農薬情報局 一般向け

農薬ゼミおさらい講座

読めばナットクだらけ・人気講座レポート

知ってるようで知らない、農薬の話

知ってるようで知らない、農薬の話。(東京)
今回のお話は、この方たちと。
  • 眞鍋 昇 先生の写真
    【パネリスト】
    東京大学
    農学生命科学研究科教授
    農学博士
    眞鍋 昇 先生
  • 青山 博昭 先生の写真
    【パネリスト】
    (一財)残留農薬研究所 理事
    農学博士
    青山 博昭 先生
  • 安藤 勝夫 さんの写真
    【生産者】
    岩井農協園芸部生産委員長
    安藤 勝夫 さん
  • 日経ホール
    【会場】
    日経ホール

【司会】 フリーアナウンサー 松田 朋恵 さん

講座プログラム
  • 開催日時:2014年1月18日(土)
  • 第一部:「農薬とは何?」(解説者:眞鍋 昇先生)
  • 第二部:「農薬の安全性」(解説者:青山 博昭先生)
  • 参加者:322名
第一部

最近は、食の不安を煽るようなニュースを耳にすることが増えてきました。しかし、農薬の基礎知識を学ぶことで、そのようなニュースに惑わされることなく、農産物を毎日おいしく食べることができます。第一部は、眞鍋先生に農薬とは何か、農薬がなかったらどのようになってしまうのかということをお話しいただきました。

  • ずばり、農薬とは何?
    農薬とは、農作物を栽培するときに、病害虫、雑草を増やさないようにするもの、またはカビや虫から農作物を保護するものです。根の成長を促したり、種なしの果物を作るときのように植物の成長を調節するものも、広い意味で農薬と呼ばれています。農薬にはいくつか種類があります。病害虫を駆除する殺虫剤、雑草の成長を阻害する除草剤、カビなどが付着しないようにする殺菌剤などです。最近では、フェロモンにより害虫の交尾を阻害する誘引剤なども農薬に含まれます。そのほか、害虫を食べてくれる天敵昆虫や寄生菌なども農薬と定義されています。殺虫剤は、害虫の神経に作用して麻痺させるものが主流となっており、昔に比べると人間への影響は極端に少なくなっています。除草剤は、植物のホルモンをうまく調節し、作物には影響がなく雑草だけが枯れるようになっているなど、時代とともに進化しています。
  • 会場の様子(第一部)
農薬を使わないとどうなる?

農薬を使わない場合、米の生産量は2割減、りんごは出荷できるものはほぼ皆無となります。りんごは品種改良を重ねて、甘くおいしい果物になっていますが、人間にとって甘くておいしいということは、害虫や病原菌にとってもおいしいということ。農薬を使わずに栽培したら、あっという間に害虫に食べつくされてしまい、売り物にならなくなってしまいます。また、2年連続無農薬栽培をしたりんごは、木が枯れてしまう場合もありました。農作物により程度は異なりますが、無農薬では市場に流通できる農作物は激減してしまい、非常に高価になってしまいます。つまり、農薬がなければ農家の方々が農作物を出荷できなくなり、生計が立たなくなるばかりか、我々消費者も農産物を豊富に安く口にすることができなくなってしまうのです。

農薬は厳重なチェックのもと認可されている。

農薬の製造・販売は、国の審査を通過したものだけが登録され、販売が許可されます。農林水産省だけでなく、厚生労働省、環境省、内閣府食品安全委員会、消費者庁などが多面的に評価して、人体だけではなく環境や生態系に影響がないものだけが登録になります。また、農薬の登録有効期限は3年間となっていて、再審査が行われるので一度登録されたからといって、その農薬がずっと使えるというわけではありません。登録に際しては、厳重な審査が行われます。農薬メーカーが新しい農薬を開発する際には、人畜毒性試験だけでなく、有用生物への影響、環境への影響など数多くの検査を行い、すべての結果を提出しなければなりません。審査を通過したものは、パッケージに農林水産省の登録番号と用途、農薬名、成分などを明記して販売されます。安心・安全な農薬の開発と登録は、このような厳重な管理体制のもとに行われているのです。

第二部

第二部は青山先生による、農薬の安全性や残留農薬などについてのお話です。そして、実際の現場で農薬はどのように使われているのか、生産者の安藤さんに現状を語っていただきました。

