農薬情報局

教育関係者セミナーレポート

食と未来の教え方

食に関する今と未来を子どもたちに教える教育関係者向けのセミナーから、
授業のヒントや教育関係者として知っておきたい内容をピックアップしてお届けします。

小・中学校家庭科教職員(食育担当)対象セミナー
食育を科学的に考える(大阪)

2013年7月31日(水)

今回の講師は、この方たち
 
  • 【パネリスト】
    上西 一弘 先生
    女子栄養大学
    栄養生理学研究室教授・
    栄養学博士
    上西 一弘 先生
  • 【パネリスト】
    畝山 智香子 先生
    国立医薬品食品衛生研究所
    安全情報部第三室長
    薬学博士
    畝山 智香子 先生
  •  
     
  • 【会場】
    オーバルホール(大阪)
    オーバルホール(大阪)

【司会】 フリーアナウンサー 野菜ソムリエ 小谷 あゆみ さん

講座プログラム
  • 第1部講演:「骨太人生を目指そう」
  • 第2部講演:「ほんとうの“食の安全”を考える」
  • ・開催日時:2013年7月31日(水) 13:30~16:20
  • ・参加者:223名
第1部 骨太人生を目指そう

講師:上西 一弘 先生

栄養生理学、身体測定とライフスタイルを合わせた栄養評価などの研究のほか、スポーツ選手の栄養サポートも行っている上西先生に、骨の役割、骨と健康の関係、子どもたちの骨づくりについてお話しいただきました。

  • 「平均寿命」より「健康寿命」をのばそう
    日本人の平均寿命は世界一ですが、最後まで元気に生活しているでしょうか?元気で長生き「健康寿命」を延ばす方法のひとつが「骨」です。骨が豊かと書いて「体」、骨が豊かでない状態が骨粗鬆症 ― 骨の強度が低下して骨折のリスクが高くなる疾患です。骨粗鬆症は骨がポキッと折れるイメージですが、実はぐしゃっとつぶれる骨折が多く、身体の前がつぶれると前屈みになるため内臓が圧迫され、逆流性食道炎を起こして常に胸焼け状態になります。十二指腸も圧迫され、便秘に悩まされます。食べたら逆流するし便秘になるしで、高齢者は食事が億劫になり、骨の病気にも関わらず栄養状態まで悪化させてしまうのです。最近では骨と筋肉の衰えから要介護のリスクが高まる「ロコモティブシンドローム」も注目され、いかに骨と健康が密接な関係かわかります。
  • 会場の様子(第1部)
  • 骨は身体に不可欠なカルシウムの貯蔵庫
    骨は身体を支え筋肉を動かす、重要な臓器を保護するなどの機能のほかに、体内のほぼすべてのカルシウムの貯蔵庫になっています。カルシウムは骨をつくるだけでなく筋肉収縮、神経細胞、分泌など、身体のさまざまな機能のオン/オフを調節する大切な栄養素ですが、毎日一定量が尿の中に捨てられてしまうため、その貯蔵庫として選ばれたのが骨なのです。必要なときに取り出せるよう骨にできるだけたくさんのカルシウムを貯めることが重要ですが、それができるのは20歳くらいまで。特に女性は閉経期以降にカルシウム量が大幅に減るため、いかに成長期に貯められるかにかかっています。大人になってからはできるだけ骨からカルシウムを取り出さなくて済む生活に切り替える必要があるので、自分の貯えを把握するためにも骨量は早くから知っておくに越したことはありません。
  • 会場の様子(第1部)
  • 子どもたちが「牛乳を飲む機会」を積極的につくる
    カルシウムを多く含む代表的な食品は牛乳・乳製品、骨まで食べられる小魚、緑黄色野菜で、中でも牛乳はカルシウム含量が非常に多いだけでなくカルシウムの吸収を高める成分も入っています。野菜はシュウ酸が多いためカルシウムの吸収率が低いですが牛乳は高く、学校給食に牛乳がある場合は献立全体のカルシウム吸収率が高くなるという結果もあります。牛乳を飲まないと言われている女子高校生1,200人にインターネット調査を行ったところ、実はそれほど牛乳嫌いではありませんでした。飲まない理由は「家に牛乳がない」など飲む習慣・機会がないから。「あればもっと飲む」と答えています。骨にカルシウムが貯められる20歳までは、できるだけ家に牛乳を置く、アレルギーなどで牛乳を飲めない場合には他の食品でカルシウムを補うなど、大人側から働きかけることが大切です。
  • 会場の様子(第1部)
第2部 ほんとうの“食の安全”を考える

