農薬情報局 教職員向け

教育関係者セミナーレポート

食と未来の教え方

食に関する今と未来を子どもたちに教える教育関係者向けのセミナーから、
授業のヒントや教育関係者として知っておきたい内容をピックアップしてお届けします。

栄養教諭・学校栄養職員(食育担当)対象セミナー
食育を科学的に考える(東京)

2014年3月1日(土)

今回の講師は、この方たち
 
  • 【パネリスト】
    上西 一弘 先生
    女子栄養大学
    栄養生理学研究室教授
    栄養学博士
    上西 一弘 先生
  • 【パネリスト】
    高橋 久仁子 先生
    群馬大学
    教育学部教授
    農学博士
    高橋 久仁子 先生
  •  
     
  • 【会場】
    ステーションコンファレンス東京 5F
    ステーションコンファレンス東京
    5F

【司会】 フリーアナウンサー 野菜ソムリエ 小谷 あゆみ さん

講座プログラム
  • 第1部講演:「骨太人生を目指そう」
  • 第2部講演:「食べもの情報 ウソ・ホント」
  • ・開催日時:2014年3月1日(土) 13:30~16:20
  • ・参加者:170名
第1部 骨太人生を目指そう

講師:上西 一弘 先生

栄養生理学、骨の健康と栄養、スポーツ選手の栄養サポートなどを専門に行なっている上西先生に、骨粗鬆症やカルシウムと骨の働き、成長期における骨作りについてお話いただきました。

  • 骨粗鬆症を知っていますか?
    骨粗鬆症とは、骨強度が低下し転倒などにより容易に骨折しやすくなる症状です。高齢になると身長が縮んだり腰が曲がってしまうのは、骨粗鬆症により背骨が圧迫骨折をしていることが原因です。そうなると、内臓が圧迫されて食べ物が逆流する逆流性食道炎になります。また、腸が圧迫されると頑固な便秘に悩まされます。この状態では食べることが億劫になり、全身の栄養状態が悪くなってしまいます。骨が弱くなることで、全身に影響が出てしまうのです。また、骨の強度が下がっているため、転倒や手をつくといった動作で簡単に骨折します。特に足を骨折すると立てない、歩けないということになり、骨折が原因で要介護や寝たきりになったり、認知症につながってしまうこともあります。そうならないためにも、骨を強くしておく必要があるのです。
  • 会場の様子(第1部)
  • 骨はカルシウムを貯める「貯蔵庫」
    カルシウムは、骨を形成する成分です。しかしそれ以外にも、筋収縮や神経細胞の調節、分泌の調節など、身体のさまざまな機能を調節する役割を持っています。しかし、毎日一定量のカルシウムは尿とともに排出されてしまいます。そこで、カルシウムを貯めておく場所として「骨」が選ばれました。カルシウムを骨に貯めこみ、体内のカルシウムが減ると、骨からカルシウムを取り出します。大量のカルシウムを貯蔵しておくには、骨を大きくする必要がありますが、それができるのは20歳くらいまで。大人になってからは、骨の中のカルシウムが減らないように、排出される量よりも多いカルシウムを補給することが重要です。特に女性は、閉経期に大幅にカルシウムが減ってしまいますので、成長期にどれだけカルシウムを貯めておけるかが、老後を健康に過ごすポイントとなります。
  • 会場の様子(第1部)
  • 子どもたちに牛乳を飲む機会を与えましょう
    カルシウムを多く含む食品の代表は、乳製品、小魚、緑黄色野菜、大豆、大豆製品などです。その中でも吸収率が高いのは牛乳です。男性女性とも、一番カルシウムを摂取している年齢は7〜14歳。これは学校給食で牛乳が出るためです。しかし、15歳以上になるとカルシウム摂取量は大幅に減ります。特に牛乳が嫌いというわけではなく、給食ではなくなり牛乳を飲む機会が減ってしまっているためです。16~19歳の女性1200人を対象としたインターネット調査によると、毎日牛乳を飲まない人の半数以上が「家にあればもっと飲む」と回答しています。骨を大きくできる20歳までは、家に牛乳を常備しておくことが望ましいといえます。牛乳アレルギーなどで飲めないという場合は、他の食品でカルシウムを補えるよう、大人から働きかけることが必要です。また、カルシウムを摂取するだけではなく、適度な運動と睡眠も重要です。そのほか、カルシウムの吸収を促すビタミンDも意識して摂取するといいでしょう。
  • 会場の様子(第1部)
第2部 食べもの情報 ウソ・ホント

