農薬は本当に必要?

農薬に関する法律、指導要綱、社会的役割などについて

農薬を使わないと、農作物の収量はどのくらい減るのですか。

病害虫の発生程度や雑草の発生程度にもより異なりますが、これらの発生があった場合、農薬での防除が必要です。農薬を使わないと、病害虫や雑草の被害により、収穫が皆無になったり、収量が大幅に減少する作物もあります。

農薬を使用しない場合の病害虫の影響については、(社)日本植物防疫協会において1991年、1992年および2004~2006年に試験を実施しており、それによると、ある程度収穫できる作物もありましたが、収穫が皆無になる作物もありました。さらに、(財)日本植物調節剤研究協会では、1983~1986年に野菜における雑草の被害についての解析を行っており、収量が大幅に減少することを示しました。

家庭菜園のように栽培面積が狭く、単一の植生ではない場合は、病害虫の被害が目立たないこともあります。しかし、りんごやもものように病害虫の被害が多い作物もあります。一般的に栽培面積が大きくなればなるほど、また同じ作物を長い間連続して栽培をすればするほど病害虫による被害を受けやすくなり、実際の農業生産現場では病害虫や雑草の防除が必要となります。

現在の栽培体系のなかで農薬を使用しないで栽培した場合、病害虫や雑草によりどのような影響が出るかを調べる試験が行われています(表参照)。この結果から以下の3点が明確になりました。

  1. 収量が低下する。
  2. 収穫物の品質が低下する。
  3. そのため、収量の減少率以上に出荷金額の減少がおきる。

農薬を使用しないで栽培した場合の病害虫などによる、収量と出荷金額の減少率(%)

※スクロールにて全体をご確認いただけます。
減収率 減益率












水稲(14) 100 0 24 100 5 30
小麦(4) 56 18 36 93 18 66
大豆(8) 49 7 30 63 18 34
りんご(8) 100 90 97 100 95 99
もも(4) 100 37 70 100 48 80
キャベツ(20) 100 10 67 100 18 69
だいこん(12) 100 4 39 100 18 60
きゅうり(5) 88 11 61 86 11 60
トマト(7) 93 14 36 92 13 37
ばれいしょ(2) 44 22 33 64 22 43
なす(2) 75 21 48 78 22 50
とうもろこし(1) 28 28
  • (注1)()内は調査箇所数
  • (注2)減少率は慣行防除区との比較

つまり、農薬を使用しないで現在の品質・収量、経済的な生産レベルを維持することは難しいということです。

病害虫に関する試験方法と結果は以下の通りです。

水稲14ヵ所、畑作14ヵ所、果樹23ヵ所、葉菜類24ヵ所、果菜類15ヵ所、根菜類等13ヵ所、全国延べ103ヵ所で、農薬を使った慣行「防除区」と農薬を使用しない「無農薬区」に分け、収量、出荷金額への影響を調べました。なお、無農薬区では農薬は一切使わないことを原則としましたが、育苗期の防除や土壌消毒など最小限の防除をおこなわないと、そもそも収穫が得られず、試験が成り立たない場合はやむをえず使用しました。

米の出荷金額は20~40%減

[水稲]新潟県や宮崎県など、延べ14ヵ所で調査しました。多くの場合、いもち病や雑草の害で収量は防除区に比べ20~30%減りました。これにカメムシ類が原因の斑点米による品質低下があり、香川県では周辺の防除区が一等米なのに無農薬区では二等米に、同じく宮崎県では三等米になるなど、出荷金額は20~40%減という結果になりました。さらに、長崎県山間部の水田ではイネミズゾウムシや雑草による被害が大きく、収穫皆無という例もありました。

[小麦]北海道で4ヵ所を調査しました。初年度、1ヵ所は雪解け後の病害により収量が20%弱減り、他の1ヵ所は眼紋病の激発による全面倒伏のため評価不能の被害となりました。2年目は1ヵ所で雪腐病、うどんこ病、雑草害で収量が60%以上減り、品質も劣り出荷金額は90%以上減りました。他の1ヵ所も、雪腐病、うどんこ病のため30%以上の収量減となり、品質も低下したため90%近く出荷金額が減りました。

