教職員向け

教育関係者セミナーレポート
「食と未来の教え方」

家庭科教職員対象セミナー 食育を科学的に考える(熊本)

講座プログラム

開催日時

:2018年3月3日(土)13:30~16:20

第1部

:「骨太人生を目指そう」

第2部

:「ほんとうの“食の安全”を考える」

参加者

:53名

今回の講師は、この方たち

  • 上西 一弘 先生

    【パネリスト】
    女子栄養大学
    栄養生理学研究室教授
    栄養学博士
    上西 一弘 先生

  • 畝山 智香子 先生

    【パネリスト】
    国立医薬品食品衛生研究所
    安全情報部長、薬学博士
    畝山 智香子 先生

  • ホテルメルパルク熊本

    【会場】
    ホテルメルパルク熊本

【司会】 茂野 えり子さん フリーアナウンサー、栄養士

  • 第1部
  • 第2部
  • 質疑
    応答
  • 参加者
    の感想

第1部:「骨太人生を目指そう」

(講師:上西 一弘 先生)

栄養生理学、骨の健康と栄養、身体計測とライフスタイルをあわせた栄養評価、スポーツ選手の栄養サポートなどが専門。栄養学博士で日本栄養改善学会理事を務める上西先生に、骨粗鬆症やカルシウムと骨の働きについてお話していただき、成長期の骨づくりの大切さを考えました。

「體」は、何と読むでしょうか?

私の教え子に、骨が豊かと書くから「カルシウム」と答えた生徒がいました。エレガントと思いませんか?でも正解は「からだ」です。骨が豊かなことは、健康の基本です。この講座で骨とカルシウムの働きを学び、子供たちが骨太の人生を歩めるよう授業に役立ててください。
先生方は、骨粗鬆症という病気をご存知ですね。骨がもろく透けるような状態になり、強度を失い、ふとした拍子に骨折してしまう骨格疾患です。原因は、骨強度の低下です。骨強度は、【骨密度】+【骨質】で決まります。以前は骨密度だけを重視していましたが、今は骨質という「骨のしなやかさ」も重要と考えるようになりました。骨密度が7割、骨質が3割の比率と言われています。ただ骨質に関しては計測法が確立しておらず、現在研究中です。
あなたの回りで身長が1年に3センチ以上縮んだ人がいたら、脊髄の圧迫骨折を疑ってください。骨強度が低下すると、上から強い力が加わったときに圧迫骨折が起きます。人間の体は206本の骨で支えられているのですが、そのうち1つが潰れると骨折が連鎖します。胸とお腹の骨がつぶれると、その辺りの容積が小さくなって逆流性の食道炎を起こし、年中胸焼けの状態に。その下の小腸大腸が押しつぶされるとひどい便秘だけでなく、食べることが億劫になり体調を崩してしまいます。

会場の様子(第1部)

カルシウムの貯蔵は、小学生から。

カルシウムは「骨」をつくるだけではなく、筋収縮の調節、神経細胞機能の調節、分泌の調節などの働きがあります。そのカルシウムを貯蔵している場所が「骨」です。骨には体を支え、筋肉とともに体を動かし、臓器を保護し造血する働きがあります。血中のカルシウムが足りなくなると骨から蓄えていたカルシウムを溶かして使います。カルシウムを使い切ってしまうと、骨がスカスカになって病気になるのです。カルシウム不足=イライラする、という説がありますが、これは過剰な表現で、血液中のカルシウムが急激に減少すると筋肉が痙攣するなどの症状がでることがあります。
カルシウムは体内ではつくれません。体外から取り込み、骨の中に貯蔵することで強い骨を保つことができます。カルシウムを多く含む食品は牛乳・乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆製品など。なかでも牛乳は小魚、野菜に比べて吸収率が高く、1本飲めば220mgのカルシウムが摂取できます。日本人のカルシウム摂取量は、高校生から急に減少します。なぜでしょうか?中学までは学校給食で牛乳を飲みますが、高校からは飲まなくなるからです。子供が高校生になったら、家の冷蔵庫に牛乳を入れておく習慣を広める必要があります。
健康で強い骨をつくるには、体内で生成できないカルシウムを若いうちに貯蔵することが大切です。そのためにはカルシウムの吸収率が高い牛乳・乳製品をしっかり摂るのが効果的です。貯蔵したカルシウムを有効に使うには、体を動かして骨に適度な負荷をかけること。そうすることで骨からカルシウムが溶け出すのを防ぐことができます。カルシウムの吸収を促進するビタミンDは体内でつくることができます。そのためには適度に紫外線にあたる必要があるので、屋外での散歩をお勧めします。

会場の様子(第1部)

