一般向け

農薬ゼミ

知ってるようで知らない、農薬の話。(名古屋)

講座プログラム

開催日時

:2015年2月28日(土)13:00~15:30

第一部

:「農薬とは何?」
(解説者:浅見 忠男 教授)

第二部

:「農薬の安全性」
(解説者:青山 博昭 氏)

参加者

:249名

今回のお話は、この方たちと。

  • 浅見 忠男 教授の写真

    【パネリスト】
    東京大学
    農学生命科学研究科
    農学博士
    浅見 忠男 教授

  • 青山 博昭 氏の写真

    【パネリスト】
    (一財)残留農薬研究所
    理事 毒性部長
    農学博士
    青山 博昭 氏

  • 八木 輝治 さんの写真

    【生産者】
    有限会社鍋八農産
    代表取締役
    八木 輝治 さん

  • 名古屋市中小企業振興会館(吹上ホール) 7F

    【会場】
    名古屋市中小企業振興会館
    (吹上ホール) 7F

【司会】 フリーアナウンサー 松田 朋恵 さん

  • 第一部
  • 第二部
  • まとめ
  • 質疑
    応答
  • 参加者
    の感想

第一部:「農薬とは何?」

(解説者:浅見 忠男 教授)

最近は食の安全を脅かすニュースが毎日のように耳に入ってきます。食卓の安心・安全は、家庭の主婦の大きな感心事です。今日のゼミで農薬の基礎知識をしっかりと学んで、毎日安心して農産物をおいしく食べていただけたらと思います。第一部は、「農薬とは何か」について浅見先生からお話しをうかがいます。

農薬は、農作物にとって不可欠なもの。

農地は、さまざまな植物や生物が共存する自然の状態ではなく、人間が食べる農作物を作るための人工の環境です。おいしさや栄養、収穫量などを優先して改良された農作物は、人の手を借りないと育つことができないため、農地のような特別な環境が必要になります。栄養たっぷりのおいしい農作物は、害虫に狙われやすく、病気になりやすい弱い存在。農地のような特別な環境に加えて、農薬や肥料を使わないと、収穫量が減り、品質のよいものは作れません。つまり農薬は、農作物を保護するために欠かせないものなのです。

会場の様子1(第一部)

もし農薬がなかったら、米の収穫量は?

農薬を使わない場合、米の収穫量はどの程度減ってしまうでしょうか?答えは、約2割減。「なんだ2割か」と思われるかもしれませんが、日本の米の収穫量が2割減ったら大変なことになります。一方、りんごは出荷できるものはほぼ皆無となり、収穫量が約9割減ります。りんごは品種改良を重ねた甘くておいしい果実です。もし農薬を使わずに栽培したら、害虫に食べつくされてしまいます。農作物により程度の差はありますが、無農薬で作るとすると、市場に流通できる農作物は激減してしまい、非常に高価になります。農薬がなければ農家の方々は計画通り出荷できなくなり、生計が成り立ちません。私たち消費者も、農産物を豊富に安く口にすることができなくなってしまいます。

農薬の安全性は、国が厳しくチェック。

農薬は国の審査をパスしたものだけが登録され、製造・販売・使用できる仕組みになっています。農薬が登録されるまでには、農薬メーカーが多くの安全性試験を実施します。その結果を農林水産省、厚生労働省、環境省、内閣府食品安全委員会、消費者庁が多面的に評価し、人の健康や環境などに影響のないものだけを農薬として認めることになっています。農薬の使用状況については、毎年全国から野菜、果樹、米などを作る4,000農家を無作為に選び、地方農政事務所の職員が農薬の使用状況をチェックしています。また輸入農産物については公的機関が残留農薬を検査し、違反品は出荷停止や回収、廃棄などの処分を行っています。このようにして、農薬は製品の安全性と使用方法の両面から厳しくチェックされています。

会場の様子2(第一部)

第二部:「農薬の安全性」

(解説者:青山 博昭 氏)

第二部は、農薬の安全性や残留農薬について勉強しましょう。農薬の安全性について長年研究している残留農薬研究所の青山先生にお話をうかがいます。また、農薬を実際に使ってお米を生産している地元愛知県の八木さんにも、後ほど登場していただきます。

農薬の安全性の評価。

農薬の安全性を評価するためには、農薬が持っている毒性と、それを摂取する量の掛け算をするのが基本です。強い毒性があっても、微量摂取であればリスクは小さく、逆に弱い毒性のものでも大量に摂取するとリスクが大きくなります。フグは強力な毒がありますが、食べる機会がなければリスクは0です。農薬の安全性試験は動物実験で行います。試験は農薬を使う生産者を想定し、散布中に吸い込んだ場合や皮膚に付いた場合など、急性毒性について8種類。農作物を口にする消費者を想定し、中長期の毒性を調べる項目が8種類。そのほか環境への影響を調べる試験なども行います。農薬を製品化するためには最低27種類の試験を実施し、すべてのデータを国に提出して、審査を通過したものだけが農薬として登録されます。試験の中には、子どもや孫の代への影響を調べる項目も含まれています。

