農薬Q&A

農薬の科学

Q-12日本では単位面積当たりの農薬使用量がアメリカの7倍だといいます。農薬が過剰に使われていませんか。

 この7倍という数字は20年以上も前からあちこちで話されていますが、何を根拠に算出されているか分からない数字です。FAO(国連食糧農業機関)の年報に記載されている各国の農薬使用量を耕地面積で割って比較したものらしいともいわれますが、FAOの年報で取り上げられている農薬は実際に使われている農薬の一部に限られ、正確な比較ができるものではありません。

作物別で比べれば

 農薬の使用量の比較は、いろいろな要素があり実は簡単にはいかないのです。たとえば、表1と表2でアメリカと日本の農薬使用状況を単位面積当たりで比較すると、果実や野菜では大きな違いはありません。作物別で比較した表3をみても、同じ作物なら日本がとくに単位面積当たりの農薬の使用量が多いわけではありません。しかし、作物の違いを考慮せず合計の数字、つまり、表1と2の2.4kgと8.1kgとで比較すると、日本はアメリカの3.37倍になります。これは、アメリカのように全栽培面積のなかで、農薬の使用量の少ない作物の占める割合が大きい場合、全使用量を全栽培面積で割れば、当然、単位面積当たりの農薬使用量は少なく算出されるためです。日本とアメリカのこのような差は、アメリカ農業のほぼ半分を占める麦類が、もともと病害虫の発生が少なく農薬の必要性が高くないことが影響しているのです。日本を含め、世界各国とも果樹は農薬使用量が多く、大豆やとうもろこし、小麦は少なくて済み、コメやバレイショは中間ぐらいです。もし、農薬の全使用量だけを比較すれば、アメリカは日本の5倍近く使っているということもできます。

 基本的に、同じ作物でも農薬の使用量は自然条件や栽培条件によりかなり異なりますし、品種によって病害虫に弱いもの比較的強いものとさまざまで、安定的な生産を維持するために使われる農薬の量は違ってきます。

 したがって、このような作物や栽培条件などの違いを考えず、アメリカでは少ない、日本では多いというのはあまり意味のないことです。

[表1]アメリカにおける農薬使用状況(1973)(有効成分量)
作物名(群) 作付け面積(ha) 左の構成比(%) 農薬使用量(t) ha当たり使用量(kg)
果実 1,110,000 1.2 29,308 26.4
野菜 1,365,000 1.5 17,143 12.6
とうもろこし 28,640,000 31.6 72,880 2.5
大豆 22,680,000 25.0 36,019 1.6
麦類 31,820,000 35.2 15,539 0.5
5,000,000 5.5 49,622 9.9
90,615,000 100.0 220,551 2.4

アメリカ“Techomic Reserch Associates”の調査

[表2]日本における農薬使用状況
作物名(群) 作付け面積(ha) 左の構成比(%) 農薬使用量(t) ha当たり使用量(kg)
果実 431,000 7.6 10,423 24.2
野菜 651,000 11.5 11,207 17.2
水稲 2,568,000 45.3 20,385 7.9
その他 2,013,000 35.6 4,104 2.0
5,663,000 100.0 46,119 8.1

農林水産省植物防疫課調べ

[表3]作物別にみた農薬使用量
作物 国名 栽培面積(千ha) 農薬使用量(t) ha当たり(kg)
ぶどう(注) 日本
アメリカ
フランス
イタリア
スペイン
28
338
1,079
1,129
1,700
856
16,170
66,694
50,750
28,080
30.9
47.8
61.8
45.0
16.5
日本 2,246 24,549 10.9
大豆 日本
アメリカ
143
25,689
794
67,728
5.5
2.6
ばれいしょ アメリカ
スペイン
フランス
イタリア
513
343
203
138
5,945
931
2,705
3,071
11.6
2.7
13.3
22.3

(注)ぶどうについては殺菌剤のみ
バッテル社資料(1983年〜1985年)などより

参考文献
*福田秀夫『農薬に対する誤解と偏見』2000、化学工業日報社(2000)
*日本農薬学会『農薬とは何か』1996、日本植物防疫協会(1996)
*内田又左衛門『持続可能な農業と日本の将来』1992、化学工業日報社
*化学工業日報社『農薬の話ウソ・ホント』1989

(2007年2月)