教えて!農薬Q&A

農薬はどうして効くの?

農薬の種類や成分、製造方法、農薬が効く科学的な仕組みなどについて

Q. 除草剤はどうして雑草だけを枯らすことが出来るのですか。

作物には安全で、雑草だけを枯らすことができるのは、
1.作物は除草剤を酵素によって影響のない化合物に分解できるのに対し、雑草にはそのような分解酵素がない。
2.除草剤が阻害作用を及ぼす生体内成分(例えば酵素)が雑草には存在するのに、作物には存在しない。
3.作物と雑草の種子・根の位置の違いを利用し、発生深度の浅い雑草だけを枯らす。
等の理由によります。

 除草剤には雑草だけでなく作物も同時に枯らしてしまうタイプがあり、これらは「非選択性除草剤」と呼ばれています。他方、作物には影響を与えず雑草だけを枯らすタイプもあり「選択性除草剤」と呼ばれています。作物も高等植物なので、選択性除草剤の開発は容易ではありません。しかし、農業生産の現場では、雑草だけを枯らすことが望ましく、常に選択性の向上に力が入れられてきました。

 たとえば、化学農薬の第一号といえる2,4-D(2,4-PA)は、イネには影響を与えずコナギなどの広葉雑草に高い効き目を持つ選択性除草剤です。日本には戦後すぐに導入され農産物の増産に大きな効果をあげました。しかし、この除草剤は水田の重要雑草であるイネ科のタイヌビエには効きませんでした。そのため、イネには影響がなくタイヌビエに効き、さらに広葉雑草にも効果のあるDCPA(プロパニル)のような選択性除草剤が開発されました。DCPAは雑草が発芽し、生長する時期になってから使われる生育期処理除草剤ですので、田植え後の雑草の発生状況をみて水田に散布することができました。

■ 選択性発現のメカニズム
 このような雑草と作物の間の選択性はどのようにして発現するのでしょうか。
 一つは雑草と作物に対する除草剤の効き方の程度の違いです。これは、雑草の根や葉の形や大きさ、除草剤の雑草体内への吸収・移行及び除草剤の種類、使用方法や使用時期、土壌への吸着性等が大きく関係してきます。
 たとえば、広く使われていた水稲用除草剤ベンチオカーブはタイヌビエに効きますが、イネには通常の使用方法では影響を与えません。これは、(1)タイヌビエがイネに比べてベンチオカーブをより多く吸収して体内に移行させる、(2)体内に取り込まれたベンチオカーブの代謝速度がイネに比べタイヌビエでは遅く、ベンチオカーブが比較的長時間タイヌビエに残存するため、殺草効果が強く現れると、考えられています。事実、成長初期(2葉期)では、10アール当たり300~400gの散布によりタイヌビエに対して十分な効果が得られますが、イネの生育にはほとんど影響が現れないという優れた選択性を示します。
 もう一つは作物がその除草剤を代謝・分解し不活性化する酵素などを体内に持っている場合です。たとえば、前述のDCPAのようにイネに影響を与えずタイヌビエを枯らしてしまう除草剤があります。イネは体内に酵素アリルアシルアミダーゼをもっています。この酵素はDCPAを代謝・分解し無毒なものに変える能力があります。DCPAを散布されると雑草は光合成ができなくなり枯れてしまいますが、イネは酵素により、DCPAを速やかに代謝・分解し、無毒なものに変え、散布2日後には回復し成長にはほとんど影響がありません。
 反対に雑草が除草剤を活性化する酵素を体内に持っていて、雑草だけが影響を受けるという例もあります。
 実際には、多くの選択性除草剤ではさまざまな要素が入り交じって選択性を発揮していると考えられます。
■ 移植水稲用除草剤の選択性
 田植後に除草剤を散布すると、薬剤が土壌表面に薄い層を作るタイプがあります。タイヌビエを含む一年生雑草の多くは、土壌表層から根を張り薬剤を吸収して枯れてしまいます。一方、イネの根は一定の深さまで差し込まれているので、枯れることがありません。移植したイネはある程度生育していますので薬剤の影響を受けることなく、結果的に、雑草のみが枯れることになります。

出芽抑制タイプ

生育抑制タイプ

 現在使われている水稲用一発処理剤も一部の剤は、この仕組みを利用しています。水稲用一発処理剤は、イネには影響が比較的少ない成分でさらにタイヌビエに効く成分、広葉雑草に効く成分、その他の多年性雑草に効く成分と何種類かの成分を組み合わせることにより、より多くの種類の雑草に効果が現れるように工夫された除草剤です。特に、スルホニルウレア系除草剤は極微量で高い除草活性を示すこと、土壌処理及び茎葉処理いずれでも使用できること、広葉雑草に有効でイネ科作物との間に選択性があること、作用機構として植物のみがもつアセトラクテート合成酵素(ALS)を阻害することから植物以外に対しては低毒性であることなど、除草剤としての長所を備えています。除草作用は雑草の発芽への影響は少なく発芽後に強い抑制効果を発揮します。なお、植物種間での選択性はALS活性の阻害によるものではなく代謝速度による差異であるとされています。
参考文献
*松中昭一『農薬のおはなし』2000、日本規格協会
*松中昭一『嫌われものの草の話―雑草と人間』1999、岩波書店
*高橋信孝『農薬の科学』文永堂出版1979年
*内山正昭『農薬学概論』朝倉書店1982年
*『植物防疫講座第3版-雑草・農薬・行政編-』1997、日本植物防疫協会

(2017年5月)

MOVIEマークのページでは動画をご覧頂けます。