残留農薬はもう過去のもの。

現在の農薬のほとんどは、人の身体に入っても蓄積せずに、ほとんどが分解されてしまいます。植物に吸収された農薬は二酸化炭素や水といった無害な物質に分解され、植物の葉に付いた農薬は太陽光の熱で蒸発します。葉や根から吸収された農薬は、植物が持つ酵素によって分解されます。万が一、我々の身体に入ったとしても、ほとんど影響はありません。なぜなら人体に残っても影響がないレベルで、農薬の使用回数や使用量が定められているからです。動物実験から得られた無害なレベルに、さらに1/100の安全率(これは安全係数といいます)を掛けて、その農薬を一生涯摂取しても影響がない量が決められています。これをもとに残留農薬基準が設定されていますから、人体への影響は皆無といっていいでしょう。

会場の様子1(第二部)

選択性の違いという安全性。

農薬の安全性を高めるもう一つのキーワードが選択性の違いです。選択性とは、ラットやマウスといった実験に使われる哺乳動物と、イエバエなどの昆虫の間で、その農薬の効果が出る量の差です。昔の農薬はイエバエには0.9mg/kgの量で、ラットには3.6mg/kgの量で効きました。この場合の選択性は4倍。現在のある農薬はイエバエには0.7mg/kg、ラットには1500mg/kgが致死量となっており、選択性は2000倍以上になっています。つまり、選択性が高くなっているため、少ない薬量で害虫の防除が可能となり、しかも人体にはほとんど影響がありません。仮に何かの間違いで口にしてしまった場合でも、意図的に大量に摂取しない限り健康に影響は及ぼしません。

生産者・八木さんの話。

私は父親から農業を受け継いだ2代目で、有限会社という形で農業を経営しています。農地は水稲が130ヘクタール、麦が30ヘクタールなど、名古屋ドーム約100個ぶんの面積があります。農薬の使用で気をつけているのは使用方法です。無駄に農薬を使わないよう、メーカーが決めた使用方法、使用量を遵守しています。それが一番効率的だからです。行政の指導のもと、抜き打ち検査という形で、残留農薬の検査を定期的に行っていますが、検査にひっかかるようなことはありません。私たちは農業のプロフェッショナルで、本気で農業をやっています。ときどき、農家は自分たちが食べるものを特別に作っていると言われることがありますが、私たち生産者は消費者の一人です。より安全なものを厳しい検査のもとに作って、消費者の皆さまに出荷し、自分たちも同じものをおいしくいただいています。

会場の様子2(第二部)

まとめ

最後に今日のゼミのポイントを浅見先生にまとめていただきます。

食の安全・安心を考えるうえでの3つのポイント

本日のゼミで学んでいただきたいのは、食の安全・安心について大切な3つのことです。1つ目は、食べるものが十分にあること。食の安心という面で食べ物が十分にあることが基本です。世界の人口は2050年に96億人になると予想されており、その時どのように食料を確保するかが大きな課題です。2つ目は、リスクという考え方。ワインは1杯ならば健康にいいでしょうが、飲み過ぎると毒になります。フグには強力な毒がありますが、食べる機会がなければリスクは0です。体にいい悪いは、摂取する量で変わります。この危険度のことをリスクと呼びます。食べものの中にほんのわずかしか残留しない農薬のリスクはほとんど問題にはなりません。3つ目は、確かな情報に基づいて考えること。農薬や食品の安全性については、行政機関が情報を公開していますので、参考にして下さい。確かな情報を集めて、食の安心・安全について自分自身で考える習慣を身につけることが大切です。以上3つを学び、より安心して楽しい食生活を送っていただければと思います。

イベント資料

こんな質問がありました

Q皮などをむかずに食べると農薬が体の中に入ってしまうのですか? 
<10代男性>

A

青山先生の写真(小)

青山先生

今日のゼミでお話したように残留農薬は、もともと健康に及ぼす量ではないので、皮のまま食べても問題ありません。どうしても気になるようなら、水でざっと洗ってください。そうすれば汚れなどもいっしょに流せます。

Q有機野菜と、無農薬野菜は同じですか?
農薬を使用したものと栄養的に違いがありますか? 
<40代女性>

A

浅見先生の写真(小)

