【パネリスト】
女子栄養大学
栄養生理学研究室教授
栄養学博士
上西 一弘 先生
「JCPA農薬工業会」は、
「クロップライフジャパン」に名称を変更しました。
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教職員向け
教育関係者セミナーレポート
「食と未来の教え方」
講座プログラム
●開催日時 |
:2023年7月29日(土)13:30~16:20 |
---|---|
●第1部 |
:「骨太人生を目指そう」 |
●第2部 |
:「ほんとうの“食の安全”を考える」 |
●参加者 |
:53名 |
今回の講師は、この方たち
【パネリスト】
女子栄養大学
栄養生理学研究室教授
栄養学博士
上西 一弘 先生
【パネリスト】
国立医薬品食品衛生
研究所安全情報部長
薬学博士
畝山 智香子 先生
【会場】
TKPガーデンシティ
仙台
【司会】 茂野 えり子さん フリーアナウンサー、栄養士
講師の先生方を迎えて「食育」をテーマに解説していただく学校教職員対象のセミナー「食育を科学的に考える」を仙台市で開催しました。
今回は女子栄養大学栄養生理学研究室教授で栄養学博士の上西一弘先生と国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長で薬学博士の畝山智香子先生を講師に招き、第1部では「骨太人生を目指そう」として骨を豊かにするための生活や食事について、第2部の「ほんとうの“食の安全”を考える」では食品の安全に関する考え方や捉え方について解説していただきました。
仙台市を含む宮城県だけでなく、東北地方のさまざまな地域から多くの方に参加していただいた今回の学校教職員対象のセミナー。講師の先生方もオンライン配信では感じられなかった会場の反応などを受けて楽しそうに講演され、教育現場で食育を科学的に考えるためのアドバイスを行いました。
(講師:上西 一弘 先生)
徳島大学大学院栄養学研究科修士課程修了。雪印乳業生物科学研究所を経て女子栄養大学に勤務し、2006年4月より現職。栄養生理学、骨の健康と栄養、身体測定とライフスタイルをあわせた栄養評価、スポーツ選手の栄養アセスメントとそれに基づく栄養サポートなどが専門で、日本栄養改善学会の理事なども務めている上西先生に、骨とカルシウムの働きや骨を豊かにするための生活などについて解説していただきました。
私が骨のお話をするときに、いつも最初に見ていただく「體」という漢字があります。これは骨に豊かと書いて「からだ」と読みます。そして骨が豊かでなくなってしまった状態が「骨粗鬆症」です。骨粗鬆症の「鬆」は「す」と読みます。大根に鬆が入るというときの鬆なんです。骨が粗くなって鬆が入ったような状態。それが骨粗鬆症で、「骨密度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と定義されています。
骨粗鬆症になると骨が粗くなるので、例えば背骨が骨粗鬆症になると脊椎の圧迫骨折が起きやすくなります。折れるのではなく潰れてしまう。そのため背が低くなるので、毎年の健康診断などで3cm以上身長が縮んでいたら、検査を受けることをおすすめします。
人間の体内のカルシウムは成人男性で1kg、成人女性は700gほどで、その99%は骨や歯に存在します。カルシウムには、骨を作る、筋収縮の調整、神経細胞機能の調整、分泌の調整といったさまざまな働きがあり、私たちの体のさまざまな機能を調整しています。心臓が脈打っているのもカルシウムのおかげで、カルシウムがないと私たちは生きていけません。そして骨には、体を支える、重要な臓器を保護する、造血といった働きに加えて、カルシウムの貯蔵庫としての大きな役割があります。
カルシウムは尿から毎日一定量が放出されてしまうので、補給しないとカルシウム不足になってしまう。そのようなときは骨に蓄えられているカルシウムが使われます。そのため骨からカルシウムが取り出され続けると、骨が粗くなっていき骨粗鬆症になってしまう。若い時に貯蔵庫を大きくし、しっかりとカルシウムを貯めておくためには、成長期に骨量を増やしておくことが大切です。
男子は中学校の3年間、女子は小学校高学年から中学校にかけてが骨量の獲得に大事な時期で、この時点で成人の平均値に一気に近づきます。そして成人期にはもう骨量は増えず、男性女性ともに45歳頃から減り始め、特に女性は45〜55歳くらいにかけて閉経期に骨量が大きく減ってしまう。そのまま女性は65歳くらいから、男性は85歳くらいから骨粗鬆症になっている可能性が高まります。骨量を増やすことができない成人期以降は、骨に貯蔵されたカルシウムの減少をできるだけ抑え、そして骨折をしない生活をすることが重要になります。
