菌あるいは雑草に対して効果を発揮するのか、それを作用メカニズムと言います。今回から農薬(殺虫剤、殺菌剤そして除草剤)の作用メカニズムとヒトへの影響について説明します。

 日本の殺虫剤の先駆けとされる江戸時代の害虫防除法「注油法」では、水田に鯨油などを流して油膜を作り、そこへウンカ等の害虫を落とし、気門を塞いで窒息死させていました。現在でもマシン油を散布し、カイガラムシやハダニを窒息させる方法がありますが、今日の殺虫剤の大部分は、害虫の神経系に作用するもの、エネルギー代謝を阻害するもの、生合成系に作用するもの等です。

  1. 神経の伝達は昆虫でも電気的な形(イオンの流れ)をとり、神経細胞の繋ぎ目では伝達化学物質の放出と受容という形で伝達されていきます。神経系に作用する殺虫剤は、神経細胞のイオンの出入を攪乱させるもの、また伝達化学物質を異常に蓄積させたり、伝達物質の受容体に入り込み興奮を持続させたり、反対に受容体が働かないようにして、結果的に害虫の神経系を阻害・撹乱して死に至らせるもの等があります。神経系での信号伝達は哺乳動物も昆虫も基本的な仕組みは同じで、ヒトにも作用する可能性があります。しかし、ヒトと昆虫の解毒・分解・不活性化能力、暴露量の違いなどを利用し、ヒトには安全な薬剤が開発され使われています。神経系に作用する殺虫剤としては、スミチオンなどの有機リン系、バッサなどのカーバメート系、トレボンなどの合成ピレスロイド系、モスピランなどのニコチン系等があります。
  2. 動物も植物も、酸素を取り入れ、エネルギー源である糖等を燃やし(酸化)、発生するエネルギーをATP(アデノシン三リン酸)に変えて利用します。この呼吸の中の生化学的過程が妨げられると害虫やダニに致命的な作用となります。呼吸系は動物に共通であるために、その阻害は、高等動物や魚にも毒性を示す可能性があります。しかし現在使用されている薬剤では、解毒・分解、感受性、暴露量等の違いにより安全性が担保されています。幾つかの殺虫(ダニ)剤が呼吸を阻害して効果を発揮していることが明らかにされています。
  3. 昆虫の表皮は脊椎動物と違って、キチンとたんぱく質が主成分で、非常に固く、成長するには途中で脱皮を繰り返します。脱皮の時には、古い表皮は分解され、新しい表皮(キチンとたんぱく質)が生合成されます。このキチン生合成を妨げる作用をもつ殺虫剤により、害虫は脱皮がうまくいかず死んでしまいます。このような昆虫の脱皮や変態を妨げる薬剤を昆虫成長制御剤(Insect Growth Regulator:IGR)と呼んでいます。代表的なものにはアタブロン、ノーモルト等があります。モルト(molt)とは脱皮のことで、ノーモルトとは脱皮しないという意味です。哺乳動物にない昆虫特有の生理機能を攪乱するので、ヒトや家畜には安全性が高いのが特徴です。

 作用メカニズムを知れば、上手く殺虫剤を使い分けることができるほか、ヒトや他の生物への安全性等の多くの知見を得ることができます。

 一方、同じ作用メカニズムの薬剤を使い続けると効果が落ちてくることがあります。害虫の場合には抵抗性、病害の場合には耐性といい、その発達のメカニズムは、作用点が変化して農薬が作用しにくくなる、速やかに分解して無毒化してしまう、等です。同種の農薬を連用するのではなく、作用メカニズムの異なる農薬を上手くローテーションして使用すれば、抵抗性や耐性の発達、感受性低下を防ぐことになります。

(農薬工業会安全対策委員会事務局 花井正博)

<補足説明>薬剤抵抗性について(なるほど!なっとく!農薬Q&Aより転記)
 同じ農薬を使い続けると、病害虫や雑草に対して効果が低下し被害を防げなくなることがあります。これを、病害虫や雑草に抵抗性がついたと言います。
 私たちの顔形や体質がそれぞれ違うように、同じ種類の虫でも殺虫剤に強い虫と弱い虫が混じっているのが自然界です。そこに殺虫剤が使われると弱い虫はいなくなり、強い虫が残ると考えられます。また、突然変異によりその殺虫剤に対して強い性質を持った虫が出現し、そのような虫ばかりが生き残ることも考えられます。
 ヒトをはじめ哺乳動物では、世代交代をするには数年、数十年と比較的長期間かかりますが、昆虫の一生は1年あるいは、短ければ数十日で、なかには春から秋までの間に何世代も世代交代するのもあります。このように世代交代が比較的短期間のものは、同じ薬剤を何回も繰り返して使用していると効かなくなる現象が起きやすいと考えられます。特に一世代の期間が短いハダニ類や菌類には抵抗性がつきやすく、農家や農薬の開発をする者にとって頭の痛い問題になっています。
 また、近年、除草剤に抵抗性をもつ雑草の出現も確認されています。
 このような抵抗性の出現、発達をある程度避けるため、作用機構の異なる何種類かの薬剤をローテーションで使うことにより、薬剤の寿命を伸ばすことができます。