農薬情報局 教職員向け

教育関係者セミナーレポート

食と未来の教え方

食に関する今と未来を子どもたちに教える教育関係者向けのセミナーから、
授業のヒントや教育関係者として知っておきたい内容をピックアップしてお届けします。

2019年7月30日(火)

家庭科教職員対象セミナー
食育を科学的に考える(水戸)
会場の様子

講師の先生方を迎えて「食育」をテーマに解説していただく教育関係者向けのセミナー「食育を科学的に考える」を茨城県水戸市で開催しました。
今回は女子栄養大学栄養生理学研究室教授で栄養学博士の上西一弘先生と、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長で薬学博士の畝山智香子先生を講師に招き、第1部では「骨太人生を目指そう」と題して将来に向けての骨づくりについて、第2部では「ほんとうの食の安全を考える」と題して食のリスク管理などについてお話いただきました。
自身の経験や研究、そして現在の活動から、さまざまな情報と対策を解説してくれたお二人の講演。会場に集まったみなさんからは、講演内容を授業などでも活用したい、次回もセミナーに参加したいという感想が多く寄せられました。

  • 第1部
  • 第2部
  • 質疑応答
  • 参加者の感想
第1部 骨太人生を目指そう

講師:上西 一弘 先生

徳島大学大学院栄養学研究科修士課程修了。雪印乳業生物科学研究所を経て、1991年から女子栄養大学に勤務し、2006年4月より現職。主な著書に「骨粗鬆症の人の食事」「栄養素の通になる」(女子栄養大学出版部)などがあり、日本栄養改善学会理事も務める上西一弘先生に、骨を豊かにするための方法などについて解説していただきました。

会場の様子(第1部)
成長期に骨量を高めておくことが重要です
骨粗鬆症は骨強度の低下を特徴とした骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患で、骨強度が低いと圧迫骨折を引き起こしやすくなります。人間の体内にあるカルシウムの99%は骨にあります。カルシウムは骨を作るだけと思っている人がいるかもしれませんが、実は骨を作るよりも筋収縮の調節、神経細胞機能の調節、転写調節といった機能が、骨を作ること以上に重要なカルシウムの役割なのです。カルシウムは私たちが生きていくために欠かせない栄養素と言えます。そして骨には、筋肉とともに体を動かし重要な臓器を保護するなどの働きがあります。カルシウムの貯蔵庫としての機能も重要で、人間は体内でカルシウムを作れないため、貯蔵庫にカルシウムを貯めておくことが骨量の増加(骨強度)につながります。
カルシウムを骨内に貯蔵できるのは男女ともに20歳頃がピークで、個人差はありますが40歳頃から少しずつ減っていき、女性は閉経期に大きく減少します。そのため骨粗鬆症を予防するためには、成長期に骨量を高めておき、成人期にはその高めた骨量をできるだけ減らさないことが大切です。骨量を高めて維持するには、バランスの良い食事で全身の栄養状態を良くすることが重要です。その上で骨の材料となるカルシウムとビタミンDを十分に摂取することが大切になります。強い骨を作るためには運動などで刺激を与えることも必要です。激しい運動をする必要はありません。階段の上り下りや散歩などでも問題ありません。
カルシウムを多く含む食品のひとつに牛乳がありますが、牛乳は特にカルシウムの吸収率が高い。高校生以降はカルシウム摂取率が低くなるというデータがありますが、それは高校生になると学校給食がなくなり、牛乳を飲む機会が減るためです。牛乳にはカルシウムやビタミンDだけでなく、さまざまな栄養素が含まれています。高校生以降になっても牛乳を飲み続けられる環境を家庭で作ってほしいですね。小さな子供たちには「よく食べて、よく遊び、よく寝ましょう」と伝えてください。寝ることも成長ホルモンの分泌にはとても重要で、規則正しい生活が成長期なら骨量の増加、成人期には骨量の維持につながります。
第2部 ほんとうの食の安全を考える

講師:畝山 智香子 先生

東北大学大学院薬学研究科博士前期課程修了(製薬科学)。東京大学薬学部で薬学博士号を取得し、2003年から国立医薬品食品衛生研究所安全情報部に所属し、2016年8月より現職。主な著書に「ほんとうの『食の安全』を考える~ゼロリスクという幻想」(DOJIN選書)などがあり、「食品安全情報blog」では世界各地からの食品や健康に関する情報を発信している畝山智香子先生に、食の安全とリスク管理について解説していただきました。

