農薬情報局

教育関係者セミナーレポート

食と未来の教え方

食に関する今と未来を子どもたちに教える教育関係者向けのゼミから、
授業のヒントや教育関係者として知っておきたい内容をピックアップしてお届けします。

家庭科教職員対象セミナー
食育を科学的に考える(名古屋)

2015年7月27日(月)

今回の講師は、この方たち
 
  • 【パネリスト】
    上西 一弘 先生
    女子栄養大学
    栄養生理学研究室教授・
    栄養学博士
    上西 一弘 先生
  • 【パネリスト】
    畝山 智香子 先生
    国立医薬品食品衛生研究所
    安全情報部第三室長
    薬学博士
    畝山 智香子 先生
  • 【会場】
    名古屋ミッドランドスクエアオフィスタワー ミッドランドホール5F
    名古屋ミッドランドスクエアオフィスタワー
    ミッドランドホール5F

【司会】 フリーアナウンサー 野菜ソムリエ 小谷 あゆみさん

講座プログラム
  • 第1部講演:「骨太人生を目指そう」
  • 第2部講演:「ほんとうの“食の安全”を考える」
  • ・開催日時:2015年7月27日(月)13:30~16:20
  • ・参加者:152名
第1部 骨太人生を目指そう

講師:上西 一弘 先生

骨の健康と栄養、栄養生理学などの研究のほかスポーツ選手の栄養サポートを行う栄養学博士の上西先生。今回は骨粗鬆症やカルシウムと骨の働きについてお話していただき、成長期の骨づくりの大切さを考えました。

  • 1年に3cm、身長が縮んだら?
    身長が1年に3㎝縮んだら、骨粗鬆症を心配してください。もしかしたら背骨に圧迫骨折が起きて、身長が縮んだのかもしれません。骨は折れるイメージがありますが、背骨の場合はグシャッとつぶれます。腰が曲がったご老人は、圧迫骨折によって背骨がつぶれ、身長が縮んでしまったのです。「骨」が「豊」と書いて「體=からだ」と読みます。骨が健康だと、元気で長生きする「健康寿命」を延ばすことができます。反対に骨が豊ではない状態が骨粗鬆症です。健康な人の骨は中身が詰まっていますが、骨粗鬆症の方の骨は鬆(す)が入ったように空洞があり粗くなっています。そのため骨強度が低下し、骨が弱くなって骨折しやすくなるのです。圧迫骨折が起こると身長が縮むだけではなく、前屈みになり内臓が圧迫されます。逆流性胃腸炎を起こし胸焼けがひどくなります。また小腸・大腸が圧迫され、便秘にも悩まされます。骨粗鬆症になると背骨だけでなく、足の付け根、腕の付け根、手首などの骨折も多くなります。足の付け根の骨折は、歩行困難を引き起こし、介護が必要になることも。いつまでも健康な骨を保つためには、子どもの頃の骨づくりが何より大切になります。
  • 会場の様子(第1部)
  • 骨はカルシウムの貯蔵庫
    カルシウムは骨をつくるだけでなく、筋肉の収縮、神経細胞、分泌、細胞増殖など、身体のさまざまな機能を調節する栄養素です。一方、骨は身体を支え、筋肉を動かし、臓器を保護するなどの機能を担っていますが、その最も重要な役割はカルシウムの貯蔵庫としての機能です。体内のカルシウムの99%は、骨や歯に貯えられています。カルシウムは体内でつくれないばかりか、毎日一定量が尿とともに排出されます。ですから骨太人生を実践するためには、どれだけ大きな骨の貯蔵庫をつくれるかがポイントです。ところが大人になってからでは骨は育てることができません。骨が大きくなるのは小学校高学年から中学生の成長期です。とりわけ女子は、小4から中1までの4年間が勝負。この時期にカルシウムをたくさん摂取し、骨を育てなくてはなりません。小中学生のダイエットはもってのほかです。女性は男性と比べると、閉経期以降にカルシウムの貯蔵量が大幅に減ります。大人になってからも、カルシウムを多く摂取する食生活を心がけましょう。
  • 会場の様子(第1部)
  • 子どもたちに、もっと牛乳を
    骨を強くするには、骨の材料となるカルシウムやビタミンDを摂ると同時に、タンパク質やビタミンCも必要になります。バランスの良い食事を心がけ、全身の栄養状態を良くすること。そのためには、たくさんの種類の食品を摂ることがポイントです。もう1つ大切なのが骨に刺激を与えること。スポーツでなくても、ウォーキングや階段の登り降りなど適度な運動で充分です。これらを心がけることで骨量が高まり、骨の健康を増進することができます。カルシウムを多く含む食品は牛乳や乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆、大豆製品など。中でもカルシウムの吸収率が高いのは牛乳です。日本において7~14歳のカルシウム摂取量が、他世代と比べて多いのは、学校給食で牛乳を飲む習慣が影響しているものと考えられます。最近は牛乳離れなどと言われますが、実態を調査すると、牛乳は嫌いじゃないという子どもが多い。なぜ飲まないかを問うと、習慣がない、家の冷蔵庫に牛乳がないといった回答が目立ちます。先生方にお願いしたいのは、健康な骨づくりのために毎日牛乳を飲みましょう、と子どもや父兄に伝えてほしいということです。そうすることで日本人の骨粗鬆症のリスクは大きく低下すると思います。
  • 会場の様子(第1部)
第2部 ほんとうの“食の安全”を考える

