農薬情報局 一般向け

農薬ゼミおさらい講座

読めばナットクだらけ・人気講座レポート

知ってるようで知らない、農薬の話

知ってるようで知らない、農薬の話。(北九州)
今回のお話は、この方たちと。
  • 山本広基先生の写真
    【パネリスト】
    熊本大学監事
    農学博士
    山本 広基 先生
  • 寺本昭二先生の写真
    【パネリスト】
    一般財団法人 残留農薬研究所
    顧問
    農学博士
    寺本 昭二 先生
  • 大庭充裕さんの写真
    【生産者】
    大庭 充裕 さん
  • 北九州市立商工貿易会館(シティプラザ)
    【会場】
    北九州市立商工貿易会館
    (シティプラザ)

【司会】 フリーアナウンサー 松田 朋恵 さん

講座プログラム
  • 開催日時:2013年1月24日(木) 13:30~16:00
  • 第一部:「農薬とは何?」
  • 第二部:「農薬の安全性」
  • 参加者:191名
第一部

健康な食生活のために欠かせない野菜や果物ですが、気になるのは「農薬」。では「農薬」とはどんなものなのかときかれても、なかなかきちんと答えられないのではないでしょうか。第一部では、農薬の基本の基本を熊本大学の山本先生がわかりやすく説明してくださいました。

  • そもそも「農薬」とはどんなもの?
    「農薬」とはそもそもどんなものでしょう?農薬には大きく2つの目的があります。1つは、農作物を病気や害虫から守ること。もう1つは、農作物の成長を調整すること。つまり“農業の生産性を高めるために使う薬剤”が「農薬」なのです。
    農薬は殺虫剤や殺菌剤など一般的によく知られるものだけではありません。種なしブドウには種を作らずに脂肪を太らせる「無種子果剤」という成長調整剤が使われ、農作物を襲うアブラムシを食べるクサカゲロウ、ハダニの卵を食べるチリカブリダニといった虫も化学物質ではありませんが「天敵」という農薬です。天敵は化学物質ではないので国で地元に生息する虫を「特定農薬」と定め、厳しい基準をクリアしなくても農薬として使用することが認められています。
  • 会場の様子(第一部)
YES/NOでお答えください。農薬クイズ2問。

Q1:ガーデニング用の殺虫剤・殺菌剤は農薬である。
答えはYES。家庭のガーデニング用でも、まさに「農産物を害するものから保護するためのもの」なので、農薬です。ホームセンターなどで簡単に手に入りますが、農薬であるという意識を持って使用してください。
Q2:蚊やハエなどの殺虫剤は農薬である。
虫を殺すので農薬と同じ成分が含まれていると考えて「YES」と答える人が多いかもしれませんが、正解はNO。使用の目的が農産物を守ることではないので、同じ成分が使われている場合もありますが、登録上は農薬ではありません。

ガーデニングでも使うから、きちんと確認・正しく使用。

ホームセンターへ行くとガーデニングコーナーにはさまざまな病害虫対策品がありますが、購入する際には必ず「登録番号」のあるものを購入しましょう。「登録番号」は農薬として国に登録されているという証。どの作物の何という病害虫を対象にして、どのくらいの濃度でどれだけの量を使えばいいか、がラベルに明記されています。登録番号のないものは「この病害虫に効きます」とは書かず「植物に虫がつきにくくします」といった曖昧な表現になっています。何よりも農薬として登録されていないものは国が安全性を確認していない、ということを忘れないでください。

第二部

第二部では、研究開発や安全性試験など農薬ができるまでの大まかな流れを踏まえて、気になる残留農薬の考え方と基準値について、残留農薬を専門に研究する公的機関・残留農薬研究所の寺本先生が教えてくださいました。