  • 農薬の安全性の評価。
    農薬の安全性を評価するためには、農薬が持っている毒性と、それを摂取する量の掛け算をするのが基本です。強い毒性のものであっても、ほんの少ししか摂取しなければリスクは低くなります。逆に、弱い毒性のものでも大量に摂取すると、リスクが高くなります。フグにはとても強力な毒がありますが、食べる機会がなければリスクは0となります。具体的な検査は動物実験で行います。実際に農薬を使う生産者の方を想定して、散布中に吸い込んだ場合や皮膚に付いてしまった場合など、急性毒性について8種類、実際に農作物を口にする消費者を想定し、中長期の毒性を調べる項目が8種類、その他環境への影響を調べる試験などを行います。現在、農薬を開発して製品化するためには、最低27種類の試験を実施して、それらのデータをすべて提出しなければなりません。そして、審査を通過したものだけが登録され販売されるというわけです。試験の中には、子どもや孫といった次世代への影響を調べる項目も含まれています。
  • 会場の様子1(第二部)
残留農薬は過去のもの。
現在の農薬のほとんどが、人の身体に入っても蓄積せずに、ほとんどが分解されてしまいます。また、植物に吸収された農薬も二酸化炭素や水といった無害な物質に分解されます。例えば、植物の葉に付いた農薬は、太陽光の熱で蒸発してしまいます。また、葉や根から吸収された農薬は、植物が持つ酵素により分解されてしまいます。万が一分解されずに我々の身体に入ったとしても、ほとんど影響はありません。人体に残っても影響がないレベルで、農薬の使用回数や使用量は決められています。動物実験から得られた無害なレベルにさらに1/100の安全率(これは安全係数といいます)をかけてその農薬を一生涯摂取しても影響がない量が決められます。それをもとに残留農薬基準が決められているので、人体への影響は皆無といってもいいでしょう。
選択性の違いについて。
もうひとつ、農薬の安全性を高めているのが選択性の違いです。選択性とは、ラットやマウスといった実験に使われる哺乳動物と、イエバエなどの昆虫の間で、その農薬の効果が出る量の差です。昔の農薬は、イエバエには0.9mg/kgの量で、ラットには3.6mg/kgの量で効きました。この場合の選択性は4倍です。しかし現在のある農薬では、イエバエには0.7mg/kg、ラットには1500mg/kgが致死量となっており、選択性は2000倍以上になっています。つまり、選択性が高くなっているため、少ない薬量で害虫の防除が可能なのに人体にはほとんど影響がないことになります。仮になにかの間違いで口にしてしまった場合でも、意図的に大量に摂取しなければ健康に影響は及ぼさないのです。
  • 生産者・安藤さんの話

    私は主にきゅうりを生産していますが、ビニールハウスのなかにハエトリ紙を設置したり、日光がよく当たるようにクリップでつるを固定するなど、なるべく農薬を使わないように工夫しています。農薬の使用については、農協から配布される栽培管理台帳に記入して、農薬の誤使用を防止しています。仮に、農薬の使用回数や使用量を間違ってしまった場合は、農協や市場の検査で判明して流通がストップしてしまいます。自主回収や出荷停止になってしまうと、その間の収入はなくなります。そのため、生産者は農薬の使用に関して一番気を使っています。もし農薬を使わない場合は、生産量はかなり少なくなります。一般には、市場流通が1割減ると、価格は2倍になると言われています。そのようなことが起こらないよう、細心の注意を払って農薬を使い、安全な作物を皆様にお届けるよう努力しているのです。また、農薬に関しては販売する農協でも管理されているので、現在市場に流通している作物に関しては、安心して食べていただきたいと思います。

  • 会場の様子2(第二部)
まとめ

最後に本日のまとめとして、眞鍋先生からお話がありました。

  • 農業の進化は農薬の進化と密接な関係がある。
    昔の農薬は大量に散布した際、農家の方が体調を崩すといったイメージがありました。しかし最近の農薬は、稲の田植えの時に一緒に処理したり、除草のために水田に1回だけ投入すればよいという農薬も登場しています。農業の進化による作物の安定生産は、機械化や化学肥料などの貢献もありますが、急速な農薬の発達により病害虫防除や除草の効率が飛躍的に向上したことも大きな要因なのです。現在の農薬は、少量で効果が出るようになっており、作物への残留性もほとんどありません。人体への影響のリスクという点で考えれば、アルコールやタバコ、紫外線などよりも格段に低いと言えます。日本には限られた耕地しかなく、農業に携わっている人も少数です。そのような状況で、効率よく作物を生産していくために農薬は必要なのです。農薬だけではなく全ての物質には大なり小なりの毒性がありますが、これらが人間にどれだけ危険なのかということではなく、実際にどのくらいの影響があるのかを見極めていく必要があります。柔らかい心と頭で、確かな情報を見極めていただきたいと思います。
  • イベント資料