骨を豊かにする4ヵ条。

最後に、私が考える骨を豊かにするための4ヵ条をまとめてみました。
1.バランスの良い食事・・・いろいろな料理を摂取することにより、カルシウムはもちろん、他のミネラルやビタミンを摂取することができます。
2.適度な運動をする・・・適度な運動は、骨に刺激を与えて丈夫にし、骨からカルシウムが溶け出すのを防いでくれます。普段から小まめに身体を動かすよう気をつけることで、骨を豊かにすることができます。
3.太陽の光を浴びる・・・カルシウムの吸収を促すビタミンDは、陽光を浴びることで体の中でつくることができます。ビタミンDには筋力を維持する効果があり、転倒予防にも効果があります。1日30分間の屋外での散歩を習慣にしましょう。
4.十分な睡眠をとる・・・成長ホルモンをコンスタントに分泌させるためには規則正しい睡眠が必要です。成長期の子供たちに睡眠の大切さを教えてあげてください。
以上の4つを守り、子供をのびのびと育ててあげることが、骨太人生につながっていくと思います。

会場の様子(第1部)

第2部:「ほんとうの“食の安全”を考える」

(講師:畝山 智香子 先生)

厚生労働省直轄の国立医薬品食品衛生研究所で、世界中から食品の安全性に関する情報を収集・分析し、食品中に存在する化学物質の評価を行っている薬学博士の畝山先生。食品の安全性はどう評価するのか?残留農薬や食品添加物の基準値の意味は?といった観点から食品の安全についてお話していただきました。

食品は「安全」と思い込んでいませんか?

一般の人は、食品は安全と思い込んでいるフシがあります。食品リスクの研究者からすると「食品とは未知の化学物質の塊」です。人間が生きるための栄養やエネルギー源として食べてきた、食べてもすぐに明確な有害影響がないことがわかっている物質にすぎません。ビタミンや添加物、農薬のように構造や機能がわかっているものもありますが、ほとんどの食品は長期の安全性について確認されていません。しかも平均寿命が80才を超える今のような時代の経験や、人工透析や臓器移植などの基礎疾患を抱えた人での経験を、私たちは持ち合せていません。食品の影響に関してはわからないことが圧倒的に多いのです。
食品の安全とは、「意図された用途で、作ったり食べたりした場合に、その食品が消費者へ害を与えない」という保証です。リスクが許容できる程度に低いことを、食品は安全と考えるということを理解していただければと思います。食の安全を語るとき大事なのはリスク分析です。リスクは「ある」「ない」ではなく、「どのくらい大きいか」「どちらが大きいか」で考えます。【リスク=ハザード×暴露量】と覚えてください。「ハザード」とはある食品の危険性・有害性で一定値です。「暴露量」は食べる量で、こちらは変えることができます。リスクを減らすには、主に暴露量を減らすことになります。つまり食べる量を少なくすることです。危険性の低い食品でも、そればかり大量に食べていると暴露量が高くなり、リスクが大きくなるのです。

会場の様子(第2部)

健康食品は、なぜリスクが高い?

食品のリスクが語られるとき、食品添加物や残留農薬が取り上げられがちですが、自然食品の中にも摂りすぎると健康に害を及ぼすものがあります。玉ネギによるイヌ、ネコ、ヒツジなどの中毒事例が多数あるのをご存知ですか。体重50㎏の人だと、デフォルト安全係数を採用すると1日25mgまでしか食べられません。もし玉ネギが食品添加物だったら、厳しすぎる基準値が安全性に寄与せず、不安を増大することになるでしょう。
米やヒジキには有毒性のある無機ヒ素が含まれており、欧米では、子供に米をメインで与えないよう奨励しています。食品の中に汚染物質が混入して起こるリスクもあります。重金属や環境汚染物質など環境中に存在するものが食品に移行する、カビ毒や加工の際に生じるもの、容器や調理器具などから移る物質もあります。
一方で今、被害が増えているのは健康食品です。健康食品は大量摂取しやすい特徴があります。知らず知らずのうちに暴露量が増えてリスクが増大するのです。さらに健康食品は、原料を濃縮物や乾燥粉末にしたものがあり、これらは食経験データが少ないのが現状です。死亡者を含む健康被害が報告されているのに認知されていません。利用者の警戒心が低いため、よりリスクが高い食品と言えると思います。

会場の様子(第2部)

残留農薬は、実質ゼロリスクを目指して管理されている!

リスクが高いと思われがちな食品添加物や残留農薬は、実質的にはリスクがゼロに近いものです。その理由は、食品安全委員会が一生に渡って毎日摂取しても健康に影響が出ない量に、安全係数を使って「リスク評価」を行っているからです。この「リスク評価」を基に、厚生労働省や農林水産省が、正しく使用されているかを検査するなど「リスク管理」を徹底しています。
研究者から見ると、食品のリスクの捉え方は現実とズレがあります。食品全般のリスクは決して低くはありません。世界中の食品安全機関が健康と安全のために薦めているのは、「多様な食品からなる、バランスのとれた食生活」です。それ単独で「安全な食品」と「安全でない食品」があり、安全な方を選ぶという考え方は間違っています。すべての食品になんらかのリスクがあり、リスクの正確な中身はわからないため、特定の食品(種類・産地・栽培etc.)に偏らないことがリスク分散になります。ある食品を安全にするか、安全でないものにするかは消費者の選択なのです。先生方には、これからの「食の安全」は、消費者もリスクコミュニケーションの分野で重要な役目を果たすことを理解していただきたいと思います。

会場の様子(第2部)

こんな質問がありました。

Q小学生以下の小さい子供へ、アドバイスはありますか?

