農薬は安全?

農家への安全対策、使用状況の把握などについて

農薬は市販されるまで、さまざまの安全性評価試験が行なわれているとのことですが、その方法や基準がバラバラだったり甘かったりしては意味がないと思います。統一的で厳正な試験の基準といったものはあるのでしょうか。

GLP制度によって客観的な基準にもとづいて試験が実施されています。

安全性評価のもとになる毒性試験は、適正そして厳正に行なわれることが不可欠です。そのため日本を含む先進各国では、医薬品、農薬、一般化学物質などの毒性試験(安全性評価試験)に関して、客観的な基準に基づいて試験を実施する制度を導入しています。この制度が、GLP(Good Laboratory Practice:毒性試験の適正実施に関する基準)制度で、国際的に調和のとれたものです。

GLP制度の原則は、日本をはじめとする各国が加盟するOECD(経済協力開発機構)により、1981年(昭和56)に制定されました。日本では、厚生労働省による医薬品に関するGLP制度に続いて、農薬については農林水産省が1984年(昭和59年)、「農薬の毒性試験の適正実施に関する基準について」という通達を出し、農薬に関するGLP制度を導入しました。さらに現在では、「農薬の毒性及び残留性に関する試験の適正実施について」(平成11年10月1日付け11農産第6283号農林水産省農産園芸局長通知 最終改正平成20年3月31日)にて、農薬GLP制度に必要なGLP基準が規定されています。

この基準には、安全性を評価する試験機関が、その施設、機器などのハード面、そして人的組織、試験の際の標準操作手順書(SOP:Standard Operation Procedure)の作成などのソフト面について、守らなければならない内容が規定されています。さらに重要なことは、試験従事者とは別に、試験の計画から報告書の作成までを監査する信頼性保証部門(QAU:Quality Assurance Unit)を置き、試験の信頼性を保証することを要求しています。監督官庁が、このような試験機関に対して立ち入り試験をおこないGLP制度が遵守されているかどうかを査察することも規定されています。

農薬の登録申請に用いる毒性試験及び残留試験成績は、「農薬GLP適合確認にかかわる資料作成要領」に基づく資料を農林水産省に提出し、農林水産省が農薬GLPに適合することを確認した機関で実施作成されたものでなければ受理されません。

農薬の毒性試験に関するガイドライン

また、農薬の毒性試験の種類、試験方法などは国際的に調和がとれていることも重要です。農林水産省は1985年(昭和60年)、「農薬の安全性評価に関する基準」を作成し、登録に必要な各種試験の内容を具体的に示した通達、「農薬の登録申請に係る毒性試験の取り扱いについて」を出しました。なお、2000年(平成12年)に、医学、薬学または毒性学の技術進歩や国際的な動向を踏まえ、その内容の見直しが行われました。これが、「農薬の登録申請に係わる試験成績について」(平成12年11月24日付け12農産第8147号農林水産省農産園芸局長通知、最終改正平成20年3月31日)と呼ばれるものです。これにより、国際的に調和のとれた農薬の安全性評価がおこなわれるようになり、GLPに準拠して行われた試験成績であれば他国の機関で実施されたものであっても正式の試験成績として相互に認められることになりました。

直近の改正は「農薬の登録申請において提出すべき資料について」(平成31年12月29日付け30消安第6278号農林水産省消費・安全局長通知(以下6278号通知)、最終改正令和2年8月21日)で、必要となる試験の項目のみでなく、それぞれの試験について試験法が明示されています。大部分の試験法が経済開発協力機構(OECD)によって採択された試験法と同一あるいは同等の方法であり、日本の農薬の登録に必要な安全性試験は国際協調された方法で実施されていることになります。

GLP制度に基づく毒性試験を受託する試験機関は、国内外に数多くありますが、国内企業のなかには自社内でGLP制度に対応した毒性試験のできる組織、設備を設けているところもあります。

図1.農薬に関するGLP適合確認のしくみ
図.農薬に関するGLP適合確認のしくみ
参考文献
*日本植物防疫協会『農薬概説』
*日本農薬学会『農薬とは何か』1996、日本植物防疫協会
*農林水産消費安全技術センターホームページ農薬検査関係
http://www.acis.famic.go.jp/index.htm

(2021年1月)