教職員向け

教育関係者セミナーレポート
「食と未来の教え方」

家庭科教職員対象セミナー 食育を科学的に考える(千葉)

講座プログラム

開催日時

:2021年11月6日(土)13:30~16:00

第1部

:「栄養学への正しい理解こそ『食育』の基本」

第2部

:「農薬、添加物…リスク情報のウソを見破る」

参加者

:55名

今回の講師は、この方たち

  • 佐々木 敏 先生

    【パネリスト】
    東京大学大学院医学系研究科
    社会予防疫学分野教授、
    医学博士
    佐々木 敏 先生

  • 松永 和紀 先生

    【パネリスト】
    科学ジャーナリスト
    松永 和紀 先生

  • 住友不動産九段ビル ベルサール九段

    【会場】
    住友不動産九段ビル
    ベルサール九段

【司会】 茂野 えり子さん フリーアナウンサー、栄養士

講師の先生方を迎えて「食育」をテーマに解説していただく教育関係者向けのセミナー「食育を科学的に考える」。今回は新型コロナウイルス感染症予防のため、前回に続いてオンラインでのライブ配信により開催しました。
登壇したのは東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授の佐々木敏先生と、科学ジャーナリストの松永和紀先生。第1部は「栄養学への正しい理解こそ『食育』の基本」として食に関する情報との接し方について、第2部の「農薬、添加物…リスク情報のウソを見破る」では食品のリスク情報への対応について解説していただきました。
質疑応答の質問は事前にいただいたものに加えてチャットでも受け付けるなど、オンライン配信ならではの試みも行われた今回の教育関係者向けセミナー。お二人の講師による講演から、世の中にあふれるさまざまな情報を正しく取捨選択する方法を教えていただきました。

会場の様子
  • 第1部
  • 第2部
  • 質疑
    応答
  • 参加者
    の感想

第1部:「栄養学への正しい理解こそ「食育」の基本」

(講師:佐々木 敏 先生)

大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了(公衆衛生学)、ベルギー・ルーベン大学大学院医学研究科博士課程修了(疫学)。国立がんセンター研究所支所臨床疫学研究部室長、国立健康・栄養研究所栄養疫学プログラムリーダーを歴任。2007年より現職。現在は女子栄養大学大学院をはじめ多くの大学で客員教授・非常勤講師を務める佐々木先生に食に関する情報への接し方について解説していただきました。

論理的な考え方は「食育」の参考になります

みなさんは新型コロナウイルスと情報ではどちらが怖いですか? 私は情報の方が怖いと思っています。新型コロナウイルスに対してはワクチンがあり免疫もできますし、いずれ必ず弱毒化します。しかし情報は頭の中に巣食って増殖し、顕微鏡を使えば見られるウイルスとは違いその姿は見えません。
糖質制限ダイエットを続けた場合、ほかのダイエットと比較して体重の減少量にどの程度の差が生じるのか。肥満者を対象として行われた無作為割付比較試験では、糖質制限ダイエットの場合は平均して約6kgの減少が確認されました。この試験では糖質制限ダイエットとともに低脂質ダイエットの無作為割付比較試験も同時に行われ、低脂質ダイエットでも糖質制限ダイエットとほぼ同じ結果となりました。結論としては糖質制限でも低脂質でも、実行すればどちらでも痩せる。それはこの試験だけでなく、他の試験でも同様の結果となっています。これらのデータはすべて原著論文を探して参照しています。ここで私は「糖質制限ダイエットはダメだ」と言いたいわけではありません。
いくつかの例から通常見える月と見えない月はどれかという問題があった場合、存在するものと存在しないものをすべて記憶させるのではなく、月は球体であるということを踏まえて推論することで答えを導き出すことができます。このような論理的な考え方は「食育」にも参考になると私は感じました。現在はインターネットの発達でさまざまな情報が発信されているので、探すことで数多く存在する素晴らしい情報に出会えます。問題はその情報にたどり着く技術。情報は取りすぎずに厳選して取得する。公的機関が予算を支出し、研究者が調査をし、さらにさまざまな研究者が精査をした論文。それが情報の源流です。そこまでたどり着いて参照してください。
さらにそれが源流だと理解できる頭脳も必要になります。教育のコツは「多くのことに応用できる少数のことを教えること」。地味で大切なことを教え続けることが、教師や教員、教諭の仕事ではないでしょうか。食塩水に浮く卵は砂糖水でも浮くのか。この答えを食塩水と砂糖水のそれぞれで覚えるのではなく、比重や密度をキーワードにして考えることが大切です。密度の概念を覚えた子供はそれを基準に考えられますが、食塩水と卵で覚えてしまうと、砂糖水になるとどうなるのか答えられなくなってしまうんです。
残念ながら政府や省庁からの発表でも、すべての情報が正しいとは限りません。結果だけが載っているのではなく、参考文献が書いてあることが重要です。研究者の仕事は研究をすることだけではなく、原著論文を発表すること。その論文を参考にして専門書や教科書などは作られます。しかし世の中には原著論文を参考にせず、ひどいものでは研究すらせずに一般書として売られているものもあります。流行に流されないようにと言いますが、流行にも正しいものとそうではないものがあります。話が単純化されていたり、話が盛ってあるものには注意。それを見破るためには参照されている原著が大切です。そのような考え方や行動を教師が率先して行って欲しいと思います。そして私たちが子供たちや保護者の方に伝えたいことは、人生の中でずっと役に立つものだと思います。教師の方こそ本を、良書を読みましょう。