講師:畝山 智香子 先生

食品の安全性に関する情報を収集・分析する機関で、食品中に存在する化学物質の評価をしている畝山先生。日頃から気をつけたい食品の安全について、リスクという視点からお話していただきました。

  • 食品がすべて安全というのは幻想
    すべての食品にはなんらかのリスクがあります。食品が安全というのは幻想にすぎません。一般的に言われる食の安全性とは、これまで私たちが食べてきた範囲で、経験的に安全とみなすという考え方です。長期にわたる摂取の安全性を確認できているのは一部の添加物や農薬だけです。とはいえ、すべての食品が危険というわけではありません。食の安全で重要なのは、食品のリスクをいかに管理するかです。リスクはそのものの有害性(ハザード)と、起こる確率で決まります。公式にすると「リスク=ハザード(有害性)×暴露量(出現率)」となります。通常物質そのものの性質は変わりませんから、リスクを減らすには暴露量を減らすことです。すなわち摂る量を抑えること。リスクは「ある」か「ない」か、ではなく、「どのくらいの大きさか」「どちらが大きいか」で考える必要があります。食の安全とは、リスクがゼロという意味ではありません。リスクが許容できる程度に低い状態で、その食品を意図した用途で作ったり、食べたりした場合に、消費者に害を与えないという保証と考えてください。
  • 会場の様子(第2部)
  • 食品添加物や残留農薬は、実質ゼロリスク
    日本の食の安全は「リスク分析」によって保たれています。リスク分析とは、3要素からなる食の安全へのアプローチです。要素の1つ目は、食品安全委員会が実施する、どのくらいのレベルで悪影響が出るかの科学的データを基にした「リスク評価」。2つ目は、「リスク評価」をもとに厚生労働省や農林水産省が行っている、食品添加物や残留農薬などの基準値を決めたり監視したりする「リスク管理」。そして3つ目が、生産者から消費者まで全ての関係者が上記の情報共有や意見交換を行う「リスクコミュニケーション」です。リスクが高いと思われがちな食品添加物や残留農薬は、一生涯に渡り毎日摂取しても健康に影響が出ない量に、安全係数という数値を使って「リスク評価」を行っています。また正しく使用されているかを厳しく検査するなど「リスク管理」によって安全性が確認されています。ですから、食品添加物や残留農薬のリスクは実質的にはゼロといってもいいレベルです。リスク分析の3要素で最も実行が難しいのは「リスクコミュニケーション」です。説明が一方通行になってはいけませんし、何が問題でどう解決したいかを相手と話し合って最善策を探さなくてはなりません。そのためにはお互いの理解が不可欠です。誠心誠意コミュニケーションを図ることが肝心だと考えています。
  • 会場の様子(第2部)
  • 健康食品は、なぜ危険なのか?
    健康食品が危険なのは、大量摂取しやすいためです。食品のリスクは、そのものの有害性と摂取量で決まりますから、何ヵ月もの間、継続して大量に摂取する健康食品は、大きなリスクが潜んでいると考えられます。アマメシバ加工品をご存知ですか? アマメシバは野菜として使った場合には健康被害は起きませんが、粉末にして毎日摂取したところ、日本人の20代女性が閉塞性細気管支炎で死亡しています。健康食品の被害例として有名な事例です。海外では健康食品として使われたコンフリーによる肝静脈閉塞性疾患が報告されています。他にいわゆる健康食品として販売されているものの実際には違法薬物であるものがあり、厚生労働省の集計によれば、中国製ダイエット健康食品で平成14年から平成18年7月までの間に、肝機能障害や甲状腺障害などの健康被害事例が796人、死亡者は4人となっています。平成20年には40代女性が「ホスピタルダイエット」と称されるやせ薬の服用後8日目に亡くなっています。インターネットの個人輸入サイトで、ダイエット用、筋肉増強用、精力増強用として売られているものは、さまざまな薬物が検出されていますので要注意です。食の安全において最も重要なことは、いろいろな食品をバランスよく食べること。何ヵ月も継続して同じ健康食品を摂取することは、リスクを伴うと考えてください。
  • 会場の様子(第2部)
家庭科教職員の方々の関心は? ~質疑応答~

朝食を食べない子ども、給食を残す子どもの指導法は?

