農薬は本当に必要?

農薬に関する法律、指導要綱、社会的役割などについて

残留基準値はどのような考え方に基づいて設定されているのですか。

作物残留試験の結果を用いて、その農薬の様々な食品を通じた長期的な摂取量の総計が許容一日摂取量(ADI)の8割を超えないこと及び個別の食品からの短期的な摂取量が急性参照用量(ARfD)を超えないことを確認した上で、定められた使用方法に従って使用した場合に残留し得る農薬の最大の濃度が残留基準値として設定されます。

農産物の生産のために田や畑で使用された農薬は、太陽光や水、微生物、植物体内での分解などにより時間とともに減少しますが、ごく一部は野菜や果物などの収穫物にも微量に残留することもあります。このため、健康に影響が生じないように食品中の残留農薬についてリスク管理が必要となります。

わが国では、ヒトが食品を通じて、①長期間(生涯)にわたって摂取し続けた場合且つ②平成26年より順次、短期間(24時間又はそれより短時間)に通常より多く摂取した場合に健康に何ら悪い影響を与えない量以下となるように残留基準値を設定するとともに、農薬の使用に一定の枠をはめるという方法(使用基準の設定)によって残留基準値以下となるように、リスク管理が行われています。

まずリスク評価として、農薬の登録申請時に提出される毒性試験の結果から、ヒトが①その農薬を一生涯に渡って毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される許容一日摂取量(ADI:Acceptable Daily Intake)と②ヒトが24時間又はそれより短時間の間の経口摂取によって健康に悪影響がないと推定される急性参照用量(ARfD:Acute Reference Dose)が食品安全委員会により設定されます。

一方、リスク管理の一つである農薬の残留基準値は、登録申請時に提出される「作物残留試験」から得られた残留量を基に農薬が使用される作物毎に設定されます。その場合気象条件など種々の外的要因により変動する可能性があることから、基準値は、試験での残留量に比べて、ある程度の安全率を見込んで設定され、また国際基準及び外国基準も考慮して設定されます。

ADIに基づくリスク管理は、次のとおり行われます。
私たちが1日に食事として食べる穀物、野菜、果物など作物の量(厚生労働省の食品摂取頻度・摂取量調査によるフードファクター)に作物残留試験で得られた平均残留濃度又は基準値案を乗じて対象農薬の一日当たりの推定農薬摂取量(「作物別摂取量」の合計)を算出します。

この農薬摂取量(mg/人/日)が、ADI(mg/kg/日)に日本人の平均体重55.1kgを乗じ摂取許容量(mg/人/日)の80%以内の場合、基準値案が残留基準値(注1)として設定されます。80%とされるのは、農作物以外に、水や空気からも対象の農薬を体内に取り込む可能性を考慮してのことです。これらの量は正確に知ることは難しく、便宜的に20%としています。

一方、ARfDに基づくリスク管理は、各食品の最大一日摂取量と作物残留試験で得られた最高残留濃度又は基準値案を用いて求めた短期間での最大農薬摂取量がARfDを上回らないことを確認した上で残留基準値(注1)として設定されます。

農薬の使用におけるリスク管理は、対象作物ごとに申請された使用方法で実施された作物残留試験における残留量を調べ、その値が残留基準値を超えないようにその農薬の使用方法(使用基準)が決められています。

従って、農薬の使用方法(使用基準)を守ることにより、人への安全が確保される仕組みとなっています。

  • (注1)残留基準値(MRL:Maximum Residue Limit)は、食品衛生法に基づく食品の成分規格の一つとして、厚生労働大臣が設定します(同法11条)。残留基準値は、対象農産物の内部または表面に残存が許容される最大濃度と規定されています。
参考文献
*農林水産消費安全技術センター>農薬>農薬登録申請
http://www.acis.famic.go.jp/shinsei/index.htm
*「農薬の登録申請時に提出される試験成績の作成に係る指針」
*「食品衛生法における農薬の残留基準について」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/johokan/risk_comm/r_kekka_nouyaku/pdf/mhlw_saitama.pdf

(2017年4月)