旬素材の産地から

栃木のいちご発祥地で豊かに実る「とちおとめ」栃木のいちご発祥地で豊かに実る「とちおとめ」

※写真撮影のためマスクを外していただきました。

長谷川 清(はせがわ きよし)さん

JA足利いちご部会は「とちおとめ」に加え、まろやかな甘味が特徴の「スカイベリー」と酸味が少なく甘味が際立つ「とちあいか」を栽培しています。今回お話をお聞きした長谷川さんは、その中でも主に「とちおとめ」を栽培。40年近くいちごの生産を続けてきた長谷川さんに、「とちおとめ」の特徴などについてお話をお聞きしました。

いちご全景いちご全景
いちご個体
いちご
1968年から生産量全国1位を続けている「いちご王国」の栃木県。足利市はその発祥地と言われ、いちごの産地化に尽力した仁井田一郎氏(故人)が暮らした仁井田家の敷地内には、「栃木県苺発祥地」の記念碑が建立されています。栃木県には日本唯一のいちご専門研究機関「栃木県いちご研究所」があり、さまざまな品種のいちごを開発。甘さと酸味のバランスがよい「とちおとめ」は、日本国内のいちごの品種生産量1位を誇ります。

栃木県南西部に位置する足利市は、群馬県の桐生市や館林市とも隣接する県境に位置しています。古くから織物の街として栄え、近年はアルミや機械金属、プラスチック工業などを中心に商工業都市として発展。北部に足尾山地、南部に関東平野が広がり、中央を流れる渡良瀬川が育んだ肥沃な大地と豊富な日照を活かして、いちごやトマト、アスパラガスなどさまざまな生鮮野菜や農産物を特産品として出荷・販売しています。

足利のいちごの特徴を教えてください。今シーズンの出来はいかがですか?

A

長谷川さん

長谷川さん

私は「とちおとめ」という品種を生産しているのですが、「とちおとめ」は甘いだけでなく甘さと酸味のバランスがいいです。例年は収穫量が落ちてしまう時期もありますが、今シーズンは常に安定して収穫ができていて味もいいと思いますよ。

A

JA足利 中島さん

JA足利
中島さん

「とちおとめ」は酸味があって甘味もあるので、味にコクがありますね。ビタミンCも豊富です。ケーキなどの加工品で使われるいちごは「とちおとめ」が多いです。逆三角形のキレイな形をしているので、ケーキの上に乗せたときの見栄えがいいです。

収穫
集荷場パック

足利市は「いちご王国」として知られる栃木県のいちご発祥の地とお聞きしました。

A

JA足利 中島さん

JA足利
中島さん

戦後の足利は稲作が中心で、各生産者の作付け面積も少なく収入が少なかったのです。その当時に町会議員を務めていた仁井田一郎さんが、静岡県でのいちご栽培の視察や神奈川県での栽培技術の習得などを経て、生産者の新たな収入源として足利にいちご栽培を広げました。現在の足利は栃木県内のいちご出荷量の中では低い方となってしまいましたが、栃木県のいちご栽培、そして東京などへの出荷をいち早く実現したのは足利なのです。

記念碑

当時の栃木県知事・渡辺文雄氏の揮毫(きごう)により建立された「栃木県苺発祥之地」の記念碑。

A

長谷川さん

長谷川さん

うちは山上げ栽培(高冷地育苗:標高が高い地域で育苗することで、病気の発生が少なく高品質のいちごが育ちやすい)を行っています。県北は日光の戦場ヶ原などでやる人が多いのですが、うちは群馬県の草津に上げています。以前はこの辺りでも10人くらいが草津で山上げを行っていましたが、今はうちだけになってしまいました。

A

JA足利 中島さん

JA足利
中島さん

作付け面積や出荷量だけでなくいちご部会の組合員も年々減ってしまっていましたが、近年は安定し、さらに若い人たちがいちごに興味を持って新たに参入してくれています。足利市とJAでは生産者の方への研修を紹介するなど新規参入を後押しして、独立後もバックアップしています。齋藤友見さんもそんな若手の一人です。

原色選果標準表
JA足利の「とちおとめ」

取材時に出荷に来られた齋藤さんにもお話をお聞きしました。

いちご栽培を始めたきっかけと、栽培時に大変な作業を教えてください。

A

齋藤さん

主人の実家がいちごの生産者だったので3年ほどお手伝いをしていました。そこでいちご栽培に面白さを感じて独立しました。ビニールハウス内での土耕栽培でいちごを育てているので、定植時に30cmほどの畝(うね)を立てるのが女性だと大変ですね。出荷が始まってからは、パック詰めが深夜まで及んでしまうこともあります。