  • 1つの農薬を開発する費用は約50億円以上。
    農薬の開発は順調に進んでも10年はかかると言われています。農薬メーカーは常に農薬として効き目があるか、害はないかなどを調査しながら膨大な数の化合物を合成し、そのうち農薬になる可能性を秘めた化合物が見つかるのは数万個に1つあるかないか。さらに人に対して安全か、環境にとってはどうかを詳しく調べていくと、開発を途中であきらめなければならない場合も出てきます。1つの農薬にかかる開発費用は約50億~100億円。そのうち安全性の試験にかかる費用は1/3から1/2程度。それほどの費用と時間がかかる厳しい安全性試験をクリアしたものだけが「農薬」として登録されて店頭に並べられているのです。
  • 会場の様子1(第二部)
安全を守るための、厳しい安全性試験。
農薬として世の中へ出るためには安全性を確保しなければなりません。そのために多くの厳しい安全性試験が行われています。まず農薬として効き目があっても作物がやられてしまったら意味がないので、農作物に対する安全。次に農薬を使う生産者への安全。散布中に吸い込んだ、飲み込んだ、目の中に入った場合を想定した急性毒性試験など15種ほどの試験があります。そして消費者への安全。農作物に残っている農薬を長期間摂取した場合や、妊婦さんや子ども、不妊への影響などを動物実験で長期間調べ尽くします。
残留農薬って大丈夫?
中でも気になるのは、農作物に残った残留農薬だと思います。ここで判断の基準になるのは「食べて危険かそうでないかは、毒性の強さと身体に取り入れる量で決まる」ということ。毒性学と呼ばれるこの考え方から、農作物ごとに1日にその量の農薬を一生涯摂取しても影響がないとされる上限量(ADI)が定められています。この数値は、安全のために影響がないとされる「無毒性量」のさらに100分の1の値で、一般成人だけでなく高齢者や妊婦、乳幼児についても評価されています。つまり、検査をクリアして市場に出た農作物は赤ちゃんから高齢者までどんな人でも毎日食べて大丈夫なのです。
  • 生産者・大庭さんのお話。

    僕は22才で農業を始めました。農薬は、正直、高いです。例えばブロッコリーなら500mlで1万円くらいするものもあります。最初は農薬代が年間30~40万円ほどかかりましたが、今は野菜をこまめに見て、どんな虫がいるのか、どの農薬が効くのかを自分の目で確かめることで10万円程度まで抑えられました。実際の栽培では、どんな農薬をいつどれくらい使ったかなどをすべて記録する「防除日誌」をつけ、JAが内容を確認してOKが出てから収穫を開始します。農作物は自然環境の変化に影響されるので、毎年同じ作り方ができるわけではなく試行錯誤の連続ですが、やはりいい野菜をたくさん収穫できたときには、ものすごい喜びを感じます。

  • 会場の様子2(第二部)

こんな質問がありました。

野菜を水洗いした場合どのくらい農薬が残っているのか、いつも気になります。また、マーマレードなどで果物の皮を利用したいのですが、注意点はありますか?<40代女性>
  • 今の農薬は自然環境の中ですぐに分解されるようにできているので、基本的には野菜の中に残留する農薬はほとんどなくなっています。仮に残留するとしても当然基準値以下となりますし、もともと残っていても問題のない量が基準値として設定されているので、水洗いして料理に使っても実際にはほぼ影響はありません。
    皮は一番外側にあるものですから、汚れや雑菌などがついている可能性があります。それらはサッと洗って落としたほうがいいでしょう。

  • 寺本先生の写真(小)
    寺本先生
  • 柑橘類の場合、実と皮は別々に残留農薬を調べることになっています。実も皮も検査をクリアしたものが売られていますので、皮を使っても問題はありません。
  • 山本先生の写真(小)
    山本先生
安心して食べられるので無農薬野菜を購入していますが、有機栽培野菜は農薬を使用していないのでしょうか。無農薬野菜と有機栽培野菜の違いを教えてください。<50代女性>
  • 有機栽培野菜とは有機JAS規格という国が定める栽培方法を行った農産物のことで、有機栽培と表示するためには作物を作る3年以上前から畑で化学肥料や農薬を使っていないなどさまざまな制約があり、検査も行われます。有機栽培では天然由来の農薬の使用が認められています。ただ毒性の視点から考えると、天然由来でも化学合成物でもあまり変わりはありません。
    有機栽培は登録された農薬が使われていますが、無農薬栽培は登録していない農薬を使った場合でも無農薬と言えます。「これは無農薬ですよ」と言えば無農薬野菜になってしまい、真相は生産者の方しかわかりません。もちろん農家のみなさんがそんなことをしているとは思いませんが、ホームセンターに並んでいる登録番号のない薬剤、つまり安全性試験をクリアしていない農薬を使っている場合でも「無農薬」と表示できるということです。