会場の様子(第2部)
安全な食品だからといってリスクなしではありません
食品には特に定義はありません。実は食品は「よくわからないもの」で、今まで食べてきて明確な有害影響などの問題がなかった「未知の化学物質のかたまり」なのです。そんな「よくわからないもの」を食べるリスクは、「ハザード(有害性や害)╳暴露量」となります。ハザードがどんなに大きくても食べなければ、つまり暴露量が0であればリスクは0。逆にハザードが小さなものでも、暴露量が大きければリスクは大きくなります。リスクは「ある・なし」や「○・╳」ではなく、「どのくらいの大きさか」、または何かと比較して「どちらが大きいか」という数字で考える必要があります。
コーデックス(国際食品規格委員会)による食品安全の定義は、「意図された用途で、作ったり食べたりした場合に、その食品が食べた人に害を与えないという保証」となっています。食品は口から食べるものなのに化粧品として肌に塗る、加熱調理が必要なものを加熱せずに食べることなどは、意図された用途ではありません。食品には色々なものが含まれています。食品添加物や農薬といった意図的に使われたものだけでなく、食品成分や病原性微生物、汚染物質(環境中汚染物質やカビ毒など)といった非意図的に含まれてしまうものもあります。食品添加物や農薬は厳しくコントロールされていますが、非意図的成分は評価や管理が難しい。料理によっては下ごしらえでその汚染物質を減らすことができますが、インターネット上には簡単レシピとして、下ごしらえせずに調理している料理も掲載されています。下ごしらえにはリスク低減の意味がある場合もあることを知っておきましょう。
健康食品も長期間にわたって大量摂取しやすいためリスクが大きくなります。今まで食品として食べられているものであっても、普通でない食べ方をすると健康被害をもたらすことがあります。さらに「農薬で体重の増加抑制があった」と聞くと怖いと感じるのに、「健康食品で体重の増加が抑制された」場合は良いことのように宣伝されてしまう。健康食品はリスクが高いということを知っておきましょう。すべての食品にはリスクがあります。リスク分散のためには多様な食品からなるバランスのとれた食生活を送ることが有効です。広い視野とものさしを持って、食品の安全性を考えましょう。
教育関係者の方々からこんな質問がありました。

Q.農薬を落とすために洗ったり茹でたりすることで失われるビタミンなどの栄養素はどのくらいでしょうか?

質疑応答の様子
現在流通している食品中の残留農薬には、健康面で心配になるようなものはほとんどありません。ですので普通に洗って食べていただければ大丈夫です。
(畝山先生)
今の食品成分表はとても充実してるので、生の状態と茹でた状態の比較も容易です。しかしそれは普通に茹でた状態で、農薬を落とすために茹でているわけではありません。必要以上に洗ったり茹でたりした場合には多くの栄養素が失われる可能性もありますが、そのデータは存在しません。
(上西先生)

Q.抗生物質やホルモン剤が使われている牛乳は体に悪いなど、数年に一度牛乳悪者説が登場します。しかし上西先生は、牛乳にはカルシウムなどの栄養素が多く含まれていると推奨しています。牛乳の質について、どの情報を信じたらいいのでしょうか?

質疑応答の様子
乳牛の健康を守るためにそういったものが使われる場合もあるかもしれません。しかしそれも含めて現在流通している牛乳の安全性は保障されています。悪口を言う人は悪口を言える部分だけをピックアップして「子供たちに飲ませるのはよくない」などと主張してきますが、数値を調べてみるとまったく心配のないことが多いんです。
(上西先生)
牛乳はお母さん牛が出すものなので、当然のようにお母さんのホルモンの影響はあります。牛にも女性ホルモンがあり、変動幅は人間よりもはるかに小さいですが、生理周期によって女性ホルモンが出る量は変わってきますが心配する必要はありません。お肉を買うときにオスの肉かメスの肉かは気にしませんよね? その程度のものなんです。
(畝山先生)

Q.ジャガイモにはソラニンやチャコニンといった強い毒性のある物質が含まれているとお聞きしました。どのようなジャガイモを買えば避けられるのでしょうか?

メークイーンはソラニンやチャコニンが多いジャガイモとして有名です。しかし日本ではメークイーンの人気が高いですね。直売所などではジャガイモを遮光せずに売っていることもありますが、それは食品安全上、決して勧められるものではありません。そして緑になっているものや芽が出ているジャガイモが売っている場所は、食品管理をきちんと行なっていないと言えます。
(畝山先生)

Q.高校生になって給食がなくなり牛乳をあまり飲まなくなると、乳糖分解酵素が少なくなって牛乳を飲んだときにお腹を壊しやすくなってしまいます。それが原因で牛乳を飲まなくなる場合もあるのではないでしょうか? 対処法があれば教えてください。

質疑応答の様子
人間は赤ちゃんのときはミルクを飲むので、乳糖分解酵素を必ず持っています。しかし年齢を重ねると活性が落ちていき、牛乳を飲む習慣がなくなるとどんどん減っていきます。冷たい牛乳を一度にたくさん飲んだときなどに、お腹がゴロゴロするなどの症状が出ることが多いでしょう。しかし乳糖分解酵素がなくなっていても、温めた牛乳を少しずつ飲むなどすれば大丈夫です。それをくり返して、少しずつ飲む習慣を戻していきましょう。どうしても牛乳がダメな方は、あらかじめ乳糖が分解されている乳飲料、またはヨーグルトやチーズなどでカルシウムを摂ってほしいと思います。
(上西先生)
セミナー参加者から感想が寄せられました。(アンケート結果から)

カルシウム自己チェック表を授業で使いたいと思います。

60代/高校/茨城県

カルシウムの大切さを授業でも取り上げたいです。

50代/小学校/栃木県

「骨」についてここまで詳しく学んだ事がなかったので、とてもためになりました。学校でお昼に牛乳を飲む取り組みをしてみようと思います。

30代/高校/茨城県

リスク分散のために色々なものを食べるということを生徒に伝えたいです。

50代/高校/茨城県

学校給食で牛乳を出すことの必要性がわかりました。

60代/小学校/茨城県

食の安全性についての視点が、とても勉強になりました。

30代/その他/茨城県

健康食品はリスクが高く、食べ方を誤ると危険だと感じました。

20代/その他/茨城県

骨とカルシウムの働きについてのお話が印象的でした。

40代/その他/茨城県

正しい知識を保護者の方々にも伝えたいと思いました。

60代/その他/茨城県

食品自体にもリスクがあるということを考えさせられました。

40代/小学校/茨城県