講師:高橋 久仁子 先生

健全な食生活の営みを阻害する要因のひとつ「フードファディズム」の研究を行っている高橋先生に、氾濫する食情報の見極め方と、食の「安全」と「安心」について講義していただきました。

  • 食情報の氾濫と混乱を見極めよう
    食生活にまつわる情報が氾濫しています。テレビや雑誌などの「●●を食べれば痩せられる」「▲▲をやめて健康に」などに興味をひかれ、実践する人も多数います。しかし、これらの情報を鵜呑みにしてはいけません。この世の中に、「それ」だけ食べていれば痩せられる、健康になるというものは存在しないのです。しかし、そういう食品があるかのような怪しげな情報が氾濫しています。実際に、約10年前には痩身用健康食品で4人が亡くなり、1000人以上が肝障害を起こした事件がありました。また、テレビでバナナや納豆で痩せるという番組を放送したところ、品切れ状態が続いたこともあります。バナナや納豆には、摂取すると痩せるなどという物質は含まれていません。それにもかかわらず、含まれているかのようなウソを放送した結果、番組が終了した事例もあります。マスメディアの食情報は、人々から注目されなければならないという事情があります。そのような情報にはからくりがあるということを、理解していただきたいと思います。
  • 会場の様子(第2部)
  • フードファディズムとは何か?
    「フードファディズム」とは、食べものや栄養が健康や病気に与える影響を過大に信じることです。大きく3つのタイプに分けられます。1番目が、ある食品に特定の保健効果を期待して、爆発的に流行すること。実際には科学的根拠がないものがほとんどです。2番目は量の無視。ある食品に含まれる物質の量を無視して健康に有効または有害と主張することです。水にも有害物質は含まれていますが、日常飲んでいる量では有害性は発揮しません。3番目が、食に対する期待や不安の煽動、あるいは偏りのある食事の推奨です。例えば、無農薬野菜がベスト、食品添加物はすべて危険といった、特定のものを排除することもフードファディズムです。農薬も食品添加物も、国が定めた制度で管理されているものは、心配する必要はありません。逆に、天然・自然の植物などのほうが有毒なものが含まれている可能性があります。メディアなどの情報に惑わされてしまいがちですが、情報は誰かの手によって編集されています。多様な情報を批判的に読み解き、かつ活用する力、すなわちメディアリテラシーを育成してください。そして、「食の安全性」だけでなく「情報の安全性」にも配慮してください。
  • 会場の様子(第2部)
  • 食生活でもっとも怖いのは食中毒
    食中毒は確実に人を殺すことがあります。日本では過去に500人以上の死者が出た年もありましたが、近年は減少傾向にあり、2009年と2010年は0人。ところが2011年と2012年は11人ずつの死者が出ています。食中毒は、ほんの少しの油断で起きてしまいます。食中毒を防止するには、食品の製造・生産、流通、そして消費者まで、その食品を手にする人すべてが、自分の責任を果たさないと起こるものです。どれほど完璧に管理されてきた食品でも、消費者がいい加減な保存や調理をすれば、食中毒は発生します。食の安全を脅かす要因としては、「健康食品」の無警戒な利用、個人輸入、生食への警戒感の低さなどが挙げられます。日本には魚介類の生食の文化はありますが、それを食肉にも応用してしまったというのが、近年起きたレバ刺し等による食中毒の要因です。また、2次汚染への関心の低さもあります。特に学校給食では2次汚染は重要な問題です。情報が氾濫し「適切に食べる」ということが見えにくくなっています。健康維持増進の三要素は「運動・栄養・休養」です。食べ過ぎた場合は、激しい運動により過剰摂取エネルギーを消費できないことはありませんが、運動や睡眠の不足を栄養で補うことはできません。しかし、あたかも補えるかのような、過大な期待をもたせることが、フードファディズムの蔓延につながっていると考えられます。
  • 会場の様子(第2部)
教育関係者の方々の関心は? ~質疑応答~

