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除草剤など農薬を使用すると土壌中の生物が死んでしまうのではないですか。
通常使用量なら影響はなく、一時的に減少しても短期間で回復します。長年の研究の結果、通常の使用量では影響がない、あるいは一時的に微生物数が減少しても短期間のうちに回復するという報告が得られています。
土の中では、細菌やカビ(糸状菌)から昆虫の幼虫やムカデ、ミミズなどさまざまな種類の生物が微妙なバランスを保ちながら生きています。それらは植物の根も含め、互に複雑に作用しあい、生態系の中で主として有機物の分解者として、土づくりに大きな役割を果たしています。土壌生物のうち、落ち葉や枯れ枝の多い森林ではミミズなどの小動物の働きが重要ですが、農耕地では、糸状菌、細菌、微小藻類などがより重要です。
プラスの影響もマイナスの影響も
農耕地の土壌には、土壌消毒用の殺菌剤が使われ、また、土壌処理殺虫剤、そして除草剤が直接散布されます。これらは対象となる病害虫・雑草はもちろんですが、農薬を分解する能力のある微生物も含めたそれ以外の生物に影響することが考えられたため、農薬の土壌環境に与える研究が永年にわたり行なわれてきました。
その結果、微生物数や微生物のもつさまざまな能力に対する影響について、マイナスの影響からプラスの影響まで幅広い結果が得られており、通常の使用量では影響がない、あるいは一時的に微生物数が減少しても短期間のうちに回復するという報告が得られています。
表は、土壌中の微生物に対する農薬の影響についての研究報告をまとめたものです。表中の数字が1より大きい場合は、プラスの影響を報告した例がマイナスの影響を報告した例の数を上回っていること、1より小さい場合はマイナスの影響の例がプラスの影響の例の数を上回っていることを示しています。
たとえば、肥料に含まれる窒素を植物が吸収できる亜硝酸態や硝酸態の窒素に変える硝化活性については、殺菌剤の場合、抑制的な結果が得られた場合が促進あるいは影響なしの結果のおよそ2倍あったことを示します。また、有機物の分解の活発さを示す土壌呼吸活性については、殺虫剤の場合、促進あるいは影響なしの結果が抑制的な結果の2倍あったことを示しています。
土壌中における微生物に及ぼす農薬の影響試験結果のまとめ
※スクロールにて全体をご確認いただけます。
微生物あるいは活性 | 除草剤 | 殺菌剤 | 殺虫剤 | その他 |
---|---|---|---|---|
細菌数 | 1.20 | 3.50 | 1.30 | 1.00 |
硝化 | 1.40 | 0.54 | 0.82 | 0.32 |
脱窒 | 1.82 | * | * | * |
根粒菌および根粒形成 | 0.94 | 1.00 | 0.78 | * |
非共生的窒素固定 | 1.65 | * | 1.75 | * |
糸状菌および放線菌 | 1.09 | 0.50 | 1.43 | 0.55 |
病原菌およびその拮抗菌 | 0.81 | 4.00 | * | * |
藻類 | 0.45 | * | * | * |
セルロースおよび有機物分解 | 1.31 | * | 1.10 | 0.62 |
土壌呼吸 | 0.91 | 0.40 | 2.00 | 1.40 |
その他の土壌酵素 | 1.70 | 0.44 | 2.00 | 0.66 |
窒素の無機化 | 1.74 | 1.30 | 1.84 | 1.20 |
農薬の影響を受けにくいミミズ
一方、ミミズは植物の遺体を土とともに飲み込み、多量の糞塊を出して土壌をよく混合し団粒構造の形成にも大きく貢献するので、土の「耕作者」と呼ばれています。農薬を使用するとミミズが死ぬというイメージがありますが、土壌中の小動物のうち、ミミズ類は昆虫より農薬に強く、あまり影響を受けないものの一つです。このほかフシトビムシを除いたトビムシ類、コムカデ類は農薬に強い種類です。反対に農薬に弱いものは捕食性のダニ、ヤスデモドキ類、フシトビムシ、ハエの幼虫などです。しかし、捕食性ダニ(天敵)の数は、短期間で回復することが知られています。
農薬の影響は、その動物の種類や農薬の種類によっても違い、さらに土壌中の小動物はさまざまな関係をもって生きているので、農薬の使用によって捕食性のダニが減るとそのえさとなっていたトビムシ類が反対に激増することなども起きます。
一般に、農薬は土壌粒子に吸着されやすく表層に留まるので、定められた使用をしている限り土壌中のミミズやモグラに影響を与えないことが知られています。たとえば畑地に厩肥を入れた場所では10アール当たり25万匹、入れない場所では3000匹だったという報告もあります。また、農薬を使用しても土壌の肥沃度は変わりませんし、次の年の作物に影響が出ることもありません。もし、地力の低下があるとすれば、それは堆厩肥の施用や土壌改良作業の減少によると考えられます。
(2017年5月)