農薬情報局

教育関係者セミナーレポート

食と未来の教え方

食に関する今と未来を子どもたちに教える教育関係者向けのセミナーから、
授業のヒントや教育関係者として知っておきたい内容をピックアップしてお届けします。

家庭科教職員対象セミナー
食育を科学的に考える(札幌)

2016年7月27日(水)

今回の講師は、この方たち
 
  • 【パネリスト】
    上西 一弘先生
    女子栄養大学
    栄養生理学研究室教授
    栄養学博士
    上西 一弘 先生
  • 【パネリスト】
    畝山 智香子 先生
    国立医薬品食品衛生研究所
    安全情報部長
    薬学博士
    畝山 智香子 先生
  • 【会場】
    アスティ45  ACU アキュ
    アスティ45 ACU アキュ

【司会】 小谷 あゆみさん フリーアナウンサー、野菜ソムリエ

講座プログラム
  • 第1部講演:「骨太人生を目指そう」
  • 第2部講演:「ほんとうの“食の安全”を考える」
  • ・開催日時:2016年7月27日(水)13:30~16:20
  • ・参加者:124名
第1部 骨太人生を目指そう

講師:上西 一弘 先生

栄養生理学、骨の健康と栄養、身体計測とライフスタイルをあわせた栄養評価、スポーツ選手の栄養サポートなどを専門とする栄養学博士の上西先生。今回は骨粗鬆症やカルシウムと骨の働きについてお話していただき、成長期の骨づくりの大切さを考えました。

  • 圧迫骨折で、便秘になる?
    ふとした拍子につまずいて骨折してしまう。そんなお年寄りが増えています。これは骨粗鬆症という病気のせいです。骨がもろく透けるような状態になり、強度を失って骨折してしまうのです。骨折するまで症状がでないため、発見が遅れてしまう困った病気です。原因は、骨強度の低下です。【骨強度=骨密度+骨質】で決まります。以前は骨密度だけが重視されていましたが、今は硬さだけでなく骨質も重要と考えられています。骨強度が低下すると、上から強い力が加わったとき圧迫骨折を起こします。身長が1年で3センチ以上縮んだら、圧迫骨折を疑ってください。全身に200余りある骨のうち1つが潰れると骨折の連鎖が起きます。胸と腰の骨がつぶれると、その辺りの容積が小さくなって逆流性の食道炎を起こしやすくなります。胸焼け状態です。その下の小腸大腸が圧迫されると、ひどい便秘になることがあります。骨粗鬆症は骨の病気ですが、全身の栄養状態にも関わってくるのです。他に折れやすい箇所は足の付け根。ここで骨折が起きると、いわゆる腰が抜けた状態になります。立ち上がれず寝たきりになり、認知症を誘発することもあります。高齢者がいる家庭は、家で転ばないようにバリアフリー設備を考えてください。転倒を避けることが、骨粗鬆症のリスクを低減することにつながります。
  • 会場の様子(第1部)
  • 骨粗鬆症を予防するには
    骨は体を支えるなどの重要な役目を担っていますが、カルシウムの貯蔵も重要な働きです。カルシウムは体内でつくれません。骨内にカルシウムを活発に貯蔵できるのは、男子は中学の3年間、女子は小4から中2くらいまでの間です。その後、貯蔵量は男女とも18才でピークを迎え、男性は40才過ぎ、女性は45才くらいから減っていきます。加齢による骨量の低下です。骨量の話は、貯金に例えると分かりやすいと思います。若いときの貯金が少ないと、老後に使い果たしてしまいます。年を取ったら節約が必要になります。いまどのくらい貯金があるかの目安が骨密度と考えてください。では骨量が減少するとどうなるか? 男性の場合は80才から骨粗鬆症リスク期に入ります。男性の寿命からすると、それほど心配しなくていいことになります。一方、女性は閉経期に骨量が大きく減少するため、60才を過ぎると半数が骨粗鬆症リスク期に入ります。男性より長生きする女性は、およそ25年間、骨粗鬆症リスクと向き合わなければなりません。リスクを避けるためにはどうすればよいでしょう。成長期にできるだけ骨量を増やし、成人期に維持し、閉経期の骨量減少をカバーすることです。骨量を浪費しないためには、適度な運動をすることが大切です。そうすることで健康寿命をさらに延ばすことができます。
  • 会場の様子(第1部)
  • 牛乳を飲む習慣を、子どもに
    骨量を高めるにはバランスのよい食事が大切です。その上で骨の材料であるカルシウムやビタミンDを充分に摂りましょう。さらに運動による骨への刺激も忘れてはなりません。カルシウムを多く含む食品は牛乳・乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆製品など。なかでも牛乳は大切です。1本飲めば220mgのカルシウムが摂取できます。また牛乳のカルシウムの吸収率は、小魚、野菜に比べて高くなります。日本人のカルシウム摂取量は、高校生からガクンと減ります。中学までは学校給食で牛乳を飲みますが、高校からは飲まなくなるからです。今の日本人のカルシウム摂取量の平均は1日500mg。これは45年前、1970年頃と同じです。目標摂取量は成人女性で1日650mgとされています。調査によると、牛乳が好きと回答した中学生は6割を超えます。牛乳を飲まない理由は、「家に牛乳がない」「給食で出なくなった」が上位。一方で「家に牛乳があればもっと飲む」と回答した人は6割以上もいます。子どもに牛乳を飲む機会を与えてあげてください。これが骨太人生への第一歩です。成長期の骨の鍛え方はよく食べ、よく遊び、よく寝ること。成人期はバランスのよい食事と積極的なカルシウム摂取、そして運動を心がけましょう。カルシウムの吸収を促進してくれるビタミンDは、太陽の光を浴びることで体の中で作ることができます。授業の際は子どもに、「骨を増やそう」ではなく「身長を伸ばそう」と語りかけてください。ポジティブにカルシウムの話を聞いてくれると思います。
  • 会場の様子(第1部)
第2部 ほんとうの“食の安全”を考える

