農薬はどうして効くの?

農薬の種類や成分、製造方法、
農薬が効く科学的な仕組みなどについて

生物農薬とはどんなものですか。

生物農薬とは、「有害生物の防除に利用される、拮抗微生物、植物病原微生物、昆虫病原微生物、昆虫寄生性線虫、寄生虫あるいは捕食性昆虫などの生物的防除資材」と定められています。農薬の有効成分として、微生物や昆虫などを生きた状態で製品化したものです。利用される生物を分類すると、天敵昆虫(捕食性昆虫、寄生性昆虫などで、捕食性ダニ類も含む)、天敵線虫(昆虫寄生性線虫、微生物捕食性線虫など)、微生物(細菌、糸状菌、ウイルス、原生動物など)となります。天敵昆虫や天敵線虫を有効成分とするものを天敵農薬、微生物を有効成分とするものを微生物農薬と呼ぶ場合もあります。日本では95品目(2020年10月1日現在)が農薬登録されています。

*日本植物防疫協会『農薬用語辞典』2009

[天敵昆虫]天敵昆虫は、捕食性昆虫(餌となる生き物を探して食べる昆虫)と寄生性昆虫(寄主に産卵し、孵った幼虫が寄主を餌にして発育し、最終的には殺してしまう昆虫)に分けられます。捕食性昆虫(捕食性ダニを含む)は、テントウムシ、ハナカメムシ、ショクガバエ、カブリダニなどです。寄生性昆虫はハチやハエが多く、例えばオンシツツヤコバチは、施設野菜類のコナジラミ類の防除に、またコレマンアブラバチは施設野菜類のアブラムシ類の防除に使われます。

[天敵線虫]天敵線虫として防除に使われるのは、体長1mm以下の昆虫寄生性線虫です。線虫は宿主の体内で増殖します。ある生育段階になると幼虫が宿主から飛び出して、さらに地中や地表にいる害虫の体内に侵入します。その後、天敵線虫は腸内の共生細菌を放出し、増殖した細菌の毒素が害虫に敗血症を引き起こし、48時間以内に致死させます。

[微生物農薬]

