農薬は本当に必要?

農薬に関する法律、指導要綱、社会的役割などについて

食料危機が心配されています。これから農薬は食料問題にどのような役割を果たしていくのでしょうか。

かつては農産物を増産することが大命題とされていました。現在ではより広く、生産から流通、消費に至る全体を「農産物システム」としてとらえ、その一層の充実に注目されています。その中で農薬は重要な役割を担い続けています。

農産物システムのスタートラインは、言うまでもなく一次産物の生産です。農薬は農産物の安定生産のための重要なツールと考えられます。

2020年の世界の人口78億人に対し、2050年には97億人に達し、その人口増加の大部分が発展途上国で生じると予想されています(国際連合経済社会局「世界都市人口予測2019年改訂版」より)。かつてFAOは、この人口増加により生じる食料の需要増に対応するためには、2050年の農業生産を2006年の水準より60%以上増加させる必要があると予想しました。

このような農業生産の安定的かつ持続的な増加を支えるための生産資材として、今後も農薬の果たす役割は重要であるといえるでしょう。

農産物システムの充実

現在では、技術の進歩により食糧の増産は見込めるようですが、依然として開発途上国では栄養不足に苦しんでいます。ここではフードロスの削減や適正な食糧分配の仕組みが必要と言われています。このような中で、近年は、農産物システムの充実が注目されています。この農産物システムは、食品および非食品農産物の一次生産、ならびに食品の貯蔵、集約、収穫後の取り扱い、輸送、加工、流通、マーケティング、廃棄および消費を網羅する概念です(国際連合食糧農業機関(FAO)「世界食糧農業白書2021年報告」より)。

近年はこの農産物システム全体の充実が注目されています。とはいえ、農産物システムのスタートラインは言うまでもなく農産物の一次生産です。そして、農薬は農産物の安定生産のための重要なツールです。また、農産物システムは、もともと干ばつや洪水などのショックには脆弱でした。近年はこれに加えて、気候温暖化が農産物システムに与える影響や逆に農産物システムが環境破壊のストレスとなる点も注目されています。これに加えて、COVID-19パンデミックや国際紛争のような急激なショックもシステム全体に突発的に重大な影響を与えることを私たちは目の当たりにしました。
このように、農産物システムは、さまざまな影響を受けつつも年間110億トンの農産物を生産すると同時に、温室効果ガス排出源ともなっており、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、これまで以上にサステナブルで環境負荷の小さい農業が求められています。
このような流れの中で、今後さらに温暖化がすすんでも農作物の安定生産に貢献し、かつ環境にも配慮した高性能な農薬が必要とされるでしょう。

食料安全保障と栄養の現状

開発途上国における農産物生産量は増加しています。にもかかわらず、2020年には全世界で7.2-8.1億人が飢餓に直面しており、23.7億人が適切な食糧供給を受けられないという事実があります。このような食料不安や栄養不良の主な要因は、紛争、気候変動、経済危機などです。これらが今後も続くと、2030年までにSDGsの栄養に関する指標の目標は世界的には達成できないでしょう。「世界の食料安全保障と栄養の現状2021年報告」では、食糧システム変革に向けての6つの経路(紛争、気候、経済、サプライチェーン、貧困、食事パターン)を特定し、問題に対処するための提言を行なっています。

開発途上国を含めた全世界の農業生産場面において、農薬を含めた農業技術の発展はますます重要となるでしょう。

参考文献
*国際連合経済社会局「世界都市人口予測2019年改訂版」
*国際連合食糧農業機関(FAO)「世界食糧農業白書2021年報告」
*国際連合食糧農業機関(FAO)「世界の食料安全保障と栄養の現状2021年報告」

(2023年2月)