農薬は本当に必要?

農薬に関する法律、指導要綱、社会的役割などについて

なぜ生物農薬が開発されるようになったのですか。

1970年代以降、肥料や化学農薬の使用による環境への負荷の低減が課題となり、また化学農薬に対する病害虫の抵抗性や耐性が問題になってきたことなどを背景として、化学農薬を補完する防除手段の一つとして生物農薬の開発が進められるようになりました。

生物的防除法、生物農薬の考え方は古くからありましたが、以下に述べるような時代的背景のもとに、環境調和型と考えられる生物農薬を開発し、化学農薬を補完し、共存する技術とする事に注目が集まりました。化学農薬に頼り世界的に食糧増産の成果を上げましたが、1970年代には地球環境問題への関心が高まった事。農業分野では、肥料や農薬による環境への影響が懸念される様になった事。1990年代には、市民生活や産業界として、環境負荷の低減を目指す様になった事。また、化学農薬の抵抗性害虫や耐性菌が一部で問題になってきて、有効な防除手段が必要になった事も背景にありました。1997年に、生物農薬の農薬登録要件が整備されたことや、広義のバイオテクノロジーの発達も、技術的・商業的に生物農薬の開発を可能にした理由背景と言えます。

古代中国では、ミカンの害虫の天敵である「養柑蟻」あるいは「黄赤大蟻」というアリを利用していたといい、その記録は晋代の西暦304年に著された「南方草木状」という書物まで遡るといわれています。

農業はその初めから病害虫や雑草との戦いという面があり、あらゆる方法が動員されてきました。生物的防除法も長い間に農業技術として定着したものや糸状菌製剤のように古くから使われてきたという例もあります。しかし、効果が不安定、即効性や持続性がないなどの欠点があり、第二次世界大戦後、優れた効果をもつ化学農薬が登場すると、病害虫や雑草は化学農薬で防除する方が効率的になりました。

化学農薬は、第二次世界大戦後の世界的な食糧増産の要請に大きな貢献をし、飢えや疾病から多くの人を救いました。しかし、DDT、BHCなどの環境中で分解しにくい有機塩素系農薬の残留性が問題化したことも事実です。

その後、新しい作用性を持つ優れた化学農薬が上市されましたが、それらの連用により、一部の病害虫に対する抵抗性、感受性の低下が、特定の地域や化合物群で問題となりはじめました。そのため生物農薬は、有効な防除手段の一つとして期待されるようになりました。

1970年代になり地球環境への関心が高まると、農業の分野でも、肥料や農薬の使用による水や土壌の汚染が懸念されるようになり、90年代に入ると、市民生活や産業活動の課題として、環境への負荷を軽減することが重視されるようになりました。農業分野でも、アメリカでは低投入持続型農業、EU諸国では粗放化農業が提唱され、日本では、生産性の向上を図りながら環境への負荷の軽減に配慮した持続的な農業、環境保全型農業の推進が国の農業政策の大きな柱となりました。そのための技術開発として「天敵利用による防除」もあげられています。

1997年に、生物農薬の登録要件(農薬取締法に基づく農薬としての登録に必要な試験成績の内容、試験事例数)が整備されたことや、公的機関での生物農薬の効果試験の評価手法が確立されたことから、開発が進みました。そして有機農産物のJAS規格が制定され、特別栽培農産物のガイドラインが示されたことでこれらの需要は拡大していきました。

2003年に食品衛生法が改正され、すべての農薬に残留基準値が設定されるポジティブリスト制が施行されるようになりましたが、生物農薬はホジティブリスト規制の対象外となり、使用農薬回数にカウントされないことから減農薬栽培技術を確立する上で重要な要素技術と認識されています。

なお、使用場面などの制約があり、生物農薬の使用は全体からみれば少ないのが現状です。近年は化学農薬と組み合わせることによる減農薬及び安定した効果が期待されており、2015年にはシンポジウム「生物農薬―この20年のあゆみと今後の展望」が開催されました。

参考文献
*シンポジウム「生物農薬 - この20年の歩みと今後の展望」2015、日本植物防疫協会、講演要旨
*深海浩宏『変わりゆく農薬』1998、化学同人
*日本農薬学会『農薬とは何か』1996、日本植物防疫協会
*梅津憲治、大川秀郎『農業と環境から農薬を考える』1994、ソフトサイエンス社
*内田又左衛門『持続可能な農業と日本の将来』1992、化学工業日報社
*大串龍一『農薬なき農業は可能か』1972、農山漁村文化協会
*農薬要覧
*農産第5090号農林水産省農産園芸局長通知(平成9年8月29日付)「微生物農薬の登録申請に係る安全性評価に関する試験成績の取扱いについて」
https://www.acis.famic.go.jp/shinsei/9-5090.pdf

(2017年4月)