無農薬、オーガニック食品と、農薬や添加物を使用している食品では、栄養価が異なるのでしょうか? また、天然・自然のものを使ったほうが安全なのでしょうか。

農薬や食品添加物が使われているから、栄養価が下がる、異なるといったデータはありません。逆に天然・自然を謳う場合の方が怖い場合もあります。オーガニック食品がいいというのは神話に過ぎません。
(高橋先生)
質疑応答の様子

スポーツをしている生徒のための食事について教えてください。

バランスのよい食事が基本ですが、どんなスポーツをしているか、競技のレベルや対象によっても変わってくると思います。小中高生であれば、バランスのよい食事に加えて、それぞれの競技に合わせてエネルギーを増やしたりしていきます。例えば高校野球では、身体を大きくするために1日6000kcal摂取する場合もあります。新体操では、食べる量は普通の人と変わりません。
(上西先生)
質疑応答の様子

栄養素や栄養の知識についての授業はやりやすいのですが。食べものへの感謝といった精神面を教えるにはどうしたらいいでしょうか。

食べものは元々は生き物です。私たちは動植物を殺して生きながらえています。「元・生物(せいぶつ)」なのだから無駄にしてはいけませんという教え方でいかがでしょうか。また、野菜の栽培を授業で行ってみるのもいいかもしれません。実際に野菜を栽培するとうまくいかないことのほうが多く、農家の方はすごいと思います。栽培は食に対する関心を深めるための基本ではないかと思います。
(高橋先生)

給食で牛乳が多く残ってきます。どのような呼びかけをしたら牛乳を飲むようになるでしょうか。

一番いいのは、骨密度を測ってその結果を見せることです。そうすると、その後の牛乳の残る率はかなり減ります。身体にいいから飲みましょうという話だけではなく、自分たちのこととして数字が出てくると、効果があります。中学生の男子ならば、牛乳を飲むと身長が伸びるよ、女子ならば体脂肪率が低いというデータがあるよ、というように、何かの数字を見せて自分のこととして考えれば飲むようになります。
(上西先生)

東日本大震災の後、大分に疎開してこられた家族の保護者が、「牛乳や魚を食べさせないでください」とおっしゃっているのですが、どういう説明をしたらいいのでしょうか。

大分まで引っ越されるというのはとても恐怖心が強い方ですね。こういった恐怖心はなかなか取り除けるものではありません。このようになってしまうと、周りが何を言ってもだめな場合がほとんどです。保護者の方には、お子さんの成長に何が本当に必要なのかというところを、徹底的に話し合っていただくしかないのではないかと思います。
(高橋先生)

最近は放射性物質のことが気になります。情報を得るにはどこを参照したらいいのでしょうか。

無条件に信じられる情報というのはありません。科学というのは随時修正されていくものです。ある時点で正しいと思われているものも、未来永劫不変ではありません。そこで考え方を変えて、評価は変わるものだとして受け止めていきましょう。食に関わっている場合は、日本人の食事摂取基準をじっくりお読みになると、現時点で何をどれくらい食べたらよいのかが見えるのではないかと思います。また、食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省の発表などもじっくり読み、自分なりに解釈をして見ていくことが必要だと思います。
(高橋先生)

私は食事摂取基準の策定に関わっています。もし興味があれば、数字の根拠となる参考文献が記載されていますので、それを読んでいただけるとわかると思います。間違っても、インターネットでメーカーのホームページに書いてあることや、個人ブログの内容をそのまま信じるということはやめていただきたいと思います。
(上西先生)