  • 山本先生の写真(小)
    山本先生
生産者として伝えたいこと

最後に大庭さんから「生産者として、どうしても伝えたいこと」というお話がありました。

農家はいい農産物を作りたいと努力しています。
だからこそ、正しい知識をまわりの人にも伝えてほしい。
大庭さんの写真(小)大庭さん
  • みなさんは農薬を気にしますが、僕が気をつけるのは肥料です。農薬は使用量が厳しく決められていますが、肥料は大まかなものしかありません。大量に使うと野菜が持つ毒性が増すこともあります。例えばホウレンソウなら肥料の窒素を与え過ぎると硝酸という発がん性物質が増加します。肥料を大量に与えたメタボ野菜は健全ではなく、口にする人間にとって害になる可能性もあるんです。だから、いい土づくりをして農作物自体の抵抗力を高め、できるだけ少ない農薬や肥料でいい野菜を作りたい。農薬の質はすごく上がっていて、僕が農業を始めた頃に6回散布していたものが今は1回になっています。もし自分の地域で残留農薬が出たと報道されれば、正しく栽培している農家までものすごいダメージを受けるので、どの農家もすごく気をつけて農薬を使用しています。メディアの影響で「農薬=悪者」のイメージが強いですが、今日この場で学んだ内容を周りの人にも伝えて、食や農作物に対しての正しい知識を学ぶきっかけになってほしいと思います。
参加者の感想
  • ・大変良い講座だと思います。農薬の講座を受けたことがないので知らないことばかりです。心配が安心に変わる講座でした。
    (60歳以上、女性、無職)
  • ・今まで農薬はこわいというイメージを持っていたが、払拭できました。
    (60歳以上、女性、専業主婦)
  • ・先生方と司会者が問答形式で進めていたので、分かりやすく、おもしろく、飽きずに学ぶことができました。
    (50代、女性、専業主婦)
  • ・残留農薬が一番気になっていましたが、今日の話で安心して食事ができます。
    (50代、女性、パート/アルバイト)
  • ・このような人の健康に関すること、特に食品に関するゼミはどんどん開催してほしい。
    (50代、女性、専業主婦)
  • ・知らないことが多かったので、とても勉強になりました。
    (40代、女性、その他)
  • ・想像以上にチェック体制があり、安全管理されていることがわかった。
    (40代、女性、専業主婦)
  • ・何気なく食べている食べ物には、たくさんの方々の努力により安全性が確保されていることが理解できました。良いゼミでした。ありがとうございました。
    (30代、女性、会社員/公務員)
  • ・このようなセミナーがあったらまた参加したいと思います。本当に勉強になり、ありがとうございました。
    (60歳以上、女性、専業主婦)
  • ・農薬に対して正しい見方がわかりました。
    (60歳以上、女性、専業主婦)
  • ・農家(生産者)の方の生の声が心に響きました。考え方、取り組む姿勢など。
    (60歳以上、女性、専業主婦)
  • ・「農薬」に関する知識が乏しく、「農薬」=有害のイメージでしたが、今日のようなゼミに参加して、これからも知識を増やし、正しく判断できるようにしたい。
    (40代、女性、パート/アルバイト)
  • ・専門の先生方のお話しが聞けてよかった。
    (60歳以上、女性、専業主婦)

今回のおみやげ 北九州の味覚「博多あまおうとブロッコリー」

農薬ゼミ - よくある質問

農薬工業会では、消費者の皆さんに農薬のことを理解してもらうため「農薬ゼミ」などを開催しています。
そこでは毎回様々な質問が寄せられています。その中から、「よくある質問」についてお答えします。