講師:畝山 智香子 先生

食品の安全性に関する情報を収集・分析する機関で、食品中の化学物質の安全性を評価している畝山先生。食の安全は食品衛生が第一という前提のもと、食品と食の安全性についてこれまでの認識が覆るようなお話を伺いました。

  • 「食品だから安全」は、間違い
    私たちは食品のことを知っているつもりでいますが、実はよくわかっていません。食品は、経験として今まで食べてきた状態では安全だという、未知の化学物質のかたまりです。長期の安全性はわからないので、リスク分析をして食べています。リスクは、あるかないかではなく量と確率で決まり、食品が安全だということはリスクが許容できる程度に低いという意味。あくまでも「意図された用途で作ったり食べたりした場合にその食品が消費者に害を与えないという保証」なのです。加熱して食べる肉を生で食べるような間違った食べ方をするとリスクが大きくなり、食中毒になったとしてもそれはその食品が危険なわけではなく「間違った食べ方=不適切使用をした」と解釈します。よく食品由来の化粧品で語られている「食品だから安全」というのも認識が間違っています。
  • 会場の様子(第2部)
  • 意図的に使う添加物や農薬は実質的ゼロリスク
    リスク分析には3つの要素があります。1つは、どのレベルで悪影響が出るかを科学的に評価する「リスク評価」、もう1つは食品添加物や残留農薬などの基準値を決める「リスク管理」、そして生産者から食べる人たちまですべての人がこの2つについて情報共有や意見交換を行う「リスクコミュニケーション」。一般的に問題になりやすい食品添加物や残留農薬は、データを提示して申請し、生涯に渡り毎日摂取しても影響のない量に安全係数という数値を使って安全性を評価します。人が意図的に使うものなので管理しやすく実質的にはゼロリスクです。難しいのはリスクコミュニケーションで、一方的に説明を聞いたり法的な要求するのではなく、何が問題でどう解決したいのかを相手と話し合って最善策を探るため、お互いの理解が不可欠です。高いハードルですが、これからより必要となってくるものです。
  • 会場の様子(第2部)
  • 学校でのジャガイモ食中毒は認識の甘さ
    今年は大阪で食品関連の事故が多いですね。フグや毒のある貝を食べた食中毒がありましたが、注目すべきは学校での食中毒、ジャガイモのアルカロイド中毒です。ジャガイモに含まれる天然のアルカロイドを残留農薬と考えて農薬の数値に当てはめると、市販のジャガイモはすべて基準値違反で回収されなければならないレベルです。比較的リスクの高い食品である上に、学校や家庭菜園では栽培中に光が当たったり未熟なまま収穫したりしてアルカロイドの量が増えます。さらに子どもは感受性が高く食中毒になりやすい。にもかかわらず、毎年どこかの学校でジャガイモの食中毒が発生します。飲食店なら大変なことです。これは天然物に対する認識の甘さではないでしょうか。特に先生方には「食品にはもともとリスクがある」という認識をしっかり持っていただきたいと思います。
  • 会場の様子(第2部)
教育関係者の方々の関心は? ~質疑応答~

できるだけ早く骨量を測るといいのはなぜですか?

質疑応答の様子
例えば骨量が増えている中学生の段階で測定すると、低い子たちはすごくがんばります。高い子たちは今の生活がいいのだと自信を持ち、いいライフスタイルを続けていきます。もし中学生のときに骨量が低くても、がんばれば次の年にボンと上がる時期なので、がんばれます。だから、できるだけ早い時期に自分の貯金がどれだけあるのかを知っておいたほうがいいということです。
骨をつくるにはカルシウムだけでなくカルシウムの吸収を促進するビタミンDも大事で、これは皮膚に紫外線が当たると増えます。ただ、女性は紫外線を気にしますよね?女子栄養大学の学生でも70%がビタミンD不足です。小魚と日光が不足しているんです。食生活に小魚やきのこを取り入れると同時に、手のひらでいいですから1日30分程度は日に当たるように指導してください。
(上西先生)

中学の授業で食品添加物の話をするとき、どのように伝えればいいですか?

