農薬は本当に必要?

農薬に関する法律、指導要綱、社会的役割などについて

遺伝子組み換え技術を使い、農薬を使わずに栽培できる作物が開発されましたか。

除草剤耐性作物、害虫抵抗性作物、耐病性作物などの遺伝子組み換え作物の導入により農薬の使用量を減らすことができたと報告されていますが、農薬を一切使わずに栽培できる作物はいまだ開発されていません。

遺伝子組換え技術の利用により、除草剤耐性作物、害虫抵抗性作物、耐病性作物などが開発され、現在多くの国々で栽培されています。除草剤耐性作物は、特定の除草剤を散布しても枯れないという特徴を持っています。害虫抵抗性あるいは耐病性作物は、特定の害虫やウイルス防除のために農薬を使わずに済む作物です。これらの遺伝子組換え作物の導入により農薬の使用量を減少させることはできますが、農薬を全く使わずに済む作物はいまだ開発されていません。遺伝子組み換え技術を使う場合でも、化学農薬を上手に利用することが重要です。

遺伝子組換え作物は、2019年現在世界29か国で合計1億9,000万ヘクタール以上の農地で栽培されています(ISAAA, 2019)。栽培面積を作物別に見ると、ダイズ、トウモロコシ、ワタ、ナタネの順となっています。

世界の遺伝子組換え作物の作物別栽培面積
世界の遺伝子組換え作物の作物別栽培面積

ISAAA 資料を元にバイテク情報普及会取りまとめ)

遺伝子組換え技術によって導入した特徴、すなわち形質のうち、除草剤耐性が最も利用されてきました。当初は、除草剤耐性や害虫抵抗性などの形質を一つだけ含む品種が栽培されていましたが、近年では複数の形質を併せ持つ品種(スタック)の栽培が増えています(ISAAA, 2019)。

世界の遺伝子組換え作物の形質別栽培面積
世界の遺伝子組換え作物の形質別栽培面積

ISAAA 資料を元にバイテク情報普及会取りまとめ)

除草剤耐性作物とは、特定の除草剤を不活化する酵素や、特定の除草剤の影響を受けない酵素を作る遺伝子を導入した作物です。除草剤には、対象の作物には影響の少ない選択性除草剤と、どの植物も枯らしてしまう非選択性除草剤があります。従来、農家は雑草の種類に合わせて複数種類の選択性除草剤を使用したり、除草のために農地をトラクターで耕起したりする必要がありました。除草剤耐性作物を導入すると、特定の非選択性農薬の散布により、作物に被害を与えることなく雑草だけを枯らすことができます。さらに、不耕起栽培が可能になるため、農作業の省力化、耕起による土壌流亡の防止、トラクター使用による燃料消費量や炭酸ガス排出量の削減など、経済面のみならず環境面でのメリットも生まれています(Brookes and Barfoot, 2016)。

害虫抵抗性作物には、土壌に生息する微生物バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis; Bt)の産生する殺虫性タンパク質(Btタンパク質)を作る遺伝子が導入されています。昆虫がこの害虫抵抗性作物を食べると、一緒にBtタンパク質も取り込まれます。取り込まれたBtタンパク質は、昆虫消化管のアルカリ性消化液により活性化され、消化管細胞表面の受容体に結合します。その結果、消化管が破壊され、昆虫は死に至ります。このBtタンパク質は特異性が極めて高く、特定の害虫にしか効果はありません。人や家畜など哺乳類の場合、消化管内は酸性であり、なおかつBtタンパク質が結合する受容体を持っていないため、摂取したBtタンパク質は分解され、悪影響が生じることはありません。ちなみに、このBtタンパク質の作用を利用したBt剤は生物農薬として30年以上利用されており、有機栽培でも使用が認められています。害虫抵抗性作物は、防除しにくい害虫の防除に効果を上げており、また化学農薬の使用回数を減らすことができることから、農家の省力化や省コスト化、環境への負荷軽減など、多くのメリットをもたらしています。

耐病性作物も開発され、栽培されています。1990年代にパパイヤ輪斑病ウイルスの蔓延により大打撃を受けたハワイのパパイヤ産業が、このウイルスに耐性を持つ遺伝子組み換えパパイヤの開発によって復活した例をはじめとして、米国の柑橘生産で大きな問題になっているカンキツグリーニング病に耐性を持つ遺伝子組換えオレンジ、プラムなどの核果類に被害を及ぼすプラムポックスウイルスに耐性を持つ遺伝子組換えプラムなど、様々な耐病性遺伝子組換え作物の開発が精力的に進められています。

では、これら遺伝子組換え作物の導入により、農薬の使用量はどう変化したのでしょうか。KlümperとQaimは、1995年以降に報告された147報の研究論文を網羅的に分析した結果、遺伝子組換え作物の導入により化学農薬の使用量が平均して37%減少したと報告しています(Klümper and Qaim, 2014)。別の研究によると、1996年に遺伝子組換え作物が導入されて以降2014年までに、化学農薬の使用量が58万トン削減(8.2%の減少)されたと報告されています(Brookes and Barfoot, 2016)。

参考文献
*バイテク情報普及会ホームページ(http://cbijapan.com
*Brookes G, Barfoot P(2016). GM crops:global socio-economic and environmental impacts 1996-2014
*ISAAA(2019). ISAAA Brief 55
*Klümper W, Qaim M(2014). A Meta-Analysis of the Impacts of Genetically Modified Crops. PLoS ONE 9(11):e111629.

(2022年9月)