農薬情報局 一般向け

農薬ゼミおさらい講座

読めばナットクだらけ・人気講座レポート

知ってるようで知らない、農薬の話

知ってるようで知らない、農薬の話。(福島)
今回のお話は、この方たちと。
  • 宮川 恒 先生の写真
    【パネリスト】
    京都大学農薬研究科
    教授
    農学博士
    宮川 恒 先生
  • 眞鍋 昇 先生の写真
    【パネリスト】
    東京大学
    農学生命科学研究科教授
    農学博士
    眞鍋 昇 先生
  • 佐藤 清和 さんの写真
    【生産者】
    JA伊達みらい
    きゅうり生産部会副部会長
    佐藤 清和 さん
  • 福島県文化センター「小ホール」
    【会場】
    福島県文化センター「小ホール」

【司会】 フリーアナウンサー 松田 朋恵 さん

講座プログラム
  • 開催日時:2014年10月8日(水) 13:00~15:30
  • 第一部:「農薬とは何?」(解説者:宮川 恒 先生)
  • 第二部:「農薬の安全性」(解説者:眞鍋 昇 先生)
  • 参加者:240名
第一部

毎日口にする農作物を作るときに欠かせないのが農薬です。農薬と聞くと、体に悪いというイメージがありますが、正しく使用さえすれば安全性は非常に高いものです。
第一部は宮川先生に、農薬とは何か、農薬が果たしている役割などについてお話をしていただきました。

  • 農薬の種類について。
    農薬は、農薬取締法で「農作物を害する病害虫、雑草などを防除して作物を保護し、あるいは作物の成長を調整して農業の生産性を高めるために使用する薬剤」と定義されています。農薬にはいくつかの種類があります。害虫を駆除する殺虫剤、雑草の成長を阻害する除草剤、カビなどの病原菌から作物を守る殺菌剤などです。また、フェロモンにより害虫の交尾を阻害する誘引剤、作物の成長を調整する成長促進剤、害虫を食べてくれる天敵昆虫などもすべて「農薬」となります。
  • 会場の様子(第一部)
農薬を使わなかった場合はどうなる?
作物の生産性を高めることが農薬の役割です。仮に農薬を使用しなかった場合、収穫量はどの程度変わるのでしょうか。(一社)日本植物防疫協会が1990年から2006年にかけて、農薬を使用せずに栽培した場合の作物の収穫量と出荷金額について調べる試験を行いました。その結果、農薬を使用した場合と比べお米の出荷量は20~30%減りました。りんごは出荷できるものが皆無になりました。2年連続無農薬栽培をしたりんごは、木が枯れてしまうという事例もありました。作物の種類によって程度は異なりますが、いずれも収穫量や出荷金額に大きな影響を及ぼすことがわかっています。作物を作り市場に流通させようとする場合、農薬は必要不可欠なものです。作物をきちんと育てて出荷するためにも、農薬は正しく安全に使っていかなければいけないのです。
農薬は厳重なチェックのもと登録されている。
農薬の製造・販売を行うためには、「登録」と呼ばれる許可を取らなければなりません。農薬メーカーが新しい農薬を開発する際には、人畜毒性試験だけではなく、有用生物への影響、環境への影響など数多くの検査を行い、すべての結果をまとめ提出します。その審査は厳しく、農林水産省、厚生労働省、環境省、内閣府食品安全委員会、消費者庁などが多面的に評価し、人の健康だけでなく環境や生態系に影響を及ぼさないものだけが登録になります。登録された農薬には農林水産大臣の登録番号が発行され、市販される農薬のラベルに記載されます。ラベルには登録番号のほか、農薬名、有効成分名、使用方法や注意事項などを記載しなければなりません。このような厳重な管理体制のもと、農薬は製造・販売されているのです。
第二部

第二部は、農薬の安全性や残留農薬などについて、眞鍋先生からお話しいただきました。また、実際に農薬を使用して農作物を生産・出荷している佐藤さんに、農薬使用についての現状を語っていただきました。