質疑応答の様子
調査によると、子どもが朝食を食べない主な理由は「時間がない」「食欲がない」「朝ごはんが用意されていない」です。若いファミリーは朝食の習慣が希薄化する傾向があります。大事なことは、しっかり睡眠をとること、朝の時間に余裕を持つこと。そうすれば自然に食欲が湧いてきます。一度に変えるのが難しければ、少しずつ食べる習慣を広げていくことをお勧めします。
(上西先生)
給食を残す子供の指導法についてお答えします。今はアレルギー体質問題もあって無理に食べさせる指導はしていないと思います。それより中学生には、自分で自分の栄養バランスについて考えられる知識を身につけてほしい。スポーツをしている人と、していない人はカロリー消費量が違います。それらを踏まえて、自分で判断できる中学生が増える教育を期待しています。
(畝山先生)

食品添加物や農薬について、中学生にどこまで教える?

質疑応答の様子
中学生に教える「食品」は「栄養」が中心です。食品添加物や農薬は、安全性が充分確保されており授業で取り上げる優先順位は低いと思います。それより食品そのもののリスクの方が高いことを教えてください。天然物をきちんと管理して食べること。それを学ぶのが中学生の課題だと思います。食品の安全性に関する授業には、食品安全委員会が発行している情報を活用してください。
(畝山先生)

食品添加物や残留農薬を、悪者にしている人が多いのでは?

質疑応答の様子
まず自分がどういう食生活をしているのか知ることが大切です。例えば1週間、何を食べたかをスマホで撮影すると、食生活が偏っている、健康食品を摂りすぎているなど、さまざまなことが見えてきます。自分の食生活をきちんと理解した上で、食品添加物や農薬について語るべきだと思います。
(上西先生)
大事なのは量の問題です。mg等の単位を理解しないままに、食品添加物について口を尖らせる人がいます。量に対して言及のない情報は意味がないと考えましょう。食品添加物や残留農薬については、公的機関の発信する情報を参考にしてください。私たちは国民の健康を第一に考えて活動をしています。日々の授業に、信頼できる情報を活用してください。
(畝山先生)

糖質、炭水化物を制限するダイエットをどう思われますか?

質疑応答の様子
時代ごとに様々なダイエットが流行ります。しかし基本的に何かを制限する、何か1つを食べる、というダイエットは良くありません。実践している人がいたら、すぐに止めさせてください。いろいろなものをバランスよく食べる、多様性の確保こそが食生活の安全の基本です。それをしっかり認識してください。
(畝山先生)
低糖質ダイエットは効果がありますが、炭水化物をぬけば一時的に体重が減るのはあたりまえです。しかし健康に減ったかどうかは疑問ですね。糖尿病患者のプログラムとしては効果がありますが、成長期の子どもが体重を気にして炭水化物を抜くのは間違っていると思います。
(上西先生)
まとめ
  • 骨はカルシウムの貯蔵庫です。この貯蔵庫に子どもの頃にしっかりカルシウムを貯めておかないと、将来、骨粗鬆症になるリスクが高まります。圧迫骨折を起こし、背骨が曲がっては健康長寿を全うできません。骨がつくられるのは7~14歳の成長期。この間に骨密度をあげるには、カルシウム摂取量をふやす、適度な運動をする、十分に睡眠をとることが大切です。カルシウム摂取量を増やすには、牛乳や乳製品、緑黄色野菜、大豆製品といったカルシウム吸収率が高い食品を摂取することです。家庭で牛乳を毎日飲む習慣をつけることをお勧めします。

    食品のリスクは、ハザードと摂取量で決まります。リスクを減らすには、摂る量を抑えること。食のリスクは「ある」か「ない」かではなく、「どのくらいの大きさか」「どちらが大きいか」で考える必要があります。リスクの管理には消費者自らの役割も大きいのです。たとえば健康食品は、同じものを継続して摂取するため危険性が高い食品といえます。必要な食の知識を身につけて、自分自身でリスクを管理することを心がけましょう。いろいろな食品をバランスよく食べる。
    そんな食生活の習慣づくりを実践してください。
  • まとめ
セミナーに参加して ~参加者の感想~
  • ・骨の蓄積時期、維持期の把握、また農薬と食品自体が持つリスクの見方が印象に残りました。
  • ・骨太人生は小・中・高時代に決まってくること、多様な食品を摂ることの大切さが分かりました。
  • ・「本当の”食の安全”を考える」の講義でリスクの考え方が変わりました。
  • ・昔から日本人に不足しているカルシウムが給食からいかに摂取出来ていたかというのを先生のデータから改めて実感出来ました。
  • ・メディアに惑わされないよう気をつけようと思いました。また骨の強度を上げるため年齢毎に出来ることに取り組むよう話していきたいと思いました。
  • ・リスクのないものはないというのが印象的でした。バランスよく食べてリスクを低くしたいと思いました。
  • ・リスクはある・ないと考えるのではなく、多い・少ないという考え方が必要であることと、牛乳の大切さが分かりました。
  • ・「リスクをなくす」ではなく「リスクを減らす」ということ、じゃがいもや玉ねぎの例はなるほどと思いました。
  • ・農薬は悪いものとばかり思っていましたが、そうではないことも理解出来ました。完全に不使用は無理な話で上手く付き合っていくことが必要だと再認識しました。
  • ・テレビなどでも色々な情報があるので、正しい情報を取り上げて健康になるような食事を提案したいと思います。