農薬情報局

教育関係者セミナーレポート

食と未来の教え方

食に関する今と未来を子どもたちに教える教育関係者向けのセミナーから、
授業のヒントや教育関係者として知っておきたい内容をピックアップしてお届けします。

家庭科教職員対象セミナー
食育を科学的に考える(金沢)

2017年7月27日(木)

今回の講師は、この方たち
 
  • 【パネリスト】
    矢内 真由美 先生
    東京大学大学院医学系研究科
    社会予防疫学分野教授、
    医学博士
    佐々木 敏 先生
  • 【パネリスト】
    松永 和紀 先生
    科学ジャーナリスト、
    「FOOCOM.NET」事務局
    松永 和紀 先生
  • 【会場】
    ANAホリデイ・イン金沢スカイ
    ANAホリデイ・イン金沢スカイ

【司会】 茂野 えり子さん フリーアナウンサー、栄養士

講座プログラム
  • 第1部講演:「栄養健康情報の読み解き方」
  • 第2部講演:「農薬、添加物・・・リスク情報のウソを見破る」
  • ・開催日時:2017年7月27日(木)13:30~16:20
  • ・参加者:87名
第1部 栄養健康情報の読み解き方

講師:佐々木 敏 先生

大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了(公衆衛生学)、ベルギー・ルーベン大学大学院医学研究科博士課程修了(疫学)。国立がんセンター研究所支所臨床疫学研究部室長、国立健康・栄養研究所栄養疫学プログラムリーダーを歴任。2007年より現職。栄養と健康を科学的に捉える「栄養疫学」が専門の佐々木先生に、栄養健康情報の読み解き方を講演していただきました。

