農薬工業会について

ニュースリリース

米国小児科学会、世界保健機関、国際産婦人科連合からの報告について(農薬工業会の見解)

2020年2月17日

 国連食糧農業機関(FAO)は、このほど「国際植物防疫年2020」の開始を宣言しました。世界の食用作物の最大40%が害虫・病害・雑草によって失われ、何百万人もの人々が飢餓に直面しています。そのため、作物を害虫・病害・雑草から守るための政策の促進と行動を行うことを呼びかけています。
 作物を害虫・病害・雑草の外敵から守るためには、化学農薬による化学的防除、生物農薬(害虫の天敵昆虫等)による生物的防除、抵抗性品種の利用や栽培方法の工夫による耕種的防除、あるいは防虫ネットの利用や太陽光による土壌消毒などによる物理的防除など様々な方法があります。作物の栽培方法や病害虫の発生状況に応じて、最適な防除方法が選ばれることになりますが、化学農薬も、大切な防除手段の一つです。
 化学農薬は、その製品を使う人や消費者にとって十分に安全でなければなりません。また、環境にとっても影響が最小限である必要があります。さらに、確実に効果がなければなりませんし、農業者にとって使いやすいものにする必要もあります。費用対効果もなければ、農業者は使いません。これらを実現するため、農薬製造企業は幅広い分野の科学を活用しています。
 農薬製造企業は、製品の開発上市までに、経済協力開発機構(OECD)等の国際的組織で認められた最新の試験方法等により自らの製品のヒトに対する安全性や環境に対する影響を確認し、責任を持って安全性が高く効果のある製品だけを世の中に提供しています。
 さらに、日本で登録され使用される個々の農薬については、農薬取締法に基づいて国が厳格な安全性の審査を実施し、適正な使用と相まって国民や環境へのリスクは管理されている状況にあります。

 最近、農薬の使用が国民の健康に悪影響をもたらしていると指摘する記事等に、米国小児科学会(AAP)「子供の農薬暴露」(2012年)、世界保健機関(WHO)「内分泌かく乱化学物質の科学の現状2012年版」(2012年)、国際産婦人科連合(FIGO)「有害環境化学物質への暴露が生殖に与える健康影響についての意見」(2015年)が引用される例が散見されています。しかし、残念なことに、各報告を曲解した引用記述が目立ちます。
 そこで、日本における農薬の安全性評価の状況や、各報告に書かれている内容を、農業者や消費者の皆様に知って頂くことを願って、農薬工業会の見解を作成いたしました。

1.日本における農薬の安全性評価の状況

 農薬は農薬取締法に従ってその販売を開始する前に農林水産大臣の登録を受ける事が義務付けられています。登録に際しては、農林水産省が他府省とも連携して、ヒトの健康や環境への影響など様々な分野における安全性に関する審査が実施されますが、ここではヒトの健康に直接関わる、内閣府食品安全委員会が行う「食品健康影響評価」と厚生労働省が行う「残留農薬基準の設定」について説明いたします。

(1)食品安全委員会による食品健康影響評価 https://www.fsc.go.jp/hyouka/  2003年に施行された食品安全基本法に基づき2003年7月1日、内閣府に食品安全委員会が設置されました。国民の健康の保護が最も重要であるという基本的認識の下、規制や指導等のリスク管理を行う関係行政機関から独立して、最新の科学的知見に基づき客観的かつ中立公正にリスク評価を行う機関として設置されたものです。
 農薬については、短期や長期の毒性試験、繁殖への影響や催奇形性評価の結果に基づき、管理された使用方法を前提に、ヒトへの安全性について問題がない、と判断された場合に、ヒトが一生涯毎日摂取しても影響の出ない量として許容一日摂取量(ADI)、短期間に摂取しても影響の出ない量として急性参照用量(ARfD)を設定しています。透明性を確保するために評価結果や検討した会議の議事録をホームページに公表しています。食品安全委員会が行うこれらの評価方法や試験成績に求める要件は基本的に国際機関や欧米等先進国のそれと同等です。
 また、これらの評価対象となる試験成績は国際的な標準として認められたOECDテストガイドラインに準拠したものです。試験については同じくOECDのGLP*基準に適合していることが確認された信頼性の高い施設での実施が求められています。
*優良試験所規範:Good Laboratory Practiceの略で、化学物質等の安全性試験を行う試験施設に対する認証・監査制度