  • 農薬の安全性について。
    農薬の登録にあたって、必ず安全性試験が行われます。この試験は「作物に対する安全性」「使用者への安全性」「消費者への安全性」「環境への安全性」を担保するために実施されます。どれもが重要なことですが、最も大切なのは消費者への安全性。ここで注目されるのが農作物の残留農薬です。現在の農薬は、仮に農作物を通じて体内に入ったとしても蓄積されることはなく、ほとんどが分解・排出されるようになっています。また、そのようなものでなければ農薬として登録できません。農薬の安全規定は医薬品よりも厳しいものが用いられています。また、本来野菜や植物は外敵に食べられないように防御物質(毒性)を持っています。この野菜本来が持つ毒性に比べ、現在国内で登録され使用されている農薬の毒性は、はるかに低いものになっています。
  • 会場の様子1(第二部)
残留農薬は過去の話
近年、農薬開発の技術が進歩し、少量で的確に効果が得られるようになっています。また、農薬の分解速度も速くなっており、仮に体内に入っても蓄積されるようなことはなく、無害な物質に変わります。また、葉や根から吸収された農薬は、植物が持つ酵素により分解されてしまいます。万が一分解されずに体内に入ったとしても、人の健康に影響がないレベルで、使用回数や使用量が決められていますので問題ありません。動物実験から得られた無害なレベルにさらに1/100の安全係数をかけて人が一生涯食べ続けても影響がない量が決められています。それをもとに残留農薬基準が決められているので、人の健康への影響は皆無と言ってもいいでしょう。
選択性の違いについて。
農薬は虫を殺したり雑草を枯らしたりするのに、なぜ人間には影響がないのでしょうか。大きな要因のひとつが「選択性の違い」です。選択性とは、ラットやマウスといった実験に使われる哺乳動物と、イエバエなどの昆虫の間で、その農薬の効果が出る量の差です。たとえば昔の農薬は、イエバエには0.9mg/kgの量で、ラットは3.6mg/kgの量で効きました。この場合の選択性は4倍です。最近のある農薬は、イエバエには0.7mg/kg、ラットには1500mg/kgが致死量となっており、選択性は2000倍以上になっています。選択性が高くなっているため、少量の農薬で害虫の防除ができる一方、人体にはほとんど影響がないということになります。意図的に大量に摂取しなければ、健康に影響を及ぼすことはありません。
  • 生産者・佐藤さんの話

    私が所属するJA伊達みらいでは、2008年に「ISO9001」という品質マネジメント規格を取得しました。これを受けて、生産者は実際に使った農薬を防除日誌に記帳し、これをJA伊達みらいが確認を行って安全と認めたものだけを出荷しています。あとは、抜き打ち検査という形で、残留農薬の検査も定期的に行っています。出荷の際には、まず防除日誌と現物をJAに持参し、放射能や防除日誌の検査を受けます。また、防除日誌は秋まで使用するため、月に1回の確認義務があります。生産者は消費者の一人でもあるので、より安全なものを厳しい検査のもとに出荷しています。

  • 会場の様子2(第二部)
まとめ

最後に本日のまとめとして、宮川先生からお話がありました。

  • 食の安全、安心について、本当に大事なこととは何でしょうか。まず1つ目は食べるものが十分にあること。安心という面でとても大切なことです。2050年には世界の人口は96億人になると言われています。そのとき、どのように食料を確保するかということを考えなくてはいけません。そして2つ目はリスクという考え方です。「これは体にいい、これは体に悪い」と言われますが、本当のところはどうでしょう。ワインは1杯ならば健康にいいでしょうが、飲み過ぎると毒になります。つまり、いい悪いは体の中に入る量によって変わるのです。そこを考えに入れた危険度をリスクといいます。食べものの中にほんのわずかしか残留しない農薬のリスクはほとんど問題にはなりません。3つ目は確かな情報に基づいて考えるということ。農薬や食品の安全性について、行政機関がまとめて公表していますので、参考にされるといいと思います。リスクゼロというものはこの世の中にはありません。ただ、許容できる範囲でコントロールしていくということが大切です。
  • イベント資料