  • 流行には要注意
    情報には必ず、「出どころ」があります。出どころが特定できない情報は、読む価値、扱う価値はありません。それは、子どもの耳に入れてはいけないデマです。会場にいる先生で「低糖質ダイエット」にトライした方はいらっしゃいますか。このダイエット法を研究した資料はたくさんありますが、今日はそのひとつを紹介します。※1年間にわたって「低糖質ダイエット」「バランスダイエット」「低脂質ダイエット」の3つのダイエットを実践し、比較したものです。結果は、いずれも半年で痩せました。しかも3つのダイエットの差は、誤差範囲。数学的に言うと、差があるとは言えないという結果でした。「低糖質ダイエット」で痩せるかと言えば、痩せます。それでは「低脂質ダイエット」より痩せるかといえば、痩せないことがわかりました。つまり、流行だからといって何でも信じてはいけないということです。「低糖質ダイエットが痩せる!」と、単純化すればインパクトがあり話題になります。しかし、その一方で単純化は誤解につながります。巷の流行はおうおうにして単純化され、盛られているものが多いので取扱いに注意が必要です。一方、たくさん情報がありすぎて困るという先生にもアドバイスしておきます。情報を確かめずになんでも受け入れているから困ったことになるのです。情報の「出どころ」を確かめ、必ず自分で判断する習慣を身につけましょう。
    ※ #19128.Johnston BC,et al. JAMA2014; 312:923-33.
    J3944.佐々木敏.地球レベルで考える食事法:低糖質ダイエットの魅力と問題点は? 栄養と料理2017;83(7):117-21.
  • 会場の様子(第1部)
  • 先生こそ科学的に考えよう
    理系文系を問わず科学的思考のできない先生は、先生とは言えません。ひとつクイズを出します。栄養を科学的に考える習慣がついているかを確かめるクイズです。Q.「◯◯控えめ」の◯◯に当てはまる言葉は【a】カロリー【b】エネルギーのどちらでしょう?正解はエネルギーです。カロリーと答えた先生は間違いです。エネルギーの単位が、カロリーです。体重の単位はキログラム、身長の単位はセンチ、これと同じ関係です。少し補足すると、私たちはエネルギーの単位はジュールと習いました。栄養学だけがキロカロリーを使ってもよいと認められているのです。さらにアメリカの栄養学では、エネルギーのことをカロリーと呼ぶことがあります。日本で「カロリー控えめ」と表現するのは、この習慣を取り入れたのかもしれません。ただし単位は国際単位系で定められており、世界レベル、学問レベルでは「エネルギー控えめ」が正解です。言葉の定義は難しいものです。みなさんの定義と、私の定義が合っている保証はありません。先生が定義を間違えて使ったら大変です。これほど罪深い行為はありません。授業の前に徹底的に調べてください。私は不安なとき広辞苑、英和辞典を調べて、類語、反対語も見ておきます。自分が込めた意味が、どうすれば正しく伝わるか真剣に考えます。そのために文章を一度作り、事前に覚えて、講義で話しています。生徒の10倍の勉強をしなさい、と先輩から指導されたことがあります。なぜなら、学生がどんな質問をしてくるかわからないからです。それが教育者の基本だと私は考えています。
  • 会場の様子(第1部)
  • 基本が大切
    食育を教えるうえで一番大事なことはなんでしょう?それは、「基本を大切にする」ことです。いま話題の食事法や、人気の食材はどうでもいいのです。トレンドは次の年には消えます、流行は必ず廃れます。食育に必要な知識や技術を、地味で大切なことを、教え続けるのが先生の仕事です。もうひとつクイズを出します。※1現在の日本人の子どもたち(小中学生)で、摂取量について理想からもっともかけ離れていると思う栄養素をひとつ選んでください。【a】鉄 【b】脂質(脂肪) 【c】食物繊維 【d】食塩(ナトリウム) 【e】カルシウム 【f】たんぱく質・・・・正解は【d】の食塩です。厚生労働省が定めた日本人の食事摂取基準を守れていない子どもは、実に87%もいます。食塩の摂りすぎは、日本の食育にとって大きな問題です。※2食事記録法で得られた食塩摂取量(g/日)のデータを見ると、平均摂取量が多いのは中国、日本、アメリカ、イギリスの順でした。おいしい食事のほうが食塩は多くなります。できればおいしくて低塩を実現したいものですが・・・。食塩は手強いテーマです。日本人の食塩摂取量を減らすには地道な努力が欠かせません。若い世代の食生活を少しずつ改善していくことが必要です。子どもは30年後に花開く存在です。1年や2年で消えるものではなく、ずっと変わらない大切なことを教えましょう。50年経っても揺るがない、食育の基本を伝えてください。子どもの一生の健康は、先生の手にかかっています。
    ※1 佐々木敏.子どもたちの健康と食事.いま学校給食の役割はなにか? 栄養と料理.2017;83(8):117−21.
    (栄養素摂取量の基準は「日本人の食事摂取基準(2015年度版)」)
    ※2 #14439.Anderson CA,et.al.J Am Diet Assoc 2010;110:736−45
  • 会場の様子(第1部)
第2部 農薬、添加物・・・リスク情報のウソを見破る

講師:松永 和紀 先生

京都大学大学院農学研究科修士課程を修了。専門は食品の安全性や生産技術、環境影響など。新聞記者として10年間勤めたのち独立。新刊は、「効かない健康食品 危ない自然・天然」(光文社新書)。主婦、母の視点を大切に活動する松永先生に、食の安全情報について講演していただきました。