  1. 殺虫剤
    害虫防除には、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis:BT)という枯草菌の一種である細菌が使われています。消化管内が強アルカリである昆虫が、BT剤の散布された植物を食べると、BT菌の体内に含まれる結晶タンパク質が分解され、殺虫活性をもつタンパク毒素となり、消化管を破壊し、消化液とともに生芽胞が体腔内に流入し、菌が増殖蔓延することで殺虫力を示すようになります。しかし、ミツバチのように消化管の中が強アルカリ性でない昆虫や胃液が酸性の哺乳類では毒性を現しません。BT剤はその種類により、コナガ、モンシロチョウなどに効くもの、ハエ、カに効くもの、甲虫に効くものがあります。
    その他に、害虫防除には、ボーベリア・ブロンニアティ(Beauveria brongniartii)という糸状菌(かび)が使われています。桑や柑橘類の害虫であるカミキリムシ類を対象にしています。この微生物の胞子は、昆虫に付着(直接あるいは風など)すると発芽し、菌糸を昆虫の体内に侵入させ体液を養分として増殖します。その結果、昆虫は死んでしまいます。
    また、ウイルスの中には昆虫に感染し、昆虫を殺してしまうものがあります。このような病原ウイルスのなかから、標的以外の生物に悪影響を及ぼさないウイルスが選ばれ害虫防除に使われます。多く使われているのは、バキュロウイルス(Baculovirus)属の核多角体病ウイルス(NVP)、顆粒病ウイルス(GV)、サイポウイルス(Cypovirus)属の細胞質多角体病ウイルスです。
  2. 殺菌剤
    病害防除に使われている細菌には、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)があります。この微生物には、病原菌を直接攻撃する力はありませんが、ある種の病原菌とは植物の表面で住む場所の奪い合いをします(競合)。その結果、後からきた病原菌は生育するのに十分な栄養が得られないため定着できず、植物は病原菌から保護されます。現在、日本では、野菜等の灰色かび病やうどんこ病の防除剤等として使用されています。
    病害防除に使われている糸状菌には、トリコデルマ・アトロビリデ(Tricoderma atroviride)やタラロマイセス・フラバス(Talaromyces flavus)などがあります。これら微生物は、イネの育苗時に病害を引き起こす病原菌に対して拮抗作用を示し、種子伝染性病害に対し防除効果を示します。
    また、ウイルス剤は病害の予防にも使われます。これは植物がすでに感染しているウイルスと同じか、極めて近縁のウイルスには感染しにくいという「干渉作用」を利用するものです。ズッキーニ黄斑モザイクウイルス弱毒株をきゅうりの苗に予め接種しておくと、アブラムシで媒介されるズッキーニ黄斑モザイクウイルス(ZYMV)の感染によるモザイク病と萎凋症を防ぐことができます。これは人のワクチンと同じ原理を応用しています。
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農薬登録のある生物農薬(2020年10月1日現在)
殺虫剤 ウイルス チャハマキ顆粒病ウイルス・リンゴコカクモンハマキ顆粒病ウイルス剤
ハスモンヨトウ核多角体ウイルス剤
糸状菌 バーティシリウム レカニ剤
ペキロマイセス テヌイペス剤
ペキロマイセス フモソロセウス剤
ボーベリア バシアーナ剤
ボーベリア ブロンニアティ剤
メタリジウム アニソプリエ剤
天敵 アカメガシワクダアザミウマ剤
アリガタシマアザミウマ剤
イサエアヒメコバチ剤
オンシツツヤコバチ剤
キイカブリダニ剤
ギフアブラバチ剤
ククメリスカブリダニ剤
コレマンアブラバチ剤
サバクツヤコバチ剤
スワルスキーカブリダニ剤
タイリクヒメハナカメムシ剤
チャバラアブラコバチ剤
チチュウカイツヤコバチ剤
チリカブリダニ剤
ナミテントウ剤
ハモグリコマユバチ剤
ハモグリミドリヒメコバチ剤
ヒメカメノコテントウ剤
ミヤコカブリダニ剤
ヤマトクサカゲロウ剤
ヨーロッパトビチビアメバチ剤
リモニカスカブリダニ剤
天敵(線虫) スタイナーネマ カーポカプサエ剤
スタイナーネマ グラセライ剤
細菌 BT
殺線虫剤
細菌 パスツーリア ペネトランス剤
殺菌剤 ウイルス ズッキーニ黄斑モザイクウイルス弱毒株
糸状菌 コニオチリウム ミニタンス剤
タラロマイセス フラバス剤
トリコデルマ アトロビリデ剤
細菌 アグロバクテリウム ラジオバクター剤
シュードモナス フルオレッセンス剤
シュードモナス ロデシア剤
バチルス アミロリクエファシエンス剤
バチルス ズブチリス剤
バチルス シンプレクス剤
バリオボラックス パラドクス剤
ラクトバチルス プランタラム剤
非病原性エルビニア カロトボーラ剤
参考文献
*日本植物防疫協会『農薬概説』
*日本農薬学会『農薬とは何か』1996、日本植物防疫協会
*村上陽三『害虫の天敵』1985、ニューサイエンス社
*森樊須編『天敵農薬』1993、日本植物防疫協会
*日本植物防疫協会『生物農薬ガイドブック 2002』
*日本植物防疫協会『農薬ハンドブック 2005年版(改訂新版)』
*ホクレン あぐりぽーと55号(https://www.hokuren.or.jp/kouho/agriport/?id=63&c=4
*株式会社微生物化学研究所
https://www.kyotobiken.co.jp/products/plant.html#
*日本植物防疫協会 生物農薬・フェロモン製剤登録内容一覧表
https://jppa.or.jp/technorogy/byogaichu

(2022年3月)