教職員向け

教育関係者セミナーレポート
「食と未来の教え方」

家庭科教職員対象セミナー 食育を科学的に考える(静岡)

講座プログラム

開催日時

:2018年7月26日(木)13:30~16:20

第1部

:「骨太人生を目指そう」

第2部

:「ほんとうの“食の安全”を考える」

参加者

:89名
(静岡県の小・中・高校家庭科教職員、高校生徒など)

今回の講師は、この方たち

  • 上西 一弘 先生

    【パネリスト】
    女子栄養大学
    栄養生理学研究室教授
    栄養学博士
    上西 一弘 先生

  • 畝山 智香子 先生

    【パネリスト】
    国立医薬品食品衛生研究所
    安全情報部長、薬学博士
    畝山 智香子 先生

  • ホテルアソシエ静岡

    【会場】
    ホテルアソシエ静岡

【司会】 茂野 えり子さん フリーアナウンサー、栄養士

  • 第1部
  • 第2部
  • 質疑
    応答
  • 先生からのひとこと
  • 参加者
    の感想

第1部:「骨太人生を目指そう」

(講師:上西 一弘 先生)

「骨粗鬆症」への備えは、成長期のカルシウム摂取がカギになる。

骨の栄養と健康、栄養生理学などが専門の上西先生。健康長寿社会を目指す上で「骨粗鬆症」の予防が大切であり、そのためには成長期の骨づくりが重要とお話がありました。カルシウムと骨の働きを理解した上で、カルシウムを多く含む牛乳や乳製品、緑黄色野菜、大豆製品などを積極的に摂取すること。さらにバランスの良い食事と、適度な運動、十分な睡眠が子供たちの骨づくりには欠かせません。参加者からは「カルシウム自己チェック表が分かりやすかったので是非使いたい」といった声が寄せられました。

第2部:「ほんとうの“食の安全”を考える」

(講師:畝山 智香子 先生)

食品は未知の物質の塊。大切なのは、バランスのとれた食生活です。

畝山先生は、食品中に存在する化学物質の安全性評価の専門家。冒頭、「食品は安全と思い込んでいませんか?」と問いかけられ、食品そのもののリスクが決して低くないと教えていただきました。一方で食品添加物や残留農薬は、厳しい国の安全基準のもとで運用されており、実質的にはリスクがゼロに近いと解説されました。世界中の食品安全機関が健康と安全のために推奨しているのは、「多様な食品からなる、バランスのとれた食生活」。自分自身でリスク管理を心がけることが大切と強調されました。

会場の様子(第2部)

こんな質問がありました。

Qお茶の残留農薬が気になります。お茶を飲むと農薬の味かな?と思うことがあるのですが…

A

質疑応答の様子

お茶の栽培に関しても、農薬の使用は国が定めた基準のもと管理されています。現実問題としてお茶の葉に残った農薬の味がすることはありません。アメリカではお茶の葉を粉砕したダイエット食が原因で肝機能障害が起きたケースがありますが、お茶の葉をバリバリと大量に食べない限り、そのような影響はありません。安心しておいしいお茶を飲んでいただきたいと思います。
(畝山先生)

Qヨーロッパに比べると日本は添加物の種類が多いのですが、問題はありませんか?

A

質疑応答の様子

食品添加物についての定義は国によって違います。たとえばヨーロッパでは酵素は食品添加物とは別枠で数えます。日本はこれらを含めて食品添加物という括りになっており、ヨーロッパと日本の食品添加物を数で比較しても意味がありません。食品添加物は安全性が評価されています。食品を加工したり、保存したりするときに使う、なくてはならないものです。
(畝山先生)

Q輸入農産物に使用されているポストハーベスト農薬は問題ないのでしょうか?

A

ポストハーベスト農薬は、日本の法律上、食品添加物扱いなので表示が必要になります。これは長距離輸送時に傷むのを防ぐため農産物を殺菌・防カビするもので、国産農産物は該当しません。安全性に問題がない使用法が定められており、特に気にする必要はないでしょう。外国産の商品を批判して日本の商品を売りたい人が、悪い評判を立てるのは常套(とう)手段です。むしろ日本にはない野菜や果物が食べられるわけで、選択肢が増えていいことだと思います。
(畝山先生)

Q遺伝子組換え作物の影響をどうお考えですか?

A

質疑応答の様子

日本人は、遺伝子組換え食品をたくさん食べていますね。現在世界に流通している大豆やトウモロコシの多くは遺伝子組換え作物です。これらを食べるようになって20数年が経ちますが、影響はでていません。安全性に対する根拠だけが蓄積されています。遺伝子組換え作物は、農薬を含めて安全性が担保された作物と考えてよいと思います。
(畝山先生)

Q遺伝子組換え作物を、欧米人は食べていないと言われています。日本人は大丈夫でしょうか?

