農薬情報局 教職員向け

教育関係者セミナーレポート

食と未来の教え方

食に関する今と未来を子どもたちに教える教育関係者向けのセミナーから、
授業のヒントや教育関係者として知っておきたい内容をピックアップしてお届けします。

家庭科教職員対象セミナー
食育を科学的に考える(新潟)

2018年7月30日(月)

今回の講師は、この方たち
 
  • 【パネリスト】
    佐々木 敏 先生
    東京大学大学院医学系研究科
    社会予防疫学分野教授、
    医学博士
    佐々木 敏 先生
  • 【パネリスト】
    松永 和紀 先生
    科学ジャーナリスト
    松永 和紀 先生
  • 【会場】
    ラマダホテル新潟
    ラマダホテル新潟

【司会】 小谷 あゆみさん フリーアナウンサー、野菜ソムリエ

講座プログラム
  • 第1部講演:「栄養学の正しい理解こそ「食育」の基本」
  • 第2部講演:「農薬、添加物…リスク情報のウソを見破る」
  • ・開催日時:2018年7月30日(月)13:30~16:20
  • ・参加者:79名
第1部 栄養学への正しい理解こそ『食育』の基本

講師:佐々木 敏 先生

大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了(公衆衛生学)、ベルギー・ルーベン大学大学院医学研究科博士課程修了(疫学)。国立がんセンター研究所支所臨床疫学研究部室長、国立健康・栄養研究所栄養疫学プログラムリーダーを歴任。2007年より現職。栄養と健康を科学的に捉える「栄養疫学」が専門の佐々木先生に、栄養学の正しい理解と食育の基本について講演していただきました。

  • 盛った情報を信じると、失敗します 
    いま流行といえば「インスタ映え」です。いいね!をもらうために、かき氷を極端に高く盛って、目立つようにする。「話を単純化して、盛りあげる」…これが情報のトレンドです。食に関する情報も、多くが単純化され盛られています。鵜呑みにしてはいけません。1つ例をあげましょう。野菜は先に食べた方が健康にいいと言われています。本当でしょうか?糖尿病患者と健常者の合計80人を、それぞれ「野菜を先に食べる」と「炭水化物を先に食べる」の2グループに分けて、血糖値の上昇を比べた実験があります。これによると「糖尿病患者も健常者も、野菜を先に食べたグループの方が、食後の血糖値の上昇が緩やか」という結果が得られました。では、これによって三角食べは古い、野菜を先に食べた方が健康にいいと言えるでしょうか。答えは「NO」です。なぜなら実験というものは「極端な設定」をするためです。この場合は、野菜を先に食べる人と、ごはん(全部)を先に食べる人という設定をしています。あり得ないですよね。カレーライスをひっくり返して、ごはんを先に食べる人はいません。実験というのは、そういう風にして、結果を出していくものです。そこをきちんと見極めないと、真実が見えなくなります。「本当かな?」と思ったときは、どのようにして得たデータかを調べましょう。「興味深い情報ほど、話が盛られている」という視点を忘れないように。盛ってある情報を信じると、失敗します。先生方には、まずそこを注意していただきたいと思います。
    ※ #17980.Imai S,et al. J Ⅽlin Biochem Nutr 2014;54:7-11.
  • 会場の様子(第1部)
  • 先生、この問題が解けますか?
