農薬情報局 一般向け

農薬ゼミおさらい講座

読めばナットクだらけ・人気講座レポート

知ってるようで知らない、農薬の話

知ってるようで知らない、農薬の話。(東京・立川)
今回のお話は、この方たちと。
  • 浅見忠男先生の写真
    【パネリスト】
    東京大学大学院教授
    農学博士
    浅見 忠男 先生
  • 青山博昭先生の写真
    【パネリスト】
    (財)残留農薬研究所 理事
    農学博士
    青山 博昭 先生
  • 金子波留之さんの写真
    【生産者】
    東京・立川市農業技術振興会
    会長
    金子 波留之 さん
  • 東京・立川市市民会館(アミュー立川)
    【会場】
    東京・立川市市民会館
    (アミュー立川)

【司会】 フリーアナウンサー 松田 朋恵 さん

講座プログラム
  • 開催日時:2012年11月14日(水) 13:00~16:00
  • 第一部:「農薬とは何?」
  • 第二部:「農薬の安全性」
  • 参加者:212名
第一部

野菜や果物をたっぷりとって身体にいい食生活を送りたいと思っても、気になるのが「農薬」。そもそも、農薬は何のために使っているの?本当に安全なの?など、農薬を知るための基礎知識を東京大学の浅見先生にお話しいただきました。

  • 農薬は、人間が食べる作物を守っている。
    農地は、さまざまな植物や生物が共存するアマゾンのような自然の状態ではなく、人間が食べる農作物を作るための偏った人工的な環境。おいしさや収穫量などを優先して改良された農作物は人の手を借りないと育つことができないため、農地のような特別な環境が必要になります。もし本来の自然の中で育てるなら、ライオンやヒョウなどの肉食猛獣のいるアフリカのサバンナに羊を置いてきてしまうようなもの。それほど弱い存在なので病気にも弱く、害虫にも常に狙われています。さらに、農地のような特別な環境でも農薬や肥料を使わないと収穫量が減り、作物の品質もよくないものになってしまいます。つまり農薬は、農作物を保護するために欠かせないものなのです。
  • 会場の様子(第一部)
国に登録された“お墨付き”しか世に出ない。
農薬はすべて農林水産省の登録を受けています。殺虫剤、殺菌剤、除草剤などのほか、発根促進剤、無種子果剤など成長を調整する薬剤、テントウムシやカブリダニ類などの益虫も「天敵」として登録され、一定の広さの中でどの程度の量を使うのかまで決められています。管轄の農林水産省をはじめ、厚生労働省、内閣府・食品安全委員会、環境省、消費者庁が連携して検査や基準の設定を行い、実施する安全性試験は30種類以上。登録後も3年ごとに見直され、安全性が確認できなければ登録は取り消されます。今や新たに登録される農薬は10万以上合成された化合物のなかに1個あるかないかとも言われています。
世に出た後も、正しく使われているかチェック。
登録された農薬はすべて使用基準が表示されています。農家での使用方法や、市場に出回る国産・輸入作物の残留農薬についても検査されています。毎年全国から野菜、果樹、茶、米など4,000農家を無作為に選び、地方農政事務所の職員が農薬の使用状況をチェック。そのうち700農家は残留分析も行っています。また、ニュースになることもある輸入農産物は公的機関が、国産の農作物は民間機関などが農産物中の残留農薬を検査し、違反品は出荷停止や回収、廃棄などの処分をします。農薬取締法では違反に対する罰則規定も設け、製品と使用方法の両面からチェックが行われています。
第二部

では、農薬の「安全性」はどのように判断されるのでしょうか?
第二部では、農薬にどんな毒性があるか、作物や環境にどのくらい残るのか、人や動物に対してどれくらい影響があるのかなどを徹底的に調べる公的機関「残留農薬研究所」の理事・青山先生が、農薬の安全性についてわかりやすく教えてくださいました。