こんな質問がありました。

農薬を使った玄米を食べても大丈夫でしょうか?また、りんごを皮ごと食べてもいいでしょうか?<40代女性>
  • 残留農薬の基準値は可食部(食べられる部分)について定められています。検査も可食部を含めて行ないます。ですから玄米であれ、りんごであれ、その他皮ごと食べる農作物すべて、基準をクリアしていればそのまま食べて問題ありません。
  • 宮川先生の写真(小)
    宮川先生
農作物に少量の残量農薬があると、複数の食品を摂取した場合に複合毒性は出ないのでしょうか?<60代男性>
  • 理論的には、複数の農作物に残留農薬があれば、複合毒性は出ます。しかし、日本で販売されている農薬を使用基準通りに使えば、基準値を超えて残留することはありません。実際に残留農薬の抜き打ち検査でも検出されていませんので、複合毒性というのは現実には起きないと思います。
  • 眞鍋先生の写真(小)
    眞鍋先生
無農薬野菜と有機栽培野菜の違いを教えてください。<40代女性>
  • 有機栽培はJAS規格で「農薬あるいは化学肥料を使っていない農作地で、定められた使用可能な農薬のみ使用したもの」と定められています。有機栽培だから農薬を使わないというわけではありません。たとえば、天然由来の農薬なら使ってもよいといったような、限定された農薬だけを使ったものが有機栽培です。最近は特別栽培農産物というものがあります。これは従来収穫までに使用する農薬の量を半分以下にしたものです。無農薬野菜については、特に基準はないようです。たとえば、まったく農薬を使わなかった場合、特別栽培とは言えます。無農薬を保証するシステムは現在ありません。
  • 宮川先生の写真(小)
    宮川先生
生産者の方は、出荷するものには農薬を使用するが、自家用の農産物には使用しないと聞いたことがあります。これは農薬を使わないほうが安心、安全だからですか?<60代女性>
  • 自家用であっても、できるだけ長期間にわたって収穫したいので、私は農薬を使っています。中には、自家用には無農薬という人もいるかもしれませんが、ほとんどの生産者は自家用にも農薬を使っていると思います。
  • 佐藤さんの写真(小)
    佐藤さん
生産者として伝えたいこと

最後に生産者の代表として、佐藤さんから「伝えたいこと」というお話がありました。

農薬を適正に使用して、安心して食べられる農作物を作っていきたいと思います。
佐藤さんの写真(小)佐藤さん
  • 農家は、消費者に対する責任がかなり大きい仕事だと思っています。また、先生方が日本の食料自給率が下がっているとお話しされていましたが、みなさんがたくさんの農作物を消費していただければ、自然と農家の数も増えて、自給率も上がってくると思いますので、よろしくお願い致します。私たちは農薬を使って生産した農作物をみなさんに安心して食べていただけるよう、これからも農薬を適正に使っていきたいと思います。
参加者の感想
  • ・知識ゼロで参加しましたが、本当にわかりやすく、農薬に対する不信感が感謝の気持ちに変わる程でした。もっと沢山の方に知っていただくため、こうしたゼミをもっと開催してほしいです。
    (女性、40代、専業主婦)
  • ・何もわからず農薬はこわいものと思っていましたが、化学も進んでいることがわかりました。
    (女性、60歳以上、専業主婦)
  • ・クイズなど、講演だけでなく、聴衆者参加の項目があり、関心を引くことができました。
    (女性、40代、その他)
  • ・初めて参加しましたが、農薬への偏見がなくなりました。わかりやすい説明でとても勉強になりました。
    (女性、50代、専業主婦)
  • ・とてもよかったです。いろいろのことについて、考えが変わりました。特に農薬の効果、必要なこと、安全についてわかりました。10年前と現在の農薬の違い、安全性がわかりました。私は10年前の危険なことだけ頭にありました。農家の方もいかに努力しているかわかりました。
    (女性、60歳以上、専業主婦)
  • ・農薬は必ずしも悪い物ではないということがよくわかりました。農家さんはきちんと使用量を守り作ってくれているということで安心しました。
    (女性、40代、専業主婦)
  • ・ほとんどの物が安全・安心して食することができるので、友達にもお話を聞かせたいと思います。
    (女性、60歳以上、専業主婦)
  • ・農薬が大変厳しい検査があり、環境に特に配慮したものであることが良くわかって大変ためになった。
    (女性、50代、専業主婦)
  • ・こういう内容を子供の家庭科などでも取り上げられたらよいのではないかと思いました。
    (女性、40代、パート/アルバイト)
  • ・とてもわかりやすかった。農薬は安全だということを、小学校や中学校の家庭科の授業でやってほしい。これからの子供達に知ってほしい。私達は昔のイメージ(60代の母世代)が強すぎる。
    (女性、40代、パート/アルバイト)
  • ・農薬の安全性(人体や環境など)について、しっかり取り組まれていることに安心しました。これからもがんばっていただきたいと思います。勉強の機会をいただき、ありがとうございました。
    (女性、60歳以上、専業主婦)
  • ・今は一般の人も食にとても関心があると思います。今回のようにもっと身近に専門の先生の話を聞ける機会があると嬉しいです。
    (女性、20代、会社員/公務員)

今回のおみやげ 旬の味覚「里芋・ぶどう・しいたけ」

農薬ゼミ - よくある質問

農薬工業会では、消費者の皆さんに農薬のことを理解してもらうため「農薬ゼミ」などを開催しています。
そこでは毎回様々な質問が寄せられています。その中から、「よくある質問」についてお答えします。