農薬は本当に必要?

農薬に関する法律、指導要綱、社会的役割などについて

病害虫や雑草の害を受けると、農作物の品質にどのような影響があるのでしょうか。

病害虫の被害により、見栄えが悪くなったり、食味が落ちたりします。また、雑草に光や栄養などを奪われ、貧弱な収穫物しか得られなくなることもあります。このように、病害虫・雑草の害により収量の減少ばかりではなく、品質にも影響します。

作物が病害虫に侵されると、収量が減少することは当然として、その被害の痕跡などが残って見栄えが悪くなったり、不揃いな形になったり、食味が落ちたり、人や動物に対して有害な影響を及ぼす毒素に汚染されるなどして品質が低下します。加えて、流通には出荷段階の厳しい品質基準があるため、生産物として出荷できる歩留まりが悪くなります。また、雑草を放置すると、その種が混じって穀物の等級が下がったりするなど、経済的な影響が生じます。さらに、高温多湿な日本の環境ではカビ毒発生のリスクも高くなると言われています。

しかし現実は、産地で適切な防除を行うため、見栄えの悪い、いわゆる「規格外品」が食卓に届くことはなく、そのような害を消費者が実感することはほとんどありません。

イネのあらゆる部分を害するいもち病

病害虫や雑草は、収量減、品質の低下を招きます。たとえばイネの病気のなかで、もっとも被害の大きいのはいもち病です。この病気は糸状菌(かび)が原因で、イネの根以外のあらゆる部分を害します。いもち病に感染すると、葉や茎に円形や楕円形の灰緑色、白色、褐色などの斑点ができて枯れたり折れたりします。ついで、穂に感染すると褐色や黒褐色、あるいは白色になり穂に実が入らなくなります。葉いもちにしても穂いもちにしても収量が減り、また穂の生育も妨げられますから、たとえ実っても品質は低下します。

イネに大きい被害を与える害虫はウンカ、ヨコバイ類やカメムシ類です。ウンカ、ヨコバイ類は葉や茎から汁液を吸い、ひどくなると葉が枯れたりイネが倒れたりします。ウンカ、ヨコバイ類のなかには植物ウイルスを媒介して、イネに穂や実がつかなくなることがあり恐れられています。また、カメムシ類は穂から汁液を吸い、結果として斑点米となり米の品質を著しく低下させます。

害虫が腐敗の原因にも

野菜や果物では、害虫にかじられたり汁を吸われたりすると、その傷だけではなく、その部分から腐敗が始まることがあります。果実の中に産みつけられた卵から孵化した幼虫が、果肉を食い荒らすこともあり、品質低下の要因になります。

雑草の発生を放置すると

雑草と作物は栄養や水、太陽の光を競い合います。雑草に光や栄養などを奪われれば生育が妨げられ貧弱な収穫物しか得られず品質低下に繋がります。また穀物のように収穫物に雑草の種が混じれば、等級が下がり値段も下がるデメリットがあります。

穀物や豆類などは、品質が低下しても低い価格や加工原料としてなら出荷できる場合もありますが収入減は否めません。

かたや果物や野菜では、病害虫の害を受けたものは、見栄えが悪く、また、保存性が低下するため商品として要求される条件を満足しにくくなります。

参考文献
*大串龍一『病害虫・雑草防除の基礎』2000、農文協
*科学技術教育協会『豊かな食生活・農薬の役割』1995
*伊藤操子『雑草学総論』1993、養賢堂

(2023年2月)