講師:畝山 智香子 先生

厚生労働省直轄の国立医薬品食品衛生研究所で、世界中から食品の安全性に関する情報を収集・分析し、食品中に存在する化学物質の評価を行っている薬学博士の畝山先生。日頃から気をつけたい食品の安全について、リスクという視点からお話していただきました。

  • 食品とは、未知の物質のかたまり
    食品とは何でしょうか?食品とは「人間が生きるための栄養やエネルギー源として食べてきた、食べてもすぐに明確な有害影響がないことがわかっている未知の化学物質のかたまり」です。私たちが食品と考えているものは、未知の化学物質のかたまりであり、これまでの経験で安全を担保しているだけのもの。本当のところは何もわかってないと言っても過言ではありません。食の安全を考えるとき大事なのはリスク分析という考え方。リスクは「ある」「ない」の二者択一で判断するものではありません。「どのくらい大きいか」「どちらが大きいか」で考えるものです。これを公式にしたものが【リスク=ハザード×暴露量】です。「ハザード」とは、ある食品の危険性・有害性で、「暴露量」とは食べる量です。こちらは変えることができます。食品中の化学物質の場合、通常ハザードは物質に固有なので変えることはできません。リスクを減らすための対策は、主に暴露量を減らすことです。つまり食べる量を減らすこと。食品の安全とは、「意図された用途で、作ったり食べたりした場合に、その食品が消費者へ害を与えない」という保証です。つまりリスクが許容できる程度に低い状態であれば、食品は安全という考え方です。食品のリスクがゼロという意味ではありません。まずそこをしっかり理解して教職にあたってください。
  • 会場の様子(第2部)
  • 危険な食品は、身近にある
    食品の中には汚染物質が入っています。食品が無菌室のようにクリーンというのは幻想です。たとえば、重金属や環境汚染物質など環境中に存在するものが食品に移行することがあります。またカビ毒をはじめ加工の際にできるものや、容器や調味器具などから移るものもあります。今注目されている汚染物質に無機ヒ素があります。発がんリスクが高まる物質で、海産物のヒジキやお米に多く含まれています。いずれも日本人の摂取量が多い食品です。国内ではあまり報道されていませんが、国際基準でみると日本人の摂取量は安全性の目安となる量ギリギリのところにあります。海外ではヒジキを販売禁止にしている国があり、子供に白米や玄米を勧めない国もあります。とはいえ、これによってすぐに健康被害はありません。普通の生活で摂取している量なら問題はありません。それよりもリスクを注視しなければならないのはいわゆる健康食品です。健康食品は、普通の食品の他にサプリメントと称してカプセル・錠剤・濃縮エキスなどがあり形態はさまざまです。薬機法違反や違反すれすれで販売されているものが多いとされています。これらは長期間・大量に摂取しやすいためリスクが高い食品です。原料は食品として食べた経験があっても濃縮物や乾燥粉末には食の経験値はありません。安全性や有効性の事前評価がなされていません。また「表示と内容物が一致しない」「有害植物などの混入」「メディアを利用した誇大広告」などの問題もあり、その使用には注意が必要です。
  • 会場の様子(第2部)
  • 食品添加物や残留農薬は、実質ゼロリスク
    リスクが高いと思われがちな食品添加物や残留農薬は、実質的なリスクはゼロを目指しています。なぜなら、これらは食品安全委員会が一生涯に渡って毎日摂取しても健康に影響が出ない量に、安全係数という数値を使って使用できる量を決めているからです。さらに、この「リスク評価」を基に、厚生労働省や農林水産省が、正しく使用されているかを厳しく検査するなど「リスク管理」を徹底しています。日本の食の安全は国がしっかりとコントロールしており、食品添加物や残留農薬のリスクは実質ゼロレベルです。一般の人は食品はもともと安全という幻想のもとで食の安全を考えてきたかもしれませんが、これからの食の安全確保は、未知で変化するリスクのかたまりである食品を相手に、絶え間なく進化するものと考えるべきです。人生80年という長寿時代を人類は過去に経験していません。食品にはもともと膨大で多様なリスクがあります。安全性の確認には「農場から食卓まで」一貫した対応が必要になります。また食の安全は生産者、販売者だけでなく、消費者にも責任があることを認識しなくてはなりません。一人一人が、すべての食品には何らかのリスクがあることを理解し、それに対応するには、特定の食品(種類、産地、栽培法など)に偏らないバランスのとれた食生活が重要です。それが食のリスクを分散し、安全な食生活を送るうえでの基本であると思います。
  • 会場の様子(第2部)
教育関係者の方々の質問です ~質疑応答~

中学生女子のダイエットをどう思いますか?
またプロテインの摂取は?