    先生の机の上に本は並んでいますか? 本のタイトルは3カ月ごとに変わっていますか? 子供たちは、それを見ています。先生の机の上に並んだ本は、立派な1つの授業なのです。先生方の仕事は、答えを教えることではありません。詰め込みの知識は役に立たないのです。生徒たちが自ら真実を探しにいくように仕向けること、それが先生の仕事です。キーワードは【記憶から推論へ】です。最近、大学では講義スタイルが変わってきました。今まで一方的に話していたのが180度、変わってきたのです。では、先生は何をする? 生徒たちにテーマに沿って会話をさせて、よい意見を選ばせ、それをもとに意見交換させる。「よく気づいたね」「すごいね」と誉めるのが仕事です。授業の準備は大変になりますが、小、中学校でも変わっていくと思います。
    「記憶から推論へ」の大切さを実感するクイズをやってみましょう。
    ■月は通常どのように見えますか?見えるものに〇、見えなにものに☓をつけてください(制限時間60秒)。
    答えは、ABDが〇で、その他は☓です。でもこの問題の目的は、何問正解したかではなくて、イエスorノーの先を考えるところにあります。設問がもう1つあって、
    ■このことから月のどのような特徴に気づきましたか? 
    こちらが本題なのです。答えは「月は円ではなく球であることがわかる」です。ちょっと高度ですが、「月に触らなくてもわかる」と気づくことが大切なのです。【推論する習慣をつけること】。先生方は、そのことをいつも心にとめて授業をしていただければと思います。
     板倉聖宣.科学的とはどういうことか 仮説社.1977:85-98.
  • 会場の様子(第1部) 会場の様子(第1部)
  • 「事実=エビデンス」を知ることが基本です
    こんどは多くの先生が間違えてしまう問題を出してみましょう。必須栄養素の食塩(塩化ナトリウム)は、一日平均何グラム必要でしょうか? 5グラム?10グラム?…いいえ正解は【およそ1.5グラム】です。みそ汁一杯1グラム、ラーメン一杯6グラムですから、かなり少ないイメージです。でもこれで十分に生きていけます。先生方、「ほんと?」と疑ったときどうしますか。そうです、信頼できるデータで確認します。※1※2厚生労働省が2015年にまとめた日本人の食事摂取基準によると、18歳~70歳以上まで、男女とも、1日の食塩の推定平均必要量は1.5グラムと明記されています。国がまとめたデータですから事実です。この食事摂取基準の他のデータには、食事摂取基準を守れていない子供たちの割合は、実に87%という調査結果も記載されています。2番目に守れていなかった「食物繊維」が50%ですから、食塩取りすぎ問題がいかに深刻かわかります。先生が大切にする「基本」とは、「事実を知る」ことです。疑問に思ったら、信頼できるデータで確認すること。事実=エビデンスを得た上で、なにが実践できるかを探りましょう。食育を教えるときは、その情報が事実かどうか、確認する習慣を身につけてください。子供に教える上で、それが「基本」です。「事実こそ、最良の上司である」と、この機会に覚えておきましょう。調べるのは地味な作業ですが、日々授業の中で実践していけば、先生のその姿から子供は多くのことを学びます。これから社会で、さまざまな情報にさらされる子供にとって、貴重な「学び」になります。
    ※1 佐々木敏.子どもたちの健康と食事.いま学校給食の役割はなにか?栄養と料理.2017;83(8):117−21.
    (栄養素摂取量の基準は「日本人の食事摂取基準(2015年度版)」)
    ※2 #19110.Asakura k,et.al.Public Health Nutr 2017;20:1523−33
  • 会場の様子(第1部)
第2部 農薬、添加物・・・リスク情報のウソを見破る

