そのまま食べても大丈夫?

残留農薬や食品における安全基準などについて

ポストハーベスト農薬の方が残留しやすいのですか。

残量基準値に基づき健康に影響がでないよう管理されています

収穫された農産物の輸送や貯蔵中における病害虫による被害防止のために、収穫後に農薬を使用することがあります。このような農薬をポストハーベスト農薬と呼びます。収穫後に農薬を処理すると残留量は当然多くなるのですが、この場合でも食物や農産物の農薬残留量には基準値が設定してあり、健康に影響がでないように管理されています。

注)ポストハーベスト(postharvest)のpostは英語で「~の後で」、harvestは「収穫」の意味があります。

収穫された農産物は、輸送や貯蔵中にも虫の害を受け、また腐敗、微生物の発生による汚染や植物の発芽などにより品質が落ち、場合によっては商品価値がなくなることがあります。

こうした被害を防ぎ、品質を保持し価格の高騰を防いで農産物を安定供給するために、収穫後に農薬を使用することがあります。このような使い方をポストハーベスト使用、収穫後使用を認められている農薬をポストハーベスト農薬といいます。

日本では保管のためのくん蒸剤だけ

日本では、ポストハーベスト農薬は、植物検疫で海外から輸入される農産物の害虫駆除に使用される臭化メチル、シアン化水素、リン化アルミニウムなどですが、貯蔵穀物の害虫駆除のためにリン化アルミニウムを使うことがあるのを除き、現在、国内農産物にくん蒸剤が使われることはありません。

一方、果物などに腐敗防止(保存)のために農薬と同じ成分の薬剤が処理されることがありますが、この場合には食品衛生法による食品添加物として扱われるため、食品添加物としての残留基準が定められ規制されます。食品添加物として指定されている防かび剤には、オルトフェニルフェノール、チアベンダゾール、イマザリルなどの殺菌剤が含まれています。

アメリカなど諸外国では、大量・長期貯蔵、長距離・長時間輸送の必要からポストハーベスト農薬の使用が、穀物、果実などに認められています。しかし、常に農薬が使われるのではなく、穀物の場合は夏を越すものに殺虫剤が使われ、野菜や果物も消費者に届くまで時間がかかるものに殺菌剤が使われています。じゃがいも(ばれいしょ)の発芽抑制剤も常に使われるわけではありません。日本向けに輸出される穀物は輸送ルートによっては夏を越すのと似た条件になるので、ポストハーベスト農薬が必要になるといわれます。

消費の段階での残留農薬の規制へ

ポストハーベスト使用は、消費者のもとに届くまでの期間が短い場合や、倉庫に貯蔵されるなど、日光や雨、風の影響による農薬の分解が進まない場合には、残留が多くなるといわれます。また、残留農薬についても国際的ハーモナイゼーションが進み、日本でも、何種類かの農薬の残留基準が国際基準にあわせ緩和されたことなどから、農薬のポストハーベスト使用への不安を訴える消費者の声が出ていました。

しかし、農薬の残留と健康へ影響について、冷静に考えれば、食物が人間の体内に取り込まれる時にどのくらい農薬が残留しているかが最も重要なことは明白です。その残留量を問わず、収穫前に使用されるか収穫後に使用されるかで農薬を区別することは、あまり意味がないといえます。

たとえば、アメリカでは、ポストハーベスト処理が認められている農薬については、ポストハーベスト処理に対応した残留基準を定めるという対応をとっています。また、カナダ、オーストラリア、EUなどでは農薬の使用、さらに残留の規制を、収穫前と収穫後で区別しないで、消費の段階で食品に最終的に残留する農薬を規制するという立場をとっています。このように、世界的には、農産物貿易の広がりを背景に、農薬の使用方法・時期による制限、規制の方式から、消費の段階での残留の規制をする方式に移る傾向にあります。