会場の様子(第1部)

第2部:「農薬、添加物…リスク情報のウソを見破る」

(講師:松永 和紀 先生)

京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社で記者として勤務したのちに独立し、科学ジャーナリストとして食品の安全性や生産技術、環境影響等を主な専門領域に、執筆や講演活動などを続けている。2021年7月からは内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)としても活動している松永和紀先生に、食品のリスク情報に対する向き合い方についてお話していただきました(当日の講演、意見交換は、個人としての見解に基づくものであり、所属する組織の見解を示すものではありません)。

わかりやすさだけで判断せず公的な情報も調べましょう

情報は注意して取り扱っていく必要があります。ウソを見破るのは容易なことではありません。残念なことに農薬や添加物に関しては科学的に根拠のない情報が、特にこの数年はインターネット上、特にSNSに大量にあふれています。私たちはこれらの情報にどのように対峙していけばいいのでしょうか。
自然・天然の食品は安全・高品質であるという考え方は間違いです。一般の方は食品は一切汚れておらず食品添加物や残留農薬が含まれていると汚染されていると感じるかもしれませんが、実際は食品自体にリスク要因が含まれていて、食品添加物や残留農薬はその中の一部でしかありません。食品には栄養成分以外に、それと比較すれば少量ですが、食品が持っている栄養成分以外の物質、生物が自然に作り出す毒性物質や加熱などの調理工程でできる発がん物質などが含まれています。例えば調理工程でできる発がん物質は、肉や魚を高温調理したときにできるヘテロサイクリックアミン類、ビスケットやフライドポテトなどを作るときにできるアクリルアミドなどがありますが、それらを回避するには加熱調理をやめるしかありません。しかし加熱調理は食品を美味しくし、微生物を殺すなどの殺菌効果もあります。そんな加熱調理の大きなメリットとともに発がん性物質を口にするわけですが、少量であれば問題ありませんし、各事業者も減らす努力をしています。
化学物質も微生物もどの程度の量を食べるかによってリスクは変わります。食塩は大量に摂取すると死に至りますが、だからといって食塩は悪いものということにはなりません。量を調整して上手に使えばいいだけです。農薬や食品添加物も同じように摂取量が管理されています。大量に摂取すれば影響がありますが、一定の量を下回ればリスクは小さく、無視できるほどになります。
農薬は登録する際には、さまざまな毒性に関する試験を行いその結果を国に届け出て、適切な使い方をすればリスクの点で問題がないことを確認してもらわなければいけません。農薬の安全性は年々高まっています。昭和46年(1971年)には10の試験で認定されていましたが、現在では92の試験が行われています。2018年には農薬取締法が改正され、さらに規制は厳しくなりました。昭和30年代・40年代の強毒性の農薬のイメージが強く残ってしまっているかもしれませんが、最新の情報に更新していただきたいと思います。安定した生産を続け、安価で食品を供給するために農薬は必要です。生産者の方の省力化にも役立ち、食品としても安全性を高める結果も期待できます。農薬を使用して安全性を高めるということに疑問を感じる方もいるかもしれませんが、例えば栽培時に農薬を適正に使って食品に含まれるかび毒を減らすことが行われています。
食に関する報道は、インパクトが大きくわかりやすいものが最優先となります。インターネットやSNSも同様というより、テレビや雑誌などのメディアよりもさらに過激になっています。だからこそ情報リテラシーが必要となります。まずは公的な情報を調べてください。市民団体や特定の識者、SNSなどの情報を調べるのはよいことですが、それだけで判断するのはやめて、食品安全委員会や厚生労働省などの情報も確認しましょう。