  • 「どのくらい危険か」から「安全」を考える。
    稲の視点から見ると、雑草や病害虫は自分たちの成長を脅かす敵なので農薬は有用な「薬」ですが、病害虫からすると農薬は自分たちを殺す「毒」。「どのくらい危ないのか」を評価することで逆に安全性がわかるという考え方が「毒性学」です。毒性は「強さ」と「量」の掛け算で判断されます。例えば、フグには猛毒がありますが、フグを食べない人にとってはフグがどれだけ危険な食べ物だったとしても毒を摂取する機会はないので、摂取量はゼロ。中毒で死ぬことはありません。つまり、フグを食べない人にとってのフグ毒のリスクは「ゼロ」になるのです。
  • 会場の様子1(第二部)
厳しい毒性試験をクリアして、市場へ。
安全性を判断する毒性試験は、人に対する安全性と野生生物など環境への影響を調べます。人に対しての安全性は、農家が誤って浴びてしまった場合や、消費者が農作物に残っている農薬を長期間摂取した場合の影響などを動物実験で調べ尽くしています。登録された農薬はすべてこの厳しい試験をクリアしたものです。
虫を殺すほどの農薬が、人には安全な3つの理由。
でも、虫を殺す農薬がなぜ人には安全なのでしょう? それはまず、人(や動物)の身体の中に蓄積しない、または取り込んでもすぐに分解・排出されるから。次に、植物や環境においても光にあたると速やかに分解されるから。そして標的になる病害虫には影響があるが人や別の作物などには影響が出ない農薬が開発されているからです。安全な農薬を開発するメーカー、その安全性を徹底的に調べる研究機関、そして農薬を正しく使う農家の三者の努力が、安全性の高い農作物を生産する農業を支えているのです。
  • 生産者・金子さんのお話。

    住宅地が増えている東京・立川では、住民の迷惑になる時間帯を避けて散布するなど、農薬を使う状況は年々厳しくなっています。栽培は露地とハウスに分けていますが、土を健康にするためには土壌消毒が必要ですし、農薬を使わないと栽培できない作物があるのも事実。農薬の使用に関してはすべて記録し、最近ではその記録を提出しないと出荷を受け付けてもらえません。これから若い世代が農業をやっていく上では地域の環境やみなさんの理解が重要です。農薬を使う私たちの身体も作物も安全でありたいと願っていますし、よりおいしい作物を作りたいと日々努力しています。

  • 会場の様子2(第二部)
まとめ

最後に浅見先生が今回の内容で重要なことをまとめてくださいました。

  • 一般的にリスクは「危ない・危なくない」で語られますが、このとき忘れられているのが「量」の問題。幸福感をもたらすアルコールやケーキなども量が多いと体に悪影響が出ます。「リスク=危険なこと」ではなく、有害なことが起こる確率と深刻度、つまり「有害の程度×身体に取り入れる量」。毒性の大きさとリスクの大きさは別ものです。リスクがある・ないではなく、大きいか・小さいかで判断するのが理性的な考え方でしょう。
    科学者は“絶対”という言葉を使いません。安全とは「どの程度危険なのかを理解している」ということ。普通に生活していく上では支障がないこと、という意味です。食の安全とは科学的な判断で、安心は心の問題。不安であれば行政機関等の確かな情報を入手し、むやみに怖がるのではなく「なぜ危ないのか」を振り返って考えることが大事です。
  • イベント資料