講師:松永 和紀 先生

京都大学大学院農学研究科修士課程を修了。専門は食品の安全性や生産技術、環境影響など。新聞記者として10年間勤めたのち独立。新刊は、「効かない健康食品 危ない自然・天然」(光文社新書)。主婦、母の視点を大切に活動する松永先生に、食の安全情報について講演していただきました。

  • 食の安全は、そんなに単純じゃない!
    先日、大手の週刊誌からコメントを依頼されました。「無添加、国産じゃないとダメ」というテーマで、「それは違う」と説明しましたので、コメントは使われませんでした。食品の安全は、そう単純なものではないのです。 【メディアは単純な答えを求める】…先ほど、佐々木先生が講演でおっしゃった通りで、単純化して盛られたものが注目を集め、売れる情報になるのです。メディアの情報は、偏っていく特性があります。食品のリスクについて混乱が広がっているのは、そんな背景があるからかもしれません。先生方には、このような現状を認識した上で、生徒を導いてほしいと思います。科学的に間違った報道を繰り返すメディアから、身を守るためのポイントをいくつか紹介します。
    ●懐疑主義を貫き、多様な情報を収集して自分で判断する
    ●「〇〇を食べれば」というような単純な情報を排除する
    ●「危険」「効く」など極端な情報は警戒する
    ●その情報が、誰を利するか考える
    ●体験談、感情的な訴えには冷静に対処する
    これで全てではありませんが、メディアを疑う目を持ち、信頼できる情報を確認する習慣を身に着けることが大切です。食品安全委員会など国がまとめた資料は、もっとも信頼できる情報です。難しがらずに、先生方が率先して情報の扱いに慣れることが、食育のレベルアップに直結すると思います。
     「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)より
  • 会場の様子(第2部)
  • 食品は未知の物質であり、微生物などの塊
    食品のリスクを単純化してはいけない理由は、我々がまだ食品のことを十分に理解していないからです。一般の人の食品のイメージは、クリーンな物質にわずかな食品添加物や残留農薬ついている状態です。ところが食品リスク研究者の目で見ると、栄養成分以外に自然の毒性物質、発がん物質、未知の物質、微生物などが含まれています。自然天然由来のさまざまな毒性物質や発がん物質は、ここ20年くらいの研究でわかってきたことで、一般の人と専門家の認識のギャップが大きくなっています。最近、食品リスクの分野で注目されているものに加熱調理で発生する発がん物質があります。肉や魚を150℃以上で調理するとできるヘテロサイクリックアミン類や、フライドポテトや野菜炒めなどで発生するアクリルアミドなどがあります。また、ジャガイモの芽に含まれるソラニンやチャコニンなどの天然毒素には、強い毒性があります。私たちは、食べる時に栄養素と一緒にこれらの毒性物質、発がん物質も食べています。これらのリスクを正しく理解する際は、食品の安全=ハザード(なにを)×摂取量(どれだけ)という関係を知ってほしいと思います。どんな物質をどれだけ食べるかで、体への影響は変わってきます。ふぐ毒は少量で死に至りますが、食塩も一度に食べすぎると死に至ります。普段食べている塩や砂糖でも、量を間違えると体に危害が加わるのです。でも、私たちは量を調節して塩も砂糖も食べています。ソラニンは、芽をかきとることで、ジャガイモに含まれる量を大きく減らしています。【リスク=ハザード(有害性)×摂取量】という関係を、この機会にぜひ覚えておきましょう。
  • 会場の様子(第2部)
  • 農薬は、現実とイメージの差が大きすぎる
    農薬や食品添加物、抗生物質なども、摂取量によってリスクの大きさはまったく異なります。これらは、その物質が本来持つ有害性を調べ、どの程度の摂取量でどんな影響を人の体に及ぼすか、ということも十分に調べたうえで認可されています。そして、使われた場合に人の体に影響がない残留にとどまるように、使い方や使用量が決められています。つまり、人為的に使うものは、非常に詳しく調べてから使用を認める制度があるのです。国際的には、1つの農薬を開発するのに10年、200億円以上のお金がかかると言われています。また農薬登録申請に必要な毒性に関する試験は膨大な項目があり、これらをクリアしなければ製品は認可されません。ところが農薬には、イメージと現実に大きなギャップがあります。農薬にはいまだに全ての生き物を殺すという間違ったイメージがあります。実際は、【選択毒性】というピンポイントで効果を発揮する技術が確立されており、ターゲットとなる生物以外への作用が小さいものが選ばれています。また環境破壊というイメージが根強くありますが、今の農薬は【分解性の高いもの】しか使用が認められていません。生き物への影響調査も行われたうえで、登録されています。農薬は非常に高いレベルでリスク管理を行うことによって病害虫や雑草を防除し、農産物の安定生産に貢献しています。農耕地は、1種類の植物が大面積で栽培されているため自然の状態ではなく、病害虫や雑草が繁殖しやすい環境です。植えられている作物は、人がおいしく食べられるように改良したもので、「弱い」という特徴があります。このような作物を病害虫や雑草から守るのが農薬です。食品添加物も農薬と同じようにリスク管理され使用されているので、私個人としては、これらはまったく気になりません。
  • 会場の様子(第2部)
教育関係者の方々の質問です ~質疑応答~

野菜の皮についた農薬が気になります。エコの観点から、調理実習では皮を剥かずに調理することもあるのですが…。

質疑応答の様子
作物はそれぞれ残留基準が定められています。これは「たとえ農薬を摂取したとしても、この範囲内なら人体に影響がありません」という国が定めた基準です。皮が気になる…というご質問でしたが、たとえば皮も食べる可能性のある夏ミカンやリンゴや梨は、皮を含めての残留基準が設けられています。野菜も同じです。私は気にしなくていいと考えています。
(松永先生)
一方で、皮は剥かないことが自然だ、という考え方が行きすぎてしまうと、やはり問題が生じます。松永先生の講演にでてきたジャガイモの芽のリスクが典型例だと思います。作物の皮には、良いものもあれば悪いものもある、としっかり認識した上で、それぞれの調理法を考えていただきたいと思います。
(佐々木先生)