会場の様子(第2部)

こんな質問がありました。

Q食育を学ぶ側、教員や児童・生徒に必要なことはどんなことでしょうか?

A

質疑応答の様子

食育を学ぶのは児童・生徒だけではなく教員も含まれるというのが素晴らしいですね。そして教員と児童・生徒では学ぶことが違うということを理解してほしいと思います。教える側は教えることの10倍を知ってから1/10を話しましょう。そして教えられる側はその1/10の話から裏側にある9/10を想像し、学びたいと感じられるといいでしょう。そのため教員は10倍のことを知るだけでなく、児童・生徒がほかの教科で何を学び、どのタイミングで教えればいいのかを理解する必要もあります。それを実践するためにどうしたらいいのかも考えていただければと思います。
(佐々木先生)

Q食材の残留農薬を調理によって除去する方法を教えてください。

A

それぞれの農薬には許容1日摂取量というものが決められていますが、食品には程遠い量の農薬しか残っていません。それをわざわざ除去しようとすると、ほかの栄養素も失われてしまいます。私にはそこまでする必要性は感じられません。農薬を除去するという洗剤も売られていますが、効果は検証されていません。
(松永先生)

Q果物の摂り過ぎは健康や成長に影響はあるのでしょうか?

A

摂り過ぎという言葉が危ういですね。果物の摂り過ぎや食べ過ぎはどのくらいの量のことを言うのでしょうか。諸外国では摂取量を野菜と果物で区別していないんです。そのためすべてを野菜、すべてを果物で摂取することも可能なんです。摂取量は1日5つで、5品ではありません。重量で言うと400gほど。その量なら好きなものを好きなように食べてください。それが一番簡略化され、科学的に実証された考え方ですね。
(佐々木先生)

Qスーパーなどに並んでいる食材は安全なのでしょうか? 特に輸入食品が気になります。

A

質疑応答の様子

国産か輸入であるかを問わず、一部変な事業者の方や農薬を間違えて使用してしまう生産者の方がいるかもしれないので100%安全ですとは言えませんが、私自身は買い物をするときに心配はしていません。その理由は輸入食品だからといって特別な基準値が設定されているわけではないからです。国産のものも輸入食品も基準値は同じ。輸入食品については、厚生労働省が輸入港で残留農薬や食品添加物、微生物などをかなり厳しく検査しています。実は国産のものよりも輸入食品の方が厳正に検査されていると言えます。
(松永先生)

参加者の感想

食育、教育について広くお話しいただけて貴重な時間でした。知ること、考えること、議論することが楽しいと伝わるように良書を読みたいと思います。
(小学校)

自治体によっては、いまだに学校給食用の食材に「中国産はNG」というところもあります。『気持ち』の問題で思考停止せず、データを見て、考えて、議論していくべきことだと感じました。
(小学校)

情報に振り回されないための科学的なモノの見方や考え方を学ぶことができました。また、佐々木先生の教育者としての信念には共感することが多くありました。
(教育委員会)

本校では、生活習慣に課題があります。塩分の摂取量が多いと講義の中にありましたが、子どもたちに、将来の生活習慣病のことも考えながら食生活について考えてほしいと思いました。
(小学校)

お二人のお話に共通した「食塩」の話が印象に残りました。農薬よりも食塩の取りすぎについて考えた方がよいこと、食塩の過剰摂取を伝えて減塩教育を行いたいと思いました。科学的に根拠のある食育ができるように良書や国のデータ、論文を読んでいきたいと思います。
(小学校)