浅見先生

有機野菜は、無農薬野菜とは違います。有機野菜というのは、決められた農薬は使ってもいいことになっています。無農薬は法的には決まっていないのですが、まったく何も農薬を使わないものを指していると思います。有機野菜と農薬を使った野菜の違いは?というご質問ですが、味に差はないという調査データがあります。

Q外国産の果物には農薬が残っているのですか? 
<30代女性>

A

青山先生の写真(小)

青山先生

海外から入ってくる輸入農産物は、必ず抜き取り検査が行われ、残留農薬がチェックされています。基準値を超過している確率は、実際のところ国内産の検査結果とほとんど差がありません。ですから輸入品だからという意識はもたなくてもいいと思います。

Q農薬に使用時期があるのはなぜですか?
農家の方は本当に守っていますか? 
<30代女性>

A

浅見先生の写真(小)

浅見先生

農薬の使用方法の中で使用時期が決められています。作物ごとに虫が集まりやすい時期がありますから、その時期に農薬を散布する必要があります。有効でない時期に、農薬を散布しても効果がありませんから、きちんと効果のある時期に散布しましょう、ということです。

八木さんの写真(小)

八木さん

使用時期を守るのは農家にとってあたり前のことです。虫がいない時期に散布しても費用がかかるだけでもったいないです。農薬ラベルの使用方法に書いてある時期は必ず守るようにしています。

生産者として伝えたい事

生産者の代表として、八木さんから「伝えたいこと」というお話がありました。

八木さんの写真(小)

八木さん

農薬の使用方法をしっかり守って、おいしいお米を作っていきたい。

愛知の地元でも年々農業の後継者が減ってきています。一方で私たちのように、安心・安全をテーマにおいしいものを消費者に届けたいと日々努力している農家もたくさんあります。作物の栽培方法はさまざまで、有機農法もありますが、専業でやっている農家では経営が成り立ちません。農薬を使うことで、安心・安全な作物を効率よく作ることができます。反対に農薬を使わないと、農地が荒れ放題になってしまうことも。大切なのは、使用方法をしっかり守りながら、効果的に農薬を使っていくことだと思います。そうすることでより多くの皆様に、国内産のお米をおいしく召し上がっていただくことができます。ぜひ一度、愛知のお米を食べていただき、もしおいしかったらほめてください。それが農家にとって、一番うれしいことですから。

参加者の感想

専門家の立場から説明していただき、理解し安心することができた。
(女性、60歳以上、無職)

土曜日だと参加しやすかったです。このような機会がないと勉強できないので助かりました。
若い人は農薬=怖い、体に悪いというイメージがあると思うので、まわりにも用量・方法を守れば怖くないということが伝わればいいなと思います。
(女性、20代、会社員/公務員)

テキストの最後の『よくある質問』Q10は私の知りたかったことが集約されており、家で読み返します。
勉強になりました。来てよかったです。
(女性、50代、専業主婦)

土曜日は参加しやすいと思います。知っているようで知らなかったこともあり大変有意義でした。
(女性、60歳以上、無職)

皆さんのお話がとても聞きやすくわかりやすかった。DHMOのことがとても気になったまま……です。
(女性、30代、パート/アルバイト)

初めて参加させていただきましたが、主婦として食品を選ぶ目安を安全においているので、色々勉強になりました。
(女性、60歳以上、専業主婦)

農薬は害と思っていましたが、話を聞いて安心しました。
(女性、60歳以上、パート/アルバイト)

平日は仕事のため、土曜日の開催は実にありがたかったです。まだまだ理解を広めるためにも、2回3回と続けてほしいです。
(女性、40代、会社員/公務員)

リスクありなしではなく、大きいか小さいかということが重要であることがよくわかりました。
(男性、40代、会社員/公務員)

高価な無農薬野菜を買う必要がないことがわかりよかった。国産野菜を食べたいと思います。
(女性、50代、専業主婦)

ほとんど農薬についての知識がありませんでしたので、今日は話を聞けてよかったです。
(女性、60歳以上、専業主婦)

農薬の"毒"というイメージは、一世代以上前のものによって刷り込まれたものだと分かっても、農薬の言葉のイメージはそうそうよくならないような気がします。
(女性、30代、会社員/公務員)

土曜で託児所もあり、よかったです。安い野菜でも安心して買えそうです。ありがとうございました。
(女性、40代、専業主婦)

託児所もあったので、安心してゼミに参加することができました。
(女性、30代、専業主婦)

今回のお土産

今回のおみやげ 旬の味覚「イエローミニトマト」

よくある質問

農薬工業会では、消費者の皆さんに農薬のことを理解してもらうため「農薬ゼミ」などを開催しています。
そこでは毎回様々な質問が寄せられています。その中から、「よくある質問」についてお答えします。