(2)厚生労働省における残留農薬基準の設定 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/index.html厚生労働省の薬事食品審議会では、農薬が残留する可能性のある全ての食品からの総農薬摂取量または一日に摂取する最大量が食品安全委員会の設定したADIあるいはARfDを超えない範囲で、各食品の残留農薬基準を設定しています。この基準は、食べる量や嗜好等を考慮して、国民全体、幼少児、妊婦などの何れのグループでも許容量を超えないよう規定されています。
 この基準設定の考え方はOECD諸国や国際的な手法と整合していますが、食文化の違いに基づく食品毎の摂取量の違い、栽培方法や気候の違いに基づく農薬使用方法の違いにより、作物が同じでも国毎に異なる残留農薬基準となる場合があります。
 重要なのは、総農薬摂取量等がADIやARfDを超えないことであり、個々の食品の残留農薬基準の大小でその国の安全政策に優劣が付くものではありません。
 ちなみに、厚生労働省が全国的に実施しているモニタリング試験の結果では、何れの農薬でもその摂取量はADIの数パーセントの範囲にとどまっています。

2.米国小児科学会の報告について

https://pediatrics.aappublications.org/content/pediatrics/130/6/e1757.full.pdf

 米国小児科学会(AAP)「子供の農薬暴露」(2012年)は、農薬暴露が健康被害を起こすという勧告ではなく、小児科医には農薬への理解を深めるための教育の必要性を訴え、米国規制当局には農薬の食料安定生産などへの貢献と考えられうるリスクとのバランスを取りながら、小児の農薬暴露を低減するための公共政策をとるよう、提言しているものです。
 なお、報告は特定の集団における病気の発生状況とそれらに影響を与える可能性のある要因を調べて、両者の関連性を推定する疫学研究に基づくものであり、因果関係が証明されて、農薬により小児の健康被害がもたらされた、と判断したものではありません。
 現在日本で登録されている農薬については、前述の様に幅広い毒性試験が実施され、小児や妊婦への影響も考慮した安全性評価が実施され安全性が確認されています。

3.世界保健機関の報告について

https://www.who.int/ceh/publications/endocrine/en/

 世界保健機関(WHO)「内分泌かく乱化学物質の科学の現状2012年版」(2012年)は、農薬を含む多様な化学物質がヒトや環境に与える影響の一側面として内分泌かく乱物質(環境ホルモン)が注目されていることから、学術情報及び懸念される主要な問題をまとめて公表したものです。農薬全体や個別の農薬を否定することを意図したものではありません。
 1998年から2004年にかけて、環境省によって化学物質(農薬を含む65物質)の内分泌かく乱作用の有無について検討されましたが、ヒトへの内分泌かく乱作用が明確な物質は確認されませんでした。現在日本で登録されている農薬については、前述の様に次世代への影響を評価する繁殖毒性試験を含む幅広い毒性試験が実施され安全性が確認されています。
 また、本報告の中で農薬として分類されている物質は、有機塩素系農薬等の旧世代の農薬であり、日本をはじめ他のOECD諸国でも現在は使用されていないものです。

4.国際産婦人科連合の報告について

https://www.figo.org/sites/default/files/uploads/News/Final%20PDF_8462.pdf

 国際産婦人科連合(FIGO)「有害環境化学物質への暴露が生殖に与える健康影響についての意見」(2015年)は、多くの文献を引用して「大気汚染物質、有機溶剤、医薬品や農薬などの有害環境化学物質への暴露による害を防ぎ、すべての人に健康的な食物システムを確保することを推奨する」と記述しています。しかし、引用されている農薬の場合、主張の多くを実際の農薬使用条件下では起こりえない試験の結果に因っています。例えば、化学物質の体への影響は、暴露量(摂取量)により大きく変わるのに、試験動物に人間の食生活から考えると非現実的なほど大量の農薬を与えた実験結果を根拠としているなどです。また、現在は使用を認められていない旧世代農薬による実験結果の引用など、問題が数多くあります。一方、現在登録されている農薬の影響を示唆する明確なデータは示されていません。
 現在日本で登録されている農薬については、前述の様に次世代への影響を評価する繁殖毒性試験を含む幅広い毒性試験が実施され安全性が確認されています。