農薬はどうして効くの?

農薬の種類や成分、製造方法、
農薬が効く科学的な仕組みなどについて

種なしぶどうを作るためにも農薬が必要なのでしょうか。

種なしぶどうを作るためには、植物ホルモンの一種である「ジベレリン」を使って種ができないようにします。「ジベレリン」をぶどうの生育時期に合わせて使用することにより、種なしにしたり、種なし果実の肥大を促進させます。「ジベレリン」は、植物の生理機能の増進又は抑制に用いられる薬剤で、植物成長調整剤に該当するため農薬とみなされます。

種がないぶどうは、植物ホルモンの一種「ジベレリン」を使って種ができないようにしているためです。このように作物の成長を人為的にコントロールして、付加価値を高めたり収量を増やしたりする目的で使われる農薬を「植物成長調整剤」と言います。植物成長調整剤には、農作業の省力化に役立つものも開発されています。

植物成長調整剤の多くはジベレリンのように植物ホルモン作用をもつか、反対にその作用を抑制する物質が主な成分です。たとえば、作物の発根促進、成長促進、果実の肥大、種なし化、開花促進あるいは、作物の草丈を抑えて形を整えたり、倒伏を軽減したりする作用などです。植物成長調整剤を使って、成長や生育過程に変化を与えることを植物の化学調節と呼び、重要な栽培技術になっています。

以下に、植物成長調整剤が役立っている使用場面のいくつかを記述します。

種なしぶどう栽培や、開花促進技術に

種があると食べづらいことから、種のないぶどうを求める消費者ニーズに応えるため、種なしぶどう作りには植物成長調整剤が役立っています。デラウエアから始まったジベレリン処理などによる種なし化の成功から、様々な品種に植物成長調整剤が応用され、種なし化と同時に早熟化、巨大化にも成功し伊豆錦、藤稔など、ゴルフボール大の種なしぶどうも出現しています。現在の消費者の人気品種の主流は巨大粒~大粒品種で、種なし、または種なし化が可能な品種であることが重要とされており、ぶどう作りには植物成長調整剤は今後も欠かせないものとなっています。

種なしぶどう作りはジベレリンを使って以下のように行います。植物の雌しべの根元にある子房は、受粉すると中に種子ができ肥大を始め果実に育ちます。ぶどうでは、花粉の代わりにジベレリンを与えても子房が肥大して果実になります。しかし、受粉をしていないので中に種はできません。実際には4月末から5月初めの開花2週間前頃に、ジベレリンの水溶液にぶどうのつぼみを漬けます。これが種なし処理です。さらに花が咲き子房ができてきた頃、再び子房をジベレリンの水溶液に漬けます。これが果実の肥大をよくするための開花後処理です。

ジベレリンには植物の茎を伸ばす作用もあり、開花を促進して出荷を早めることができます。たとえばシクラメンでは9月上旬から10月上旬、つぼみが1cm位になったところでジベレリンを、花蕾を含む芽の中心部に散布すると、開花が2週間程度早まり、11月初めには出荷できるようになります。

鉢物栽培技術にも

鉢物栽培にも植物成長調整剤が役立っています。例えば、植物の伸びを抑える植物成長調整剤は、わい化剤と呼ばれています。わい化剤とは、前述のジベレリン生合成系を特異的に阻害する物質を農業に利用したものです。鉢植えのキクでは芯を摘んだあと10日位で、葉や茎にわい化剤の一種、ウニコナゾールPの水溶液をスプレーしたり、鉢のなかに注入したりすると茎の節間の伸びが抑えられます。このようなわい化剤を使うと、花や葉の大きさはほとんど変わりませんので、草丈が低く小さなスペースに花や葉が密集し、ボリューム感が出ることになります。わい化剤はこのように鉢物栽培に広く使われています。

収量の安定したお米づくりにも

米の生産にも植物成長調整剤が役立っています。おいしい米の代表、コシヒカリとその系統の品種は草丈が高くなり、収穫期になると穂が重いため倒れやすくなります。倒れたイネはコンバインによる刈り入れが困難になりますし、穂が水分を吸って発芽すると食用にならなくなります。これを防ぐための手段の一つとして、植物成長調整剤の一種で、ジベレリン生合成系を特異的に阻害するトリアゾール系わい化剤である、ウニコナゾールPやパクロブトラゾールなどが「倒伏軽減剤」として使われます。ウニコナゾールPでは出穂10~25日前、パクロブトラゾールでは出穂7~20日前に処理することによって、イネの節間を短縮し草丈の伸びを抑え重心を低くして倒れにくくします。

なお、上記の植物成長調整剤は植物ホルモンか植物ホルモン様物質が主な成分ですが、それらは農薬として登録されています。

参考文献
*高橋信孝『農薬科学』1979、文永堂出版
*日本植物防疫協会『農薬概説』
*ぶどう品種解説、2000植原葡萄研究所

(2022年3月)