まとめ
  • 骨を作るための最適な時期は、小学生から高校生まで。その間にカルシウムをたくさん摂取し、適度な運動と睡眠が必要となりますが、年齢が上がるに連れて牛乳を飲まなくなる傾向があります。特に女性は寿命が長い分、高齢になってから骨が弱くなっていると、骨粗鬆症になる可能性が高くなります。若いうちに大きな骨を作り、そこにカルシウムを貯めることで、骨粗鬆症は防止できます。子どもたちが健康な老後を過ごせるように、なるべくカルシウム豊富な食品を摂取できる献立作りや、牛乳を飲む機会を作るなど、強い骨を作る工夫をしてあげましょう。

    また、巷にあふれる「健康食品」や痩身効果などは、そのまま鵜呑みにしてはいけません。すべての情報には裏があり、実はまったくのデマであるということも数多くあります。特に健康や食に関する間違った情報を信じてしまうと、命に関わることもあります。この世の中に、「これさえ食べれば健康になれる」というものはありません。多様な食品をおいしく適切な量食べる食事というのが、健康の基本です。メディアの情報に躍らされることなく、自分で真偽を見抜く力を身に付けましょう。
  • まとめ
講師からのコメント
上西先生
(上西先生)

今回も多くの先生方にお集まりいただきありがとうございました。
実際に生徒さんたちに接している先生方が多く、非常に熱心に聴講していただきました。
質疑応答でも、多くの質問をいただき、現場の声を聞かせていただくことができました。
冬に給食の牛乳飲用をすすめるのは、まだまだ工夫が必要ですね。
今回の講演が少しでも先生方のお役にたてれば幸いですし、私自身も今後の研究、教育に生かしていきたいと思っています。

高橋先生
(高橋先生)

たくさんの先生方に「食の安全」と「食情報の安全性」を考えていただくことができたと思います。
ただ、「食の安全」に関しては「食材の安全」ばかりが語られ、「食べ方の安全」が語られないことの問題性を言い忘れてしまいました。
どうぞ、マスメディア等からの無責任な食情報を鵜呑みにして児童・生徒に伝えることないように、メディアリテラシーを高めてください。

セミナーに参加して ~教育関係者の感想~
  • ・牛乳の素晴らしさ!(60代以上)
  • ・カルシウム自己チェック表が印象に残りました。保護者の方や児童・生徒にもやってもらいたいと思いました。(20代)
  • ・科学的に分析して頂きありがとうございました。「食べ物の情報」ウソ・ホントについて改めて勉強になりました。メディアリテラシーについてわかっているようだったが再確認できました。(60代以上)
  • ・牛乳にはカルシウムの吸収率を上げるものがあるらしい。天然・自然のものこそ有害物質を多く含む。(60代以上)
  • ・質疑応答で活発なやり取りがあり、勉強になりました。牛乳を飲んでもらうこと、食への感謝について実践してみたいです。(20代)
  • ・食の情報が氾濫する中、正しい情報を得ること。情報にまどわされないことのむずかしさを痛感しました。(40代)
  • ・天然、自然と聞くと安全だという考えになりがちな現代であるが、そういうわけでもないということから安全とは何かをもう一度考えなければならないと思いました。(20代)
  • ・フードファディズムの話が一番良かった。私たちは栄養バランスを伝えることも大切だが、いかに正しいものを買うことの出来る人、消費者の教育が一番大切だろうと考える。(60代以上)
  • ・肥料と農薬が農学を生み、やがて大学にも農学部ができて今日まで食の量確保とともに安全にも寄与している点をもっと宣伝すべきでしょう。(50代)
  • ・農薬には昔ほど悪いイメージはありません。農家の方との授業もするようになって農薬を使用するときはとても注意をはらって管理していると知りました。今の食生活を支えるためには必要なものだと思います。(30代)