こんな質問がありました。

野菜洗い用の洗剤がありますが、その安全性はどうなのでしょう?また、野菜や果物などは皮に栄養があるといいますが、農薬の心配を考えると皮をむいたほうがいいのですか?<30代女性>
  • 洗剤は農薬ほど多くの試験をしているわけではありませんが、それでも安全性の評価はきちんと行われています。ちょっと手に付いたり野菜の表面に残ったりしたものが身体に入ってしまっても、害はありません。
    それから皮を食べるかについてですが、たとえ野菜や果物に農薬が残ったとしても、もともと健康に影響を及ぼすような量ではないので、そのまま食べても問題はありません。
    野菜や果物を洗うのは、むしろ付着した病原菌による食中毒などを心配してのことと思いますが、残留農薬がご心配ならさっと流水で洗って下さい。
  • 青山先生の写真(小)
    青山先生
りんごってヌルヌルしてますよね?あのヌルヌルは薬ですか?<司会>
  • 違います。昔はみかんやりんごにワックスが塗ってある場合がありましたが、現在はほとんど使われていません。
    あれは「果粉」と呼ばれるもので、完熟した新鮮な果実によく見られ、果実が劣化しないように自然に分泌している物質です。
    ですから、私はいつもりんごをまるごと食べていますよ。
  • 浅見先生の写真(小)
    浅見先生
農薬について、人体に対する長い間の影響は調べられているのでしょうか?それから、種なしブドウを食べると不妊になると聞きましたが、本当でしょうか?<50代女性>
  • まずひとつは、少なくとも人間でいうと70年から80年食べ続けても大丈夫な量が動物実験からほぼ確実に推定されていますので、大丈夫だと思います。もうひとつは、歴史的に農薬の事故というのは意図的に摂取されてしまうケースがほとんどで、消費者の皆さんに農薬の害が及んだという事例は厚生労働省の調査が始まって以来ひとつもありません。ですから、現実的には人に影響が出ていないと考えていただいてまず間違ありません。
    種なしブドウの件ですが、これはジベレリンという植物ホルモンです。これを食べても消化管から入れば消化してしまいますので、食べて不妊になることはあり得ません。
  • 青山先生の写真(小)
    青山先生
  • 追加しますと、ジベレリンは植物ホルモンであり、どの野菜にも含まれています。それが原因で不妊になることはありません。
  • 浅見先生の写真(小)
    浅見先生
参加者の感想
  • ・知らないことを具体的に教えていただけてやたらに不安になるのではなく正しい知識を持っていることが大切なことだと思いました。
    (60歳以上、女性、専業主婦)
  • ・思い込みで知識が全くなく誤解していた部分が多かったことに気づき大変有意義だった。こういった機会をもっと作っていただければと思う。
    (50代、女性、無職)
  • ・先生のお話だけでなく松田アナウンサーの質問が私の思っている事を聞いて下さって頂いたのでとても分かりやすかったと思います。
    (60歳以上、無職)
  • ・先生方お話がとても上手で私でもわかりやすく勉強になりました。ありがとうございました。
    (50代、女性、専業主婦)
  • ・日頃気になっていてもなかなか知るチャンスがない農薬について知る事ができとても勉強になりました。ありがとうございます。
    (60歳以上、女性、会社員/公務員)
  • ・農薬は作物を作る上でなくてはならないものだと分かった。害虫の天敵の虫も農薬に分類されると初めて知った。
    (20代、女性、会社員/公務員)
  • ・日常では聞けない詳しい話を聞くことができてよかった。食べ物を得るためには必要最低限の農薬を必要とするという事が改めて分かった。
    (40代、女性、パート/アルバイト)
  • ・至れり尽くせりのゼミでした。ありがとうございました。
    (50代、女性、専業主婦)
  • ・農薬について知らない事が沢山ありました。聞いて良かったと思います。
    (50代、女性、パート/アルバイト)
  • ・データをもとに分かりやすく詳細に説明を頂いて大変参考になりました。食の安全性が守られている事が理解できました。
    (60歳以上、女性、パート/アルバイト)
  • ・農薬の心配はないのではと少し安心しました。
    (60歳以上、女性、専業主婦)
  • ・たくさんの知識が得られた。
    (60歳以上、女性、無職)
  • ・良い機会をいただいたので、友人にも知らせようと思っています。
    (40代、女性、その他)
  • ・毎日の食事に安心感を持てる様になった。
    (60歳以上、女性、専業主婦)

今回のおみやげ「東京・立川自慢の味覚いろいろ」

農薬ゼミ - よくある質問

農薬工業会では、消費者の皆さんに農薬のことを理解してもらうため「農薬ゼミ」などを開催しています。
そこでは毎回様々な質問が寄せられています。その中から、「よくある質問」についてお答えします。