[大豆]茨城県や宮崎県など、延べ8ヵ所で調査しました。紫斑病やカメムシ類により30%前後の収穫減になり、品質の低下もみられました。

りんごの収穫は壊滅状態に

[りんご]岩手県、秋田県、長野県、青森県の4県で調査しました。初年度、いずれも黒星病、すす斑病、すす点病、モモシンクイガなど病害虫により、収量、品質ともに極端に低下し、販売可能なものはほぼ皆無となりました。岩手県では、すべてが加工用にもならない「クズりんご」になり出荷金額ゼロとなったうえ、りんごの木そのものの衰弱も目立ちました。

このため、2年目は岩手県と長野県で慣行防除に戻しましたが、前年の被害の後遺症による着花数減少のため満足な収穫を得られませんでした。一方、2年連続で無農薬とした秋田県では、樹勢が一層衰え全く収穫がありませんでした。長野県の無農薬区では、2年目に木が枯れる例もありました。2004~2005年に試験された青森県でも同様の結果でした。

[もも]長野県における調査では、りんご同様、病害虫により収穫時までにほとんど落果するなどまったく収穫ができませんでした。

福島県では、シンクイムシ対象の性フェロモン剤の使用地帯で3年間に渡って調査した結果、1年目には一見健全な果実が収穫されましたが、保存中の腐敗病害により半数近くが出荷できなくなりました。2年目には性フェロモン剤で抑制できない害虫の被害が加わり、3年目にも性フェロモン剤で抑制できない新たな病害虫が発生して、出荷可能な果実はほとんど収穫できない結果になりました。

葉菜類に大きな被害

[キャベツ]群馬県や和歌山県など、延べ20ヵ所で調査しました。アオムシ、コナガ、ヨトウガ、ウワバ類などの害虫の食害が中心で、春~秋穫りは70%もの収量減、被害の少ない冬穫りも30%程度の収量減となりました。なかには収穫皆無となる例もあり、キャベツのような葉菜類の被害の大きさが改めて示されました。

[だいこん]石川県や徳島県、青森県などで調査しました。1991~1992年の調査では、全般的に例年より病害虫の発生が少なく、収量減は20%以下でした。被害の軽い場合でもだいこんが小さく、出荷金額は20~40%減少しました。しかし、奈良県の早期播種区ではダイコンサルハムシ、キスジノミハムシが多発し出荷金額は80%近く減りました。2004年の青森県の調査でも、収量も出荷金額も大きく減りました。

[きゅうり]茨城県や高知県など延べ5ヵ所で調査しました。被害がほとんどなかった大阪府の露地栽培を除けば、うどんこ病やべと病、アブラムシ類などにより収量は50~90%減少し、品質も劣る傾向にありました。

[トマト]群馬県や大阪府など延べ7ヵ所で調査しました。被害が目立ったのは、1992年調査の茨城県の露地栽培の例で、疫病により枯れ、収量が90%以上減りました。しかし、隣接する防除区では農薬を使用してほぼ完全に発病を抑えることができました。全般的には、収量が30%程度減った例が多く、露地栽培で被害が大きくなる傾向がありました。

[ばれいしょ]北海道と宮崎県で調査しました。北海道の無農薬区では疫病に加えて、ヤガ類により収量は40%以上減りました。また全体に小ぶりなため、でん粉原料用にしかならず、出荷金額の減少は60%を超えました。

宮崎県では、例年被害の大きい疫病の発生はまったくなかったものの、ウイルス病のため収量は20%程度減りました。

[とうもろこし]茨城県で調査しました。アワメイガの食害により30%弱の収量減となりました。

雑草害に関する試験結果は以下のとおりです。

稲における雑草による被害に関する調査は、(財)日本植物調節剤研究協会において1986年と2006年に行われ、それぞれ、平均減収率24%と41%であったと報告されています。

野菜における試験は1983年~1986年に合計232ヵ所で行われました。にんじん、さといも、たまねぎなどで平均減収率30%と、大きな被害が発生することが報告されています。

参考文献
*日本植物防疫協会『病害虫と雑草による農作物の損失』 2008
*梅津憲治、大川秀郎『農業と環境から農薬を考える』1994、ソフトサイエンス社

(2017年4月)