いちご栽培の中でうれしい瞬間、今後について考えていることを教えてください。

A

齋藤さん

うれしいのは最初に実った一粒を見つけた瞬間です。特に生産者となって初めての年の最初の一粒は、とてもうれしかったですね。そんな最初の一粒は誰にもあげず、自分と息子で食べています。主人にはあげません(笑)。今後は主人も一緒にいちご栽培をする可能性があるので、実現したらビニールハウスを増やし、主人の両親も巻き込んでみんなでいちごを育てられたらいいですね。

いちご写真
選別作業

収穫したいちごは熟度や大きさを選別しながらパック詰めの作業を行う。

集荷場での内容チェック

集荷場では熟度や大きさが合っているか、傷みはないかなど細かくチェック。

長谷川さんがいちご栽培で重要視している作業を教えてください。

A

長谷川さん

長谷川さん

齋藤さんと同じくうちも昔ながらの土耕栽培なので、土壌の消毒に力を入れています。定植をする土壌だけでなく、山上げをする草津の土壌も消毒しています。

農薬はどのように使っているのでしょうか?

A

長谷川さん

長谷川さん

土壌の消毒に加えて殺菌剤などの散布もしていますが、天敵製剤(ミヤコカブリダニやチリカブリダニの放飼によるハダニ類防除に効果)を使用して以降はあまり散布は行いません。農薬はJAさんの指導に合わせて使用し、私たちでも減らすようにしていますが、「とちおとめ」は炭疽病やうどんこ病になりやすいので天候によって病気が出てしまうことがあります。やはり病害虫の防除に農薬は必要ですね。

いちご栽培では受粉にミツバチを使っているそうですが、農薬の影響は受けないのでしょうか?

A

JA足利 中島さん

JA足利
中島さん

開花後に行う授粉を、人間が手作業で行うのではなくミツバチに担ってもらっています。10月下旬頃からビニールハウス内に放飼して、5月末頃までミツバチとともにいちごの収穫を行います。

A

長谷川さん

長谷川さん

JAさんからミツバチを放飼する日程の連絡が届くので、その日程に合わせて農薬の使用を調整しています。放飼以降に農薬の散布が必要なときは、ミツバチはビニールハウスの外に出てもらいます。ミツバチはとてもデリケートなので、農薬の匂いを嗅いでしまうと巣箱から数日間出てこなくなってしまうのです。

ミツバチ

普段は大人しいミツバチだが、授粉のジャマなどをすると刺されてしまうことも。

いろいろな粒

おいしいいちごを選ぶコツを教えてください。

A

JA足利 中島さん

JA足利
中島さん

いちごは時期によって味がまったく違います。露地栽培のいちごは5〜6月頃が収穫時期なので、そのときが旬ですね。ビニールハウス栽培のいちごが最も甘いのは、お正月明けから2月下旬頃まで。いちごは熟すまでの日数が開花からの積算温度で決まるので、気温が低い時期ほど積算温度に到達するまで日数が必要になります。普段は30日ほどですが、その時期は40日以上かかるので、糖度の高いいちごになっていますよ。

A

長谷川さん

長谷川さん

いちご狩りなどで食べるときは、ヘタの下まで赤くなっているものが甘いですね。ヘタ側から食べた方が最後までおいしいと言いますが、全体が赤ければどこから食べても美味しいですよ(笑)。

A

JA足利 中島さん

JA足利
中島さん

最初はヘタがいちごに密着していますが、完熟が近づくと反り返って離れてくる。そうなっているいちごは甘いですね。それから形が崩れているいちごは受粉がうまくいかなかったものなので、完熟までに時間がかかるためにとても甘いことがあります。

反ったヘタ
あんあん百頭

JA足利の直売所「あんあん百頭」には、各品種のいちごが並ぶ。

最後に消費者の方へのメッセージをお願いします。

A

長谷川さん

長谷川さん

いちご作りは毎年、勉強です。シーズンのサイクルは決まっていますが、常に前年の反省があって次の年に新たな工夫をしています。足利のいちごは安心・安全。そのいちごをおいしく食べてもらえるように一生懸命作っています。

お二人

いちご(とちおとめ)栽培スケジュール

※スクロールにて全体をご確認いただけます。

栽培スケジュール