農薬情報局

教育関係者セミナーレポート

食と未来の教え方

食に関する今と未来を子どもたちに教える教育関係者向けのセミナーから、
授業のヒントや教育関係者として知っておきたい内容をピックアップしてお届けします。

家庭科教職員対象セミナー
食育を科学的に考える(福岡)

2014年7月23日(水)

今回の講師は、この方たち
 
  • 【パネリスト】
    上西 一弘 先生
    女子栄養大学
    栄養生理学研究室教授・
    栄養学博士
    上西 一弘 先生
  • 【パネリスト】
    畝山 智香子 先生
    国立医薬品食品衛生研究所
    安全情報部第三室長
    薬学博士
    畝山 智香子 先生
  •  
     
  • 【会場】
    TKP博多駅前シティセンター
    TKP博多駅前シティセンター

【司会】 フリーアナウンサー 野菜ソムリエ 小谷 あゆみ さん

講座プログラム
  • 第1部講演:「骨太人生を目指そう」
  • 第2部講演:「ほんとうの“食の安全”を考える」
  • ・2014年7月23日(水)13:30〜16:20
  • ・参加者:117名
第1部 骨太人生を目指そう

講師:上西 一弘 先生

骨の栄養と健康、栄養生理学、スポーツ選手の栄養サポートなどを専門に行っている上西先生に、骨粗鬆症やカルシウムと骨の関係性、そして成長期の子どもたちの健康な骨作りについてお話いただきました。

  • 骨が豊かでない状態が骨粗鬆症
    「骨」が「豊」と書いて「體」(からだ)。つまり、人間の体は骨が豊かにあるということ。骨が豊かではない状態が骨粗鬆症です。わかりやすく言えば、骨が弱くなり骨折しやすくなっている状態のこと。私たちの骨は、外側の皮質骨という白く硬い骨と、内側のスポンジ状になっている海綿骨で構成されています。健康な人の骨は中身がしっかりと詰まっていますが、骨粗鬆症の方は、鬆(す)が入ったように空洞があり粗くなっています。この状態では、ちょっとした力で折れてしまいます。骨はポキッと折れるイメージがありますが、骨粗鬆症の場合はグシャッとつぶれる、いわゆる圧迫骨折が起こります。背骨が圧迫骨折を起こすと、身長が縮んでしまいます。高齢の女性の腰が曲がっていることがありますが、これは骨粗鬆症が原因で、背骨が圧迫骨折を起こしているのです。また、背骨だけなく、足の付け根、腕の付け根、手首などの骨折も多くなります。特に足の付け根を骨折すると、歩行が困難になり、要介護や寝たきりといった状態になり、認知症にもつながっていきます。そうならないためにも、骨を強くしておきましょう。
  • 会場の様子(第1部)
  • 骨・カルシウムの働きとは?
    骨を形成する主な成分はカルシウムです。カルシウムは骨を作る以外にも、筋肉の収縮調節、神経細胞機能の調節、分泌の調節、細胞増殖の調節などの役割があります。人間は、カルシウムがないと生きていけないのです。そのカルシウムは、99%が骨に貯蔵されています。骨は、人間の骨格を形成し、臓器を保護するといった役割がありますが、カルシウムを保存する貯蔵庫としての役割も果たしているのです。しかし、カルシウムは人間の体のなかで作ることができません。しかも、毎日一定量は尿とともに排出されてます。生涯骨太人生を目指すためには、若いときにできるだけ貯蔵庫となる骨を大きくすること。そして、骨のなかにカルシウムをできるだけ貯めておくことが必要です。骨を大きくすることは、成長期しかできません。特に小学校高学年から中学生の間が大事です。この時期に、カルシウムをたくさん摂取して、骨を強くしておきましょう。大人になってからは、排出されるカルシウムを補うために、カルシウムを意識的に多く摂取することを心がけましょう。この2つが、骨太人生を送るために必要なことです。
  • 会場の様子(第1部)
  • バランスのよい食事と運動を心がけよう
    骨を強くするためにはカルシウムだけを摂取すればいいというわけではありません。まずは、全身の栄養状態を良好にする必要があります。カルシウムだけではなく、タンパク質やビタミンCも必要です。次に骨の材料となるカルシウムやビタミンDを意識して摂取しましょう。つまり、バランスのよい食事を行い、その上でカルシウムを多めに摂取するのです。ただし、それだけでは骨は強くなりません。骨に刺激を加えるための運動が必要です。成長期の場合は、運動とカルシウム摂取のバランスがとても大事なのです。カルシウムを多く含む食品は牛乳や乳製品のほか、小魚、緑黄色野菜、大豆、大豆製品など。日本人は、いろいろな食事からカルシウムを摂取しています。ただし、それらは量が少ない。普段の食事に牛乳を加えるだけで、カルシウム摂取量は大幅にアップします。小中学校の学校給食では牛乳が出るため、子どもたちのカルシウム摂取量は比較的高くなっていますが、高校生になると大幅に下がります。これは、学校給食がなくなり牛乳を飲む機会が減るためです。家の冷蔵庫の牛乳や乳製品を入れておくというように、大人が気を付けてカルシウムを摂取する機会を作っていきましょう。
  • 会場の様子(第1部)
第2部 ほんとうの“食の安全”を考える

