農薬はどうして効くの?

農薬の種類や成分、製造方法、
農薬が効く科学的な仕組みなどについて

除草剤はどのように雑草を枯らすのでしょうか。

植物の生長に必要な光合成を阻害したり、植物ホルモンの撹乱、タンパク質や脂肪酸を作れなくしたり、細胞自体の分裂を抑えるなどして、結果的に生長が止まり枯れます。

今日使われている除草剤には、植物の生長や体の維持に欠かせない光合成を阻害する薬剤、植物の成長ホルモンを撹乱する薬剤、光の存在化で活性酸素を生成させる薬剤、タンパク質を構成するアミノ酸の生合成を阻害する薬剤、脂肪酸の生合成を阻害したり細胞分裂を阻害したりする薬剤などがあります。

雑草も作物も植物なので生理機能は基本的に同じです。したがって、除草剤の作用を雑草も作物も同様に受けると考えられます。雑草も作物も区別なく枯らす除草剤のことを非選択性除草剤といいます。一方、雑草と作物の間の微妙な選択性(感受性)の違いを利用して、雑草は枯らし、作物に対する影響は無視できる除草剤を選択性除草剤といいます。

[光合成の阻害]植物は太陽の光エネルギーを使って、光合成することにより二酸化炭素と水を酸素とデンプンに変えています。雑草も、この光合成産物から自分の体をつくります。光合成を妨げれば雑草の生長を阻害することができます。植物は自分の体内、たとえば根などに栄養を蓄えていますから、たとえ光合成を阻害されてもすぐには枯れず、光合成阻害型の除草剤の効き目はゆっくりと現れます。

[植物ホルモン作用の撹乱]これまで6種類の植物ホルモンが知られていますが、そのうちオーキシンは、幼い植物の伸長促進作用があり、挿し木の発根促進などに使われています。ジベレリンは植物の成長促進作用のほか種子や芽の休眠打破、ぶどうの種なし化などの作用があります。このように植物ホルモンは微量で生体の重要な働きを調節する作用を持っていますが、多すぎると反対に生理作用が撹乱され、植物の成長が乱れたり奇形を生じたりして、最後には枯れてしまいます。

[光の助けを借りた活性酸素の生成]肌の老化やがん発生を加速する悪玉として活性酸素が知られています。活性酸素は普通の酸素が電子を受取ったり、色素が存在する条件下で光を受けたりして、強い酸化力を持った酸素に変わったものです。植物は一般的に緑色のクロロフィルを有しており体内には酸素があるので、光を受けると活性酸素が発生しやすい条件にあります。しかし、実際には発生する活性酸素を体内の酵素で絶えず消去しながら生きています。従って、普通以上に活性酸素が生じるような条件を作り出す薬剤が使われると、その酸化力で雑草の細胞は破壊され枯れてしまいます。このタイプの除草剤は効果が速やかに現れる特徴があります。

[栄養代謝阻害]タンパク質は、生体及び酵素の構成要素であり、体内で重要な働きをしています。タンパク質はアミノ酸が繋がってできていますが、このアミノ酸の生合成が妨げられると雑草は枯れてしまいます。特に、人間が自分の体内に合成をする仕組みを持たず、植物のみが合成できる必須アミノ酸の生合成過程を阻害する薬剤は、ヒトへの影響が少ないため重要な存在です。アミノ酸と同様に植物は全ての脂肪酸を生合成しますが、動物は脂肪酸の多くを植物から摂取しています。脂肪酸の生合成を阻害することは、植物にとっては深刻なダメージになりますが動物にはほとんど影響がなく、選択性の高い除草剤として利用できることになります。

[細胞分裂阻害]細胞分裂は、生物の成長や世代の交代にかかわるあらゆる場面で必要な現象です。除草剤で細胞分裂に作用する薬剤としては、細胞分裂の際に形成される紡錘糸の基となる微小管の形成を阻害するものと、微小管の機能を妨害し細胞分裂を阻害するものがあります。

茎葉処理剤と土壌処理剤

除草剤には、すでに生長した雑草に散布して枯らすものや、まだ雑草が芽を出さないうちに土壌表面に散布して、雑草を生長させないものの二つに大きく分けられます。前者は「茎葉処理剤」、後者は「土壌処理剤」と呼ばれます。除草剤のなかには、この二つの性質を発揮する「茎葉兼土壌処理剤」もあります。

なお、雑草や作物は植物であり動物とは性質が生物学的に大きく異なるので、除草剤は一般にヒトへの影響は小さいと言えます。さらに、植物固有の生理機能に働くアミノ酸生合成、光合成あるいは植物ホルモン作用を阻害する除草剤は、よりヒトへの影響の少ない除草剤といえます。

参考文献
*日本植物防疫協会『農薬概説』
*松中昭一『農薬のおはなし』2000、日本規格協会
*松中昭一『きらわれものの草の話―雑草と人間』1999、岩波書店

(2022年9月)