自然や環境への影響は?

自然環境やその他生物に及ぼす影響などについて

ヘリコプターで農薬をまいていますが、農薬が広い範囲に飛んでいき危険ではないでしょうか。

いいえ。ヘリコプター(有人・無人)による農薬散布は危害防止対策を十分に行った上で実施されています。

有人ヘリ及び無人ヘリによる散布は、広い面積を短時間に防除することが可能ですが、散布区域外及び周辺に薬剤による影響を及ぼす恐れがあるので、薬剤の登録、事業計画の立案、散布作業など多方面から危害防止対策を行った上で実施されています。

航空防除※1は、ヘリコプターを使用し広い範囲に一時に農薬を散布できるため、単一作物が連続して栽培され、防除適期が圃場間で一致しやすい水稲の病害虫防除に有効です。また、航空防除は非常に省力的であるため、作業者の高齢化などで防除作業を行うことが困難な場合でも、適切な防除が可能です。

林業場面でも、松に深刻な被害を及ぼすマツノザイセンチュウを媒介するマツクイムシに対しても、航空防除は有効な防除方法です。

登録されている薬剤は、使用に際して養魚場などの魚やミツバチ、蚕など有用昆虫への影響に配慮されています。また、平成9年に、環境庁(現環境省)は人の健康を保護する観点から、航空防除用農薬の「気中濃度評価値」を設定しました。航空防除の気中濃度は、評価値を下回っている事が報告されています。

さらに、防除を実施する団体は、住宅、車両、家畜、養蜂、養蚕、養魚池、対象外作物などへの危被害防止のため、散布計画対象地域及びその周辺の調査を進めるとともに市町村や都道府県の指導機関などの関係者との事前協議を行い、散布区域を十分吟味して選定しなければなりません。また、散布区域周辺の学校、病院などの公共施設や、近隣居住者には、事前に周知を行います。散布作業は、通学路をはじめとする通行人に対して被害を及ぼさないよう、人、車両の通行がほとんどなく、上昇気流によるドリフト(飛散)が発生しにくい、早朝に終了するよう計画されます。

最近では農村部への住宅の進出が進んだことや、ポジティブリスト制度が導入され、適用外作物への飛散防止について一層の配慮が必要となったため、ヘリコプターを使った広い範囲での散布が難しくなってきています。このため、小回りのきく無人ヘリコプター(ラジコンヘリ)や無人マルチローター(ドローン)による農薬散布(無人航空機防除)が一般的となりました。

無人航空機防除用の農薬も、航空防除用の農薬と同様に、環境に配慮したものが登録されていますし、環境省の「農薬の大気経由による飛散リスク評価・管理対策最終報告書(平成30年)」により、農薬を適正に使用する限りにおいては、人への健康影響が懸念される可能性は低いことが示されています。

また、実施に当たっては、航空防除と同様に区域周辺の環境などに配慮がなされています。また、無人航空機防除には、一般社団法人農林水産航空協会の定める機体性能が確認された機体の使用が必要であり、さらに同協会または民間ドローン養成スクール等で技術認定されたオペレーター以外は操縦することはできません。このように、散布技術の点でも安全対策が図られています。

農薬の航空防除及び無人航空機防除に際して配慮すべき項目は、「農林水産航空事業実施ガイドライン」(平成16年4月20日付け16消安第484号消費・安全局長通知、最終改正:平成28年3月31日付け27消安第6369号)及び、「無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」(令和元年7月30日付け元消安第1388号消費・安全局長通知、最終改正:令和2年5月18日付け2消安第695号)、「無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」(令和元年7月30日付け元消安第1388号消費・安全局長通知、最終改正:令和2年5月18日付け2消安第695号)等に示されています。

航空防除、無人航空機防除いずれの実施団体に対しても、これらのガイドラインをはじめとする国、都道府県からの安全指導が周知されています。航空防除や無人航空機防除はこれらの危害防止及び環境保全対策に基づき、十分配慮しながら実施されています。

なお、航空防除や無人ヘリコプターによる防除の計画地域周辺では、事前にスケジュールが公表され、市町村や農協から連絡があります。無人マルチローターによる散布の場合は事前に散布請負事業者や機体を保有する生産者が近隣に対して情報提供(薬剤、時間、範囲等)と注意喚起を行っています。地域周辺居住者や訪問予定者は、散布の時間帯にはできる限り室内にとどまる等、農薬にさらされないように注意していただきたいと思います。

このように、航空防除、無人航空機防除は、散布事業者と地域居住者の情報共有と協力体制があって成り立つ防除技術です。

  • ※1航空防除は、農薬のラベルでは「空中散布」と記載されています。
参考文献
*(一社)日本植物防疫協会『農薬概説』
*(一社)農林水産航空協会、全国農林水産航空事業推進協議会編 『農林航空事業実施者のための安全対策の手引き(令和2年版)』 2020
*(一社)農林水産航空協会、全国農林水産航空事業推進協議会編『産業用無人ヘリコプターによる病害虫防除実施者のための安全対策マニュアル(令和2年版)』 2020
*(一社)農林水産航空協会編『産業用マルチローター安全対策マニュアル(オペレーター・ナビゲーター)(令和2年版)』 2020

(2021年1月)