講師:畝山 智香子 先生

食品の安全性に関する情報収集・分析を行う機関で、食品中に存在する化学物質の安全性の評価をしている畝山先生には、食品の安全性について気を付けるべきことをお話いただきました。

  • 食の安全の定義とは?
    実は食品とは、我々が食べているものすべてのことを指しており、厳密な定義は存在しません。未知の化学物質のかたまりであるというところが出発点になります。食の安全性というものは、これまで私たちが食べてきたものの範囲のなかで経験的に安全だとみなすという考え方なのです。毒性や長期にわたる摂取の安全性を確認しているものは、ごく一部の添加物や農薬だけなのです。だからといって、すべての食品が危険ということではありません。リスク分析をして安全性を確保しています。リスクは危険性の量と確率で決まります。単にリスクが有るか無いかという議論はまったく意味がなく、それがどのくらい大きいのか、何と比較してどちらのほうが大きいのかということが大事なのです。なぜなら、ほとんどの食品にリスクが存在しているからです。食の安全の定義は「意図された用途で作ったり食べたりした場合に、その食品が消費者に害を与えないという保証」というもの。たとえば、加熱して食べる肉を生で食べるといった間違った食べ方をして食中毒になったとしても、それは食の安全が損なわれたということではなく、不適切な使用をしたということになります。
  • 会場の様子(第2部)
  • 食品添加物や残留農薬のリスクは実質ゼロ
    日本の食品の安全は、リスク分析により確保されています。リスク分析には3つの要素があります。ひとつが食品安全委員会で行なわれる、どのくらいのレベルで悪影響が出るのかを科学的に評価する「リスク評価」。もうひとつがリスク評価をもとに厚生労働省や農林水産省が行っている、食品や農作物への使用の際の基準値を決定し、市販の食品のモニタリングや取り締まりをする「リスク管理」。最後は、生産者から消費者まで、すべての関係者の間で情報共有や意見交換をする「リスクコミュニケーション」です。よく話題になる食品添加物や残留農薬は、実際にはすべて意図的に使われているものです。使用する場合には必要なデータを提出して申請し、一生涯に渡り毎日摂取しても健康に影響が出ない量に、安全係数という数値を使ってリスク評価を行っています。つまり、食品添加物や残留農薬のリスクは限りなく低く、実質的にはゼロといってもいいレベルなのです。リスクコミュニケーションは、なかなか難しい問題です。生産者や管理者からの一方的な説明だけではダメ。お互いに理解し合って意思疎通をすることが一番重要なのです。非常に難しい問題ですが、これからはリスクコミュニケーションがとても重要になってくると思われます。
  • 会場の様子(第2部)
  • 健康食品は死に至るほどの危険性を秘めている
    食品と名がつくものに「健康食品」があります。リスクは摂取量が多ければ多いほど上がりますが、健康食品は長期間に渡り大量摂取しやすいため、リスクが跳ね上がり危険です。健康食品の話で絶対覚えておいていただきたいのが、アマメシバ加工品による閉塞性細気管支炎という事例です。アマメシバは普通に野菜として使った場合には健康被害は起きませんが、栄養価が高いということで粉末にして毎日摂取したところ、その結果日本人の20代女性が閉塞性細気管支炎で死亡しています。また、無許可医薬品というものが食品の名前で売られています。特にインターネットの個人輸入サイトで、ダイエット用、筋肉増強用、精力増強用として売られているものは、世界的にたくさんの薬物が検出されていますので注意してください。食品にはいろいろなリスクがありますが、やるべきことは簡単。多様な食品からなるバランスのとれた食生活をしましょうということになります。これは栄養面だけではなく、リスクを分散するためにも有効です。
  • 会場の様子(第2部)
教育関係者の方々の関心は? ~質疑応答~

冷凍食品の危険性、安全性はどのようなものでしょうか?

質疑応答の様子
冷凍だから特に危険ということはありません。上手に使うと料理のレパートリーも増えていいかと思います。たぶん、中国産の冷凍食品に異物混入があったために気になっているのだと思うのですが、そういう事件は日本でも海外でもありますし、冷凍食品だけがハイリスクというわけではありません。
(畝山先生)
冷凍食品は栄養学的に見れば、正しく保存してれば問題ないと思います。ただし、冷凍しておけばいつまでも大丈夫だと思われる方がいらっしゃるのですが。家庭の冷凍庫ではなかなか難しいので、できるだけ早く使っていたいただいたほうがいいと思います。
(上西先生)

食品添加物はあまり体によくないと教えてきたのですが、今後授業ではどう話したらよいでしょうか?