ポストハーベスト農薬への不安の背景には、海外からの大量の農産物輸入があります。その不安の本当の解消方法は、輸入農産物に使われる農薬について残留基準値の設定を進め、食品の安全チェックを充実することにあると考えられます。そのことから、厚生労働省の全作物への残留農薬基準の設定作業が進められました。2003年の食品衛生法の抜本的改正により、2006年5月29日にポジティブリスト制が導入施行され、農薬残留基準が設定されていない農薬が一定量以上含まれる商品流通が原則禁止されることになりました。

表.穀物類にポストハーベスト使用が認められている農薬の残留基準値(単位 ppm)

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農薬名 国際基準
Codex MRL
(FAO/WHO)
アメリカ カナダ EU オースト
ラリア
日本
マラソン 0.2(小麦粉) 8(米・穀粒、小麦・穀粒、大麦・穀粒) 8(生の穀物類) 8(穀物類)8 8(穀物類・穀粒) 米0.1
小麦10
大麦2
アレスリン 2(小麦・穀粒、大麦・穀粒)
臭化メチル
(臭素として)
50(米、小麦、大麦) 50(穀物類) 50(穀物類・穀粒;臭化メチルとして) 米50
小麦50
ピペロニルブトキシド 30(穀物類・穀粒) 20(米、小麦、大麦) 20(生の穀物類) 20(穀物類・穀粒) 米24
小麦24
大麦24
ピレスリン 0.3(穀物類・穀粒) 3(米、小麦、大麦) 3(生の穀物類) 3(穀物類) 3(穀物類・穀粒) 米3
小麦3
リン化アルミニウム 0.1(穀物類・穀粒;リン化水素として) 0.1(米、小麦、大麦) 0.1(穀物類) 0.1(穀物類・穀粒) 米0.1
小麦0.1
(リン化水素として)
リン化マグネシウム 0.1(穀物類・穀粒;リン化水素として) 0.1(米、小麦、大麦) 0.1(穀物類) 0.1(穀物類・穀粒) 米0.1
小麦0.1
(リン化水素として)
クロルピリホスメチル 10(小麦) 6(米、小麦、大麦、ポストハーベスト使用でない) 3(穀物類) 10(穀物類・穀粒、米を除く) 米0.1(2022.5.12まで)
小麦0.5
フェニトロチオン 10(穀物類・穀粒) 0.5(穀物類、暫定) 10(穀物類・穀粒) 米0.2
小麦1
メタクリホス 0.05(穀物類)
ピリミホスメチル 7(穀物類・穀粒) 8(小麦粉)(小麦への使用は認められていない) 5(穀物類) 2(玄米)
10(小麦)
7(大麦)
米0.2
小麦1
ジクロルボス 5(穀物類・穀粒) 0.5(腐りにくい生の農産物) 2.0(高脂肪含量の腐りにくい包装食品)
0.5(低脂肪含量の腐りにくい包装食品)
0.01(穀物類) 5(穀物類・穀粒) 玄米0.2
小麦0.2

出典:

  • Codex MRL(Pesticide Residue in Food(Maximum Residue Limits; Extraneous Maximum Residue Limits, Last update 9 April 2008))、アメリカ(CFR Title 40(Protection of Environment)-Chapter 1, Part 180 Tolerances and Exemptions from Tolerances for Pesticide Chemicals in Food)、カナダ(Health Canada’s List of MRLs Regulated under the PCPA, 3 September 2008)、EU(Pesticide EU-MRLs Database, Update 6 January 2009、オーストラリア(The MRL Standard, Maximum Residue Limits in Food and Animal Feedstuff, October 2008)、
  • 日本(残留農薬基準値2021年10月現在)、東京都生活文化局消費生活部「収穫後使用の農薬に関する調査」(その2)2001年
    注:基準値にポストハーベスト使用が明記されているものは、Codexとアメリカの基準のみ。
参考文献
*東京都生活文化局消費生活部「収穫後使用の農薬に関する調査」(その2)2001年、p1,P93~96
*「食品の安全性に関する用語集(平成25年7月版)」p112、食品安全委員会ホームページ、
https://www.fsc.go.jp/yougoshu/visual_yougosyu_fsc_5_201307.pdf

(2022年3月)