質疑応答の様子
中学生の時期は一番大事な成長期ですから、不適切なダイエットはよくないと思います。しっかり食べて、しっかり体を動かして、そのうえで体重をコントロールすることが大切です。エネルギー消費を増やすダイエットを心がけてください。成長期の子どもがプロテインを使う必要はありません。スポーツ選手がより高いパフォーマンスを実現するために使うことはあっても、中学生の子どもが健康食品を摂取する必要はありません。
(上西先生)

リンを摂りすぎるとカルシウム摂取に影響がある?

質疑応答の様子
これはカルシウムの議論のときセットででてくる話です。リンを摂りすぎるとリン酸カルシウムができて、体によくないという説があります。ただリンに関してはわからないことが多く、動物実験の段階ですから、あまり気にしすぎない方がいいでしょう。特定のものに注意を払いすぎるのではなく、バランスのよい食生活を心がけるのが大事だと思います。
(上西先生)

農薬や食品添加物は化学的なもので安全ではないのでは?

質疑応答の様子
天然だから安全で人工だから危険ということは全くありません。もともと自然界のものは毒物だらけです。それを避けることで生き延びてきたのが人間です。認可された人工のものは安全を担保するデータが揃っていますから、心配することはありません。データがないものの方が、本当は危険なのです。
(畝山先生)

トランス脂肪酸について、見解をいただけますか?

日本人のトランス脂肪酸の摂取量は、アメリカ人の10分の1ほどと言われています。アメリカ人が摂りすぎなのは心配ですが、日本人にはあてはまりません。それより日本人が心配すべきは塩分の摂りすぎです。アメリカと日本では食文化が違いますから、それを念頭において考えるようにしてください。
(畝山先生)

生徒から牛乳ではカルシウムが摂れないと指摘され、
ネットで調べたのですが、よい回答が見つかりません。

質疑応答の様子
どういうわけか5年周期ぐらいで牛乳悪者説がでてきます。その度に牛乳反対派の意見を聴きますが、エビデンス(根拠)があいまいです。一種のブームのようなものかもしれません。もちろん牛乳は完全食品ではありません。いろいろな食品の1つに牛乳があると基本的には考えてください。
(上西先生)
ネットで情報を調べるのは注意が必要です。個人のサイトなどでは、デタラメな情報が横行していることがあります。検索するときはガバメントや大学といったキーワードをプラスすることが大事です(注:.gov.jpや.ac.jp.のドメイン指定のことなので「政府や公的研究機関のサイトを探す」くらいの意味)。「食品添加物」「危険」とキーワードを入力すると、そういう情報しか上がってきませんから。信頼できる情報を見極める能力を、しっかり磨いてください。
(畝山先生)

適度な運動とは、どの程度の運動でしょうか?

中学生だと運動のしすぎを心配する必要はないと思います。骨を刺激する運動には走ったり、飛んだり、負荷をかける運動があります。特定種目に偏らず、いろんな運動をすることが成長を促します。普段、運動をしない子どもを運動させるには、まず歩くことを勧めてください。できるだけ自分の足で歩く、そんな環境を作ってあげることが先生方の役目だと思います。
(上西先生)

食品添加物による味覚障害が心配なのですが。

多くの食品添加物は味に影響がありません。味の濃さは、塩分が影響していると思います。日本食はもともと塩分が多いので、日本人は塩分の多いものを好む傾向があります。食品全体の減塩対策が必要だと私は考えています。できるだけ味つけを薄くして、繊細な美味しさがわかるように、子どもの食生活を改善してあげることが大切です。
(畝山先生)

セミナーに参加して ~参加者の感想~
  • ・骨太を作るには中学生がもっとも大切な時期だということがわかりました。
  • ・健康で長生きするためには、よく食べ、よう動き、よく眠る成長期が大切であること。食品自体にリスクがあることを知りました。
  • ・食品添加物や残留農薬が自然の食品よりも安全であると知り、驚きました。
  • ・サプリメントの危険性を改めて再確認しまいた。
  • ・カルシウムの成長期貯蓄や納豆と骨折の関わりは授業でも使いたいと思いました。
  • ・テレビで◯◯(食べ物)が体によいと聞いて消費者がスーパーへ走るという現象は賢い行為ではありません。食の安全について正しい知識を教えていくことが大切だと思いました。
  • ・天然物が危険な可能性があるということが印象に残りました。
  • ・夏休みに入ったばかりのこの時期は、予定も少なくちょうどよかったです。
  • ・カルシウムを単純に摂るのではなく、有効的に身体の中に取り込むにはどうしたらいいかをわかりやすく話していただき勉強になりました。
  • ・朝食を食べる家庭の増やし方、子供と保護者へのアプローチの仕方を教えていただければと思います。