骨量を高めて維持するためにはどうしたらいいのか。カルシウムを多く摂取する前に、まずはバランスの良い食事を心がけて全身の栄養状態を良くすることが必要です。その上で骨の材料となるカルシウムやビタミンDを充分に摂取し、さらに運動などで骨に刺激を与えましょう。運動はスポーツではなく、階段の上り下りなど日常生活の中で身体活動量を増やすだけでも効果があります。
カルシウムを多く含む食品は、牛乳・乳製品、骨まで食べることのできる小魚、緑黄色野菜、大豆・大豆製品です。牛乳だけ飲むのではなく、いろいろなものから少しずつカルシウムを摂取しましょう。しかしそれでも牛乳はカルシウム摂取量が多く、加工せずにそのまま飲めるので子供たちが口にしやすいというメリットがあります。小学校・中学校では給食で牛乳を飲んでいたものの、給食がなくなる高校生になると牛乳を飲まなくなることはデータに現れているので、高校生の子供がいる家庭ではいつでも飲めるような環境を作ってください。子供たちの骨の鍛え方、それはしっかり食べて、しっかり遊んで、しっかりよく寝る。規則正しい睡眠を取ることも、成長ホルモンの分泌のために大事です。
成人期や高齢期は、骨と筋肉に関わる栄養素のビタミンDを魚から摂取しましょう。そして骨質に大切なビタミンKの摂取には納豆がおすすめです。カルシウムも含めて、食生活を大きく変えることは難しくても、少しずつ何かを取り入れていくことはできると思います。
(講師:畝山 智香子 先生)
東北大学大学院薬学研究科博士前期課程修了。1988年より国立医薬品食品衛生研究所病理部、2003年より安全情報部に勤務し、2016年8月より現職。「食品安全情報blog」では世界各地からの食品や健康に関する情報を発信している畝山智香子先生に、食品の安全に関する考え方や情報の捉え方について解説していただきました。
まず最初に食品の定義ですが、「食品とは人間が生きるための栄養やエネルギー源として食べてきた、食べてもすぐに明確な有害影響がないことがわかっている未知の化学物質のかたまり」です。食品は私たちが生きるために食べてきたものですが、食べてもすぐに体調不良や病気になることはないことだけがわかっているもので、長期の安全性については基本的に確認されていません。例えば平均寿命が現在は大きく延び、大きな病気を抱えながら長生きしている高齢者の方も多くいます。生まれたときから食べ続けて70〜80代になって有害影響が出るような物質が食品に含まれていても、それは平均寿命が50〜60代だった時代にはわかりません。残念ながら発がん物質などは、ほとんどがそのようなものです。
それでも食品にはすでにわかっていることも多くあります。そのわかっていることを基にして、わからないことに対応する。リスクアナリシスというツールで食の安全を確保しています。リスクはある・なしではなく、どのくらいの大きさか、またはどちらが大きいかという定量と比較が大切になります。すべてもののリスクはゼロではなく、食品も例外ではありません。研究者にとって食品は大小さまざまなリスクがあり、その中に農薬や添加物も含まれているイメージですが、消費者の方の中には食品は100%安全なもので、そこにリスクとなる農薬や添加物が加えられているというイメージを持っている人もいます。
食品に含まれるものは、大きく2つにわけられます。ひとつは意図的に使われるもので、食品添加物、残留農薬、動物用医薬品など。これらは実質的にリスクをゼロにするように管理されています。もうひとつは非意図的に含まれているもので、食品に元から含まれている成分や病原性微生物、調理時のコゲなどの製造副生成物などです。リスクとしてはこれらの方が大きく、そして管理がとても難しい。そのため人への健康被害が出る量を最小限に抑えるような現実的な管理目標を設定しています。
健康被害が出ている特殊な食品に、いわゆる健康食品があります。健康に良さそうな雰囲気で宣伝販売されているものはすべて健康食品と呼ばれていますが、これは世界中の食品安全機関が消費者に避けるように警告しているものです。その理由は、何かを濃縮したものなどを長期間続けて摂取することによってリスクが高まるためです。さらに農薬や添加物で「体重の増加抑制」と効果が示されていたら有害影響ですが、健康食品で同じことが書かれていると良い効果と判断されてしまいます。それにより警戒心がなくなり、健康被害が出てしまいます。特にインターネットで個人輸入されている商品などは、違法薬物が入っていることも多くあります。とてもリスクが高く死亡者も出ているので、絶対に購入しないでください。
