農薬はカラダに悪い?

農薬が人に及ぼす影響や安全性などについて

農薬のヒトの健康に対する影響については、どのように調べられているのでしょうか。

長期的又は短期的な農薬摂取に対する影響について、動物を用いた毒性試験等に基づき、ヒトの健康に対する影響について確認しています。

農薬を登録するためには、登録の審査のために必要と定められている数多くの毒性試験等を実施する必要があります。それらの試験により農薬としての安全性が確認されてから、製造販売使用することが可能になります。

農薬が散布されると、作物に付着するだけではなく環境中にも放出されることになりますが、分解や代謝によって大部分は消失するという運命をたどります。生産者による農薬の散布時、作物での農薬残留、空気や水など、それぞれの場面で暴露される対象は変わっていきますが、ヒトが暴露される状況(暴露量、期間、頻度など)によって、問題となる毒性の内容や特徴も変わってきます(模式図参照)。農薬の毒性に関する試験は、農薬が使用されてから段階を通して、ヒトが暴露された場合に生じる健康上の問題を予測し、有効な対策を講じて、安全が保証できるだけの内容を備えたものである必要があります。

そのため農薬の毒性試験の項目には多くの内容が含まれています。模式図の下の表に、試験項目を列挙しました。毒性の内容には大きく分けて、「急性毒性」、「亜急性毒性」、「長期毒性」、「次世代への影響」があります。また、それぞれには、農薬の摂取経路(経口、経皮、吸入)の違いによる毒性や、毒性の性質(刺激性、アレルギー性や発がん性、次世代に対する影響など)を調べるための試験が含まれます。これらの毒性試験は、ラットやマウス、ウサギ、モルモット、イヌなどの試験目的に応じ実験動物を用いて実施されますが、動物種差による見落としのないように多くの毒性試験では2種類以上の動物種で試験が行われます。

ヒトへの安全性に対するリスクを評価するためには、ヒトが実際に受ける可能性のある暴露量を推定する必要があるため、毒性試験とは別に、作物や環境中での農薬の残留や分解・消失を調べる試験が実施されます。

農薬の運命における濃度変化と、人への暴露
農薬の毒性試験の内容

模式図の解説

模式図(図-1)は、ある農薬(乳剤、有効成分・・・10%)の使用され環境中で消失していくまでの運命において、ヒトに対してどのような暴露が考えられるかを示したものです。

●使用者:

農薬そのものを扱うため、一度に大量の農薬成分を、吸い込んだり、飲んだり、浴びたりした場合には、急性毒性の強い農薬においては、急性中毒を起こす恐れがあります。このような毒性の強さは、急性毒性試験(経口、経皮、吸入)によって調べられます。さらに神経系への影響を調べるために、急性神経毒性試験も実施されます。

なお、急性中毒が起こるメカニズムや中毒時の処置法に関する情報を得るために、解毒方法又は救命処置方法の検討が行われます。

また、農薬に接触した時の局所での影響をみるために、眼刺激性試験、皮膚刺激性試験、および皮膚感作性試験も実施されます。さらに、農薬を用いた作業者に対する農薬の暴露評価も行われます。

●散布現場の周辺住民や通行人など:

基本的には、使用者と同じと考えられます。

●消費者:

使用された農薬が農作物に残留したり、水系に流入したり、生態系の中で動物の体内に蓄積したりするなどの可能性によって、消費者は毎日の食事からの極く微量の農薬を生涯に渡って摂取することが考えられます。このように長期間暴露が、体内の器官や組織、生体維持の機能などに影響を及ぼすか否かについては亜急性~長期毒性試験によって調べられます。
また、がんを誘発させる可能性を調べるために、発がん性試験と遺伝毒性試験が実施されます。

一方、24時間又はそれより短い時間に過剰経口摂取した場合において健康に悪影響を及ぼすか否かについても単回投与試験や短期毒性試験の症状から調べられます。

●次世代への影響:

親が農薬に暴露されることで、その子や孫に影響が及ばないかについて調べるには2種類の試験が行われます。発生毒性試験(ラット、ウサギ)では妊娠中の母動物が農薬の暴露を受けた場合の胎児への影響が調べられます。

繁殖毒性試験(ラット)では、農薬の暴露を受けた親動物とその児動物に繁殖機能等への影響がないか調べられ、さらにその子世代の生育や繁殖機能、そしてさらに彼らから産まれた孫世代の生育等への影響が調べられます。

とくに次世代の神経発達に懸念がある場合は発達神経毒性試験を行い、神経系の発達に対する影響が調べられます。

参考文献
http://www.acis.famic.go.jp/
*農林水産消費安全技術センター>農薬検査関係>農薬登録申請
*「農薬の登録申請時に提出される試験成績の作成に係る指針」

(2022年3月)