質疑応答の様子
食品添加物も残留農薬も、基準を守って使っている限り、安全性には問題がありません。使用されている量もとても少ないです。豆腐ににがりを入れなければ、豆腐ができません。添加物だから悪いのではなく、使ってある理由をきちんと教えてあげてください。また、冷凍食品には保存料は不要ですが、パッケージにわざわざ「保存料なし」と宣伝して優良誤認を誘っている場合もありますので、そういうものの見破り方も教えていただきたいと思います。
(畝山先生)

骨の質を高める方法を教えてください。

質疑応答の様子
骨の質、骨質に関する議論は始まったばかりで、具体的に何が骨質を高めるために有効なのかは、具体的にはわからない状態です。そのため、現段階では骨密度を上げて骨を強くしようということになります。なお、骨質を高めるには、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビタミンCなどを摂取することが効果的ではないかと現在は考えられております。
(上西先生)

乳幼児でも骨密度を上げることは大切ですか?

質疑応答の様子
骨密度を上げるために小さいときから牛乳を飲みましょうということではなく、多くの食品の中のひとつとして、牛乳をプラスするという様に考えていただければいいかと思います。小さなときから牛乳や乳製品を摂取する食習慣を付けておいていただくためにも、保育所などの給食に入れておくほうがいいのではと思います。
(上西先生)
まとめ
  • 骨粗鬆症にならないためには、成長期に骨密度を上げる努力をすることが一番です。具体的には、カルシウム摂取量の増加、適度な運動、十分な睡眠ということになります。最近は牛乳を飲まない子どもたちが増えています。これでは、子どもたちが60歳70歳になったときに、多くが骨粗鬆症になってしまう可能性が高くなります。そうならないためにも、もっとも骨が作られる7歳〜14歳の間に、牛乳や乳製品、緑黄色野菜、大豆製品といったカルシウム吸収率が高い食品を摂取させるよう、大人が気を配ってあげる必要があります。

    また、食品は安全なものというのは幻想であり、現在はリスクを管理して安全性を確保するという方向性に変わっています。リスク管理は国や自治体などでも行っていますが、最終的には消費者である我々が、自分でリスクを管理する必要があります。正しい調理法で料理をし、バランスのよい食事を心がける、ごく普通の食生活をすれば、それほど食品によるリスクを気にする必要はありません。食品は危険だからと怖がらず、おいしく楽しく食事をすることが、一番大事なことなのかもしれません。
  • まとめ
講師からのコメント
上西先生
(上西先生)
九州での初めてのセミナーに多くの先生方にお集まりいただきありがとうございました。
非常に熱心に聴講していただき、骨の質に関する質問もいただきました。この分野の研究も急速に進んでいます。
しかし、成長期にはカルシウムをはじめ様々な栄養素をしっかり摂ることが大切です。
骨粗鬆症の一番の予防は成長期の骨量獲得です。世代を超えて骨の健康を考えていただきたいと思います。
畝山先生
(畝山先生)
福岡の皆さんには大変まじめに聞いて頂いたと思います。
食の安全について系統だった教育を受けた先生はいないと思いますので、ここに勉強しに来た先生方が他の皆さんを導いて欲しいと思います。
セミナーに参加して ~参加者の感想~
  • ・どの食品にもリスクがあると知って驚きました。当たり前に安全だと思っていた物もあったので、これから正しい知識を持って生徒に教えたいと思いました。また色々な物をバランス良く食べようと思います。
  • ・栄養と運動と休養が健康を支えていることを再認識しました。
  • ・農薬についてが印象的で、基準値等に対する考えが改められました。なんでも悪いと言うのではなく、正しい知識を得る事だと思いました。
  • ・骨太人生を目指そうでは、納豆の消費量と大腿骨骨折発症率の相関関係、考えたことがなかったので興味深かったです。カルシウムだけでなく、ビタミンKの働きの重要性もわかりました。
  • ・食事と健康の関係が大変よくわかりました。偏った特定の食品を食べるのではなく、栄養バランスよく、考えて食べるという事が大切なのではないかと思いました。
  • ・食品の残留農薬のリスクは大きいと思っていたのですが、食品の食べ方が問題なのですね。農薬は危険というイメージが薄くなりました。
  • ・添加物や農薬は使い方次第で、どう向き合うかが大切だと感じました。
  • ・バランスというのが重要であるということを実感しました。「地産地消」はあまり良くないとも聞きますが先生の話を聞いて、なるほどと感じました。
  • ・農薬=危険なものというイメージだったが角度を変えて考えるとそうでもないとなると…。新しい知識をもって指導にあたりたいと思いました。
  • ・使用基準が守られていれば、農薬より、食品自体のもつリスクの方が大きかったりするというのがわかった。