農薬は本当に必要?

農薬に関する法律、指導要綱、社会的役割などについて

生物農薬だけですべての病害虫や雑草を防除できますか。

生物農薬は効果のある病害虫の幅が化学農薬に比べて狭いのが一般的で、わが国のように、複数の病害虫が同時に発生する環境では、生物農薬だけで全ての病害虫を防除するのは現状では困難です。

生物農薬には長所と短所があります。たとえば、防除対象の生物以外には影響が少なく選択性が高いという長所があると言われます。この長所を活かして、人や哺乳動物の健康に対する影響や、環境に対する負荷を軽減しながら、防除効率を維持して農業生産に貢献することができます。一方で短所として、狭い範囲の防除対象にしか効かない、散布適期の見極めが難しいなど、農薬としての性能に限界があります。現状では生物農薬を使ってすべての病害虫や雑草を防除することはできません。

生物農薬は効果のある病害虫の幅が狭いのが一般的で、これは農薬としての長所でありまた短所とも言えます。生物農薬には以下のような長所があると言われます。

  1. 生物農薬は、標的以外の生物への影響が少ないため、環境や、人畜をはじめとする有用動植物に対する影響が低いといえます。
  2. 自然界に存在する生物を病害虫防除に利用したものであり、収穫物の残留毒性の懸念はありません。
  3. BT剤など一部を除くと、病害虫の生理活性に直接作用するのではありません。捕食(天敵製剤)や栄養競合など、病害虫の発生環境をコントロールするものが多いため、抵抗性が発生しにくい利点があります。
  4. 抵抗性が発達しにくいのと同時に環境負荷が少なく使用回数に制限のない薬剤が多いため、果菜類など栽培期間の長い作物でも、作期を通じて防除が可能です。
  5. 天敵生物に影響のある農薬を散布すると、対象としていた害虫が防除されるだけでなく、ほ場にいた土着の天敵の密度が下がり、その天敵に捕食されていた害虫の密度が高まって、かえって被害を与える場合があります。これをリサージェンスといいます。生物農薬は、標的生物以外への影響が少ないので、このような現象を起こしにくいといえます。
  6. 天敵の場合は、ほ場内にカードを設置したり、バンカープラントに振り掛けたり、また、微生物殺菌剤の場合、施設の暖房用ダクトに設置する方法など、一部の生物農薬では簡単な作業で処理が可能であり、通常の薬剤散布に比べ作業が省力的な場合があります。
  7. 生物農薬は、登録要件となる試験項目が化学農薬と比較すると少なくまた、農薬として市場に出すまでの時間が短いため、開発コストが比較的低いといえます。

一方では、以下のような短所も指摘されています。

  1. 一般に、生物農薬は効果を示す防除対象が、化学農薬に比べて狭く、従って、わが国のように、複数の病害虫が同時に発生する環境では、生物農薬だけで全ての病害虫を防除するのは困難です。
  2. 安定した品質の生物農薬製剤を大量生産することは難しいとされ、価格も比較的高価になります。そのため防除コストは化学農薬と比べ高くなる傾向があります。
  3. 使用に際しては、要防除水準を満たす処理時期に使用することが重要ですが、散布適期の見極めに習熟が必要です。
  4. 効果が現れるのに時間のかかるものもあり、その間に作物が被害を受け、商品価値が下がる場合もあります。
  5. 在来種以外の天敵昆虫は、本来の生態系に影響を与える恐れがある為、ネットを張ったり、施設内での使用に限るなど、閉鎖系以外では使用できません。
  6. 生物農薬は化学農薬に比べ、保存性の劣るものが多く、それらの剤は開封後使い切る必要があります。また、輸送・保管にも配慮が必要です。

このように、生物農薬だけで良質の農産物を安定的に生産することは困難で、化学農薬との併用が必要です。しかし、天敵の生態あるいはライフサイクル(生活環)によっては、生物農薬自身が殺虫剤、殺菌剤などの化学農薬の影響を受けて効果を発揮できない場合があるので、生物農薬と併用する化学農薬を選択する場合は、影響のないものを選ぶことが重要です。

環境への負荷のより低い総合的な病害虫管理技術(IPM)において、生物農薬は、化学農薬、栽培技術とともに、重要なツールとなっています。

参考文献
*日本農薬学会『農薬とは何か』1996、日本植物防疫協会

(2017年4月)