  • 食の研究は、この20年で大きく進化。
    食品研究は、この20年程で目覚ましい進歩を遂げました。喜ばしいことですが、一方で困ったことが起きています。それは科学者が見ている食品の世界と、一般の人が抱く食品のイメージに大きなギャップが生じたことです。最前線にいる研究者の目には、食品は多様な物質、未知の物質、微生物などのかたまりに見えています。リスクも数多く抱えています。ところが子どもの親御さんなど一般の人は、問題、リスクを持たないクリーンなものとして捉えています。もちろん食品に含まれるものの大半は、炭水化物、脂質、たんぱく質などの栄養成分と、食品がもともと持つ味・香りなどに関わる物質です。ところが毒性物質や発がん物質も多く含まれていることがわかってきたのです。例えば、肉や魚は加熱調理で発がん物質が発生します。植物の栽培や貯蔵時にカビが付着して毒性物質を作ることもあります。最近の研究で、どのような物質がどの程度含まれるか、という詳細がどんどん、明らかになってきています。自然・天然だから安心という考え方は間違いです。自然・天然だからこそ危ないという認識を、一般の人が持つべきです。食品の安全とはリスクゼロという意味ではありません。リスクが許容できる程度であれば安全という認識です。食品のリスクを決める2つの要素は「なに」を「どれだけ」食べるかです。【リスク=ハザード(有害性)×摂取量】という関係を、ぜひ覚えておいてください。
  • 会場の様子(第2部)
  • 残留農薬・食品添加物は安全か?
    食品に含まれるさまざまな物質の中で、農薬や食品添加物、抗生物質など、人為的に使われている物質は、非常に厳しい安全基準のもとで使用が認められているものです。たとえば農薬は、安全性評価の仕組みは国際的に共通のもので、使用法も厳しくコントロールされています。生態系への影響調査も実施され、分解性の高い成分しか使用が認められていません。環境破壊につながるというイメージは過去のものです。もちろん、パーフェクトに問題ない、とは言えませんので、今も研究が続き、規制は強化され続けています。農薬を使うメリットはたくさんあります。農耕地は大面積に一種類を栽培するため、その作物を好む微生物や虫などが集まります。今の農薬は、それらの微生物や虫だけをピンポイントで防除します。また性能も向上しており、安定生産に大きく貢献しています。農薬は非常に高いレベルでコントロールされており、生産性を高めるとともに、消費者に農産物を妥当な価格で安定して買えるという恩恵をもたらしています。温暖多湿の日本では、病害虫や雑草が発生しやすく、農薬の存在価値がより大きいと言えます。食品添加物も農薬と同じように厳しい国の基準のもとで管理されて使用されており、食生活に多くのメリットをもたらしています。
  • 会場の様子(第2部)
  • 間違った報道に惑わされないことが大切
    私が考える「食のリスク」の順位をご紹介します。トップは「偏食・過食・運動不足・不規則な生活」です。これによって糖尿病や高血圧疾患などの生活習慣病のリスクが上がっています。次に危険なのが食中毒です。細菌、ウイルスが原因の患者数は年間2、3万人ですが、統計上漏れるケースが多く、実際は数百万人の患者が発生していると推測されます。3番目は食べものが原因の窒息死で、一年間に4000人以上が死亡しています。残留農薬や食品添加物、遺伝子組み換え食品などのリスクは、厳しい規制がかかっているために無視できるくらいに管理され、普段の食生活で気にすることはありません。食のリスクを避けるため最も大切なのはバランスよく食べることです。それを阻害しているのが、間違ったマスメディアの情報です。マスメディアは発生確率に関係なく、目新しいおもしろい話を流す傾向が強く、二元論など内容を単純化したがります。情報の価値を誇張して、気を引いて視聴率を上げようとするので要注意です。食のリスクの問題は単純ではありません。自ら考える姿勢を持ち、間違った報道に惑わされないことが大切です。厚生労働省の「食事摂取基準」をぜひ読んでください。農林水産省などが公開している「食事バランスガイド」もチェックしましょう。まずは、これらの省や食品安全委員会などが出している情報を調べるのが大事です。信頼のおける情報をこまめにチェックし、科学的データを味方につけることで、メディア情報に惑わされなくなると思います。
  • 会場の様子(第2部)
教育関係者の方々の関心は? ~質疑応答~

朝食欠食や、食事をカップラーメンで済ませる習慣を改善したいのですが?

質疑応答の様子
人はどういうときに行動を変えると思いますか。それは「納得した」ときです。正しいことを伝えるだけでは行動は変わりません。すばらしい教師は弱いところを見せて「自分も昔は・・・」と子どもに語りかけるものです。もうひとつのいい方法が、家庭科以外の授業とタッグを組む方法です。朝食を抜けばタンパク質が減り、エネルギーが減ります。これを数学の先生と一緒に教えるのです。なぜ食べないかの原因を、社会の先生と教える手もあります。科目間連携という視点が大事だと思います。そうすることで、子どもが「納得できる」教育に近づけると思います。
(佐々木先生)
朝食を食べている子どもは学力が高いと文科省がミスリードした時代がありました。このときの呪縛が今もあるのかもしれません。私の子どもは24才ですが、子どもの頃はギリギリまで寝ていて朝食を食べませんでした。ですから、大きなおにぎりを持たせました。カップラーメンよりイメージがいいでしょ。でも、実際には栄養成分は大差ないのです。それくらい、善し悪しの判断はイメージに左右されてしまいます。ベストな食生活を追っても当然無理なこともあります。がんばりすぎると親もダメになるし、先生もネガティブになります。子どもと寄り添いながら、現実的にやればいいと思います。野菜をふだん、十分にとれないのなら、週末にはしっかり食べる。毎日ベストではなく、1週間単位くらいで食事を組み立てる。そういうことができる子どもを育てるのが教育ではないでしょうか。
(松永先生)