こんな質問がありました。

減農薬、無農薬野菜は高くても購入する意味はありますか?<40代女性>
  • 現在は農薬が進化して、必要最低限の使用量、使用回数で十分効果が得られ、残留農薬もほとんど検出されません。そのため、今日本の農家はほとんどが減農薬栽培と言ってもいいでしょう。それなのに、わざわざ「減農薬」と謳って販売しているのは、科学的にはあまり意味がないものです。それらの野菜を、購入する・しないは個人の考え方でよいと思いますが、普通に栽培され販売されている野菜と変わらないです。
  • 眞鍋先生の写真(小)
    眞鍋先生
農薬は人間の体内ではどんな害が起きてしまうのでしょうか?<10代女性>
  • 農薬には殺虫剤や除草剤といったいろいろな種類があります。例えば、昔使われていたDDTという農薬は神経系に作用するもので、無意識に大量に摂取すると指が震えるといった症状が出ました。ただし、このような症状が起きるのは、農薬を多量に摂取した場合であって、食べ物にうっかり付いたものを口に入れたというような程度では症状は出ません。ただし、決して自分で実験をしないでくださいね。
  • 青山先生の写真(小)
    青山先生
農家の方は基準以上に繰り返し農薬を使っているのではないかと不安になります。<50代男性>
  • 基準値よりも高い濃度を使うと、作物への薬害が起こります。使用基準どおり使うことで、目的の防除効果を得られます。また、基準回数以上使うということはありません。同じ成分の農薬を繰り返し使うと、薬剤抵抗性害虫や耐性菌が発生して農薬が効かなくなります。そのため、農薬名は異なっていても成分が同じものがあるので十分に注意をしております。
  • 安藤さんの写真(小)
    安藤さん
生産者として伝えたいこと

最後に生産者の代表として、安藤さんから「伝えたいこと」というお話がありました。

農薬の使用は必要最小限にして、健康な野菜を作りたいと思っています。
安藤さんの写真(小)安藤さん
  • 農薬を一番使いたくないと思っているのは、実は農家なのです。農薬はとても高価です。農薬だけでなく、ビニールハウスの暖房用の燃料も高騰しています。だからといって、農産物の価格には反映されません。そのため、できるだけコストを抑え、最小限の農薬を使用して健康な野菜を作っていきたいと思っています。現在流通している農産物は、農協、市場でもしっかり検査をして出荷しているので、とても安全です。水洗いをするだけで十分おいしく食べられます。
参加者の感想
  • ・自分の間違った思い込みを払拭できました。
    (女性、会社員/公務員)
  • ・とても参考になりました。安心して食べ物を買えます。農薬を使用する方たちも気をつけて使ってほしいです。
    (女性、40代、パート/アルバイト)
  • ・解説者の説明が非常に分かりやすかった。農薬には関心がなかったがこれからの家庭菜園に役立てます。
    (男性、60歳以上、無職)
  • ・画像を使用しての講義、とてもわかりやすく興味深く聞かせていただけました。
    (女性、60歳以上、専業主婦)
  • ・スクリーンでの説明と手元にも同じ資料があり、MEMO欄に記入することができたので、とてもよかったと思います。説明がわかりやすかったです。
    (女性、40代、会社員/公務員)
  • ・農薬に関心を持つよいきっかけになった。今回疑問に思ったことは、各サイトで調べてみようと思う。
    (女性、30代、パート/アルバイト)
  • ・子どもをあずける必要があるので、日曜以外でよかった。もっと農薬の安全について情報を発信するべきだと思う。
    (女性、30代、専業主婦)
  • ・自分の知識の低さを改めて痛感する実のあるセミナーでした。ありがとうございました。
    (女性、50代、パート/アルバイト)
  • ・時間、日付(曜日)も参加しやすくてよいと思います。案内や受付の方の対応もよかったです。生産者の方の声をきけたのもよかったです。
    (女性、30代、会社員/公務員)
  • ・土曜日だと主人も一緒に出席できるので嬉しいです。生産者の方のお話は興味深くとても身近でわかりやすく、食材の安全性について100%ではないが安心でき、とても興味、関心が持てる内容でした。
    (女性、50代、専業主婦)
  • ・司会、パネリストの方の話が非常にわかりやすく理解が深まった。
    (女性、50代、専業主婦)
  • ・農薬は、いけないという気持ちが少し変わった。
    (女性、50代、専業主婦)
  • ・とてもよく構成され考えられたゼミだったと思います。
    (女性、30代、自営業/自由業)
  • ・農薬についての安心感が出ました。
    (女性、60歳以上、専業主婦)
  • ・2時間半は長いと思っていたのですが、実際参加してお話を聞いていたらあっという間でした。
    (女性、40代、専業主婦)

今回のおみやげ 旬の味覚「りんご・ほしいも・ゆで落花生」

農薬ゼミ - よくある質問

農薬工業会では、消費者の皆さんに農薬のことを理解してもらうため「農薬ゼミ」などを開催しています。
そこでは毎回様々な質問が寄せられています。その中から、「よくある質問」についてお答えします。