A

欧米人も、遺伝子組換え作物を食べています。たとえばハワイのパパイヤは絶滅危機にあったものを遺伝子組換えで救ったのですが、現地の人を含めてみんな食べています。人類は昔から植物を交配して育種をしてきました。原種のジャガイモやトマトと今のものは全然違います。私たちは昔から遺伝子を変えてきたのです。それを少しエレガントな方法にしたのが遺伝子組換えです。頭から怖いと考えるのではなく、人類はどんなものを食べてきたか?将来我々はどうやって食料を確保していけばいいのか?といった視点を持てば、遺伝子組換えの役割も理解できるのではないでしょうか。食品の安全は知れば知るほど奥が深いもの。勉強していただくと、さらに面白くなっていくと思います。
(畝山先生)

Q身長が伸びると言われている商品の有用性を教えてください。

A

質疑応答の様子

いわゆる健康食品という範疇に入ると思いますが、私はリスクが心配です。なぜなら有効性がわからないからです。有効性を調べようと思えば、本来なら一卵性の双子による実験などが必要なのですが、人で調べるのは難しく、健康食品ではそこまでやらないと思います。子供の身長を伸ばすのに、こういう栄養強化食品は使わない方がいいと思います。睡眠時間をきちんととり、バランスのいい食生活をすることが重要です。そうすることで成長ホルモンが分泌し、子供はすくすくと育ちます。
(上西先生)

商品や広告を見ても、背が伸びるとはどこにも謳っていません。勝手に行間を読んではいけないということです。製造者は何かあったら、使った方がそのように思い込んだのでしょうというスタンスです。騙されないように気をつけてください。
(畝山先生)

Q給食の和食と牛乳が合わないと言われます。どうしたらいいでしょうか。

A

質疑応答の様子

難しいですね。新潟県の三条市が、牛乳が和食に合わないというので牛乳をストップしました。ふりかけで代用したのですが、うまくいきません。結局はミルクタイムという時間を作って対応しているそうです。小中学校生はたくさんカルシウムを摂とらなければなりません。一番いいのは乳製品です。小魚とかを毎食食べるのは大変です。「ご飯と牛乳は合わない?」と子供に聞くと、「そうでもない」と答える子供も多いと聞きます。案外、大人の考えを押し付けている気もするのですが、どうでしょうか。
(上西先生)

先生からのひとこと

上西先生

上西先生

今日は、骨太人生を目指しましょう、というお話をさせていただきました。骨を健康にすることは、子供はもちろん先生方も、高齢者も、すべての日本人の大きな課題だと思います。骨粗鬆症は痛くないので、骨折してはじめて気づくことが多いのです。転ばぬ先の杖、カルシウムを子供の頃からしっかりと摂る習慣を身につけましょう。もちろんその前に、バランスのよい食事がありますが、普段からカルシウムのことを考えていただきたいと思います。

畝山先生

畝山先生

お茶の話について1つ追加させてください。お茶の葉にはフッ素が含まれていて、虫歯予防にいいとされています。ただ摂りすぎるとフッ素症という骨の病気になることがあります。アメリカでは粉末のティーを飲みすぎてなった事例も。もちろん、お茶を飲む習慣は何千年も続く大切な健康法です。歯の健康など、メリットがたくさんあります。静岡のすぐれた食文化として、お茶の習慣を大切にしていただきたいと思います。

参加者の感想

セミナー参加者数89名/合計回答数78名

Q講演の内容を授業(仕事)でも活用したい(取り上げたい)と思いましたか?

これから骨量アップできる年齢の子供達なので、是非伝えて骨量アップしてもらいたいです。
(20代)

説得力のあるデータ、自分のこととして考えられるカルシウム自己チェック表は活用したいと思いましたが、食の安全については消化不良で、生徒へ指導する内容としては難しいです。
(50代)

中学生の時期の食生活が生涯に渡って重要だということを特にしっかり伝えたいと思います。またカルシウム自己チェック表を活用させていただきたいと思います。
(50代)

骨太人生は全国民が目指す必要があると思いました。またそれによって医療費が節約でき、税金を有効活用するためにも教育は大切だと思いました。
(60代以上)

食の安全についての講演は学校現場で活用するには専門性が高過ぎると感じました。しかし質疑応答でより身近な内容となり、認識を新たにすることができました。
(50代)

Q本セミナーで印象に残った内容は何ですか?

学校給食がカルシウム摂取にいかに大きく関わっているかが実感できました。
(60代以上)

高校生の今の時期に骨量を増やすことが大切ということ、食品自体が安全ではないことが分かりました。

骨粗鬆症にならないようにバランスの良い食事や睡眠、運動を大切にしていきたいと思いました。食品リスクや安全性について知らないことが多くて少しでも知ることができて良かったです。

残留農薬や食品添加物よりも食事要因の方がリスクが大きいという内容が印象に残りました。
(50代)

本当の食の安全は特定の食品に偏らないことがリスク分散になるということ、暴露量についてとても良く理解することができました。
(40代)

リスク分散のためにも多様な食品からなるバランスの取れた食生活が大切ということが印象に残りました。
(40代)

Q本セミナーに参加して農薬に関するイメージの変化はありましたか?

今まで思い込んでいた自分の考えは違っていたのだと気付かされました。

正しい情報を得ることが大切である、偏る食べ方、健康食品などは注意が必要だと分かりました。
(60代以上)

無添加・無農薬が良いという考え方をもっている生徒が多いので、今回の内容を生徒に伝えたいと思っています。
(40代)

リスクに関する認識自体にこのセミナーで変化が生じました。また健康的でいることに必要な食品の食べ方を考えていくことが大切だと改めて感じました。上西先生のバランスの良い食事と畝山先生の多様な食品の概念は交わる部分を感じ取ることができました。
(40代)

政府が認めた正しい農薬を正しい方法で使用すれば問題はないということが分かりました。
(50代)

Q次回も「食育」「食の安全」等をテーマにしたセミナーに参加したいと思いますか?

栄養学や食べ方についてなど授業の参考になることを教えてほしいです。
(50代)

科学的データを活用し、特に保護者に向けた啓発力を高めたいと考えています。学校を退職してしまうとこの機会はなくなってしまうのでしょうか。是非こういったセミナーを教職員以外にも広めていただければと思います。
(60代以上)

食品添加物についての講演を聞きたいです。また学校現場での実践事例なども知りたいです。
(30代)

減塩や高血圧についての話をお聞きしたいです。
(40代)