サンマの塩焼きに添える大根おろしは、発がん性物質を浄化しますか?
除草剤を使った野菜を食べると健康に影響がありますか?

質疑応答の様子
発がん物質が大根おろしで分解されるとは考えにくいと思います。栄養成分を整える効果はあると思いますが、そういった内容の根拠のある情報を学術論文などで見たことはありません。除草剤にはいろいろな種類がありますから、ひとくくりに語れませんが、もっとも多く使われている除草剤は非常に分解性が高いので、食品中にはあまり残っていません。現在の除草剤は厳しい基準のもと製造・使用されています。土壌中でどのくらいの日数で分解するかまでも考慮して使用方法が決められています。ふだんの食生活で心配する必要はないと思います。
(松永先生)

水素水が話題ですが、本当に効果があるのでしょうか?

水素水は、圧力をかけて気体水素を水に溶かしたものです。炭酸水の炭酸のかわりに水素を使ったようなものですね。最大で1.6ppmぐらいが溶けますが、開封後どんどん抜けていきます。水素はもともと人間の体の中でも発生しているもので、血液中にも溶けています。体の中にもあるのに、薄い水素水を飲んでどんな意味があるの? というのが科学者の見解です。
(松永先生)

糖質制限の是非について、どう答えたらいいですか?

質疑応答の様子
私なら「あほらしい」と答えますね。科学でもなんでもありませんから。人は古代からエネルギーを得るために苦労してきました。その遺伝子で僕たちの体はできています。それに今でも飢えで困窮している国もたくさんあります。糖質制限がいいか悪いかは、個人で考えることだと思います。
(佐々木先生)
タンパク質や脂質と比べると糖質は安価に摂取できます。ついつい摂りすぎてしまう傾向があります。そこを意識して、食生活の中でバランスよく栄養素を摂ることを心掛けてください。
(松永先生)
先生からのひとこと

本を読む習慣をもう一度作っていただきたい。この夏の間に本を3冊読んでみませんか。たとえば僕の本が一冊、松永先生の本が一冊、そして食事摂取基準というラインナップはいかがでしょう。新学期になったら、生徒たちに多くのことを教えてあげてください。
(佐々木先生)

今の教育の現場はとても複雑で、さまざまな局面でご苦労されていることと思います。食育は新しい気づきや、深い思考へと導いてくれるやりがいのある題材です。食育を通して、将来を支える豊かな心を持った子どもをたくさん育ててほしいと思います。
(松永先生)

セミナーに参加して ~参加者の感想~
  • ・先生のお話を聞いて、情報の正しい選択の大切さを改めて感じました。教える立場として学ぶことがとても多かったです。
  • ・自分の勉強不足を感じたので、授業で活用する前にしっかり勉強したいと思います。先生方が言っていたように10倍勉強したいです。
  • ・古い考えのままだったのを反省しています。今の農薬をもとにして話していかなければならないと思いました。
  • ・食塩の摂取について家庭科で扱ったことがなかったので、今後考えて取り入れたいと思いました。
  • ・生徒に伝える前にまず正しい情報かどうか判断できるようになりたいと思いました。
  • ・日々変化する食の最先端の情報を学べるのは、とてもありがたいです。
  • ・今の農薬をもとにして話をしていかなければならないと思いました。
  • ・佐々木先生のお話が聞けたことがとても嬉しかったです。「栄養データはこう読め!」は、2、3、4とシリーズ化して出版してほしいです。
  • ・無農薬・有機栽培がよいというふうに思って食材を選択してきたので、農薬についての考え方が変わりました。
  • ・情報に対して懐疑的に向き合う姿勢の大切さを伝えたいと思いました。