そもそも安全な食品とはどんなものなのか。「これは安全な食品で、これは危険な食品です」と紹介しているテレビ番組や雑誌などがありますが、それは食の安全を全く理解していません。食品を安全にするのか安全ではないものにするのかは、私たちがそれをどう食べるかによって変わります。深刻なハザードがあるものでも安全に食べる方法があり、あまり大したハザードではなさそうなものでも大量摂取や連続摂取といった普通ではない食べ方をすると健康被害が出ることがあります。
リスクを考える場合には広い視野で全体を見ましょう。こだわりの食生活などはリスクを分散していないことがあります。特定のものだけにこだわらずにリスクを分散させ、いろいろなものを食べましょう。いろんなものを食べるのが結果的に最も安全ということになります。
小学生や中学生の子供たちに骨の健康やカルシウム摂取の重要性の話をする時には、「身長伸びるよ」がとても効果的です。そのためにはバランスよく食べて、しっかりカルシウムを摂り、規則正しい睡眠をする。それは保護者の方の助けにもなります。「早く寝ないとダメじゃない」と言えますから。それから可能なら子供たちの骨量を測定することですね。その年に数値が低かった子供は翌年の測定で数値を上げようと頑張るので、運動をしたり牛乳を飲んだりして、結果的に骨の健康やカルシウム摂取につながります。
(上西先生)
子供にサプリメントは必要ありません。基本的に子供は食事から栄養を取りましょう。ビタミンが不足しているのではないか、偏食になっているのではないかと心配される親御さんもいますが、栄養不良になるほど偏食な子はそれほど多くないと思います。心配な場合はまずお医者さんに相談するのがいいと思います。こっそりとサプリメントを与えるのはやめましょう
(畝山先生)
ときどき食べるなら問題はないと思います。しかしそれを食べ続けたらどうなるのかはわかりません。1年間それだけを食べ続けた人はまだいないし、例えば20年後に影響が出るならさらにわからない。エナジードリンクは1本にスティックシュガー9本分の砂糖が入っています。さらに多量のカフェインも含まれているので習慣化してしまう。それを考えるとできるだけ避けた方がいいと言えますし、砂糖の量の話を伝えれば飲むのをやめる生徒さんもいるのではないでしょうか。
(上西先生)
食品添加物や残留農薬についてのみ勉強をすると、とても視野が狭くなってしまいます。やはり食品全体のリスクというものを考えて欲しいですね。食品添加物や農薬より、普通の食品の方がよほどリスクが高い。しかしこれを教えるのは非常に大変です。食品添加物や農薬というわかりやすいものを教えるだけではなく、食品そのものについての理解が要求されるので。しかしきちんと教えたいのであれば、そこから勉強していただきたいと思います。
(畝山先生)
子どもたちに牛乳を飲んでほしい。カルシウムを取ること、骨づくりの大切さをきちんと教えたい。
食に関する正しい情報を給食だよりで伝えたい。
色々なものをバランスよく食べることが大事だということをあらためて思いました。科学的なことからも証明されていることを感じました。これからの指導に生かしたいと思います。
健康食品、サプリメントよりまずきちんと食事をバランスよく食べることが大事とのことがよく分かりました。食品安全に対する考え方が変わりました。貴重な機会に参加できとても良かったです。
食の安全についての基本的な考え方がよく分かりました。
「食品は未知の化学物質のかたまりで、長期の安全性については確認されていない」と知り驚いている。食品のリスクイメージについて、リスクはないと思っていたので新たな知識を得ることができて良かった。
食品添加物や残留農薬についての意識が変わりました。偏った知識で授業をしていた、と反省しました。
ハンバーガーを食べるならチーズバーガーを、パスタを食べるなら粉チーズをなど、子供たちへの効果的な声掛けについて勉強になりました。
日頃疑問に思っていたことが解消されました。正確な知識と情報の入手元の選択の大切さを知りました。
骨を丈夫にするためのカルシウムの摂り方がとても分かりやすく、授業で使用したいと思いました。