佐々木先生、野菜の摂取量について教えてください。

質疑応答の様子
このデータを見てください。※1「野菜と果物の摂取量の国際比較」という世界で唯一の研究データです。これからわかるのは、日本がヨーロッパのどの国よりも野菜の摂取量が多いこと、果物の摂取量が少ないことです。※2日本人には馴染みがありませんが、ヨーロッパでは野菜と果物を1つにまとめて、食べる量を計算します。日本だけがなぜか野菜信仰が根強いのです。世界基準では、野菜+果物=400グラム/1日以上食べたいとされています。野菜も果物も同じ農産物です。合計して1日あたり400グラム以上をめざしてください。内訳は好き嫌いやその他のことも考慮して決めていただくのがよいと思います。
※1 #8525.Agudo A,et.al.Public Health Nutr 2020;5(6B):1179-96
※2 #18300.Wang X,et.al.BMJ 2014;349:g4490.
(佐々木先生)

果物の話の続きですが、果物は値段が高いので、安いお菓子を選んでしまうのですが…

質疑応答の様子
安いものを食べましょう。僕は安いものがいいと思います。お菓子とリンゴ一個の値段はそれほど変わらないと思いますよ。安い果物を作ってほしいと消費者が声を上げれば、生産者は応えてくれるはずです。それから間食に野菜を食べてみるのはどうですか? 僕が子供の頃は、庭で実ったキュウリをかじっていました。子供は目の前にあるものを手当たり次第食べるものです。そこから教育は生まれます。
(佐々木先生)
とはいえ(会場笑い)…子供は野菜をなかなか食べてくれません。佐々木先生が言うように、高い果物ばかりではないですし、野菜でもトマトなら食べてくれるかもしれません…。大切なのは、子供の好みに合せるのではなく、いろいろなものの美味しさをバランス良く体験させてあげることです。お菓子の次の日はトマト、その次の日はリンゴというように多彩な味を提供してあげてください。そこから、豊かな食生活が生まれるのではないでしょうか。
(松永先生)

健康食品について意見をお伺いしたいのですが?

私は食べません。自分がどの栄養素が足りていて、なにが不足しているかわからないからです。宣伝文には「〇〇が足りない!」とありますが、本当に足らないかどうかはわかりません。確認しないまま摂ってしまうと、過剰摂取という問題が起きます。ビタミン類はちょっとした過剰摂取で不調に陥ってしまいます。自分の現状がわからないのに、上乗せして栄養を取るほど怖いことはありません。バランスよく食べていれば、健康食品で補う必要はありません。特に子供には、理由がはっきりしないまま健康食品は与えないでください。
(松永先生)

松永先生がおっしゃったように、客観的に過不足を調べていない限り、どれを摂ればいいかわかるはずがありません。そこを認識していただきたい。それから最近、機能性食品というのが増えています。消費者庁の文書を読んでみると、これらに機能性があるのを認めると書いてあります。ところが効果があるとは書いていません。機能はあるが、効果はわからない。機能はあってもそれが人の健康に効果があるかどうかはわからないということです。先生方には、情報を正しく理解していただくことが大事だと思います。
(佐々木先生)

セミナーに参加して ~参加者の感想~
  • ・どのお話も本当に奥深くてまだまだ知らないことばかりだと感じました。
  • ・科学的な根拠をしっかりおさえて子供たちに指導したいと思いました。
  • ・残留基準が厳正なチェックのもと守られていることが理解できました。
  • ・子供に正しい情報を伝えるためには、指導する者として正しい情報かどうかきちんと調べてから伝える必要があると感じました。
  • ・「教師こそ科学的に考えよう」では割と科学的に考えているつもりでしたが、まだまだ足りないと思いました。この夏は佐々木先生の本を読んで、科学的に考えて授業することについて考えてみたいと思いました。
  • ・必要最小限の使用量であること、効率の良い食料生産をするには農薬は必要なのだと思いました。
  • ・論文なども盛ってある、バイアスの掛かった情報に踊らされてはいけない、様々な食についての情報を見極めていかなければいけないと改めて思いました。
  • ・事実こそ最良の上司であるという言葉が印象に残りました。
  • ・今まで参加してきた食育の研修会とは違いとても参考になりました。考えること調べること正しい物の見方などとても良い時間となりました。
  • ・メディアや雑誌の情報を鵜呑みにしてはいけないと強く感じ、子供たちにも伝えたいと思いました。