A

質疑応答の様子

小さな子供を対象とした調査はしていませんが、幼児期は食習慣を確立していく上でとても大切な時期です。いろいろなものをバランスよく食べる習慣が身につくよう気をつけてください。偏った食習慣が身についてしまうと、中学生、高校生になったときに矯正するのが大変になります。幼少期の食習慣がその後の成長に大きく影響することをしっかり認識して、バランスのいい食生活の地歩を固めていただきたいと思います。
(上西先生)

Qヒジキに含まれている無機ヒ素への対応ですが、食べるとき水戻しだけでも大丈夫でしょうか?

A

質疑応答の様子

韓国でもヒジキを食べる習慣があり、昨年12月、韓国の食品医薬品安全処が、ヒジキの調理方法のガイドを出しました。それによると乾燥ヒジキは30分以上水戻ししたあと、大量の水で30分以上茹でてからお湯を捨てると書いてあります。韓国では安全にヒジキを食べるための無機ヒ素の基準値を定めているのですが、それを満たすには30分以上茹でる必要があるのです。ヒジキが大好きだけど無機ヒ素が心配という人は、ちょっと大変かもしれませんが、韓国のガイドに沿って調理してみてはいかがでしょう。
(畝山先生)

Qなぜ間違った食品情報が蔓延してしまうのですか?

A

質疑応答の様子

理由の1つは、ここ20年で食品の安全に関する考え方は大きく変わったのに、一部の人が古い考えのままで、「残留農薬や食品添加物がキケン」と発言をしているからです。他にも、例えばオーガニック食品を売りたいために他の食品に難癖をつけるような人がいて、これも間違った情報が広がる一因です。もっとも厄介なのはマスコミの偏った情報です。雑誌や書籍は「〇〇はキケン!」「〇〇はアブナイ!」と煽ることで売上が伸びます。マスコミが書籍類の売上のために、偏った情報を大げさに流すことが、大きな要因になっていると思います。
(畝山先生)

5年に1度くらい「牛乳はダメ」という本が出ます。15年程前のこと、当時のベストセラーに「牛乳はダメ」という記述が8ヵ所ぐらいあり、著者に公開質問状を出しました。回答はありましたが納得がいくものではありませんでした。それから5年後、今度は「子供に牛乳を飲ませるな」という内容の本が出版されました。これも間違った部分がたくさんあり対応に困りました。畝山先生が回答されたように、売れるのは「ダメ」「キケン」などのネガティブな表現の本です。科学的な根拠があるかないかを見極めた上で、情報を判断する習慣を身につけてほしいと思います。
(上西先生)

Q間違った情報に惑わされない子供は、どうすれば育つでしょうか?

A

質疑応答の様子

いま学校で「調べ学習」をやりますね。そのときに安易にインターネットで検索して、上の方に出てきたあやしげな情報をコピー&ペーストし、レポートするのはどうかと思っています。ネットで調べて上位にくる情報は、ウソが混じっていることが往々にしてあります。要注意です。必ず官公庁の情報で確認をすることをお勧めします。ネット情報で気になるものがあったら、官公庁の情報と比較して、真偽を確認すること。子供にはちょっとハードルが高いので、まずは先生方が実践して、子供たちに教えてあげてください。
(畝山先生)

参加者の感想

上西先生の話は分かりやすくて活用したいと思いました。小中学生のうちにカルシウムをとって骨を強くすることが大切で、大人になってからでは遅いということが分かりました。

食品安全の定義について、バッサリと切る畝山先生の話には目からウロコが何枚も落ちました。またリスク分散が大切ということがわかりました。

成長期のダイエットは危険で、カルシウムを取れば背が伸びるということを伝えたいです。

食品の安全は、偏らず種類多く食べることでリスク分散するという話が印象に残りました。

ヒジキ、米、ハーブティーなど健康に良いと思っていたものに有害な物質が多く含まれているという話が印象に残りました。

骨を豊かにするには食事と運動、太陽と水と睡眠が大切だということが印象に残りました。また学校で栽培したじゃがいもで食中毒があるということを初めて知り、調理する時は気をつけたいと思いました。

安全という意味、添加物、残留農薬について新しい考え方を身につけることが出来ました。オーガニック、健康食品についても危機感を持って対応したいと思います。またバランスを取ることによってリスクが減るという言葉で考えを新たにしました。

家が農家で農薬の使い方の厳しさはわかっているつもりなので、安全に使われているのならそれほど悪いものだとは思っていません。

改めて「食の安全」についてしっかり考えていこうと思える良い機会でした。先生の話を聞いて更に自分で調べたり勉強して1つの情報に扇動されたり鵜呑みにしたりしないようにしようと思いました。

先生方のスライドも大きく印刷して資料としていただいたので後から活用しやすくて助かります。