質疑応答の様子
食品添加物は必要だから使われているので、その機能と必要量について淡々と伝えればいいと思います。豆腐はにがりがなければ豆腐にはなりません。農薬がなければ食物は十分に獲れません。何の効果もなく有害影響だけあるものを使うということを普通はしませんよね。必要性と、使わないのではなく一番いいのはどういう方法か、ということを考えるといいのではないでしょうか。
保存料を使わずに作ってすぐ食べなければいけない場合と、保存料を使って日持ちする場合のメリットをどう判断するか。冷凍すれば添加物は使いませんが、エネルギー不足の世の中でエネルギーを無尽蔵に使って冷凍品を食卓に置くか、添加物をある程度上手に使って3日持たせて食べるか。着色料も同じで、日本文化である和菓子も色がなければただのあんこの固まりです。
食品はエネルギーを摂るだけでなく、みんなで一緒に食べて楽しいという部分もあります。それがないと食生活も充実しませんよね?そのような機能も含めて、なぜ使うかということを考えるほうが生産的だと思います。
(畝山先生)
まとめ
  • 小学生からの骨粗鬆症対策は、カルシウム摂取を増やす、運動量を増やす、十分な睡眠と規則正しい生活でホルモン分泌を促すことですが、現状では、牛乳をほとんど飲まない、運動しない女子が一番多くなっています。このままでは彼女たちが60代70代になったとき、骨粗鬆症が非常に増えてしまいます。カルシウムはもちろん、骨を強くするビタミンDを含む食品を積極的に摂り、骨折しにくい骨をつくる納豆を献立に盛り込むなど、骨を豊かに、そして強く鍛えられる工夫をしてあげてください。

    また、昔は「食品は安全なもの」という幻想で基準値だけを守っていましたが、今は「食品にはもともとリスクがある」という前提でリスク管理をする考え方に変化しています。リスクコミュニケーションの話をしましたが、リスク管理というのは、社会によって異なるもの。欧米がこうしているから、ではなく、私たち自身がどのような社会を望むのかということをベースに制限や自由を考える。そのために科学的根拠をシェアし、生産者も消費者もみんなで話し合って決めていくコミュニケーションがこれからは大切になってきます。
  • まとめ
講師からのコメント
上西先生
(上西先生)

今回は多くの先生方にお集まりいただきありがとうございました。
先生方には非常に熱心に聴講していただき、身の引き締まる思いでした。
大阪らしく、笑いもあり、良い雰囲気のセミナーだったと思います。
このようなセミナーは聞いてくださる方の態度、会場の雰囲気で良くも悪くも変わります。
今回は、とても話しやすい、良いセミナーだったと思います。
質問も活発で、かつ的を得た、大切な質問ばかりでした。
私自身も勉強させていただきました。

畝山先生
(畝山先生)

ちょうど大阪で学校での食中毒事件が複数起こっていたばかりということもあり、熱心に聞いていただいたという印象です。
学校の先生にはいろいろなことが要求されていて大変だと思いますが、だからこそリスクの大きさを考慮した上での優先順位付けが役に立ちます。

セミナーに参加して ~教育関係者の感想~
  • ・80年の人生を楽しく過ごす基本の健康は、日々の食事のバランスの積み重ね!! 成長期の栄養摂取のあり方が自分の人生を左右することの大切さを理解させたいです。
  • ・試食会などで牛乳の弊害について質問されることがありましたが、一緒に食べるとカルシウムの吸収率がアップするなど、よいところをアピールできると思いました。
  • ・授業で骨粗鬆症については触れますが、授業者の基礎知識としての引き出しが広まりました。また、カルシウム自己チェック表は生徒にも活用できそうです。
  • ・中学生の女子が給食の牛乳を飲まない子が多いので、今日の話を活用したいです。
  • ・「天然物だから大丈夫ではない」ということが印象に残りました。そんなに気をつけて食品を見ていなかったです。
  • ・じゃがいもは食中毒のリスクが高いということに驚きました。調理実習では食中毒(菌)についてはすごく気を使っていましたが、食品自体に原因があったとは目からうろこでした。
  • ・「ほんとうの“食の安全”を考える」の講演内容を、素人向けにかみくだいた内容にして保護者に聞かせてあげたいと思いました。
  • ・印象に残ったのは、食品にはリスクがあるということ。普段食べているものは安全だと思っていましたが、不適切使用により危険になると改めて気づかされました。
  • ・本当の恐い物は何なのか。農薬だけにこだわらず、本当に「食品」とは何かを知る必要があるということがわかりました。